
ダリダDalidaの「雨のブリュッセルIl pleut sur Bruxelles」は、1978年に49歳の若さで亡くなったジャック・ブレルJacques Brelに捧げられた曲。作詞:Michel Jean Marie Jouveaux、作曲:Jeff Barnellで、1981年のアルバム:Olympia 81に収録されています。
ブレルは、ベルギーの首都ブリュッセルBruxellesのスカールベークSchaerbeek地区で生まれ育ちました。ブレルの死を悼んで、ブリュッセルの町に雨が降る。ポール・ヴェルレーヌPaul Verlaineの詩の一節、Il pleure dans mon cœur/Comme il pleut sur la ville「巷に雨の降るごとく わが心にも涙ふる」(堀口大学訳)が思い出されます。
歌詞のなかには、ブレルの曲のタイトルや、歌詞の内容や、彼にちなんだ地名などが織り込まれ、タイトルになっている人物達が元の歌詞から抜け出して総出でブレルを見送っているようです。
Il pleut sur Bruxelles 雨のブリュッセル
Dalida ダリダ
Y'a Jeff qui fait la gueule 注1
Assis sur le trottoir
Depuis qu'il est tout seul
Il est pas beau à voir
Y'a aussi la Mathilde 注2
Qu'est jamais revenue
Y'a aussi la Mathilde
Qui ne reviendra plus
Et puis y'a la Frida qui n'a aimé que lui 注3
Chez ces gens-là, on est jamais parti 注4
歩道に座り込んで
ふくれっ面のジェフがいる
ひとりぼっちになって以来
彼は冴えない
マチルドもいる
彼女はけっして戻って来なかった
マチルドもいる
彼女はもう戻りはしないだろう
それにフリーダ、彼女は彼しか愛さなかった
彼らにとっては、彼は去ってはいない
Mais lui il s'en fout bien
Mais lui il dort tranquille
Il n'a besoin de rien
Il a trouvé son île 注5
Une île de soleil et de vagues de ciel
Et il pleut sur Bruxelles 注6
だが彼、彼は何も気にしていない
だが彼、彼は静かに眠っている
彼はもう何も必要としない
彼は自分の島を見つけた
太陽と波と空の島だ
そしてブリュッセルでは雨が降っている

Les marins d'Amsterdam 注7
S'mouchent plus dans les étoiles
La Marieke a des larmes 注8
A noyé un canal
Et puis y'a les Flamandes 注9
Qui n'oublient rien du tout
De Vesoul à Oostende 注10
On s'habitue, c'est tout 注11
Seules Titine et Madeleine 注12
Croient qu'il est encore là
Elles vont souvent l'attendre au tram 33 注13
アムステルダムの水夫たちはもう
上向いて星空のなかで洟をかむことはない
マリカは流す涙で
運河を溢れさせる
それにフランドルの女たち
彼女たちはまったくなにも忘れはしない
ヴズルからオースタンドまでの人々は
慣れてしまう、それだけだ
ティティヌとマドレーヌだけは
彼がまだ生きていると信じている
彼女たちはときどき路面電車33番に彼を迎えに行く
Mais lui il s'en fout bien
Mais lui il dort tranquille
Il n'a besoin de rien
Il a trouvé son île
Une île de soleil et de vagues de ciel
Et il pleut sur Bruxelles
だが彼、彼は何も気にしていない
だが彼、彼は静かに眠っている
彼はもう何も必要としない
彼は自分の島を見つけた
太陽と波と空の島だ
そしてブリュッセルでは雨が降っている

A force de dire "j'arrive" 注14
A force d'en parler
A force de dire "J'arrive"
Il y est quand même allé
「行くよ」と言ったものだから、
そう語ったものだから
「行くよ」と言ったものだから、
とうとう行ってしまった
Il a rejoint Jojo, 注15
La Fanette et Fernand 注16
Peut-être un peu trop tôt
Mais lui il est content
彼はジョジョと、
フラネットとフェルナンに落ち合っただろう
たぶんそれはすこし早すぎた
しかし彼としては、満足だろう

Il n'a pas entendu 注17
Que des milliers de voix
Lui chantait
"Jacky ne nous quitte pas!" 注18
彼には「ジャッキー行かないで」と
彼に向かって歌う
何千もの声しか
聞こえなかったわけではない
Mais lui il s'en fout bien
Mais lui il dort tranquille
Il n'a besoin de rien
Il a trouvé son île
Une île de soleil et de vagues de ciel
Et il pleut sur Bruxelles (×2)
だが彼、彼は何も気にしていない
だが彼、彼は静かに眠っている
彼はもう何も必要としない
彼は自分の島を見つけた
太陽と波と空の島だ
そしてブリュッセルでは雨が降っている

[注] ブレルの曲名・地名ほか重要な語句は太字で示した。
1 Jeff「ジェフ」:男性名で曲名。最初の4行はこの歌詞に関連している。
2 Mathilde「マチルド」:女性名で曲名。La Mathilde qui est revenue「(出て行った)マチルドという女が帰って来た」と歌詞のなかで何度も繰り返される。
3 Frida「フリダ」:Ces gens-làの歌詞に出てくる女性名。 Qui est belle comme un soleil 「太陽のように美しい」と表現されている。
4 chezは「…にあっては、…の心のなかでは」の意味。onはブレルのこと。
5 son île:ブレルの墓がある「ヒバオアHiva Oa島」。
6 Bruxelles「ブリュッセル」:ブレルの生地。
7 「アムステルダムAmsterdam」:地名で曲名。Se mouchent dans les étoiles「星々のなかで洟をかむ」という1節はこの歌詞にある。
8 Marieke「マリカ」:女性名で曲名。
9 Les Flamandes「フランドル女たち」:曲名。flamand「フランドル人」の女性形。
10 Vesoul「ヴズル」:フランスの地名で曲名。Oostende「オースタンド」:ベルギーの都市名。曲名としてはUne Ostendaise。
11 On s'habitue, c'est tout「僕たちは慣れるだけだ」:「忘れないOn n'oublie rien」の歌詞にあるフレーズ。
12 Titine「ティティヌ」:女性名で曲名。Madeleine「マドレーヌ」:女性名で曲名。
13 tram 33:Madeleineの歌詞に出てくる路面電車。
14 J'arrive:曲名。邦題は「孤独への道」が一般的。あの世に先に行った人々に、自分も行くよと言う、痛烈な内容の歌。
15 「ジョジョJojo」:曲名で、ブレルの運転手・マネージャー・最も親しい友であったジョルジュ・パスキエGeorges Pasquierの愛称。彼が亡くなったのち、ブレルはこの曲を彼に捧げ、また購入した飛行機もJojoと名付けた。
16 La Fanette「フラネット」:女性名で曲名。Fernand「フェルナン」:男性名で曲名。
17 ne pas que:制限の否定で「…だけというわけではない」。向こうから「おいで」と呼ぶ声も聞こえたということか。
18 Jacky「ジャッキー」:ジャック・ブレルの愛称。ne nous quitte pas:曲名の「行かないでNe me quitte pas」をもじっている。
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