
2013年に、「ギャンゲットのシャンソンLes Chansons des guinguettes」というタイトルでJacques Ferchit et Jacky DelanceがアレンジしたCDがリリースされました。新曲4曲を含む、ワルツ、ジャヴァ、ボレロ、ルンバ、タンゴなどの21曲が収録されています。そのうちの1曲、La guinguette a fermé ses voletsを取り上げましょう。1934年にダミアDamiaが歌った、「ギャンゲットのシャンソン」の代表たるワルツミュゼットです。作詞:ジョルジュ・ツワンジェルGeorges Zwingel。作曲:レオン・モンターニュLéon Montagne。
ギャンゲットguinguetteとはいったい何でしょうか?ウィキペディアの記事をかいつまんで引用してみましょう。
「ギャンゲットは、休日や夏の夜に飲食をし、音楽を演奏し、客がダンスを踊れる店で、19世紀中ごろにはモンマルトルやベルヴィル、メニルモンタンなどの庶民的なパリ市郊外地区に多くの店があったが、1860年のパリ市改造計画によりこれらの郊外がパリ市内に組み込まれると、新たな市境の外へと場所を移し発展した。1920年代に隆盛を極めたのち1960年代には衰退し、1980年代に復活したが、現在パリ近郊で恒常的な営業を行う店は2軒だけで、いくつかの店は休日や夏場だけなどの営業を行っている。」(→元の記事)
「真夜中の居酒屋」という邦題で日本語でも歌われます。ギャンゲットは日本には無いのでぴったり該当する訳語が無く、店の外でも飲める大衆的な店ということで「居酒屋」とされたのでしょう。よく知られた邦題ですが、私としてはギャンゲットを居酒屋にしたくないので、原題の直訳「ギャンゲットは鎧戸を閉めた」を邦題にいたします。鎧戸を閉めたギャンゲットで事件が起こったというお話です。
ジョルジェット・プラーナGeorgette Plana
La guinguette a fermé ses volets ギャンゲットは鎧戸を閉めた
Damia ダミア
La guinguette a fermé ses volets
Les joyeux triolets
De l'accordéon fusent
On voit comme sur un écran
Des profils inquiétants
Dont les ombres s'amusent.
On dit que pourtant un costaud,
Qui frisa l'échafaud
Pour des vendus qui rusent,
Vient d'entrer rageur.
En vengeur,
Oui, mais
La guinguette a fermé ses volets
ギャンゲットは鎧戸を閉めた
アコーデオンの楽しい
3連音が湧き上がる
まるで映画で見るように
人々の不安げな横顔が見える
その影は遊び興じているものの。
なんでも ある無頼漢が
策を弄した裏切り者たちのせいで
すんでに死刑になるところだったが、
そいつが怒り狂ってやって来たそうな。
仕返しにね、
そうさ、だけど
ギャンゲットは鎧戸を閉めたよ

Le rythme des pas incertains
Soudain,
Serait-ce l'heure ?
Et dans l'accordéon plaintif,
Craintif, un son demeure
Des jurons de voix mâles
Et des râles,
La chute de corps lourds
Hargneux des coups sourds.
おぼつかない足音がして
突然、
いよいよその時か?
呻くような不安げなアコーデオン
一音が残響する
男の罵り声
そして喘ぎ、
重い体が床に倒れる
襲いかかる無言の殴打。
La guinguette a fermé ses volets
Le même son inquiet
De l'accordéon glace.
On voit, comme sur un écran,
Des couples haletants
Dont les ombres grimacent,
On devine, aux chocs, la fureur
Des costauds en sueur
Qui roulent et qui s'enlacent,
On voudrait bien voir
Et savoir
Oui, mais ...
La guinguette a fermé ses volets
ギャンゲットは鎧戸を閉めた
アコーデオンの不安げな音も
凍りつく。
まるで映画で見るように、
息の荒い二人組が見え
その影は形を変える、
窺えるは、
転がり取っ組み合う、
汗だくの無頼漢たちの
激突、激怒
見たいよ、
知りたいよ
そうさ、だけど
ギャンゲットは鎧戸を閉めちゃったよ

Le calme revient brusquement.
Vraiment,
Etait-ce un leurre ?
Pourquoi ces sanglots convulsifs,
Furtifs ?
des femmes pleurent.
Là-bas, un groupe traîne
Vers la Seine
Quelque paquet maudit !
Qui sombre en la nuit
突然、静けさが戻った。
本当に、
これってワナだったのかい?
引きつったようなひそかな
すすり泣きはどうして?
女たちが泣いている。
ほらあっち、一団のやからが
セーヌ河の方へ
怪しげな袋を引きずって行くよ!
その姿は宵闇に沈む
La guinguette a rouvert ses volets.
Les joyeux triolets
De l'accordéon fusent
Les lampions éclairent, discrets,
Les couples guillerets
En leurs ombres confuses.
On dit que ce soir, le costaud,
Qui frisa l'échafaud
Pour les vendus qui rusent,
Est sorti très gai.
Est-ce vrai ?
Oui, mais...
La guinguette avait mis ses volets
ギャンゲットは鎧戸を再び開けた。
アコーデオンの楽しげな
3連音が湧き上がる
紙ちょうちんが照らし出す、さりげなく
熱いカップルを
入り乱れた影たちのなかで。
なんでも 今夜、
策を弄した裏切り者たちのため
すんでに死刑になるところだった無頼漢は、
たいそう上機嫌で帰って行ったそうな。
本当かい?
そうさ、だけど…
ギャンゲットは鎧戸を下ろしていたんだよ
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ミッシェル・デルペッシュMichel Delpechの「バスケットシューズの娘La fille avec des baskets」1976年、デルペッシュが30歳の年にシングルリリース。作詞:デルペッシュとジャン=ミッシェル・リヴァJean-Michel Rivat、作曲:アラン・ウィスニアックAlain Wisniak、編曲:ミッシェル・ベルナルクMichel Bernholc。
この曲は、ジェーン・バーキンJane Birkinの「ジョニー・ジェーンのバラードLa ballade de Johnny Jane」と同じくバスケットシューズを履いた娘が主人公で、同じ1976年の曲。どっちが先か…。
パトリック・ブリュエルPatrick Bruelがカヴァーしています。
La fille avec des baskets バスケットシューズの娘
Michel Delpech ミッシェル・デルペッシュ
Elle a toujours les cheveux raides
Un pull et les baskets
Elle vient prendre un peu de tendresse
Quand ça peut lui faire plaisir.
Je n'aurais pas l'idée de la retenir
Elle a un esprit que j'adore
Un côté un peu mec
Elle part toute seule en auto-stop
Je me dis que je ne la reverrai jamais
Mais elle m'appelle au secours
Quinze jours après.
彼女はいつも乱れた髪で
セーターを着てバスケットシューズを履いている
彼女はちょっと優しいそぶりをみせる
そうするのが彼女にとってうれしいときには。
僕は彼女を引きとめるなんて思いもしないさ
彼女は僕の好きな性格を持っている
ちょっと男っぽい側面を
彼女は単身ヒッチハイクで出かける
僕はもう彼女に会うことはけっしてないと思う
だが彼女は僕に救いを求める
2週間後に。

Elle est toute entière, elle suit son instinct
Elle peut demain se jeter dans un lac
Pour se retrouver dans un hold-up 注1
Mais s'il fallait la tirer n'importe où
Je crois bien que je serai au rendez-vous. 注2
彼女はまったく自分の本能に従う
彼女は明日、湖に飛び込んで
お手上げの状態になるかもしれない
だがどこであろうと彼女を救い出さねばならなかったら
僕はきっとっそこに駆けつけるだろう。
Y a des matins où je pense à elle
Je réfléchis dans mon lit
Je finis toujours par me dire
Que même si elle est cinglée
C'est la fille la mieux que j'ai rencontrée.
何日も朝になると彼女のことを考える
ベッドのなかで思いをめぐらせ
いつも最後には思う
たとえ頭がおかしいとしても
彼女は出会ったなかで一番ステキな娘だと

Elle est toute entière, elle suit son instinct
Elle peut demain se jeter dans un lac
Pour se retrouver dans un hold-up
Mais s'il fallait la tirer n'importe où
Je crois bien que je serai au rendez-vous.(×2)
彼女はまったく自分の本能に従う
彼女は明日、湖に飛び込んで
お手上げの状態になるかもしれない
だがどこであろうと彼女を救い出さねばならなかったら
僕はきっとそこに駆けつけるだろう。
S'il fallait un jour la tirer n'importe où
Je crois bien que je serai là, que je serai là au
rendez-vous.(×3)
どこであろうといつか彼女を救い出さねばならなかったら
僕はきっと駆けつけるだろう、駆けつけるだろう
そこに。
[注]
1 hold-up(英)「(武器を持った)手を挙げること」で、主に手を挙げさせる「強盗」を意味するが、さらには(強盗や警官に)降参して手を挙げること。さらには「降参すること」「追い詰められてお手上げの状態」をも言う。
2 rendez-vous「会う約束」以外に「予約客」「会合(約束)の場所」をも言う。
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「愛のはじまりLe premier pas」は、作曲家、音楽プロデューサー、俳優、歌手という肩書きを持つクロード=ミシェル・シェーンベルクClaude-Michel Schönbergが1974年に作詞・作曲し、100万枚以上のヒットとなった曲です。
シェーンベルクは音楽プロデューサー兼歌手としてデビューし、フランス初のロック・オペラ「フランス革命La Révolution française」の曲の大半を1973年に作曲し、自身がその舞台でルイ16世の役を演じました。その翌年に「愛のはじまりLe premier pas」を発表したあと、自作自演のアルバムを1枚製作しましたが、1978年からはミュージカルに専念し、ヴィクトル・ユーゴーVictor-Marie Hugoの「レ・ミゼラブルLes Misérables」などをプロデュースしています。
le premier pasは「最初の一歩」の意味で、彼女のほうから一歩踏み出して欲しいという内気な男の気持ちをあらわす歌詞内容です。女性は受身だと思われがちですが、本当は主導権を持っているのかも。それは大胆な表現ではなく、ここに書かれているように、faire signe tout bas「そっとサインを出す」という形で。そして、男の方が「最初の一歩」を踏み出すことになります。
Le premier pas 愛のはじまり
Claude-Michel Schönberg クロード=ミシェル・シェーンベルク
Le premier pas,
J'aim'rais qu'elle fasse le premier pas.
Je sais que cela ne se fait pas.
Pourtant j'aim'rais
Que ce soit elle qui vienne à moi,
Car, voyez vous, je n'ose pas 注1
Rechercher la manière
De la voir, de lui plaire,
L'approcher, lui parler,
Et ne pas la brusquer,
Lui dire des mots d'amour
Sans savoir en retour 注2
Si elle m'aimera
Ou refusera ce premier pas.
最初の一歩、
僕は彼女が最初の一歩を踏み出してくれるよう望む。
それは実現しないことだと分かっている。
だが僕は望む
僕のもとに来るのが彼女であることを、
なぜなら、分かるだろう、僕は
彼女を見たり、彼女を喜ばせたり手立てを求めたり、
彼女に近づいたり、彼女に話しかけたりする勇気がないんだ
彼女に粗野に接しないようにしたり、
愛の言葉をささやいたりもできないから
お返しに
彼女が僕を愛してくれるのか
最初の一歩を踏み出すことを拒むのかどうか分からない

Le premier pas,
J'aim'rais qu'elle fasse le premier pas.
On peut s'attendre longtemps comme ça.
On peut rester
Des années à se contempler
Et vivre chacun de son coté.
Je la rencontrerais
Au bas de l'escalier,
Puis, comme tous les jours,
Elle me dira: "Bonjour".
Seulement cette fois,
Elle me prendra le bras,
Me conduira dans sa maison
Ou nous ferons
最初の一歩、
僕は彼女が最初の一歩を踏み出してくれるよう望む。
僕たちはこんな風に長い間お互いを待つことができる。
僕たちは何年も
見つめ合ったままでいて
それぞれが自分の側で生きることができる。
僕は彼女に出会うだろう
階段の下で、
そして、いつものように、
彼女は僕に「こんにちは」と言うだろう。
今回だけは、
彼女は僕の腕を取り、
家に導くだろう
そこで僕たちは

Le premier pas d'amour,
Dans son lit, jour après jour.
Elle me dévoilera son corps,
Me donnera tous les remords
De n'avoir pas dit plus tot le premier mot.
Le premier mot,
J'aim'rais qu'elle dise le premier mot.
La nuit j'en rêve et c'est idiot.
Si elle voulait
Seulement me faire signe tout bas,
Alors je ferais je crois
Le premier pas.
恋の最初の一歩を踏み出すだろう、
彼女のベッドで、毎日毎日。
彼女は僕にその身体を露わにし、
僕に悔やむ気持ちをすべて打ち明けるだろう
最初の一言をもっと早く言わなかったことを。
最初の一言を、
僕は彼女が最初の一言を言ってくれるよう望む。
夜になると僕はそんなことを夢見るがおろかなことだ。
もし彼女がただそっと僕にサインを示したいと
望めば、
僕は踏み出すだろうきっと
最初の一歩を。
[注]
1 je n'ose pasにrechercher, l'approcher, lui parler, ne pas la brusquer, lui direがすべてつながる。ne pas la brusquerは否定形になっているが、「彼女を乱暴に扱わない」以前の話だから。
2 sans+inf.は結果を示す。

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「花を贈るEnvoi de fleurs」という、古い美しい曲を以前取り上げましたが、今回は同じくポール・デルメPaul Delmetが作曲した「愛の星L'étoile d'amour」という、これまた古い美しい曲をご紹介いたします。1899年。作詞:シャルル・ファロCharles Fallot。19世紀に作られたシャンソンとしては、1868年の「桜んぼの実る頃Le temps des cerises」、1892年の「辻馬車Un fiacre」、1896年の「花を贈るEnvoi de fleurs」、1897年の「ジュ・トゥ・ヴーJe te veux」などが挙げられますが、この曲はそれらの次に古いわけで、同様にシャンソンの古典で、多くの歌手が歌っていますが、歌詞の甘さにふさわしく、「魅惑の歌手Chanteur de charme」の代表であるティノ・ロッシTino Rossiの曲といたしましょう。
アンドレ・クラヴォーAndré Claveauも「魅惑の歌手Chanteur de charme」とよばれます。
「聞かせてよ愛の言葉をParlez-moi d'amour」のリュシエンヌ・ボワイエLucienne Boyerにもこの曲は合っていますね。
そのほかに、リナ・マルジィLina Margyを挙げておきましょう。
L'étoile d'amour 愛の星
Tino Rossi ティノ・ロッシ
Un poète, ayant fait un voyage de rêve
M'a dit qu'il existait, dans le ciel radieux
Une étoile où jamais ne sonne l'heure brève
L'heure brève où les cœurs se brisent en adieux
ある詩人が、夢で旅をして
僕に言った、輝く空のなかに
短い時の終わりがけっして来ない星があるんだと
二つの心が別離に引き裂かれる短い時の終わりが

{Refrain}
Une étoile d'amour
Une étoile d'ivresse
Les amants, les maîtresses
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile 注1
Où l'on aime toujours.
愛の星
陶酔の星
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。
On y entend, le soir, échanger sous les arbres
De fous baisers, troublant le calme de la nuit
Auprès de l'eau, glissant sur la fraîcheur des marbres
Les femmes font goûter leurs lèvres comme un fruit
そこでは、夜になると、木々のもとで
狂おしい口づけが、夜のしじまを乱しながら、交わされるのが聴こえる
水辺では、大理石の冷たさの上を滑りながら
女たちがその唇を果実のように味わわせる
{Refrain}
Et l'on parle d'amour
On parle de caresses
Les amants, les maîtresses,
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile
Où l'on aime toujours.
そして人々は愛を語り
抱擁を語る
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。

Là, jamais de soucis, jamais de cœurs moroses
Les femmes, pour charmer, ont pris l'âme des fleurs
Elles n'ont qu'un chagrin, c'est voir mourir les roses
Jamais leur clair regard ne se voile de pleurs
そこでは、心配事はまったく無く、暗い気持ちもまったく無く
女たちは、魅了せんと、花の心根をそなえる
彼女たちの悲しみはひとつだけ、それはバラが死ぬのを見ることで
彼女たちの澄んだ瞳が涙で覆われることはけっして無い
{Refrain}
On chante les amours
Les plaisirs, les tendresses
Les amants, les maîtresses
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile
Où l'on aime toujours.
人々は恋を
喜びを、優しさを歌う
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。
Dis-moi, petite aimée, envolons-nous vers elle
Et nous nous aimerons pendant l'éternité
La chimère aux doux yeux nous prêtera son aile 注2
Vois, là-haut dans le ciel, vois sa pâle clarté.
ねぇ、かわいい人、その星に行こうよ
そして永遠に愛し合おう
優しい目をしたキマイラは僕たちにその翼を貸してくれる
ごらん、空の高みに、そのほのかな光をごらん。

{Refrain}
C'est l'étoile d'amour
C'est l'étoile d'ivresse
Les amants, les maîtresses
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile
Où l'on aime toujours.
それは愛の星
それは陶酔の星
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。
[注] 色を変えた部分はどの歌手も歌っていない。
1 il était前節では同じ意味でil existaitを用いている。il est=il y a
2 chimère「キマイラ」は、ライオンの頭、ヤギの胴、ヘビの尾を持ち口から火を吐くというギリシャ神話の怪獣で、「妄想、空想」の代名詞とされる。ここでは「空想」に翼を付けて具体化している。

「花を贈るEnvoi de fleurs」という、古い美しい曲を以前取り上げましたが、今回は同じくポール・デルメPaul Delmetが作曲した「愛の星L'étoile d'amour」という、これまた古い美しい曲をご紹介いたします。1899年。作詞:シャルル・ファロCharles Fallot。19世紀に作られたシャンソンとしては、1868年の「桜んぼの実る頃Le temps des cerises」、1892年の「辻馬車Un fiacre」、1896年の「花を贈るEnvoi de fleurs」、1897年の「ジュ・トゥ・ヴーJe te veux」などが挙げられますが、この曲はそれらの次に古いわけで、同様にシャンソンの古典で、多くの歌手が歌っていますが、歌詞の甘さにふさわしく、「魅惑の歌手Chanteur de charme」の代表であるティノ・ロッシTino Rossiの曲といたしましょう。
アンドレ・クラヴォーAndré Claveauも「魅惑の歌手Chanteur de charme」とよばれます。
「聞かせてよ愛の言葉をParlez-moi d'amour」のリュシエンヌ・ボワイエLucienne Boyerにもこの曲は合っていますね。
そのほかに、リナ・マルジィLina Margyを挙げておきましょう。
L'étoile d'amour 愛の星
Tino Rossi ティノ・ロッシ
Un poète, ayant fait un voyage de rêve
M'a dit qu'il existait, dans le ciel radieux
Une étoile où jamais ne sonne l'heure brève
L'heure brève où les cœurs se brisent en adieux
ある詩人が、夢で旅をして
僕に言った、輝く空のなかに
短い時の終わりがけっして来ない星があるんだと
二つの心が別離に引き裂かれる短い時の終わりが

{Refrain}
Une étoile d'amour
Une étoile d'ivresse
Les amants, les maîtresses
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile 注1
Où l'on aime toujours.
愛の星
陶酔の星
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。
On y entend, le soir, échanger sous les arbres
De fous baisers, troublant le calme de la nuit
Auprès de l'eau, glissant sur la fraîcheur des marbres
Les femmes font goûter leurs lèvres comme un fruit
そこでは、夜になると、木々のもとで
狂おしい口づけが、夜のしじまを乱しながら、交わされるのが聴こえる
水辺では、大理石の冷たさの上を滑りながら
女たちがその唇を果実のように味わわせる
{Refrain}
Et l'on parle d'amour
On parle de caresses
Les amants, les maîtresses,
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile
Où l'on aime toujours.
そして人々は愛を語り
抱擁を語る
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。

Là, jamais de soucis, jamais de cœurs moroses
Les femmes, pour charmer, ont pris l'âme des fleurs
Elles n'ont qu'un chagrin, c'est voir mourir les roses
Jamais leur clair regard ne se voile de pleurs
そこでは、心配事はまったく無く、暗い気持ちもまったく無く
女たちは、魅了せんと、花の心根をそなえる
彼女たちの悲しみはひとつだけ、それはバラが死ぬのを見ることで
彼女たちの澄んだ瞳が涙で覆われることはけっして無い
{Refrain}
On chante les amours
Les plaisirs, les tendresses
Les amants, les maîtresses
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile
Où l'on aime toujours.
人々は恋を
喜びを、優しさを歌う
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。
Dis-moi, petite aimée, envolons-nous vers elle
Et nous nous aimerons pendant l'éternité
La chimère aux doux yeux nous prêtera son aile 注2
Vois, là-haut dans le ciel, vois sa pâle clarté.
ねぇ、かわいい人、その星に行こうよ
そして永遠に愛し合おう
優しい目をしたキマイラは僕たちにその翼を貸してくれる
ごらん、空の高みに、そのほのかな光をごらん。

{Refrain}
C'est l'étoile d'amour
C'est l'étoile d'ivresse
Les amants, les maîtresses
Aiment la nuit et le jour
Un poète m'a dit qu'il était une étoile
Où l'on aime toujours.
それは愛の星
それは陶酔の星
恋する男たち、ご婦人たちは
夜も昼も愛する
詩人は言った、そんな星があるんだと
人々がずっと愛する星が。
[注] 色を変えた部分はどの歌手も歌っていない。
1 il était前節では同じ意味でil existaitを用いている。il est=il y a
2 chimère「キマイラ」は、ライオンの頭、ヤギの胴、ヘビの尾を持ち口から火を吐くというギリシャ神話の怪獣で、「妄想、空想」の代名詞とされる。ここでは「空想」に翼を付けて具体化している。
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