
「ミストラル・ガニャンMistral gagnant」は、シンガー・ソングライターのルノーRenaud(ルノー・セシャンRenaud Séchan)が自らの幼年時代の「伝説のボンボン」の名前を連ねながら、娘に、人間同士として人生を語るという内容の歌詞です。娘とは、のちに童話作家となったロリータLolitaです。ミストラルmistralは南仏に吹く冷たい北風で、gagnantとは「勝った、当たりの」といった意味の形容詞。でも、この「ミストラル・ガニャンMistral gagnant」は、Renaudの子どもの頃にあり、もう販売されていない砂糖菓子の商品名。父親と娘というテーマ、そして不定詞を多用していることもイヴ・デュテイユIves Duteilの「子供を抱いてPrendre un enfant」と共通しています。
Renaudはこの曲はあまりに個人的なもので、公開するべきではないと考えていました。録音前に、妻のドミニクDominiqueにロスアンジェルスから電話で歌ったところ、妻は、録音しないなら、あなたと別れるわと言ったそうです。1985年の同名のアルバムに収録されました。
2015年に、ジャック・ブレルJacques Brelの「行かないでNe me quitte pas」とバルバラBarbaraの「黒いワシL'aigle noir」以上にフランスで好まれているシャンソンであると認められました。
クール・ド・ピラトCœur de pirate
ララ・ファビアンLara Fabian
Mistral gagnant ミストラル・ガニャン
Renaud ルノー
À m'asseoir sur un banc cinq minutes avec toi
Et regarder les gens tant qu'il en a
Te parler du bon temps qu'est mort ou qui reviendra
En serrant dans ma main tes petits doigts
Puis donner à bouffer à des pigeons idiots
Leur filer des coups d' pieds pour de faux
Et entendre ton rire qui lézarde les murs
Qui sait surtout guérir mes blessures
Te raconter un peu comment j'étais minot
Les bonbecs fabuleux qu'on piquait chez l' marchand 注1
Car-en-sac et Minto, caramel à un franc
Et les mistrals gagnants
おまえと5分間ベンチに座り
そこを通る人々をみな見ながら
過ぎ去ったあるいはまたこれから来る時代のことをおまえに話そう
おまえの小さな指をこの手で握り締めながら
それから、ばかなハトたちに餌をやり
そいつらを足で蹴っ飛ばすフリをするんだ
そして壁をひび割れさせるようなおまえの笑い声を聞く
それは僕の傷を癒してくれる
僕がどんなガキだったかおまえにちょっと話そう
僕らが店からくすねた「伝説のボンボン」たち
カーランサック、ミント、1フランのキャラメル
そしてミストラル・ギャニャンのことを


À remarcher sous la pluie cinq minutes avec toi
Et regarder la vie tant qu'il en a
Te raconter la Terre en te bouffant des yeux
Te parler de ta mère un petit peu
Et sauter dans les flaques pour la faire râler 注2
Bousiller nos godasses et s' marrer
Et entendre ton rire comme on entend la mer
S'arrêter, repartir en arrière
Te raconter surtout les carambars d'antan et les cocos boères
Et les vrais roudoudous qui nous coupaient les lèvres
Et nous niquaient les dents
Et les mistrals gagnants
雨のなかを5分間おまえと歩き
現に生きている人生を思い
世界のことをおまえに話そう お前の目を食い入るように見ながら
おまえの母さんのこともちょっと話そう
そして母さんを怒らせるために水溜りに飛び込んで
靴に泥を塗り、そして笑い転げるんだ
おまえの笑い声を 海の波の音のように聞き
立ち止まっては、引き返し
おまえに話そう、とくに昔のカランバールとココ・ボエール
そして本物のルドゥドゥのことを、それらは僕らの唇を切り
歯を悪くした。
そしてミストラル・ガニャンのことを



A m'asseoir sur un banc cinq minutes avec toi
Et regarder le soleil qui s'en va
Te parler du bon temps qui est mort et je m'en fou
Te dire que les méchants c'est pas nous
Que si moi je suis barge, ce n'est que de tes yeux 注3
Car ils ont l'avantage d'être deux 注4
Et entendre ton rire s'envoler aussi haut
Que s'envolent les cris des oiseaux
Te raconter enfin qu'il faut aimer la vie
Et l'aimer même si le temps est assassin
Et emporte avec lui les rires des enfants
Et les mistrals gagnants
おまえと5分間ベンチに座り
沈んでいく太陽を眺めながら
おまえに昔のことを話そう、過ぎてしまったことだしどうでもいいが
おまえに言う、根性が悪いのは僕らじゃないと
もしも僕が狂っているとしても、おまえ自身の目で見てそうなだけだ
なにせ、おまえの目は二つだという利点があるから
そしておまえの笑い声が
鳥の鳴き声と同じほどの高みに響き渡るのを聴く
ともあれおまえに言おう。人生を愛さなきゃならないと
愛さなきゃならないんだ、たとえ時が殺し屋で
そいつが奪い去ったとしても、子どもたちの笑いを
そして、ミストラル・ガニャンを
そして、ミストラル・ガニャンを。

[注]
1 bonbec=bonbon「ボンボン」。fabuleux「神話の、伝説の」。bonbecs fabuleux「伝説のボンボン」とは、いわゆる駄菓子だが、当時の子どもたちにとってはすばらしいものであった。そして、今では思い出のなかにのみ存在する。
car-en-sac「カーランサック」カプセルの形で、緑色、青色、白色または赤色にコーティングされた甘草味の小さなキャンディで袋入り。
minto「ミント」ミント(薄荷、フランス語でmenthe)の味の砂糖菓子。いわゆるミント・キャンディで、プラスティックの小さなケースに入っていて、金属製の蓋は指で押すと簡単に開く。
Mistral gagnant「ミストラル・ガニャン」緑の紙袋に入った甘草味の粉末の砂糖で、舌に乗せるとパチパチ弾ける。袋にストローを差し込んで食した。いくつかの袋には「当たりgagnant」と書かれていて、それを持って行くともうひとつタダでもらえた。
carambars「カランバール」スティック状のキャラメル。d'antan「昔の」。carambars d'antanという商品名ではない。
cocos boères「ココ・ボエール」丸い小さな丸い缶に入った粉状の菓子で、唾液で濡らした指にその粉を付けて舐めた。
roudoudous「ルドゥドゥ」は、香りの付いた砂糖で作られた菓子で、プラスチックの小さな貝殻状の容器に張り付いていて、そのまま舐めて味わった。
「ミストラル・ガニャン」「ココ・ボエール」「ミント」はもう販売されていない。
これら、この曲に出てくるボンボンを解説しているサイト(→こちら)がある。
2 faire râler「怒らせる」
3 barge=fou「狂った」
4 avoir l'avantage de inf.「(…には)…という利点(長所)がある」。And they benefit from being twoという英訳があるが、これはbeing twoが原因とされて、成句の意味と少々ずれる。また、これは「彼らは二人でいることで利益を得る」と訳したくなるが、これは違うだろう。ilsは前行のtes yeuxとしか考えられない。
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