
今回取り上げるのはAutour de minuitという曲で、その原曲の「ラウンド・ミッドナイトRound midnight」は、ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンク Thelonious Monkが1942年に発表したジャズのスタンダード曲(発表時の題名はRound about midnight)。私は、以前はシャンソンよりもジャズのほうを多く聴いていましたので、今回は、少々ジャズにウエイトを置いてご紹介していきます。
モンクは1936年、19歳頃にGrand finaleという題名ですでにこの曲の下書きを作っていたといわれます。1944年にチャールズ・クーティー・ウィリアムズが版権を買い取り、彼のオーケストラのテーマ曲にしました。そのときのピアノはバド・パウエルBud Powell。その頃に、バーニー・ハニゲンBernard D. Hanighenが歌詞を作り、多くの歌手に歌われるようになりました。モンク自身は1946年からディジー・ガレスピーDizzy Gillespieのバンドで演奏し、当時のボーカルは、カーメン・マクレエCarmen McRae。世界で最も多くレコーディングされた曲として、現在まで、千枚を超えるアルバムに収録されてきました。
1986年に制作されたアメリカ・フランス合作の「ラウンド・ミッドナイトRound midnight」はバド・パウエルのフランスでの実話を元に作られた音楽映画で、ジャズ・サックス奏者のデクスター・ゴードンDexter Gordonが主演し、ハービー・ハンコックHerbie Hancockがアカデミー作曲賞を受賞しましたが、そのなかでも同名のこの曲が使われました。
セロニアス・モンクのピアノ・ソロ。長いです。クラシック系の人には良さが分かってもらえないかも。
カーメン・マクレエ。クリックしてYouTubeでご覧ください。
1978年に、クロード・ヌガロClaude Nougaro がフランス語に翻案して歌い、Tu verrasというアルバムに収録されました。英語の歌詞は、帰って来ない人を待つといった内容ですが、こちらはそれとは違って、夜空の星に憧れる、詩的な歌詞です。邦題は原曲の読みを用いることにしました。
クロード・ヌガロに関しては、後日、彼の代表曲「トゥールーズToulouse」を取り上げる際に解説する予定です。
1979年のライブの動画です。
レ・ヌビアンLes Nubiansという姉妹デュオの歌。1コーラス目は歌っていません。代名詞の「私」を「彼」に替えて歌っています。
Autour de minuit ラウンド・ミッドナイト
Claude Nougaro クロード・ヌガロ
Aux rendez-vous d’amour
Tout mon temps t’appartient et pour toujours
Aux rendez-vous d’amis
A n’importe quelle heure je suis admis
Aux rendez-vous d’affaires
Quand l’argent est urgent, je croise le fer 注1
Il est un rendez-vous pourtant 注2
Où j’aime aller isolément
恋人との待ち合わせでは
僕の時間はすべて君のもの ずっとね
友だちとの待ち合わせでは
何時だって僕は許してもらえる
仕事上の待ち合わせでは
緊急に金が必要なら、僕は剣を交える
だが僕がまた別に向かいたい
待ち合わせがある
Autour de minuit, je donne parfois rancard
A ma bonne étoile, la plus belle des stars
Elle est en retard, bien sûr
Cette étoile au baiser d’azur
Elle est en retard, bien sûr, du fond de ses nuits
Mais je l’attends quand même du fond de mon puits
Je l’attends comme une maman
Dans le noir du firmament
真夜中ごろ、僕は時々デートの約束をする
星々のうちで一番きれいな僕の幸運の星と
彼女は時間に遅れる、きっと
青色のキスをしてくれるこの星は
彼女は時間に遅れる、きっと、夜の底に沈み込んで
だがそれでも僕は井戸の底で待っている
僕は彼女をママンを待つように待つ
蒼穹の闇のなかで

Je l’attends sous un vieux bec de jaz 注3
Vu de loin, j’peux paraître un peu nase
Mais ne t’inquiète pas, passant
Si tu me croises au tournant
Je ne guette comme un gosse
Qu’un clin d’œil du cosmos
僕は古いジャズ楽器の吹口の下で彼女を待つ
遠くから見て、僕はちょっとクレイジーに見えるかもしれない
でも心配しないで、通りがかった君
もしも君が曲がり角で僕とすれ違っても
僕は小僧っ子のように
宇宙のウインクしか待ち受けていないんだ

Autour de mes nuits, allez luis, je t’attends
O toi ma bonne étoile, allez, va, descends
Dans tes bras d’années-lumière
Je veux tomber en poussière
Poussière d’étoile autour d’minuit 注4
僕の夜の時間に、そら、光ってよ、僕は君を待っている
オー君、僕の幸運の星よ、そら、来てよ、降りてよ
君の何光年もの腕のなかで
僕は砕け散って屑になりたい
真夜中の星屑に

[注] 題名のAutour de minuitは英題のRound midnightと同義で「真夜中ごろ」の意味。
1 croiser le fer avec qn.「(…と)剣を交える、(…と)議論を戦わせる」
2 Il est=Il y a
3 jaz「ジャズ」(gaz「ガス」としている歌詞が多いが音源で判断した)、したがってbecは「吹奏楽器の吹口」。映画に主演したサックス奏者のデクスター・ゴードンをイメージした表現に思える。
4 スターダストStardustというジャズのスタンダード・ナンバーを想起させる。
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