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2019
08.04

平野の国Le plat pays

Jacques Brel Le plat pays


ジャック・ブレルJacques Brelが1962年に作詞・作曲した「平野の国Le plat pays」は同年のアルバム:Les Bourgeoisに収録されています。ブレルの祖国ベルギーは、南部のワロン地域はアルデンヌ高地を中心に丘陵地帯が多いのですが、北部のフランデレン地域は平野が広がっています。Le plat paysは正確には「平坦な地域」という意味で、ベルギーのなかでもこのフランデレン地域を特定した表現です。一般的な邦題「平野の国」を採用し、歌詞のなかでもそう訳すことにいたしますが、「国」は国家の意味ではありません。



Le plat pays  平野の国
Jacques Brel  ジャック・ブレル


Avec la mer du Nord pour dernier terrain vague, 注1
Et des vagues de dunes pour arrêter les vagues,
Et de vagues rochers que les marées dépassent 注2
Et qui ont à jamais le cœur à marée basse,
Avec infiniment de brumes à venir,
Avec le vent de l'Est, écoutez-le tenir, 注3
Le plat pays qui est le mien.

 漠とした地の果てとしての北海と、
 波を阻むべき砂丘のうねりと、
 潮に乗り越えられつも
 引き潮への想いを持ち続ける瑣末な岩礁と、
 来るべき際限なき濃霧と、
 東風と、それが吹き続けるのを聞きたまえ、
 平野の国、それは僕の国だ。

Le plat pays4


Avec des cathédrales pour uniques montagnes, 注4
Et de noirs clochers comme mâts de cocagne 注5
Où des diables en pierre décrochent les nuages,
Avec le fil des jours pour unique voyage,
Et des chemins de pluie pour unique bonsoir,
Avec le vent d'Ouest, écoutez-le vouloir,
Le plat pays qui est le mien.

 唯一の山並みとしてのカテドラル群と、
 石像の悪魔たちが雲を手に入れる
 宝の棒のような黒い鐘楼と、
 唯一の旅程としての日々の流れと、
 ただ一度のボンソワールのための雨降る小道と、
 西風と、それが吹こうと欲するのを聞きたまえ、
 平野の国、それは僕の国だ。

Le plat pays2


Avec un ciel si bas qu'un canal s'est perdu,
Avec un ciel si bas qu'il fait l'humilité,
Avec un ciel si gris qu'un canal s'est pendu,
Avec un ciel si gris qu'il faut lui pardonner,
Avec le vent du Nord qui vient s'écarteler,
Avec le vent du Nord, écoutez-le craquer,
Le plat pays qui est le mien

 運河が見えなくなるほど低い空と、
 平身低頭するほど低い空と、
 運河が見えなくなるほどに灰色の空と、
 許してやらなきゃならないほどに灰色の空と、
 身を引き裂かれに来た北風と、
 北風と、それが音を立てて引き裂かれるのを聞きたまえ、
 平野の国、それは僕の国だ。

Le plat pays3


Avec de l'Italie qui descendrait l'Escaut, 注6
Avec Frida la Blonde quand elle devient Margot, 注7
Quand les fils de novembre nous reviennent en mai, 注8
Quand la plaine est fumante et tremble sous juillet,
Quand le vent est au rire, quand le vent est au blé,
Quand le vent est au sud, écoutez-le chanter,
Le plat pays qui est le mien.

 エスコー河を下ってきたイタリアとともに、
 マルゴになる時のブロンドのフリダとともに、
 11月に行った息子たちが5月にここに戻って来るとき、
 7月の陽のもと平野が湯気を立て震えるとき、
 風が微笑む時、風が麦畑に吹くとき、
 風が南の風になるとき、それが歌うのを聞きたまえ、
 平野の国、それは僕の国だ。

Le plat pays7


[注]
1 avec… 各節の最後の1行につながり、le plat paysにそれらがある、ということを言っている。
2 vague 1行目のように名詞の後では「はっきりしない、曖昧な」の意味だが、名詞の前で「どこかしらの、取るに足りない」の意味。
3 écoutez-le+不定詞の形が、すべての節に含まれるが、不定詞の動作主はleでその前のle ventを指し、「それが…するのを聞きたまえ」と、命令形で挿入。
4 uniqueは名詞の後では「独自の、比類のない」の意味だが、名詞の前では「唯一の、ただ一つの」。高い山のないこの国では、聳え立つ大聖堂群がただ一つの山並みとなる。
5 mâts de cocagne「宝の棒」賞品を吊り下げた滑りやすい高い棒で祭などで競争で登る。
6 Escaut「エスコー川」(オランダ語でSchelde「スヘルデ川」)は、フランス北部、ベルギー西部およびオランダ南西部を流れ北海に流入する川。源流はフランス・エーヌ県でイタリアではない。イタリアがエスコー川を下ってきたという表現は、長い冬が終わり南の国の暖気がエスコー川を下って届いてきたというニュアンス。
7 Frida「フリダ」ブレルの曲Ces gens-làにも出てくるフラマン人の女性名。明るいブロンドの髪は、特に北欧諸国、ロシア北西部、バルト三国などの人々の特徴だとされる。Margot「マルゴ」はMargarita「マルガリータ」系の女性名の短縮形でヨーロッパ系の女性名だが、Marguerite de Valois「王妃マルゴ」が最も有名。フラマン人のFridaがMargot役を演じたという文脈かと。
8 確証のない情報だが、この曲の作られた1962年ごろ、ベルギーでは軍役は18ヶ月で、主に11月から翌々年の5月までであったという。




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