
ジュロ・ボーカルヌJulos Beaucarneの「バラの記憶De mémoire de rose」です。1974年のアルバム:Chandeleur septante cinqに収録されています。ボーカルヌは「私は弱かったJ'étais fragile」を先に取り上げています。
“de mémoire de rose”というフレーズは、フランスの著述家ベルナール・フォントネルBernard le Bouyer de Fontenelleの、多宇宙論の啓蒙書「世界の複数性についての対話Entretiens sur la pluralité des mondes」(1686年)の第5夜→Wikisource [132]にあります。
これは、フォントネルが、ある侯爵夫人に天文学などについて語り合うという筋立ての科学啓蒙書で、自分たちの惑星や太陽が宇宙から見るとほんのひとかけらでしかなく、天空は不変ではなく、太陽が消えたり、また新たな星が生まれたりすることもあることを、分かりやすいたとえを用いて説明します。ここでは、個々の人間を1日しか咲かないバラに、宇宙を庭師に例え、私たちが宇宙を永遠で不変のものと見ている視点を説明しています。逆に言うと、長い宇宙の歴史から見ると人の一生はほんの一瞬だということです。後年のドゥニ・ディドロDenis Diderotの「ダランベールの夢Le rêve d’Alembert」(1769年)にも同様のフレーズが見られます。
けれど、ボーカルヌはマダムにそして失恋した娘に何を言いたいのでしょう。現在の自分の視点が絶対的なものではないのだからそれから自由になれということでしょうか。あるいは、一瞬一瞬が永遠だと…。いえ、皆さんそれぞれでお考えください。
De mémoire de rose バラの記憶
Julos Beaucarne ジュロ・ボーカルヌ
{Refrain:}
De mémoire de rose
On n'a vu mourir un jardinier
Si rien qu'une pause 注1
Ne peut vous suffire
Madame, laissez
Le temps s'étirer
Et sans le maudire, patientez,
Laissez-vous glisser dans le vent léger
Patience, patientez.
バラの記憶には
庭師が死んだことなど映りはしなかった
ひと時の休止にすぎないものは
あなたを苦しませることはできないのだから
マダム、そのまま
時が続いていくままになさい
そして呪ったりしないで、じっと待つんだ、
そよ風に身を委ね
辛抱だ、じっと待つんだ。

Si l'amour s'envole
Ne t'en prends qu'à toi 注2
Tu as fui l'école
Pour le lit d'un roi
Si sa voile blanche
N'est plus que brouillard
Te pends pas à la branche
Dès qu'il fera noir
Te pends pas à la branche
Dès qu'il fera noir, car
もしも恋が消え去ったら
自分だけを責めるんじゃない
君は学校を逃げ出して
王様のベッドに向かった
もしも王様の白いヴェールが
霧にすぎなくとも
日が暮れるやいなや
枝に身を吊るすんじゃない
日が暮れるやいなや
枝に身を吊るすんじゃない、なぜなら
{au Refrain}
De mémoire de rose...
バラの記憶には…
Garde tout au fond,
Tout au fond de toi
Un vide, un endroit
Derrière les fêtes
Où poser la tête
Dans le vent du soir
Bercer ces vieux rêves
Même s'il fait noir
Bercer ces vieux rêves
Même s'il fait noir, car
保つんだ奥底に、
君の奥底に
一つの空間を、一つの場所を
お祭り騒ぎの背後に
そこで頭を休めるんだ
夕べの風のなかで
その古い夢どもをなだめるんだ
日が暮れても
その古い夢どもをなだめるんだ
日が暮れても、なぜなら

{au Refrain}
De mémoire de rose...
バラの記憶には…
[注]
1 si「…だから」
2 s'en prendre à「…を非難する、責める」
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