
実は私、若い頃は本の虫で、好んで奇書・珍書の類も読んでおりました。そのうちの1冊、中井英夫の「虚無への供物」(1964年刊)は、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」、夢野久作の「ドグラ・マグラ」とともに、日本探偵小説史上の三大奇書といわれます。その中にシャンソンが何曲も出てきたことを今になって思い出しました。最初に登場するのは「恐い病気よりましÇa vaut mieux que d'attraper la scarlatine」という大変ユーモラスな曲。今回、それをご紹介しましょう。「虚無への供物」にはリヌ・クルヴェールLyne Cleversの曲として出ていましたが、1936年のオペレッタ・ノルマンディーl'opérette Normandieの劇中曲で、作詞:アンドレ・オルネスAndré Hornez&アンリ・ドゥコワンHenrî Decoin、作曲:ポール・ミスラキPaul Misraki。レイ・ヴァンチュラとその学友たちRay Ventura et ses colégiensが創唱しました。このグループの曲としては「幸せになるのに何を待つのQu'est-ce qu'on attend pour être heureux」を先にご紹介しています。
後年、レイ・ヴァンチュラの甥のサッシャ・ディステルSacha Distel もカヴァーしています。1993年のアルバム:Sacha Distel et ses collégiens jouent Ray Venturaに収録。
scarlatineは、採用した既存の邦題では「恐い病気」とされますが、「猩紅熱」のこと。ヨーロッパでも流行病の代表とされ、「若草物語」や「アンナ・カレーニナ」にも記述がみられます。昨今なら「新型コロナ」に言い換えたいところですが…。「恐い病気」よりましだと挙げられるもろもろのエピソードは「下ネタ」や「オヤジギャグ」の類。このオペレッタはノルマンディーからアメリカに渡る船上が舞台で、パリに愛する貧乏な青年を残して好きじゃない男と結婚するために、大富豪の父親に無理にアメリカに連れ帰られる娘のお話ですが、コミカルな喜歌劇であり、ハッピーエンドとなるようです。劇中でのこの曲の役割は不明ですが、「好きじゃない男と結婚すること」が「恐い病気」よりましだというのかなと。
レイ・ヴァンチュラとその学友たち
リヌ・クルヴェール
サッシャ・ディステルはSacha Distel et ses colégiensと称して、このように複数の歌手とともに歌っています。
Ça vaut mieux que d'attraper la scarlatine 恐い病気よりまし
Ray Ventura et ses colégiens レイ・ヴァンチュラとその学友たち
*レイ・ヴァンチュラの歌に合わせた。歌詞間の掛け合いの言葉は省いた。サッシャ・ディステルは若干歌詞が異なる。リヌ・クルヴェールは各コーラスの頭に記した1~5の順に歌っており、数字のないコーラスは歌っていない。
1
Nous avons plutôt tendance
À prendre la vie tristement
Et dans bien des circonstances
On s'affole inutilement
Quelle que soit notre malchance
Dites-vous que ce n'est rien
Tout ça n'a pas d'importance
Car si l'on réfléchit bien.
僕たちはむしろ
人生を悲しいものと受け取りがち
そして状況により
無意味に取り乱してしまう
僕たちの不運が何であれ
それは何でもないとあなたはおっしゃるのでしょう
それはすべて重要じゃないと
なにせよく考え直したらわかると
{Refrain:}
Ça vaut mieux que d'attraper la scarlatine
Ça vaut mieux que d'avaler d'la mort-aux-rats 注1
Ça vaut mieux que de sucer d'la naphtaline
Ça vaut mieux que d'faire le zouave au Pont d'l'Alma. 注2
猩紅熱に罹るよりまし
猫いらずを食べちゃうよりまし
ナフタリンをしゃぶるよりまし
アルマ橋でズアーヴ兵を気取るよりまし。

Dans l'métro quand il y a foule
On n'sait pas où s'accrocher
Et tandis que le train roule
On ne fait que trébucher
L'autre jour quelqu'un s'exclame:
- Mais vous m'attrapez les seins !
J'lui ai répondu : Madame
Y a pas d'quoi faire ce potin. 注3
地下鉄の車内が混雑していれば
どこにつかまったらいいか分からず
列車が走るあいだ
よろよろするしかない
ある日誰かが叫ぶ:
ちょっと、あなたは私の胸をつかんだわね!
僕は彼女に答えた:奥さん
騒ぎ立てるほどのことじゃないだろう。
{Refrain}
4
On a la triste habitude
De couper la queue des chiens
Des gens plein d'sollicitude
Trouvent que cela n'fait pas bien 注4
Cette p'tite queue que l'on mutile
Dit quelqu'un, c'est pas joli,
Mais d'une façon subtile
Blumenthal dit à Lévy:
犬のしっぽを切るという
悲しい習性をひとは持つ
心遣いあふれる人々は
それはいいことじゃないと気づく
ひとが切ったこの小さなしっぽは
誰かが言うには、きれいじゃない、
でも上手なやり方ならねと
ブルーメンソールはレヴィに言う。
{Refrain}

Chez une vieille douairière
De soixante ans bien sonnés
Des bandits masqués entrèrent
Et voulurent la violenter.
Son mari criait : Arrière !
Je préfère que l'on me tue
Mais brusquement la douairière
Lui dit - De quoi te mêles-tu. 注5
60歳をすでに過ぎた
老婦人の家に
覆面した強盗が入り
彼女を強姦しようとする。
夫は叫んだ:やめろ!
俺を殺してくれたほうがましだと
だがいきなり老婦人は
彼に言った:余計な口出ししないでと。
{Refrain}
3
Comme on parlait de supplices
Dans un salon très coté
Quelqu'un dit : Aux îles Maurice
J'ai vu des gens empalés !
Chacun dit : C'est sanguinaire !
Mais un jeune homme ravi
S'écria : Et prout, ma chère 注6
Si vous voulez mon avis !
刑罰について、
たいへん定評あるサロンでひとが言うことには
誰かが言う:モーリス島で
くし刺しにされた人たちを見た!
各々が言う:それは残虐だね!
だがうれしげな若い男が
叫ぶ:ウッフン、あなた
あたしの意見を聞きたいのかしら!
{Refrain}

{Refrain}
2
Un soir au concert Colonne 注7
Eclata un grand scandale
Il y avait un trombone
Qui ne semblait pas normal
Le chef d'une voix rageuse
Lui dit : Nous jouons Tannhäuser
Et vous, vous jouez Sambre et Meuse ! 注8
L'autre répond : "Kek ça peut faire ? 注9
ある夕べ、コンセール・コロンヌで
大事件が起こった
トロンボーンが
普通じゃなかった
バンドマスターが大声で
彼に言う:私たちは「タンホイザー行進曲」を演奏している。
そして君はね、君は「サンブル・エ・ミューズ連隊行進曲」を演奏している!
相手は答えた:それが何だよ?
{Refrain}
※下のリヌ・クルヴェールの5コーラス目はレイ・ヴァンチュラとサッシャ・ディステルは歌っていない。
5
Je n’connais pas l’orthographe.
J’suis pas la seul à Paris.
Et souvent j’commets des gaffes.
Ça déplait à mon mari.
L’autr’ jour il me dit : Caresse
Ça s’écrit avec un C
Je répondis tout d’un’ pièce 注10
Avec un Q c’est plus gai.
私は綴りが分からない。
パリじゃ私ひとりじゃないけどね。
そして私は時々ヘマをする。
夫はそれが気に入らない。
ある日彼は私に言う:Caresse(愛撫)は
Cを使って書くんだよ
私は意固地に答えた
Qを使うともっと楽しいわ。
{Refrain}

[注]
1 mort-aux-rats「猫いらず」黄燐や亜砒酸を主成分とした殺鼠剤。
2 zouave「ズアーヴ兵」アルジェリア人を中心に編成したフランス歩兵隊。1858年に、セーヌ川にかかるPont d'l'Alma「アルマ橋」に、彫刻家ジョルジュ・ディーボルトGeorges Diebolt(1816-1861)作のle Zouave「ズアーヴ兵」とle Grenadier「擲弾兵」の二つの銅像が設置された。話し言葉で、faire le zouaveは「からいばりする、おどける」だが、銅像を考え「ズアーヴ兵を気取る」とした。
3 Il n'y a pas de quoi+inf.「…するほどのことはない」。potin「うわさ話、陰口」 faire du potin「騒ぐ、物議をかもす」
4 faire bien人が主語の場合は「適切に行動する」という意味となるが、celaが主語なので「よい結果をもたらす」といった意味合い。
5 se mêler de ...「…に介入する、口出しする」
6 proutホモセクシャルな女性っぽいオノマトペ。
7 concert Colonne「コンセール・コロンヌ(コロンヌ管弦楽団)」1873年に創設されたパリのオーケストラ。エドゥアール・コロンヌÉdouard Judas Colonneが初代の総監督。
8 Sambre et Meuse=Le régiment de Sambre et Meuse「サンブル・エ・ミューズ連隊行進曲」ジャン・ロベール・プランケットJean Robert Planquetteが1879年に作曲。
9 Kek ça peut faire ?=Quelque ça peut faire ?
10 tout d’une pièce「ぎこちなく」「融通のきかない」
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今日11月24日はバルバラBarbaraの命日なので、彼女の曲、「私の男たちMes hommes」を。作詞・作曲はバルバラ自身。1968年のアルバム:Le soleil noirに収録されています。このアルバムの曲は、タイトルナンバーの「黒い太陽Le soleil noir」のほか、「夜の顔Gueule de nuit」「子供の頃Mon enfance」「口先でDu bout des lèvres」「メリー・クリスマスJoyeux Noël」をすでにご紹介しています。
「私の男たち」は、恋人ではなく、自分にかしずいてくれる男、つまりはナイトknight。昨今ではドーベルマンdobermanにも例えられるようですが…。男たちが私について来たはずが、持ちつ持たれつの関係のなかで、最後は私が男たちについて行くことに。このアルバムには、バルバラBarbara自身のピアノのほか、ベース:マッシャル・ゴードリィMichel Gaudry、アコーディオン:ロラン・ロマネッリRoland Romanelli、サキソフォン・クラリネット:ミッシェル・ポルタルMichel Portal 、オルガン:エディ・ルイスEddy Louiss、ヴァイオリン:ピエール・ラバディPierre Labadie、ルイ・リュジリャルディLouis Lugigliardi、ジャン・ラミィ Jean Lamy、ジャック・ウィーデルケルJacques Wiederker、コントラバス:ジャン=マリー・ロレルJean Marie Roller、ウィリィ・ロックウッドWilly Lockwood、ピアノ:アンリ・ジャルダーノHenri Giardano、フルート:ミッシェル・サンヴォワザンMichel Sanvoisin 、そしてミッシェル・コロンビエとそのオーケストラMichel Colombier et son orchestreという大人数の伴奏者が参加しています(フランス人以外もあり、名前の読みは正確ではありません)。「私の男たち」とは、彼らのことのような気も大いにします。
メロディーが耳に残る曲です。バルバラの曲は歌詞内容を深く読み取る必要があることをさんざん思い知らされてきましたが、この曲は、また逆に、余計なことを考えず、原点に戻りシンプルに音楽として歌として聴くことを思い出させてくれるように思います。いえ、訳は決して楽ではありませんでした。なにせ長いし。
Mes hommes 私の男たち
Barbara バルバラ
Ils marchent le regard fier,
Mes hommes,
Moi devant, et eux derrière,
Mes hommes.
Et si j'allonge le pas, 注1
Ils me suivent pas à pas.
Je leur échappe pas,
Mes hommes, mes hommes.
彼らは不遜なまなざしで歩く、
私の男たち、
私は前、彼らは後ろ、
私の男たち。
そして私が歩を速めても、
彼らは一歩一歩ついてくる。
私は彼らから逃れられない、
私の男たち、私の男たち。
Où que je sois, ils sont là,
Mes hommes.
Je n'ai qu'à tendre les bras,
En somme.
Je les regarde venir,
Fière de leur appartenir. 注2
C'est beau de les voir sourire,
Mes hommes.
私がどこにいようと、彼らはそこにいる、
私の男たち。
私は腕を差し伸べるしかない、
つまりは。
私は彼らが来るのを眺める、
自らの献身に誇りを抱いて。
彼らが微笑むのを見るのはうれしいこと、
私の男たち。

Moi qui suis fille des brumes,
En somme,
De la nuit et de la lune,
Tout comme.
Quand j'arrive, le teint clair, 注3
Moi devant et eux derrière,
Je comprends bien que les gens
S'étonnent, s'étonnent.
私は霧の娘よ、
つまりは、
夜のそして月の娘、
まるでそんなよ。
白い面立ちで、私は到着する、
私は前、彼らは後ろ、
そのとき私は気づく
人々が驚くのに、驚くのに。
Car, ils viennent de Tunisie,
Mes hommes,
Marseille, Toulon, le Midi,
Mes hommes.
Ils marchent avec insolence,
Un petit rien dans la hanche.
Ça ressemble à une danse,
Mes hommes.
だって、彼らはチュニジアから来たのよ、
私の男たちは、
マルセイユから、ツーロンから、南仏からね、
私の男たちは。
彼らは歩く、横柄さを、
ほんの少し腰回りに漂わせて。
それはダンスのようだわ、
私の男たち。
Ils ne m'appellent Madame,
Mes hommes.
Mais, tendrement, ils me nomment
Patronne. 注4
Ils se soumettent à ma loi.
Je me soumets à leur loi.
Que c'est doux d'obéir
À mes hommes.
彼らは私をマダムと呼ぶ、
私の男たち。
でも、愛情を込めて、私を
パトロンと名付ける。
彼らは私の律に服す。
私は彼らの律に服す。
なんてすてきなの
私の男たちに従うことは。

Tout d'amour et de tendresse, 注5
Mes hommes,
M'ont fait une forteresse,
Mes hommes.
Non, vous ne passerez pas.
C'est à eux, n'y touchez pas.
Ils sont violents, quelquefois,
Mes hommes, mes hommes.
愛と、そして優しさに満ちて、
私の男たちは、
私のために砦を造る、
私の男たち。
いいえ、あなた方は入れはしない、
それは彼らのものよ、触れないで。
彼らは粗暴になるわ、ときにはね、
私の男たちは、私の男たちは。
Ils se sont fait sentinelles,
Mes hommes.
Ils pourraient être cruels,
Mes hommes.
Ils me veillent, comme moi
Je les veille quelquefois.
Moi pour eux, et eux pour moi,
Mes hommes.
彼らは歩哨となった、
私の男たちは。
彼らは狂暴になるかもしれない、
私の男たちは。
彼らは私を見張る、私が
ときには彼らを見張るように。
私は彼らのためのもの、そして彼らは私のためのものよ、
私の男たち。
Quand naissent les premières feuilles 注6
D'automne,
Quand le chagrin se fait lourd,
Mes hommes,
Vont se mettre, sans un mot,
Debout autour du piano
Et me disent tendrement,
Patronne, patronne.
秋の
新たな紅葉が生まれるとき、
悲しみが沈鬱になるとき、
私の男たちは、
無言で、
ピアノのまわりに立ち
そして私に優しく言う、
パトロンヌ、パトロンヌ。

C'est fou comme ils sont heureux,
Mes hommes,
Quand le son du piano noir
Résonne.
Ils vont faire leurs bagages
Et on reprend le voyage.
Faut qu'ils voient du paysage,
Mes hommes.
彼らはほんとになんて幸せそうなのかしら、
私の男たち、
黒いピアノの音が
鳴り響いたときに。
彼らは自分の荷造りをし
私たちはまた旅をする。
彼らは景色を見なきゃ、
私の男たち。
Quand descend la nuit furtive,
Mes hommes.
À pas de loup, ils s'esquivent.
Personne.
Ils vont chasser dans la nuit.
Bergers, gardez vos brebis
Qui ont le goût et l'envie,
Des hommes, des hommes
しめやかな夜の帳が降りるとき、
私の男たちは。
狼の足取りで、彼らはそっと姿を隠す。
誰もいない。
彼らは夜に狩りに出かける。
羊飼いたち、自分の雌羊たちを護りなさい
彼女たちは好みや欲望を持っているのよ、
男たちの、男たちの。
Car, de la blonde à la rousse,
Mes hommes,
Ils vont coucher leur peau douce,
Mes hommes.
Et repartent dans la nuit,
Courtois, mais pas attendris
Quand ils ont croqué le fruit,
La pomme.
だって、金髪から赤毛までいるのよ、
私の男たちは、
彼らはその優しい肌を横たえに出向く、
私の男たちは。
そして夜なかに帰る、
慇懃に、でも心は込めず
果実を、
林檎をかじってから。

Ils reviennent au matin,
Mes hommes,
Avec des fleurs dans les mains,
Mes hommes,
Et restent là, silencieux,
Timides, baissant les yeux
En attendant que je leur
Pardonne.
彼らは朝に戻って来る、
私の男たち、
手に花を携えて、
私の男たちは、
そしてとどまる、黙って、
おずおずと、眼を伏せて
私が彼らを許すのを
待ちながら。
Ils ont installé mon lit,
Mes hommes,
Au calme d'une prairie,
Mes hommes.
Je peux m'endormir à l'ombre. 注7
Ils y creuseront ma tombe
Pour la longue nuit profonde
Des hommes, des hommes.
彼らは私のベッドをしつらえる、
私の男たちは、
祈りの静寂で、
私の男たちは。
私は守られて眠ることができる。
彼らはそこに私の墓を掘る
男たちの、男たちの
深くて長い夜のために。
Pas de pleurs, pas une larme,
Mes hommes,
Je n'ai pas le goût du drame,
Mes hommes,
Continuez, le regard fier.
Je serai là, comme hier,
Vous devant, et moi derrière,
Mes hommes.
嘆きもない、涙もない、
私の男たち、
私は悲劇は好まない、
私の男たち、
続けてちょうだい、不遜なまなざしで。
私はここにいる、昨日のように、
あなた方が前、そして私が後ろよ。
私の男たち。

[注]
1 alonger e pas「大股で歩く、歩幅を広げる」その結果「急ぐ」ことになる。
2 appartenir は動詞だが名詞的な用法。
3 teint clair「透き通るような肌」とも「色白の顔」とも訳せるが、南から来た(色黒の)男たちと対比され、brumes「霧」la nuit「夜」la lune「月」に相応しい後者「色白」を選択。
4 paronneはparon「主人」の女性形で「女主人」の意味だが、原語の読みで「パトロンヌ」とした。
5 性数変化なしのtoutは副詞。de+無冠詞名詞は品質形容詞に相当。tout de ...の意味としては、「…に満ちた」。
6 les premières「最初の」feuilles d'automne「秋の葉」がnaissent「生まれる」ということは、葉自体(新緑)が生まれるのではなく、紅葉が生じる、すなわち「葉が初めて紅葉する「」ということである。
7 à l'ombre (de mes hommes)「(私の男たちに)守られて、その傍らで」
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再度、ジュリエット・グレコJuliette Grécoの曲を。「過去への決別Je n'ai jamais été」です。2009年のアルバム:Je me souviens de toutに収録。作詞:マリー・ニミエMarie Nimier、ティエリィ・イルーズThierry Illouz、作曲:ジェラール・ジュアネストGérard Jouannest。
原題は「私はけっして…ではなかった」という意味で、歌詞ではそのあとdoué(e) pour qc.「…の才能がある」という表現が続きます。つまりは「私はまったく…の才能がありはしはなかった」ということで、それは「過去に経験した事柄、それらを振り返ること、安楽や静寂に生きること」についての才能。そして大切なのは、「あなたとの関係」であり、過ぎ行く現在に身を投じて主体的に生きることだというのです。そう、「実存主義のミューズ」といわれたグレコの本領を発揮するような内容ですが、エディット・ピアフÉdith Piafの「いいえ、私は何も悔やまない(水に流して)Non, je ne regrette rien」とほぼ同じ主旨をもう少しひねった表現にした歌詞だとも言えるでしょう。
…という解釈から、「私は器用じゃない」という既存の邦題をあえて選ばず、「過去への決別」といたしました。
Je n'ai jamais été 過去への決別
Juliette Gréco ジュリエット・グレコ
Je n'ai jamais été
Douée pour le passé
Pour les choses bouclées
Pour les choses achevées
Je suis pour que tout change 注1
Et pour tout renverser
Et je n'ai pas fini
De tout recommencer
私はまるで
不得手だった、過去は
けりのついたことは
終わったことは
すべてが変わったほうがいいし
すべてがひっくり返ったほうがいい
そして私はすべてをやり直し
終えてはいない

Je n'ai jamais été
Douée pour les devoirs 注2
Pour les rétroviseurs
Pour les jeux de miroirs
Je suis pour le moment 注3
Qui file entre mes doigts 注4
C'est le seul finalement
Dont je ne doute pas
私はまるで
不得手だった、義務は
うしろ見は
鏡遊びは
指のあいだからこぼれ去る
時間に私はあい対している
それが結局のところ
私が疑わない唯一のこと
Et ce que tu me donnes
Et ce que tu me dis
Ce que tu me pardonnes
Et le goût de ce fruit
Ce sont tous mes trésors
Et je n'en veux pas d'autres
Si ce n'est de donner
Quelque bonheur aux autres
そしてあなたが私にくれるもの
そしてあなたが私に言うこと
あなたが私に許すこと
そしてこの果実の味
それがすべて私の宝もの
そして他のものは要らないわ
それが他のひとたちになんらかの幸せを
もたらすのでないなら

Je n'ai jamais été
Faite pour le confort
Ou la tranquillité
Je voudrais tout savoir
De ce que l'on ignore
Et tenir dans mon poing
Tout ce qui peut sauver
Le monde du chagrin
私はまるで
不得手だった、安楽は
あるいは静寂は
私はすべて知りたいの
ひとの知らないことを
そして手につかみたいの
悲しみの世界を
救えるものをすべて
Et ce que tu me donnes
Et ce que tu me dis
Ce que tu me pardonnes
Et le goût de ce fruit
Ce sont tous mes trésors
Et je n'en veux pas d'autres
Si ce n'est de donner
Quelque bonheur aux autres
そしてあなたが私にくれるもの
そしてあなたが私に言うこと
あなたが私に許すこと
そしてこの果実の味
それがすべて私の宝もの
そして他のものは要らないわ
それが他のひとたちになんらかの幸せを
もたらすのでないなら

Vous direz "Le passé
A bien de l'importance"
Mais le passé pour moi
Jamais ne passera
Ils sont là, mes amis 注5
あなたは言うでしょう「過去は
とても重要だよ」と
でも過去は私にとって
過ぎ去りはしないわ
ここにいるのよ、私の友人たちは
[注]
1 être pour que...「…ということに賛成である」
2 devoir「義務」は自ら望んでおこなうことではなく、状況や他者から課されたことがら。rétroviseur「バックミラー」はうしろ(過去)を見ること。les jeux de miroirs「鏡遊び」は、直視せず媒介を通して見るといったことか。
3 être pour qc.「…に向けられている」
4 filer entre les doigts 「指の間からするりと逃げる、たちまちなくなる」
5 ilsはmes amisを先取りしている。
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ジャック・ブレルJacques Brelをさらにもう1曲。 「光さすLa lumiere jaillira」です。1958年のアルバム:Au printempsに収録されています。
僕の人生に一筋の光がさすだろう。その光とは…? 最後の行が鍵です。
La lumiere jaillira 光さす
Jacques Brel ジャック・ブレル
La lumière jaillira 注1
Claire et blanche un matin
Brusquement devant moi
Quelque part en chemin
光がさすだろう
明るく白い光が、ある朝
突然に僕の前に
行路のどこかで

La lumière jaillira
Et la reconnaîtrai
Pour l'avoir tant de fois 注2
Chaque jour espérée
光がさすだろう
そして僕はそれと認めるだろう
それを何度も何度も
日ごとに望んだゆえに
La lumière jaillira
Et de la voir si belle
Je connaîtrai pourquoi
J'avais tant besoin d'elle
光がさすだろう
そしてそれをとても美しいと気づき
なぜ僕がそれをとても必要としていたのか
知るだろう
La lumière jaillira
Et nous nous marierons
Pour n'être qu'un combat 注3
Pour n'être qu'une chanson
光がさすだろう
そして僕たちは結婚するだろう
ひとつのいくさとなるだけのために
1曲の歌となるだけのために

La lumière jaillira
Et je l'inviterai
À venir sous mon toit
Pour y tout transformer 注4
光がさすだろう
僕はその光をいざなうだろう
僕の屋根の下に来るようにと
そこですべてを変えるためにと
La lumière jaillira
Et déjà modifié
Lui avouerai du doigt 注5
Les meubles du passé
光がさすだろう
そしてすでに様変わりしたと
その光に僕はさし示し認めるだろう
以前からの調度類を
La lumière jaillira
Et j'aurai un palais
Tout ne change-t-il pas
Au soleil de juillet
光がさすだろう
そして7月の太陽のもとで
変わることのない
楽園を僕は持つだろう

La lumière jaillira
Et toute ma maison 注6
Assise au feu de bois
Apprendra ces chansons
光がさすだろう
そして僕の一家は皆
薪の火の傍らに座し
これらの歌を学ぶだろう
La lumière jaillira
Parsemant mes silences 注7
De sourires de joie
Qui meurent et recommencent
光がさすだろう
僕の沈黙に
消えてはまた生まれる
喜びの微笑みを配して
La lumière jaillira
Qu'éternel voyageur
Mon cœur en vain chercha
Mais qui était en mon cœur
光がさすだろう
永遠の旅人である
僕の心が虚しくも探し求めた光が
だがそれは僕の心のなかにあったのだ

La lumière jaillira
Reculant l'horizon
La lumière jaillira
Et portera ton nom
光がさすだろう
地平を後にして
光がさすだろう
そしてその光は君の名を冠するだろう
[注]
1 jaillir「急に出てくる」という意味の語で、「水が湧き出る」「涙があふれる」「敵が躍り出る」「光がさす」など主語により訳語が変わる。
2 pour+inf. 不定詞が複合形で「原因・理由」を示す。
3 pour+inf. 「目的」を示す形で、「予想される結果・継起」を示す。
4 pour+inf. 「目的」を示す。transformerは他動詞でtoutは直接目的語。
5 lui=à elle(la lumière)。過去分詞modifié「変化した」は、前節の内容「…すべてを変えるために」の結果であり、調度類は古いままでもすべてが様変わりし生き返る訳である。
6 maison 建物としての「家」以外に、「家庭、家族」の意味も。
7 parsemer...de qc.「…に…をちりばめる、配する」
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