
カナダのケベック州のシンガー・ソングライター、ジネット・レノGinette Renoは1946年生まれで現在75歳で現役です。(Renoは本名のGinette Raynaultの音素的な綴りとして作られたステージ・ネームで、ルノとは発音しません。)彼女の曲は、「話したいのJ’ai besoin de parler」を先に取り上げています。こちらは夫に「話したい」と語っていましたが、今回、私の子mon enfantに語っている曲「私はそこにいるJe serai là」をご紹介いたしましょう。同じケベックの歌手イザベル・ブーレイIsabelle Boulayにも「娘よMa fille」という曲がありますが、こちらは、結婚して出て行く娘に語りかけていました。そしてまた、ザーズZazの「明日、それはあなたDemain c’est toi」では、まだお腹にいる子供に語りかけていました。ジネットの曲は、その両者の中間。3曲とも子供のいくすえを見守り応援する内容です。ジネットとほぼ近い年齢の私としては、娘ではなく孫娘としたほうが合う気がするのですが、ともあれ、肝っ玉かあさん(肝っ玉ばあさん?)風の彼女が人生のピンチの際にそばにいてくれたらホント安心ですね。2018年のアルバム:À jamaisに収録されています。
Je serai là 私はそこにいる
Ginette Reno ジネット・レノ
Le chemin n'est pas toujours facile, tu l'apprendras
Mon enfant si douce et si naïve, écoute moi
L'amitié est parfois trop fragile, que ce qu'on voit
L'amour n'est souvent qu'une simple idylle, 注1
Et c'est comme ça
Et ça viendras
Continue ta route,
Et ne laisse pas le moindre doute s'installer chez toi
Tu tomberas, mais à chaque faux pas, je serai là
Continue ta route, l avenir c'est toi
Tous ceux qui doutent, ne les écoute pas
道は必ずしもたやすくはない、あなたはそれを学ぶわ
とても優しくてナイーヴな私の子、聞いてちょうだい
友情は私たちが見るよりも壊れやすいことがある
愛は時にはただのちょっとしたラブソング、
それはそんな風
それはやって来るわ
あなたの道を進むのよ、
そして、あなたの裡に少しの疑いも根付かせないで
あなたはつまずくでしょうね、でも踏み間違えるたびに、私はそこにいるわ
あなたの道を進んでちょうだい、未来、それはあなたなの
疑う人たち、誰にも耳を貸さないで

Si tu a peur et si tu perds la foi, je serai là
Un beau jour je te verrais partir, tu aimeras 注2
Personne ne pourras te retenir, pas même moi
Puis un jour tu me feras vieillir, tu enfanteras
Alors ce sera à toi de dire tous ces mots là,
Hum il le faudra ⅽontinue ta route,
あなたが恐れを抱いたなら信念を失ったなら、私はそこにいるわ
いつの日か、私はあなたが出発するのを見るでしょう、あなたは誰かを愛すでしょう
誰もあなたを引き留めることはできないわ、私だって
そしていつかあなたは私を老いさせ、あなたは子供を産むでしょう
その時、こうした言葉をすべて言うのはあなたなのよ、
ええ、あなたの道を進み続けなきゃならないわ、
Et ne laisse pas le moindre doute s'installer chez toi
Tu tomberas, mais à chaque faux pas je serai là
Continue ta route, l'avenir c'est toi
Tous ceux qui doutent ne les écoute pas
Si tu a peur et si tu perds la foi, je serai là
Ainsi va la vie, et tout continue, c'est comme une histoire
Qui ne s'arrête plus, vis ta vie n'attend plus 注3
Continue ta route,
そして、あなたの裡に少しの疑いも根付かせないで
あなたはつまずくでしょうね、でも踏み間違えるたびに、私はそこにいるわ
あなたの道を進んでちょうだい、未来、それはあなたなの
疑う人たち、誰にも耳を貸さないで
あなたが恐れたなら信念を失ったなら、私はそこにいるわ
こうして生は過ぎゆき、すべては続く、それはね
もう止まることのない物語のようなもの、生きてあなたの人生をそれはもう待ってくれない
あなたの道を進んで、

Et ne laisse pas le moindre doute s'installer chez toi
Tu tomberas, mais à chaque faux pas, je serai là
Continue ta route l'avenir c'est toi
Tous ceux qui doutent ne les écoute pas
Si tu à peur, et si tu perds la foi, je serai
Hum hum hum hum
そして、あなたの裡に少しの疑いも根付かせないで
あなたはつまずくでしょうね、でも踏み間違えるたびに、私はそこにいるわ
あなたの道を進んでちょうだい、未来、それはあなたなの
疑う人たち、誰にも耳を貸さないで
あなたが恐れを抱いたなら信念を失ったなら、私は…
フム フム フム フム
[注]
1 idylle 辞書には「田園恋愛詩」という訳語が表記される。ヴァレッサ・パラディVanessa Paradisの「絶世の恋Divine idylle」参照。
2 aimerは他動詞だが、ここでは目的語なしで「(ひとを)愛する、恋をする」。
3 ta vieはvis(二人称命令形)の目的語とn'attend plusの主語を兼ねる。日本の和歌の掛詞風の表現。
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「愛なき愛L' anamour」「ロリータ、ゴー・ホームLolita Go Home」に続き、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgを。本人が歌っている「雪の下のマリルーMarilou sous la neige」です。

アルバムのストーリーは、私すなわち「キャベツ頭の男」 はレゲエが大好きな少女マリルーに惹かれ、奔放な彼女に振り回されて嫉妬に気が狂い、ついには彼女の頭を消火器で殴って殺し雪の下に埋めます。そしてその後、精神科病院に入り、自らの物語を語る、といった内容。そのうちの10曲はバックに音楽はあるものの歌ではなく語りで、歌っているのは8曲目の「僕のルー、マリルーMa lou Marilou」と、今回取り上げる11曲目の「雪の下のマリルーMarilou sous la neige」だけです。この曲はマリルーを殺して雪の下に埋めるくだりで、イギリスの作曲家エドワード・エルガーEdward Elgar作曲の管弦楽のための行進曲「威風堂々作品39第1番 Pomp and Circumstance Opus39 №1」のメロディーを用いています。美しい曲で、ジェーン・バーキンJane Birkinのみならず何人かの歌手がカヴァーしています。
ジェーン・バーキンJane Birkin
ミッシェル・デルペッシュMichel Delpech
アラン・バシュングAlain Bashungは2009年に亡くなりましたが、没後の2011年に全曲をカヴァーした同名のアルバムL’homme À tête de chouがリリースされています。
Marilou sous la neige 雪の下のマリルー
Serge Gainsbourg セルジュ・ ゲンスブール
Marilou repose sous la neige
Et je me dis et je me redis
De tous ces dessins d'enfant que n'ai-je
Pu préserver la fraîcheur de l'inédit
マリルーは雪の下に横たわる
そして僕は考えそしてまた考える
これらの子供の絵すべてのうちどれなのか
僕が斬新さの鮮度を保つことができなかったのは

De ma Lou en bandes dessinées, je
Parcourais les bulles arrondies 注1
Lorsque je me vis exclu de ses jeux
Érotiques j'en fis une maladie 注2
漫画のなかの僕のルーの、僕は
丸い吹き出しをざっと読んだ
彼女のエロティックなゲームから僕が除外されていると気づいたとき
僕は悔しかった
Marilou se sentait pris au piège
Tous droits d'reproduction interdits
Moi, naïf j'pensais que me protégeait
Les droits du copyright opéra mundi 注3
マリルーは自分が嵌められたと感じた
転載はすべて不可だ
僕は、オペラムンディ社が
僕の著作権を護ってくれると無邪気にも思っていた
Oh, ma Lou il fallait que j'abrège
Ton existence, c'est ainsi 注4
Que Marilou s'endort sous la neige
Carbonique de l'extincteur d'incendie
ああ僕のルー、僕は縮めなければならなかった
君の命を、かくして
マリルーは雪の下で眠りにつく
二酸化炭素消火器

[注]
1 parcourer「ざっと目を通す」。bulle「(漫画のセリフ部分の)吹き出し」
2 en faire une maladie「悔しがる、気に病む」
3 opéra mundi=Opéra Mundiは、1938年にパリを拠点に創立した出版社で、1990年代までJournal of Mickeyなどのコミックブックの出版を専門としていた。
4 c'est ainsi「かくして、そんなわけで」
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ここ1年、「シャンソンマガジン」で、宇藤カザンが記事を書きYouTubeで編集者の山下さんと対談し、私が付録CDで解説しています。「グレコ特集」「トレネ特集」「モンタン特集」に続き、今回、2月に発売される「2022 春号」はゲンズブール特集です。
ということで前回の「愛なき愛L' anamour」に引き続き、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが作った曲を取り上げます。ジェーン・バーキンJane Birkinの「ロリータ、ゴー・ホームLolita Go Home」です。作曲:セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourg、作詞:フィリップ・ラブロPhilippe Labro。1975年の同名のアルバムに収録されています。タイトルは英語ですがフランス語の曲。このアルバムには、スタンダードナンバーほか英語の曲が半分を占めています。イギリス生まれのバーキンにとっては英語は母国語です。
ミレーヌ・ファルメールMylène Farmerが作詞しアリゼAlizéeが歌った「あたし…ロリータMoi…Lolita」のページに書いたとおり「ロリータLolita」は、ウラジーミル・ナボコフVladimirovich Nabokovの小説のタイトルで、小説に描かれた中年の男性が愛する年の離れた少女の名前です。「ロリータ、ゴー・ホームLolita Go Home」では、人々が「私」をロリータと呼び、ゴー・ホームと言って追い出そうとします。中年男性の関心を引く「私」の佇まいがイケナイのでしょうか?舞台はアメリカでしょうか?イギリスでしょうか?フランスに帰れというのでしょうか?

後年の1984年、ゲンズブールはバーキンとの間に生まれた当時13歳の娘のシャルロット・ゲンスブールCharlotte Gainsbourgとのデュエット曲「レモン・インセストLemon Incest」を発表しました。この曲は、ナボコフのロリータに立ち返りつつ近親相姦的な形に発展させています。
Lolita Go Home ロリータ、ゴー・ホーム
Jane Birkin ジェーン・バーキン
Tous les gens "comme il faut" se retournent sur moi 注1
Principalement les femmes, je ne sais pas pourquoi
Elles reluquent mes chaussures, mes chaussettes et ma jupe
J'les entends murmurer des drôles de mots comme "pute"
「まっとうな」人々はみんな私に背を向ける
主に女たちが、なぜだか分からない
彼女らは私の靴、私の靴下や私のスカートをじろじろ見る
彼女らが「雌犬」といった変な言葉をささやくのが聞こえる

{Refrain:}
Lolita, Lolita, go home
Lolita, Lolita, go home
Lolita, Lolita
Lolita, go home
ロリータ、ロリータ、ゴー・ホーム
ロリータ、ロリータ、ゴー・ホーム
ロリータ、ロリータ
ロリータ、ゴー・ホーム
On me chasse de partout, comme une boule de flipper 注2
Qui s'cogne aveuglement dans les machines en fer
J'ai tout mis dans un sac de cartons et ficelles
J'pouvais plus supporter leur sarcasme cruel
ピンボールゲームの球のように、どこでも私を追いかけて
やみくもに鉄の機械のなかでぶつかる
私はすべてを厚紙と紐の袋にしまい込んだ
私はもう彼女らの残酷な嘲弄に耐えられなかった
{Refrain}

Derrière les volets clos, j'ai senti leurs regards
Et je courbe le dos en chemin vers la gare
On dirait que, vraiment, à tous, je faisais peur
J'ai vu, en rangs serrés, les femmes crier en chœur
閉じたシャッターの後ろで、私は彼女らの視線を感じた
そして駅に向かう途中で背を丸める
実際、みんなを、私は怖れさせたようだ
私は見た、整列して、女たちが声をそろえて叫んでいるのを
{Refrain}
Au wagon-restaurant, j'ai commandé un thé
Je ne fais rien de mal, j'ai les jambes écartées
Et pourtant, devant moi, un vieux monsieur salive
Et j'écoute le chant de la locomotive 注3
食堂車でお茶を一杯注文した
私はなんにも悪いことはしていない、私は脚を広げている
だけど、私の前で、ジジイが涎を垂らす
そして機関車の歌が聴こえる
Lolita, Lolita, go home (×11fois)
ロリータ、ロリータ、ゴー・ホーム (×11回)

[注]
1 comme il faut「立派な、きちんとした」
2 flipper「ピンボールゲーム」傾斜した箱の中で金属球を2つのバーで弾き、的に当てて得点するゲーム。「スマートボール」「パチンコ」「コリントゲーム」も同類。
3 le chant de la locomotive「機関車の歌」とは、蒸気機関車の場合は「シュッシュ、ポッポ」という蒸気・煙の排出音だろうが、この場合は、車輪がレールの継ぎ目に当たる「ガタン、ゴトン」というジョイント音で、それがLolita, Lolita, go homeと聴こえるのであろう。
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