
今回はジャン・フェラJean Ferratの「マリアMaria」です。作曲はフェラ自身、作詞:ジャン=クロード・マスリエJean-Claude Massoulier。1967年の同名のアルバムに収録されています。
スペイン市民戦争la guerre d'Espagne (1936-1939)で、マリアの二人の息子のうち一人は左派の人民戦線政府の共和派républicains、もう一人は右派の反乱軍のナショナリスト派nationalistesに分かれて殺し合い、ともに命を失います。
Maria マリア
Jean Ferrat ジャン・フェラ
Maria avait deux enfants
Deux garçons dont elle était fière
Et c'était bien la même chair
Et c'était bien le même sang
マリアには二人の子どもがいた
自慢の二人の息子たちがいた
同じ肌だった
同じ血だった
Ils grandirent sur cette terre
Près de la Méditerrannée
Ils grandirent dans la lumière
Entre l'olive et l'oranger
彼らは成長した
地中海に面したこの地で
彼らは成長した、降り注ぐ光のなかで
オリーブとオレンジのあいだで

C'est presque au jour de leurs vingt ans
Qu'éclata la guerre civile
On vit l'Espagne rouge de sang
Crier dans un monde immobile
それは彼らが二十歳になった頃のこと
市民戦争が勃発したのは
血で赤く染まったスペインが
静止した世界のなかで叫ぶのが聞こえた
Les deux garçons de Maria
N'étaient pas dans le même camp
N'étaient pas du même combat
L'un était rouge, et l'autre blanc 注
マリアの二人の息子たちは
同じ兵営にはいなかった
戦いの同じ側にはいなかった
一人は赤軍、そしてもう一人は白軍
Qui des deux tira le premier
Le jour où les fusils parlèrent
Et lequel des deux s'est tué
Sur le corps tout chaud de son frère ?
二人のうちどっちが最初に引き金を引いたのか
銃声が鳴り響いた日に
そして二人のうちのどっちが
その兄弟の熱い体の上で死んだのか?

On ne sait pas. Tout ce qu'on sait
C'est qu'on les retrouva ensemble
Le blanc et le rouge mêlés
À même les pierres et la cendre
分からない。分かっているのは
彼らがいっしょに見つかったこと
白と赤はまじり
石は灰にもろにまみれ
Si vous lui parlez de la guerre
Si vous lui dites liberté
Elle vous montrera la pierre
Où ses enfants sont enterrés
もしあなたが彼女に戦争のことを話したなら
もしあなたが彼女に自由を語ったなら
彼女は石を指し示すだろう
自分の子どもたちがその下に埋められている石を

Maria avait deux enfants
Deux garçons dont elle était fière
Et c'était bien la même chair
Et c'était bien le même sang
マリアには二人の子どもがいた
自慢の二人の息子たちがいた
同じ肌だった
同じ血だった
[注] 1917年以降のロシア革命期に、革命側を赤軍、反革命側を白軍と呼んだ。ここでは、左派の人民戦線政府の共和派républicainsが赤軍、もう一人は右派の反乱軍のナショナリスト派nationalistesが白軍である。
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今回はパトリシア・カースPatricia Kaasの「何も持たない人々Ceux qui n’ont rien」です。1993年のアルバム:Je te dis vousに収録。作詞:ディディエ・バルブリヴィアンDidier Barbelivien 、作曲: フランソワ・ベルンハイムFrançois Bernheim。
「本来無一物」という六祖慧能禅師の有名な言葉があります。本来は、「執すべき物など何も無い。一切空であり絶対無である」という悟りの境地をあらわしますが、自ら招いた失敗や被った被害などですべてを失った人が自らに言い聞かせる、再出発の力ともなるものです。その言葉を思い起こさせるタイトルのこの曲は、罪を犯し、運に見放されてどん底まで落ち込んだ人たちのために歌わせてほしいという歌詞内容です。「あなたのために歌いたい」という邦題でよく呼ばれています。たしかに、歌詞のなかのLaissez-moi chanter(私に歌わせて)はもっとも印象的なフレーズですが、「あなたのために」とするのはどうかなと。私としてはやはり「何も持たない」ということを重視したく、原題を直訳した邦題にいたしました。
Ceux qui n’ont rien 何も持たない人々
Patricia Kaas パトリシア・カース
Quand t’as laissé de ta jeunesse
Derrière les barreaux d’une prison
Parce que t’avais eu d’la tendresse
Pour une bagnole ou un blouson
刑務所の格子のむこうに
あなたが青春の一部を預けたのは
あなたが車かジャンパーに
ちょっと愛着を持ったから

Quand t’as laissé passer ta chance
Ou qu’elle ne t’a pas reconnue 注1
Tu te retrouves en état d’urgence
Au bureau des objets perdus 注2
あなたがなにがしかのチャンスを逃したとき
あるいはチャンスがあなたに気づかなかったとき
あなたは切羽詰まった状態で
遺失物取扱所に戻って来る
Moi qui connais le gris
Des couleurs de la nuit ...
私はグレイを知っている
夜のいろんな色のなかで…
Laissez-moi chanter
Pour ceux qui n’ont rien
Laissez-moi penser
Qu’y a toujours quelqu’un
Qui cherche à donner
Quelque chose de bien
Qui cherche à couper
Les cartes du destin
私に歌わせて
何も持たない人々のために
私に考えさせて
何かいいものを
あげようとしている誰かが
運命のカードを
切ろうとしている誰かが
いつもいることを
Quand t’as r’gardé passer ta vie
Avec l’impression d’être en faute 注3
Tu t’demandes pas si t’as envie
De vouloir être quelqu’un d’autre
あなたが人生が過ぎ去るのを眺めて
しくじったなと感じたとき
あなたはほかの誰かになりたいという
望みを持っていないかと自問したりはしない
Quand t’as r’gardé toutes ces vitrines
Avec tes mains derrière ton dos
Même si demain t’es James Dean
T’auras l’impression d’être zéro
後ろ手に縛られて
あなたが犠牲者たちみんなに目をやるとき
明日、あなたがジェームス・ディーンになろうとも
あなたはゼロになった気がするだろう

Moi qui connais le bleu
Des matins malheureux ...
不幸な朝の色のなかで
私はブルーを知っている…
Laissez-moi chanter
Pour ceux qui n’ont rien
Laissez-moi penser
Qu’y a toujours quelqu’un
Qui cherche à donner
Quelque chose de bien
Qui cherche à couper
Les cartes du destin ...
私に歌わせて
何も持たない人々のために
私に考えさせて
何かいいものを
あげようとしている誰かが
運命のカードを
切ろうとしている誰かが
いつもいることを…

[注]
1 elle=ta chance
2 bureau des objets perdus「遺失物取扱所」=bureau des objets trouvés「拾得物取扱所」
3 être en faute「過ちに陥っている、落ち度がある」
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ピエール・ペレPierre Perretは1934年生まれのシンガー・ソングライターで、言葉遊びを多用したコミカルでヒューマニスティックな曲を、ギターを弾きながら歌います。
取り上げるのは1977年に作った曲「リリー Lily」です。リリーはアフリカからパリにやってきた黒い肌の移民女性の名前で、人種差別問題、移民問題をテーマとした曲です。同名のアルバムに収録されています。
「アフリカの角Corn de l'Afrique」と呼ばれるアフリカ大陸北東の半島は、主にソマリ人の居住地域です。その地域の紅海側に1896年以来フランスが統治してきた「フランス領ソマリLa Côte française des Somalis (CFS)」があり、1967年にフランス海外県として「フランス領アファル・イッサTerritoire français des Affars et des Issas」と改称され、この曲の生まれた1977年には、「ジブチ共和国La république de Djibouti 」として独立しました。リリーは、ここからやって来たのでしょう。
歌詞中にアメリカ合衆国の活動家アンジェラ・デイビスAngela Davis が出てきますが、ピエール・ペレは、ニューヨークでの彼女の会議に出席した後、この曲のアイデアを思いついたとのことです。彼が曲を書き始めたとき、フランスはまだ経済移民を奨励していましたが、1977年に曲が出版されたとき、フランスはヴァレリー・ギスカール・デスタンValéry Giscard d'Estaingの主導により、家族の再統合を支持して3年間経済移民を止めました。
バルバラも歌いました。
Lily リリー
Pierre Perret ピエール・ペレ
On la trouvait plutôt jolie, Lily
Elle arrivait des Somalis, Lily 注1
Dans un bateau plein d´émigrés
Qui venaient tous de leur plein gré 注2
Vider les poubelles à Paris
彼女はまぁまぁきれいに見えた、リリー
彼女はソマリアから来た、リリー
移民たちでいっぱいの船に乗って
彼らは皆みずから進んで
ごみ箱を空けにパリにやって来た

Elle croyait qu´on était égaux, Lily
Au pays de Voltaire et d´Hugo, Lily 注3
Mais pour Debussy en revanche 注4
Il faut deux noires pour une blanche
Ça fait un sacré distinguo
ひとはみな平等だと彼女は信じていた、リリー
ヴォルテールとユーゴーの国では、リリー
だがそれに反してドビュッシーを弾くには
一つの白い音符は二つの黒い音符分だ
それはいまいましい違いだ
Elle aimait tant la liberté, Lily 注5
Elle rêvait de fraternité, Lily
Un hôtelier rue Secrétan
Lui a précisé en arrivant
Qu´on ne recevait que des Blancs
彼女は自由をとても愛した、リリー
彼女は友愛を夢見ていた、リリー
スクレタン通りのホテルの主が
着くやいなや彼女に明言した
白人しか雇わないと
Elle a déchargé des cageots, Lily
Elle s´est tapé les sales boulots, Lily 注6
Elle crie pour vendre des choux-fleurs
Dans la rue ses frères de couleur
L´accompagnent au marteau-piqueur
彼女は籠をおろした、リリー
彼女は汚い仕事をやった、リリー
カリフラワーを売るため声を張り上げた
通りには有色人種の兄弟が
ピックハンマーを携えて彼女について来た

Et quand on l´appelait Blanche-Neige, Lily 注7
Elle se laissait plus prendre au piège, Lily
Elle trouvait ça très amusant
Même s´il fallait serrer les dents
Ils auraient été trop contents
そしてひとが彼女を白雪姫と呼んだとき、リリー
彼女はもう罠にはまりはしなかった、リリー
彼女はけっこう面白いと思った
たとえ悔しい思いをしなきゃならなくてもね
彼らは十分満足したことだろう
Elle aima un beau blond frisé, Lily
Qui était tout prêt à l´épouser, Lily
Mais la belle-famille lui dit nous 注8
Ne sommes pas racistes pour deux sous 注9
Mais on veut pas de ça chez nous
彼女は金髪の巻き毛の美男子を愛した、リリー
彼は彼女と結婚する用意がすっかりできていた、リリー
だが義理の家族は彼女に言った
自分たちはまったく人種差別主義ではない
けれどうちじゃそれは望まないんだと
Elle a essayé l´Amérique, Lily
Ce grand pays démocratique, Lily
Elle aurait pas cru sans le voir
Que la couleur du désespoir
Là-bas aussi ce fût le noir
彼女はアメリカ行きを試みた、リリー
この民主主義大国を、リリー
彼女は目にするまで信じなかったのだろう
絶望の色は
あちらでも黒だということを
Mais dans un meeting à Memphis, Lily
Elle a vu Angela Davis, Lily 注10
Qui lui dit viens ma petite sœur
En s´unissant on a moins peur
Des loups qui guettent le trappeur
だがメンフィスでの集会で、リリー
彼女はアンジェラ・デイビスに会った、リリー
アンジェラは彼女に言った、おいで小さな妹
団結すればあまり怖くなくなるよ
猟師をうかがってる狼たちも

Et c´est pour conjurer sa peur, Lily
Qu´elle lève aussi un poing rageur, Lily
Au milieu de tous ces gugus 注11
Qui foutent le feu aux autobus
Interdits aux gens de couleur
そして怖さを払いのけるために、リリー
彼女も怒りのこぶしを振り上げた、リリー
有色人種の乗車を禁じた
バスに火をつける
この気違いどものあいだで
Mais dans ton combat quotidien, Lily
Tu connaîtras un type bien, Lily
Et l´enfant qui naîtra un jour
Aura la couleur de l´amour
Contre laquelle on ne peut rien
だが君の毎日の戦いのなかで、リリー
君は一人のいい男と知り合うだろう、リリー
そしてある日生まれる子どもは
愛の色をしているだろう
その色に対しては何もできない
On la trouvait plutôt jolie, Lily
Elle arrivait des Somalis, Lily
Dans un bateau plein d´émigrés
Qui venaient tous de leur plein gré
Vider les poubelles à Paris.
彼女はまぁまぁきれいに見えた、リリー
彼女はソマリアから来た、リリー
移民たちでいっぱいの船に乗って
彼らは皆みずから進んで
ごみ箱を空けにパリにやって来た
[注]
1 Somalisはソマリ人の居住地域を総称しており、ソマリアSomalie(=ソマリア連邦共和国la république fédérale de Somalie)を指すものではないが、分かりやすい名称として「ソマリア」とした。
2 de son (plein) gré 自発的に、進んで
3 Voltaire 「ヴォルテール」(1694-1778)啓蒙主義の哲学者。(Victor-Marie) Hugo「ヴィクトル・ユーゴー」(1802-1885)ロマン主義を代表する詩人・小説家。ともに人権を重んじる思想家。
4 (Claude Achille) Debussy「クロード・ドビュッシー」(1862-1918)19世紀後半から20世紀初頭にかけて最も影響力のある作曲家の一人でピアノ曲も多く作曲した。
5 Liberté, Égalité, Fraternité「自由、平等、友愛」は、フランス共和国の標語。
6 se taper「(つらい仕事を)やる」
7 Blanche-Neige「白雪姫」グリム童話にも収録されているドイツの古い民話で、その主人公は雪のように白い肌をした女の子。黒人の彼女をあえてそう呼んで彼女をあおろうとするが、その罠にはまらず、面白いとさえ思って、serrer les dents (悔しさを)歯を食いしばってこらえ、相手もからかっただけで十分満足するだろう…という文脈。
8 beau, belleは「姻戚のない、義理の」の意味で複合語を作る。belle-famille「義理の家族」と訳したが、まだ婚姻が成立していない状況での表現。
9 pour deux sous「全然…ない」
10 Angela Davis「アンジェラ・デイビス」アメリカ合衆国のアフリカ系の活動家、著作家、学者。
11 gugu(s)は辞書にはなく、文脈から類推し「気違いども」とした。
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この曲は、結婚して子供が生まれ、生活に追い回されているうちにいつしか時が過ぎ、気が付いたらもう若くない自分がいた、という歌詞内容。映画のストーリーのなかでは、このまま人生を終えずに冒険の旅に出るということにつながるのでしょう。4人の息子を持つ私、子供が小さいあいだは、育児・家事に追われ家計のやりくりもたいへんで、早く大きくなってほしい楽になりたい、などと思っていましたが、みんな髭面になってお父さんになり、夫が亡くなり…、ほんと「知らぬ間に時が過ぎ去る」ことを実感します。最近、幼くてかわいい彼らが夢に出てきたりして、ユーミンもどきに「あの日に帰りたい」と思ったりもします。でもね、こんな風にシャンソンを楽しんだりして、映画の老婦人同様、70代の日々あらたな生を結構満喫していま~す

On ne voit pas le temps passer 知らぬ間に時は過ぎ去る
Jean Ferrat ジャン・フェラ
On se marie tôt à vingt ans
Et l'on n'attend pas des années
Pour faire trois ou quatre enfants
Qui vous occupent vos journées
Entre les courses la vaisselle
Entre ménage et déjeuner
Le monde peut battre de l'aile
On n'a pas le temps d'y penser
二十歳で早くも結婚し
何年も待たずに
3、4人の子供を持ち
彼らはあんたの日々を占領する
買い物、洗い物のあいだで
家事と食事のあいだで
世界は翼をはばたかせて飛べるのに
そんなこと考える暇もない

{Refrain:}
Faut-il pleurer, faut-il en rire
Fait-elle envie ou bien pitié
Je n'ai pas le cœur à le dire
On ne voit pas le temps passer
泣くべきなのか、笑うべきなのか
彼女は妬みを呼ぶのか、哀れみを呼ぶのか
どう言えばいいのか僕には思いつかない
知らぬ間に時は過ぎ去る
Une odeur de café qui fume
Et voilà tout son univers
Les enfants jouent, le mari fume
Les jours s'écoulent à l'envers
A peine voit-on ses enfants naître
Qu'il faut déjà les embrasser
Et l'on n'étend plus aux fenêtres
Qu'une jeunesse à repasser
湯気を立てるコーヒ-の香り
それが彼女の世界のすべて
子供たちは遊んでいて、夫は煙草をくゆらせている
日付を遡れば
子供たちの誕生を見るやいなや
彼らを抱かなきゃならず
戻って来る青春に
もう窓越しに手を差し伸べることはない

{Refrain}
Elle n'a vu dans les dimanches
Qu'un costume frais repassé
Quelques fleurs ou bien quelques branches
Décorant la salle à manger
Quand toute une vie se résume
En millions de pas dérisoires 注
Prise comme marteau et enclume
Entre une table et une armoire
彼女は、毎日曜日
シャンとアイロンがけした服1着しか目にしない
食堂を飾る
いくばくかの花やいくばくかの小枝
一生の幕切れ時には
取るに足りない何百万歩のうちに
テーブルと洋服箪笥のあいだに
板挟みになって囚われている
{Refrain}
[注] この行からあとを解説すると、Entre une table et une armoireテーブルと洋服箪笥のあいだを(行ったり来たりする)dérisoires「取るに足りない」millions de pas 「何百万歩」のうちに、(彼女は)marteau「金槌」とenclume「金床」のように「板挟み状態で」prise「囚われている」。
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