
シルヴィ・ヴァルタンSylvie Vartanの「シニェ・サガンSigné Sagan」は、小説家のフランソワーズ・サガンFrançoise Saganに捧げられた曲。作詞・作曲:ディディエ・バルブリヴイアンDidier Barbelivien。2009年のアルバム:Toutes Peines Confonduesに収録されています。
サガンは多くの小説を書き、べストセラーとなった何冊かは映画化されました。先に取り上げた、「悲しみよこんにちはBonjour tristesse」や「ブラームスはお好きQuand tu dors près de moi」は、サガンの小説を元にした映画の主題曲でした。また、サガンが作詞し、グレコが歌っている「愛すことなくSans vous aimer」も取り上げていますので、ご覧ください。彼女は脚本家としても活動し、ロジェ・バディムRoger Vadim監督の「スエーデンの城Château en Suède」(1962年)など、戯曲や映画の脚本も書いています。私生活面では、アルコールや薬物に溺れ、過度の浪費癖やギャンブル癖のため、数百億円も稼いだのに晩年には生活が困窮しました。バイセクシャルであったことも知られています。2004年、心臓疾患のため69歳で亡くなりました。
サガンは私が学生の頃によく読んでいた作家のうちのひとりです。京大北門前の進々堂で彼と「すばらしい雲Les merveilleux nuages」の原書を勉強したことを思い出します。半世紀も昔のこと…。
Signé Sagan シニェ・サガン
Sylvie Vartan シルヴィ・ヴァルタン
Un geste, un frisson de septembre 注1
Cette voix que je crois entendre
Comme un murmure désenchanté
Du Mozart en accéléré 注2
あるしぐさ、ある9月のおののき
聴こえた気がするこの声
落胆のつぶやきのような
アッチェレランドのモーツアルトの曲
Les épaules penchées sur un livre 注3
La prison des gens vraiment libres
Combien de nuits à ses romans
Mieux qu'une amie, mieux qu'un amant
本の上に傾けられた肩
本当に自由な人たちが囚われるところ
彼女の小説にどれだけの夜が
女友達以上の人、恋人以上の人

"Un certain sourire" peut-être
L'envie d'être ou ne pas être
Quelques mots écrits sur le vent
Mais d'une plume signée Sagan
『ある微笑』はたぶん
そうありたい、もしくはそうありたくないという欲求
風に乗って書かれた幾つかの言葉
だがペンでサガンとサインされている
Un verre de whisky, pour quoi faire ?
Sous le soleil des tapis verts
Cette façon de tenir ses gants
Cette élégance, éperdument
一杯のウィスキー、何のため?
太陽の下の緑の絨毯
その手袋の持ち方
この優美さ、まったく
Dans la fumée des cigarettes
Brûle la vie des marionnettes
Cette impatience au bout du temps
La politesse des insolents
タバコの煙のなかで
操り人形の命が燃える
時を経た後のいらだち
横柄な人たちの丁重さ
"Aimez-vous Brahms ?" nous dit-elle 注4
Et cette musique infidèle
Quelques phrases écrites en passant
Mais d'une plume signée Sagan
『ブラームスはお好き?』と彼女は私たちに言う
そしてこの浮ついた音楽
ついでに書かれた幾つかのフレーズ
だがペンでサガンとサインされている

Vivre sa vie à toute allure
Une gifle à la littérature
Des prix comme des bons points d'enfant
Souliers d'or et soucis d'argent
あらゆる流儀で自分の人生を生きること
文学へのしっぺ返し
子どもの良い点数のような賞
金の靴あるいは銀の靴
Où vont "Les merveilleux nuages" 注5
Au bout du compte, au bout de l'âge
Mourir n'est pas si important
L'hiver n'arrête pas le printemps
『すばらしい雲』はどこに行ったの
結局のところ、人生の終わりに
死ぬということはさほど重大じゃない
冬は春を阻みはしない
Et "De guerre lasse", on s'apprête 注6
A quitter les bruits de la fête
Ecrire le mot fin, simplement
Mais d'une plume signée Sagan
D'une plume signée Sagan
そして『夏に抱かれて』では、
祭りの喧騒を去ろうとしている
ただ、最後の言葉を書くこと
だがペンでサガンとサインされている
ペンでサガンとサインされている
[注]
1 サガンが9月に亡くなったことを言うのか。
2 du Mozart 作品を示す場合は部分冠詞が用いられる。「ある微笑Un certain sourire」(1956年)に、「孤独な下宿先でモーツアルトの音楽に耳を傾ける。」という表現がある。
3 「ある微笑Un certain sourire」に「私たちは同じ頁の上にかがみこみ、頬と頬をくっつけ間もなく唇と唇を合わした。」という表現がある。だがこの節は、サガンの小説を読みふける人々のことを言っている。
4「ブラームスはお好きUn certain sourire」(1985年)の映画の邦題は「さよならをもう一度」。
5「すばらしい雲Les merveilleux nuages」1961年
6「夏に抱かれてDe guerre lasse」1985年。原題は「戦いに疲れて」が本義だが、成句として「仕方なく、やむなく」の意味で用いられる。
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