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2018
10.15

ルノー王Le roi Renaud

Pierre Bensusan Le roi Renaud


竹村淳さんの著書「反戦歌 戦争に立ち向かった歌たち」(2018年。アルファベータブックス)を読みました。世界中の反戦歌を詳細な解説と反戦への熱いメッセージを込めて紹介するすばらしい本です。1番目に取り上げられているのは、13世紀頃に原型が作られたとても古い歌、「ルノー王の哀歌La complainte du Roi Renaud」。反戦歌の古典ともいうべき名曲です。歌詞の冒頭そのままの「ルノー王が戦争から帰還したLe roi Renaud de guerre revint」というタイトルでも呼ばれます。

Wikisourceにこの曲の解説がありますので引用いたします。
notes: Ceci n'est qu'une des très nombreuses versions (environ 60) de cette chanson. Son origine est assez complexe. Elle est issue de la greffe d'une chanson du XIII ème siècle qui raconte le retour du comte Renaud sur une chanson du XVIème (le comte Redor) issue d'une légende scandinave qui a fait fureur en Europe et engendré de nombreux textes dans divers pays.
これは約60ものヴァージョンのひとつにすぎない。その起源はかなり複雑だ。この曲は、ルノー伯爵の帰還を語る13世紀の歌を、「ルドール伯爵」というスカンジナビアの伝説によって作られた16世紀の歌に移植して作られた。この歌はヨーロッパで人気を博し、さまざまな国で数多くのテキストを生み出している。
(そしてあるサイトでは、それらのうちのブルターニュのテキストがこの曲の元になったのだろうと付け加えています。)

この曲をご自分の訳詞で歌っていらっしゃる別府葉子さんによると、イヴェット・ギルベールYvette Guilbertが採譜したことによって音楽史に登場したそうです。ちなみに竹村さん別府さんともに来る11月10日(土)の《大阪ヴォーカルコンクール》の審査員。
近年では、イヴェット・ギルベールYvette Guilbertのほか、コラ・ヴォケールCora Vaucaire、エディット・ピアフとシャンソンの友 Edith Piaf et les compagnons de la chanson、イヴ・モンタンYves Montant、フォークソング・グループのマリコムMalicorneなどが歌っています。それぞれに歌詞がかなり違います。

この記事では、もっと若い世代の歌手、ピエール・ベンスーザンPierre Bensusanを選びました。アルジェリア系フランス人のギタリストで、 スペインからアルジェリアへ移民してきたユダヤ人の一家に生まれ、後にアルジェリア独立戦争の騒乱から逃れフランスのパリで育つ。 とウィキペディアで紹介されている人です。1957年生まれで現役です。彼を選んだわけはフォークソング的な歌い方に好感を持ったことと、歌詞の最後のほうで、ヴォケールもモンタンも、妃は生まれた王子を共連れにしたという歌詞ですが、ベンスーザンの歌詞では、王子を人に託して妃ひとりが王のあとを追った、という私としては納得できる顛末だからです。タイトルはシンプルに「ルノー王Le roi Renaud」です。

コラ・ヴォケール



イヴ・モンタン

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ピエール・ベンスーザン



Le roi Renaud   ルノー王
Pierre Bensusan  ピエール・ベンスーザン


Le roi Renaud de guerre revint
tenant ses tripes dans ses mains.
Sa mère était sur le créneau
qui vit venir son fils Renaud.

 ルノー王が戦争から帰った
 手にはらわたを持って。
 母君は胸壁上にいて
 息子ルノーがやってくるのを見た。

Roi Renaud3


– Renaud, Renaud, réjouis-toi!
Ta femme est accouché d’un roi! 注1
– Ni de ma femme ni de mon fils
je ne saurais me réjouir.

 「ルノー、ルノー、喜びなさい!
 あなたの妃が世継ぎをさずかりましたよ!」
 「妃も王子も
 私は喜ぶことができない。」

Allez ma mère, partez devant,
faites-moi faire un beau lit blanc.
Guère de temps n’y resterai:
à la minuit trépasserai.

 さあ母上、まず取り掛かってください、
 私にきれいな白い床を用意してください。
 時間はあまり残っていないでしょう、
 真夜中に私は身罷るでしょう。

Mais faites-le moi faire ici-bas
que l’accouchée n’entende pas.
Et quand ce vint sur la minuit, 注2
le roi Renaud rendit l’esprit..

 だが私のためここに作ってください
 産婦に聞かれないように。
 そして真夜中ごろになり、
 ルノー王は息を引き取った…

Roi Renaud4


Il ne fut pas le matin jour
que les valets pleuraient tous.
Il ne fut temps de déjeuner
que les servantes ont pleuré.

 従僕たちがみな泣いていたのは
 朝早くのことではなかった。
 召使たちが泣いたのは
 朝食の時間になってからのこと。

– Mais dites-moi, mère, m’amie, 注3
que pleurent nos valets ici ?
– Ma fille, en baignant nos chevaux 注4
ont laissé noyer le plus beau.

 「ねえ教えてください、いとしいお母様、
 従僕たちはなぜ泣いているんでしょう?」
 「娘や、馬に水浴びさせて
 一番美しい馬を溺れさせてしまったのよ。」

– Mais pourquoi, mère m’amie,
pour un cheval pleurer ainsi ?
Quand Renaud reviendra,
plus beau cheval ramènera.

 「でもなぜ、いとしいお母様、
 馬一頭のためあんなに泣いているのでしょう?
 ルノーが戻って来るときには、
 もっと美しい馬を連れて来ますわ。」

Et dites-moi, mère m’amie,
que pleurent nos servantes ici ?
– Ma fille , en lavant nos linceuls
ont laissé aller le plus neuf.

 「そしてまた、いとしいお母様、
 召使たちはなぜ泣いているのでしょう?」
 「娘や、敷布を洗っていて
 一番新しい敷布を流してしまったのよ。」

Mais pourquoi, mère m’amie,
pour un linceul pleurer ainsi ?
Quand Renaud reviendra,
plus beau linceul on brodera.

 「でもなぜ、いとしいお母様、
 敷布一枚のためあんなに泣いているんでしょう?
 ルノーが戻って来るときには、
 もっと美しい敷布を刺繍して用意しますわ。」

Roi Reraud7


Mais, dites-moi, mère m’amie,
que chantent les prêtres ici ?
– Ma fille c’est la procession
qui fait le tour de la maison.

 「でも、教えてください、いとしいお母様、
 神父たちはここでなぜ歌っているのですか?
 「娘や、あれは行列なの
 城を巡っているのよ。」

Or, quand ce fut pour relever,
à la messe elle voulut aller,
et quand arriva le midi,
elle voulut mettre ses habits.

 さて、床上げのときとなり、
 彼女はミサに行きたいと思った、
 正午になって、
 彼女は衣服を着けたいと思った。

– Mais dites-moi, mère m’amie,
quel habit prendrai-je aujourd’hui ?
– Prenez le vert, prenez le gris,
prenez le noir pour mieux choisir.

 「でも、教えてください、いとしいお母様、
 私は今日どんな服を着たらいいんでしょう?」
 「緑になさい、灰色になさい、
 黒になさいそれが一番いいわ。」

– Mais dites-moi, mère m’amie,
qu’est-ce que ce noir-là signifie
– Femme qui relève d’enfant,
le noir lui est bien plus séant.

 「でも教えてください、いとしいお母様、
 この黒はなにを意味するんでしょう?」
 「子どもを産んだ女には
 黒がとても似合うのよ。」

Quand elle fut dans l’église entrée,
un cierge on lui a présenté.
Aperçut en s’agenouillant
la terre fraîche sous son banc.

 彼女が教会に入ったとき、
 彼女に1本のろうそくが差し出された。
 ひざまずきながら気づいた
 ベンチの下の土が新しいことに。

Roi Renaud2


– Mais dites-moi, mère m’amie,
pourquoi la terre est rafraîchie?
– Ma fille, ne puis plus vous le cacher,
Renaud est mort et enterré.

 「でも、教えてください、いとしいお母様、
 なぜ土が新しくなっているの?」
 「娘や、もうこれ以上あなたに隠しておけないわ、
 ルノーは死んで埋められました。」

– Renaud, Renaud, mon réconfort,
te voilà donc au rang des morts!
Divin Renaud , mon réconfort,
te voilà donc au rang des morts!

 「ルノー、ルノー、わたしのよすが、
 あなたは死者の列に加わられたのね!
 すばらしいルノー、私のよすが、
 あなたは死者の列に加わられたのね!」

Puisque le roi Renaud est mort,
voici les clefs de mon trésor.
Prenez mes bagues et mes joyaux, 注5
prenez bien soin du fils Renaud.

 ルノー王が亡くなられたんですもの、
 これは私の財宝の鍵ですわ。
 私の指輪や宝石をお取りになって、
 ルノーの息子をよく看てやってください。

Terre, ouvre-toi, terre fends-toi,
que j’aille avec Renaud, mon roi!
Terre s’ouvrit, terre fendit,
et ci fut la belle englouti

 大地よ、開け、裂けよ、
 われもわが王ルノーとともに行かん!
 大地は開き、大地は裂け、
 ここに美しい女は飲み込まれた。

Roi Renaud5-1


[注]
1 accoucherは自動詞で「出産する」だが、ここでは他動詞「出産させる」の受動態となっている。意訳した。
2古語法ではceがêtre以外の動詞の主語にもされる。
3 m’amieはmon amieの古形ma amieで、「私のいとしい女」という意味。男が恋人を呼ぶ場合がもっぱらだが、ここでは女性同士で用いられている。この語に関しては、サルヴァトーレ・アダモSalvatore Adamoの「サン・トワ・マ・ミーSans toi ma mie」http://chantefable2.blog.fc2.com/blog-entry-211.htmlの記事を参照のこと。
4 ma filleは若い娘への呼びかけで、ここでは息子(王)の嫁(妃)に呼びかけている。
5 joyauはbijouに比して王侯などがつけるきわめて豪華な宝飾品をいう。



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