
今回はアンリ・サルヴァドールHenri Salvadorの「冬の庭(温室) Jardin d'hiver」です。サルヴァドールは、1917年にフランス領ギアナに生まれました。最初ギタリストとして出発したのちに歌手となり、喜劇番組にも出演し、ほんとうに長い長い芸能生活を送り、2008年2月に90歳で亡くなりました。1957年に彼が作曲した「私の島でDans mon île」という曲を聴いたアントニオ・カルロス・ジョビンAntônio Carlos Brasileiro de Almeida Jobimが、それにヒントを得てボサ・ノヴァを生み出したとか。すなわち、彼はボサ・ノヴァの元祖です。
2000年、彼が82歳の時に出したアルバムが大ヒットし、ヴィクトワール賞を受賞。このアルバム名Chambre avec vueは2曲目のタイトルで「眺めのいい部屋」の意味ですが、「サルヴァドールからの手紙」という邦題がつけられています。このアルバムに含まれるこの曲は、もともとは、若き女流シンガー・ソングライターのケレン・アンKeren Annが自分のファースト・アルバムで「アンリ・サルヴァドールに捧ぐ」という副題をつけて発表した曲。感動した彼は、彼女とその恋人のバンジャマン・ビオレBenjamin Biolayのプロデュースにより、ボサノヴァ風の曲を中心とした自分のアルバムを作ったわけです。

上の写真は、ペール・ラシェーズ墓地のサルヴァドールのお墓。2010年5月1日にお参りして撮ってきました。エディット・ピアフÉdith Piafの隣です。サルヴァドールは、1950.年にジャクリーヌと結婚し、26年連れ添った後1976年に先立たれました。彼はこのお墓で、30年以上先に亡くなった妻のジャクリーヌといっしょに眠っています。
日本版のアルバムでは、今回取り上げるこの曲には「こもれびの庭に」という邦題がつけられていますが、季節がまったく違います。原名Jardin d'hiverは直訳すると「冬の庭」ですが「温室」のことも言います。私は、この曲は妻に先立たれた老年の男の心象風景ということで「冬の庭」なんだと思い、そう呼んでいましたが、複数のフランス人から、なんと老年の男が若い女性に恋をする話、すなわち、冬枯れの庭が温室に変わるような物語であることを教えられ、(温室)と括弧して加えることにしました。
南アメリカに住んでいた若い頃に1度結婚していたということは別として、サルヴァドールは、ジャクリーヌが亡くなった10年後の1986年(69歳)にサビーヌと結婚し1995年に離婚。そして、この曲の作られた翌年の2001年(84歳)から晩年までカトリーヌと結婚していたといったことも今になって知りました。
いえ、一人の妻を亡くなった後も何十年も愛し続けたという私の思い込みが壊れてがっかりしたというより、今まで抱いていた曲のイメージががらりと変わりました。
ケレン・アン
ステーシー・ケントStacey Kentの歌はおしゃれです。
Jardin d'hiver 冬の庭(温室)
Henri Salvador アンリ・サルヴァドール
Je voudrais du soleil vert
Des dentelles et des théières
Des photos de bord de mer
Dans mon jardin d'hiver
緑の陽射しが
レースやティーポットが
海辺の写真が 欲しい
僕の冬の庭に
Je voudrais de la lumière
Comme en Nouvelle Angleterre
Je veux changer d'atmosphère
Dans mon jardin d'hiver
ニュー・イングランドのような
光が欲しい
雰囲気を変えたい
僕の冬の庭の

Ta robe à fleurs sous la pluie de novembre
Mes mains qui courent, je n'en peux plus de t'attendre 注1
Les années passent, qu'il est loin l'âge tendre 注2
Nul ne peut nous entendre 注3
11月の雨のもとの君の花柄のドレス
伸びる僕の両手、もうこれ以上、君を待ちきれない
歳月は過ぎ、子どもの頃はなんと遠い昔なのか
誰も僕たちのことを分かりやしない
Je voudrais du Fred Astaire 注4
Revoir un Latécoère 注5
Je voudrais toujours te plaire
Dans mon jardin d'hiver
フレッド・アステアを気取りたい
ラテコエールをまた見たい
いつも君に気に入られていたい
僕の冬の庭で

Je veux déjeuner par terre
Comme au long des golfes clairs
T'embrasser les yeux ouverts
Dans mon jardin d'hiver
土の上で食事をしたい
明るい入り江沿いなどで
目を開けたまま君にキスしたい
僕の冬の庭で
Ta robe à fleurs sous la pluie de novembre
Mes mains qui courent, je n'en peux plus de t'attendre
Les années passent, qu' il est loin l'âge tendre
Nul ne peut nous entendre
11月の雨の下の君の花柄のドレス
伸びる僕の両手、もうこれ以上、君を待ちきれない
歳月は過ぎ、子どもの頃はなんと遠い昔なのか
誰も僕たちのことを分かりやしない

[注]
1 je n'en peux plus de t'attendre「もうこれ以上、君を待ちきれない」は、確かに、過去の女性へではなく、現在自分の前にいる女性への気持ちをあらわしている。ケレン・アンなど女性が歌う場合は、ta robe がma robeに、mes mainsがtes mainsに変えて歌われる。
2 âge tendre「幼年期、子どもの頃」。老年の彼にとっては青春時代が「子どもの頃」のようなものだということか。
3 nul 文章用語で、「いかなる人も(…でない)」。今日ではneを伴って主語としてのみ用いられる。entendre「聞く」が本義だが、「理解する」の意味にもなる。
4 フレッド・アステアFred Astaireは、「パリの恋人Funny Face」「ザッツ・エンタテインメントThat's Entertainment」などに出演した、ハリウッドのミュージカル映画のスターで、粋で華麗なダンスが人々を魅了した。紳士の代名詞ともされる。
5 ラテコエール Latécoèreはフランス製プロペラ機。
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