
Veronique Sansonの「別れの挨拶Ma révérence」は、ヴェロニク・サンソン自身が作詞・作曲し、シングル・リリースされた後、1979年の7枚目のアルバム:7èmeに収録されています。ヴェロニクは当時、夫のスティーヴン・スティルスStephen Stillsと1976年に離婚し、その後10年くらいものあいだ、アメリカの裁判所で息子の親権をめぐって厳しい法廷闘争を続けていました。当時まだ30歳くらいで書いたのに人生がもう終わってしまったかのようなこの曲の歌詞にはそうした背景があるわけですが、歌詞内容が分からなくても、メロディーやヴェロニクの歌唱の魅力でこの曲が好きになる人が多いようです。 実は私、このタイトルの適切な訳語が見つからず、既成の邦題も見当たらず、しばらくアップできないでいました。révérenceは、英語でcurtsy (curtsey, courtesy)と言われる 「片膝を折って身を屈めておこなうお辞儀や挨拶」を意味し、歌詞中ではtire sa révérence (à qn.)という熟語の形で用いられています。これは「(…に)大仰な挨拶をする」という意味ながら逆説的に「(…と)そそくさと別れる」と意味でも用いられます。いずれにせよ、去りゆくものといさぎよく訣別するという自らの態度を示しているのです。セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの
Je suis venu te dire que je m'en vaisの邦題が「手ぎれ」なら、こちらはもうちょっと上品に「袂別」(べいべつ:袂を別つこと)としたかったのですが、分かりにくいかなと思い、より直訳的で平明な「別れの挨拶」といたしました。
Ma révérence 別れの挨拶
Veronique Sanson ヴェロニク・サンソン
Quand je n’aurai plus le temps
De trouver tout le temps du courage
Quand j’aurai mis vingt ans
À voir que tout était mirage
Je tire ma révérence
Ma révérence
常に勇気を見出せる
時間がもう私に無くなった時
すべてが幻想だったと知るのに
わが青春を費やした時
私は別れの挨拶をする
別れの挨拶を
Quand mon fils sera grand
Qu’il n’aura plus besoin de moi
Quand les gens qui m’aimaient
Seront emportés loin de moi
Je leur tire ma révérence
Ma révérence
私の息子が大きくなり
もう私を必要としなくなる時
私を愛していた人たちが
私から遠くに
去ってしまう時には
私は彼らに別れの挨拶をする
別れの挨拶を

Et ma vie
Endormie
Doucement
Et mon cœur sera froid
Ne saura même plus s’affoler
Il ne deviendra qu’une pauvre horloge à réparer
Il n’aura plus de flamme
Il n’aura plus de flamme
Il n’y aura plus de femme
そして私の人生は
静かに
まどろみ
私の心は冷えて
取り乱しもしなくなるだろう
心は哀れな壊れた時計にしかならないだろう
心はもう情熱の炎を持たず
心はもう情熱の炎を持たず
もう女たる性もなくなるだろう
Et mes amis fidèles
Auront disparu un par un
Trouvant que j’étais belle
Que j’aurai bien fait mon chemin 注1
Alors j’aurai honte de mes mains 注2
J’aurai honte de mes mains
そして私の忠実な友たちは
ひとりまたひとりと去るだろう
私がかつては美しかったと
花道を行ったと認めつつ
そのとき私はみずからの所業を恥じる
私はみずからの所業を恥じる

Quand je n’aurai plus le temps
De trouver tout le temps du courage
Quand j’aurai mis vingt ans
À voir que tout était mirage
Alors j’entends au fond de moi
Une petite voix
Qui sourd et gronde 注3
Que je suis seule au monde
常に勇気を見出せる
時間が私にもう無くなった時
すべてが幻想だったと知るために
わが青春を費やした時
その時、心の奥から
小さな声が聴こえる
それは湧きあがりとどろく
私がこの世でひとりぼっちなんだと
[注]
1 faire son chemin「出世街道を行く。進展する」
2 avoir honte de qc.「…が恥ずかしい」。mains「手」とは、自らのおこなった事柄を意味する。
3 sourdは形容詞の「耳の聞こえない」ではなく、動詞のsourdre「湧き出る、漏れ出る」の三人称単数現在形。
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