
ダリダDalidaが歌った「家族のスキャンダルScandale dans la famille」は、もともと、ジャック・ターナーJacques Tourneurがシャロット・ブロンテCharlotte Brontëの小説「ジェーン・エアJane Eyre」をもとに(内容は全く異なるが)制作したアメリカ映画「私はゾンビと歩いたI Walked with a Zombie」(1943年。フランス語のタイトル:Vaudou)のためにサー・ランスロットSir Lancelotが作詞・作曲し映画の中で歌ったShame and Scandal in the Familyというカリプソcalypsoスタイルの曲です。
その後、アレンジを加えられたり、翻案されたりして世界中で歌われヒットしました。
ダリダDalidaの歌ったフランス語版は1965年にモーリス・テゼMaurice Tézéが作詞。サッシャ・ディステルSacha Distelなども歌いました。ダリダはイタリア語でも歌っています。
11月10日の《大阪ヴォーカルコンクール》で大西千夏さんが「オーパパ」と題して日本語で歌い、歌唱賞を受賞しました。
カリプソは20世紀に生まれた音楽のスタイルのひとつで、アフリカ人奴隷たちがお互いに言葉が通じず音楽でコミュニケーションをしたのが始まりで、イギリス領、フランス領のカリブの島々、特にトリニダード・トバゴTrinidad and Tobago(フランス語ではTrinité-et-Tobago)のカーニバルで発達し、レゲエのルーツの一つとなりました。トリニダード・トバゴは23の島々からなり、その主島トリニダード島Trinidadの名前が歌詞に出てきます。ちなみに、日本でも有名になったハリー・ベラフォンテHarry Belafonteの「バナナ・ボートBanana Boat Song」はトリニダードの労働者がバナナを船に積み込むときに歌う労働歌を元に作られた曲で、ジャマイカ民謡のメントの曲ですが、当時のアメリカではメントの知名度が低く、より有名なジャンルであるカリプソとして売り出されたそうです。どんどんわき道に逸れていきそうなのでこれくらいに。
ダリダ
サッシャ・ディステル
Scandale dans la famille 家族のスキャンダル
Dalida ダリダ
Waoh papa !
Quel malheur, quel grand malheur pour moi
Waoh papa !
Quel scandale si maman savait ça
オーパパ!
なんという不運、僕にとってなんという大きな不運
オーパパ!
なんというスキャンダル、もしママが知ったら
À Trinidad, tout là-bas aux Antilles 注1
À Trinidad vivait une famille
アンティル諸島の、トリニダードに
トリニダードに、ある家族が住んでいた

La mama et le papa et leur grand fils aîné
Qui à 40 ans n'était pas encore marié
Un jour il trouva la fille qu'il voulait
Il dit à son père : "Je voudrais l'épouser"
Hélas mon garçon, hélas tu n'peux pas
Car cette fille est ta sœur et ta mère ne le sait pas
ママとパパとお兄ちゃん
彼は40歳でまだ未婚
ある日彼は好みの娘を見つけた
彼は父親に言った「彼女と結婚したい」と
アアお前、アアそれはできないよ
だってこの娘はお前の妹だ ママは知らないが
Waoh papa !
Quel malheur, quel grand malheur pour moi
Waoh papa !
Quel scandale si maman savait ça
オーパパ!
なんという不運、僕にとってなんという大きな不運
オーパパ!
なんというスキャンダル、もしママが知ったら

À Trinidad, tout là-bas aux Antilles
À Trinidad, woh woh quelle famille
アンティル諸島の、トリニダードに
トリニダードに、ウォーウォーどんな家族が
Deux ans passèrent puis le garçon un soir
Vînt trouver son père et lui dit plein d'espoir
La maîtresse d'école veut bien m'épouser
Mais le pauvre père prit un air accablé
Mon fils tu n'peux pas, tu n'peux pas faire ça
Car cette fille est ta sœur et ta mère ne le sait pas 注2
2年が経ち息子はある晩
父親をつかまえて期待を込めて言った
学校の先生が僕と結婚したいってさ
でも哀れな父親は困った様子
お前、ああそれはできないよ
だってこの娘はお前の姉だ ママは知らないが
Waoh papa !
Quel malheur, quel grand malheur pour moi
Waoh papa !
Quel scandale si maman savait ça
オーパパ!
なんという不運、僕にとってなんという大きな不運
オーパパ!
なんというスキャンダル、もしママが知ったら
À bout de patience, il courut écœuré
Raconter à sa mère toute la vérité
La mère se mit à rire et lui dit : "Ne t'en fais pas !" 注3
Ton père n'est pas ton père et ton père ne le sait pas 注4
たまらなくなり、彼はがっかりして
母親に真実を全部告げに走った
母親は笑って言った「心配しないで!」
父さんはおまえのお父さんじゃなくて父さんはそれを知らないのよ

Waoh mama !
Quel bonheur, quel grand bonheur pour moi
Waoh mama ! quel scandale, si papa savait ça
Waoh mama ! quel scandale, si papa savait ça
Waoh mama ...
オーママ!なんという幸運、僕にとってなんという大きな幸運
オーママ!なんというスキャンダル、もしパパが知ったら
オーママ!なんというスキャンダル、もしパパが知ったら
オーママ…
[注] タイトルおよび歌詞中のscandaleはスキャンダルとカナで書くともっぱら「醜聞」の意味となるが、フランス語としては「ひんしゅく、物議、大問題」などの意味合いももつ言葉。ここでは「大問題」くらいがふさわしいのだが、「スキャンダル」のほうが言葉として面白いのであえて用いた。
1.Antilles「アンティル諸島」は中央アメリカに位置し、西インド諸島の主要部を構成する諸島。そのなかの小アンティル諸島のまたそのなかのウィンドワード諸島にトリニダード・トバゴTrinidad and Tobagoがあり、その主島Trinidad「トリニダード島」がある。
2 sœurは「姉」「妹」のいずれか特定できないが、先の娘を「妹」とし、la maîtresse d'école 「学校の女教師」であるこちらを「姉」としてみた。
3 s'en faire「心配する、気にする」
4 ton père はton père ではなくて、ton père はそれを知らない。1番目と3番目のton père は「あなたが父親だと思っている人」で、2番目のton père は「あなたの実の父親」。「父さん」と「お父さん」に訳し分けた。

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