
パトリシア・カースPatricia Kaasの「ホテル・ノルマンディHôtel Normandy」はロック調ながら哀愁のあるステキな曲です。作詞:デディエ・バルブリヴィアンDidier Barbelivien、作曲:フランソワ・ベルンハイムFrançois Bernheim。1993年のアルバム「永遠に愛する人へJe te dis vous」に収録。
スタジオ盤は鳥の声と潮騒の音から始まります。このホテルは海の近くにあるようで、パリの中心部にあるノルマンディー・ホテルHôtel Normandyではなく、ノルマンディーのドーヴィルDeauvilleにあるノルマンディー・バリエール Le Normandy Barrièreという1912年に建てられたホテルのようです。クロード・ルルーシュClaude Lelouchは、1965の秋にドーヴィルの海岸を歩いていた時、遠くに美しい女性が歩いていて、そのそばで小さな女の子が遊んでいるのを見かけて、「男と女Un homme et une femme」の物語を思いつき、1966年にこのホテルで、シャバダバダシャバダバダ♪で知られる映画を撮影したとか。ルルーシュは、1986年に、同じくジャン=ルイ・トランティニャンJean-Louis Trintignant、アヌーク・エーメAnouk Aimée主演で、その男と女が20年後に再会し、かつての二人を題材にした映画を作るという内容の続編「男と女II Un homme et une femme, 20 ans déjà」を公開しています。原題は「男と女、すでに20年」という意味。
そして、またルルーシュは第1作の53年後の今年2019年に第3弾として、88歳のジャン=ルイ・トランティニャンと87歳のアヌーク・エーメ主演のLes plus belles années d'une vieを再びドーヴィルで撮影しています。原題は「人生で最も美しい年月」といった意味。これは53年前のことなのでしょう。でも53年後の今のことかも…。日本で公開されたら確かめに行きましょう。
この曲の歌詞はすべて未来形で書かれ、ドーヴィルでの二人の時間を予測し、またそれを振り返ることも予測しているような、ちょっと不思議な視点です。ひょっとしたら、この曲はルルーシュの映画を念頭に置いて作られたのではないでしょうか?この未来形のニュアンスは、20年後にかつての二人を題材にした映画を作ろうとしている視点のように思えるのですが…。
Hôtel Normandy ホテル・ノルマンディ
Patricia Kaas パトリシア・カース
Y’aura des bateaux sur la mer
Du sable dans nos pull-over
Y’aura le vent, le vent d’automne
Y’aura le temps, le temps qui sonne 注1
海には船が浮かんでいることだろう
私たちのセーターに砂が入り込み
風が、秋の風が吹くだろう
時が、到来した時がそこにあるだろう
Y’aura des enfants sur la plage
Du soleil lourd d’avant l’orage
On aura tout ce temps passé
Et un vieux chien à caresser
海辺には子どもたちがいることだろう
嵐の前の重苦しい太陽が
私たちはこの過ぎ去った時をすべて味わうだろう
そして撫でてやる老いた犬がいるだろう

Il restera de nos amours 注2
Une chambre mauve au petit jour 注3
Et des mots que tu m’avais dits
Hôtel normandy
私たちの愛の名残りに
薄明の薄紫の部屋が
あなたが私にささやいた言葉の数々が残るだろう
ホテル・ノルマンディー
Il restera de notre histoire
Des guitares rock, un piano noir
Le fantôme de David Bowie 注4
Hôtel normandy
私たちの物語の名残りに
ロックギター、黒いピアノ、
ディヴィッド・ボウイーの幻影が残るだろう
ホテル・ノルマンディー
J’aurai une ancienne limousine
Des disques d’or dans mes vitrines
On ira toujours faire un tour
Sur la jetée, au petit jour
私は古いリムジンに乗り
飾り棚にはゴールド・ディスクを置くだろう
私たちは桟橋の上を、夜明けに
いつも一回りするだろう

Les vagues auront gardé ce charme 注5
Qui nous mettaient du vague à l'âme 注6
Y’aura l’ennui des grandes personnes
Et puis le temps, le temps qui sonne
私たちを曖昧から魂へと変えてくれるその魔力を
波は保っていることだろう
大人の倦怠が
そして時が、到来した時がそこにあるだろう
Il restera de nos amours
Une chambre mauve au petit jour
Et des mots que tu m’avais dits
Hôtel normandy
私たちの愛の名残りに
薄明の薄紫の部屋が
あなたが私にささやいた言葉の数々が残るだろう
ホテル・ノルマンディー
Il restera de notre histoire
Des guitares rock, un piano noir
Le fantôme de David Bowie
Hôtel normandy
私たちの物語の名残りに
ロックギター、黒いピアノ、
ディヴィッド・ボウイーの幻影が残るだろう
ホテル・ノルマンディー

Il restera de nos amours
Une chambre mauve au petit jour
Et des mots que tu m’avais dits
Hôtel normandy
私たちの愛の名残りに
薄明の薄紫の部屋が
あなたが私にささやいた言葉の数々が残るだろう
ホテル・ノルマンディー
Il restera de notre histoire
Des guitares rock, un piano noir
Le fantôme de David Bowie
Hôtel normandy
私たちの物語の名残りに
ロックギター、黒いピアノ、
ディヴィッド・ボウイーの幻影が残るだろう
ホテル・ノルマンディー
Il restera de nos amours
Une chambre mauve au petit jour
Et des mots que tu m’avais dits
Hôtel normandy
私たちの愛の名残りに
薄明の薄紫の部屋が
あなたが私にささやいた言葉の数々が残るだろう
ホテル・ノルマンディー

IIl restera de notre histoire
Des guitares rock, un piano noir
Le fantôme de David Bowie
Hôtel normandy
私たちの物語の名残りに
ロックギター、黒いピアノ、
デヴィッド・ボウイーの幻影が残るだろう
ホテル・ノルマンディー
[注]
1 sonnerは「(鐘・ベルなどが)鳴る」ことから、「(鐘・ベルなどで)時が告げられる、(時期が)到来する」の意味で用いられる。ギヨーム・アポリネールGuillaume Apollinaireの詩にレオ・フェレLéo Ferréが曲をつけて歌っている「ミラボー橋Le pont Mirabeau」のVienne la nuit sonne l'heureは、「夜よ来い 鐘よ時を告げるがいい」と訳したが、本当は鐘ではなく時が主語。
2 rester de「…のうちから残る」。シャルル・トレネCharles TrenetのQue reste-t-il de nos amours ? は、「残されし恋には」という意味不明の邦題で知られるが、「私たちの恋のうちの何が残っているのか」という意味であり、このブログでは「恋の名残は?」とした。
3 petit jour「薄明、夜明け」ちなみにgrand jourは「真昼間」
4 David Bowie「デヴィッド・ボウイー」(1947-2016)は、イングランド出身のミュージシャン、シンガーソングライター、音楽プロデューサー、俳優。グラムロックの先駆者として台頭し、ポピュラー音楽の分野で世界的名声を得る。役者の世界にも進出し、数々の受賞実績を持つマルチ・アーティストとして知られている。(以上、google検索で得た解説を引用) ボウイーはこの曲の年はまだ生きているので、fantômeは「幽霊」ではない。彼は奇抜な衣装や化粧で幽玄なムードを演出した時期もあり、アンデッドモンスターたる「ファントム」がふさわしいが、「幻影」にとどめよう。
5 charme「魅力」ではなく「魔法、魔力」
6 前行のvagueは女性名詞で「波」だが、これは男性名詞で「曖昧、中途半端」
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