8月24日から予定されていた伊豆高原のペンション「林間劇場」でのドミニク・シャニョンによる「シャンソン サマーセミナー」は、台風20号の影響が心配されるため、延期することになり、29・30日に1泊2日でおこなうことになりました。グループレッスンはおこないません。


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シルヴィ・ヴァルタンSylvie Vartanの「シニェ・サガンSigné Sagan」は、小説家のフランソワーズ・サガンFrançoise Saganに捧げられた曲。作詞・作曲:ディディエ・バルブリヴイアンDidier Barbelivien。2009年のアルバム:Toutes Peines Confonduesに収録されています。
サガンは多くの小説を書き、べストセラーとなった何冊かは映画化されました。先に取り上げた、「悲しみよこんにちはBonjour tristesse」や「ブラームスはお好きQuand tu dors près de moi」は、サガンの小説を元にした映画の主題曲でした。また、サガンが作詞し、グレコが歌っている「愛すことなくSans vous aimer」も取り上げていますので、ご覧ください。彼女は脚本家としても活動し、ロジェ・バディムRoger Vadim監督の「スエーデンの城Château en Suède」(1962年)など、戯曲や映画の脚本も書いています。私生活面では、アルコールや薬物に溺れ、過度の浪費癖やギャンブル癖のため、数百億円も稼いだのに晩年には生活が困窮しました。バイセクシャルであったことも知られています。2004年、心臓疾患のため69歳で亡くなりました。
サガンは私が学生の頃によく読んでいた作家のうちのひとりです。京大北門前の進々堂で彼と「すばらしい雲Les merveilleux nuages」の原書を勉強したことを思い出します。半世紀も昔のこと…。
Signé Sagan シニェ・サガン
Sylvie Vartan シルヴィ・ヴァルタン
Un geste, un frisson de septembre 注1
Cette voix que je crois entendre
Comme un murmure désenchanté
Du Mozart en accéléré 注2
あるしぐさ、ある9月のおののき
聴こえた気がするこの声
落胆のつぶやきのような
アッチェレランドのモーツアルトの曲
Les épaules penchées sur un livre 注3
La prison des gens vraiment libres
Combien de nuits à ses romans
Mieux qu'une amie, mieux qu'un amant
本の上に傾けられた肩
本当に自由な人たちが囚われるところ
彼女の小説にどれだけの夜が
女友達以上の人、恋人以上の人

"Un certain sourire" peut-être
L'envie d'être ou ne pas être
Quelques mots écrits sur le vent
Mais d'une plume signée Sagan
『ある微笑』はたぶん
そうありたい、もしくはそうありたくないという欲求
風に乗って書かれた幾つかの言葉
だがペンでサガンとサインされている
Un verre de whisky, pour quoi faire ?
Sous le soleil des tapis verts
Cette façon de tenir ses gants
Cette élégance, éperdument
一杯のウィスキー、何のため?
太陽の下の緑の絨毯
その手袋の持ち方
この優美さ、まったく
Dans la fumée des cigarettes
Brûle la vie des marionnettes
Cette impatience au bout du temps
La politesse des insolents
タバコの煙のなかで
操り人形の命が燃える
時を経た後のいらだち
横柄な人たちの丁重さ
"Aimez-vous Brahms ?" nous dit-elle 注4
Et cette musique infidèle
Quelques phrases écrites en passant
Mais d'une plume signée Sagan
『ブラームスはお好き?』と彼女は私たちに言う
そしてこの浮ついた音楽
ついでに書かれた幾つかのフレーズ
だがペンでサガンとサインされている

Vivre sa vie à toute allure
Une gifle à la littérature
Des prix comme des bons points d'enfant
Souliers d'or et soucis d'argent
あらゆる流儀で自分の人生を生きること
文学へのしっぺ返し
子どもの良い点数のような賞
金の靴あるいは銀の靴
Où vont "Les merveilleux nuages" 注5
Au bout du compte, au bout de l'âge
Mourir n'est pas si important
L'hiver n'arrête pas le printemps
『すばらしい雲』はどこに行ったの
結局のところ、人生の終わりに
死ぬということはさほど重大じゃない
冬は春を阻みはしない
Et "De guerre lasse", on s'apprête 注6
A quitter les bruits de la fête
Ecrire le mot fin, simplement
Mais d'une plume signée Sagan
D'une plume signée Sagan
そして『夏に抱かれて』では、
祭りの喧騒を去ろうとしている
ただ、最後の言葉を書くこと
だがペンでサガンとサインされている
ペンでサガンとサインされている
[注]
1 サガンが9月に亡くなったことを言うのか。
2 du Mozart 作品を示す場合は部分冠詞が用いられる。「ある微笑Un certain sourire」(1956年)に、「孤独な下宿先でモーツアルトの音楽に耳を傾ける。」という表現がある。
3 「ある微笑Un certain sourire」に「私たちは同じ頁の上にかがみこみ、頬と頬をくっつけ間もなく唇と唇を合わした。」という表現がある。だがこの節は、サガンの小説を読みふける人々のことを言っている。
4「ブラームスはお好きUn certain sourire」(1985年)の映画の邦題は「さよならをもう一度」。
5「すばらしい雲Les merveilleux nuages」1961年
6「夏に抱かれてDe guerre lasse」1985年。原題は「戦いに疲れて」が本義だが、成句として「仕方なく、やむなく」の意味で用いられる。
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ジュロ・ボーカルヌJulos Beaucarneの「バラの記憶De mémoire de rose」です。1974年のアルバム:Chandeleur septante cinqに収録されています。ボーカルヌは「私は弱かったJ'étais fragile」を先に取り上げています。
“de mémoire de rose”というフレーズは、フランスの著述家ベルナール・フォントネルBernard le Bouyer de Fontenelleの、多宇宙論の啓蒙書「世界の複数性についての対話Entretiens sur la pluralité des mondes」(1686年)の第5夜→Wikisource [132]にあります。
これは、フォントネルが、ある侯爵夫人に天文学などについて語り合うという筋立ての科学啓蒙書で、自分たちの惑星や太陽が宇宙から見るとほんのひとかけらでしかなく、天空は不変ではなく、太陽が消えたり、また新たな星が生まれたりすることもあることを、分かりやすいたとえを用いて説明します。ここでは、個々の人間を1日しか咲かないバラに、宇宙を庭師に例え、私たちが宇宙を永遠で不変のものと見ている視点を説明しています。逆に言うと、長い宇宙の歴史から見ると人の一生はほんの一瞬だということです。後年のドゥニ・ディドロDenis Diderotの「ダランベールの夢Le rêve d’Alembert」(1769年)にも同様のフレーズが見られます。
けれど、ボーカルヌはマダムにそして失恋した娘に何を言いたいのでしょう。現在の自分の視点が絶対的なものではないのだからそれから自由になれということでしょうか。あるいは、一瞬一瞬が永遠だと…。いえ、皆さんそれぞれでお考えください。
De mémoire de rose バラの記憶
Julos Beaucarne ジュロ・ボーカルヌ
{Refrain:}
De mémoire de rose
On n'a vu mourir un jardinier
Si rien qu'une pause 注1
Ne peut vous suffire
Madame, laissez
Le temps s'étirer
Et sans le maudire, patientez,
Laissez-vous glisser dans le vent léger
Patience, patientez.
バラの記憶には
庭師が死んだことなど映りはしなかった
ひと時の休止にすぎないものは
あなたを苦しませることはできないのだから
マダム、そのまま
時が続いていくままになさい
そして呪ったりしないで、じっと待つんだ、
そよ風に身を委ね
辛抱だ、じっと待つんだ。

Si l'amour s'envole
Ne t'en prends qu'à toi 注2
Tu as fui l'école
Pour le lit d'un roi
Si sa voile blanche
N'est plus que brouillard
Te pends pas à la branche
Dès qu'il fera noir
Te pends pas à la branche
Dès qu'il fera noir, car
もしも恋が消え去ったら
自分だけを責めるんじゃない
君は学校を逃げ出して
王様のベッドに向かった
もしも王様の白いヴェールが
霧にすぎなくとも
日が暮れるやいなや
枝に身を吊るすんじゃない
日が暮れるやいなや
枝に身を吊るすんじゃない、なぜなら
{au Refrain}
De mémoire de rose...
バラの記憶には…
Garde tout au fond,
Tout au fond de toi
Un vide, un endroit
Derrière les fêtes
Où poser la tête
Dans le vent du soir
Bercer ces vieux rêves
Même s'il fait noir
Bercer ces vieux rêves
Même s'il fait noir, car
保つんだ奥底に、
君の奥底に
一つの空間を、一つの場所を
お祭り騒ぎの背後に
そこで頭を休めるんだ
夕べの風のなかで
その古い夢どもをなだめるんだ
日が暮れても
その古い夢どもをなだめるんだ
日が暮れても、なぜなら

{au Refrain}
De mémoire de rose...
バラの記憶には…
[注]
1 si「…だから」
2 s'en prendre à「…を非難する、責める」
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8月7日(火)の夕方、アミカル・ド・シャンソンおよび東京日仏文化サロンの共同主宰者である宇藤カザンの?歳の誕生日を祝うライブを伊豆高原「林間劇場」にておこないます。ドミニク・シャニョンさんがスペッシャルゲストとしてベースを弾き歌います。ピアノは上里知巳さん。予約不要でチケット2000円。ライブのあとはイタリアン・ディナー4000円。こちらは0557-55-7132か080-6490-0218にお電話かkazanuto@gmail.comまでメールにご予約ください。
その前日の6日の午後は同じ「林間劇場」で上里知巳さんのピアノで《ヴォーカルサロン》(歌会&ジャズセッション)をおこないます。予約不要です。
「林間劇場」はペンションなので泊まれます。

その前日の6日の午後は同じ「林間劇場」で上里知巳さんのピアノで《ヴォーカルサロン》(歌会&ジャズセッション)をおこないます。予約不要です。
「林間劇場」はペンションなので泊まれます。

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今回は、フランシス・ルマルクFrancis Lemarqueの「マルジョレーヌMarjolaine」です。1957年に、先にご紹介した「パリの唄L’air de Paris」といっしょに収録されました。その5年前の1952年に作った「兵隊が戦争に行くときQuand un soldat」http://chantefable2.blog.fc2.com/blog-entry-332.html は、戦争に行く兵隊のことを歌った曲でしたが、こちらは戦争から帰ってきた兵隊を歌っています。ドイツ語の「リリー・マルレーンLily Marlene」(1939年)と似た雰囲気の曲です。こちらは戦争に行っているあいだ恋人を思う内容です。
Marjolaineとはフランスの一般的な女性名ですが、17~18 世紀から存在する古いマーチ「ディジョン街道でSur la route de Dijon」に、兵隊たちが出会った女性の名前として出てきますので、ルマルクはそれを意識して用いたのかもしれません。あるいは(Lily) Marleneを置き換えたのかも。
Marjolaineはハーブのマジョラムのことでもあり、お菓子の名前にも用いられています。そう、NHKの朝の連続ドラマ「まれ」に登場した「マルジョレーヌMarjolaine」です。これ、すなわち「ガトー・マルジョレーヌGâteau Marjolaine」はもともと、フランスのRhône-Alpes地方圏のIsère県のヴィエンヌVienneの町にある「レストラン・ドゥ・ラ・ピラミッドRestaurant de la Pyamide」で作られていたデザート菓子。
ダリダDalidaも歌っています。聴くと歌いたくなりますね。
Marjolaine マルジョレーヌ
Francis Lemarque フランシス・ルマルク
Un inconnu et sa guitare
Dans une rue pleine de brouillard
Chantait, chantait une chanson
Que répétaient deux autres compagnons
見知らぬ人がギターを抱え
霧の立ち込めた通りで
歌っていた、歌を歌っていた
二人の連れが繰り返していた
Marjolaine, toi si jolie
Marjolaine, le printemps fleurit
Marjolaine, j'étais soldat
Mais aujourd'hui
Je reviens près de toi
マルジョレーヌ、君はとてもきれいだ
マルジョレーヌ、春爛漫だ
マルジョレーヌ、僕は兵隊だ
だが今日
僕は君のもとに帰る

Tu m'avais dit: "Je t'attendrai"
Je t'avais dit: "Je reviendrai"
J'étais parti encore enfant
Suis revenu un homme maintenant
君は僕に言った「あなたを待つわ」と
僕は君に言った「僕は帰って来るよ」と
まだ子どものまま僕は出発した
今はひとりの男として戻って来た
Marjolaine, toi si jolie
Marjolaine, je n'ai pas menti
Marjolaine, j'étais soldat
Mais aujourd'hui
Je reviens près de toi
マルジョレーヌ、君はとてもきれいだ
マルジョレーヌ、僕は嘘をつかなかった
マルジョレーヌ、僕は兵隊だった
だが今日
僕は君のもとに帰る
J'étais parti pour dix années
Mais dix années ont tout changé
Rien n'est pareil et dans ta rue
A part le ciel, je n'ai rien reconnu
僕は10年のあいだ不在だった
だが10年の月日はすべてを変えた
なにも元のままじゃないし君の通りじゃ
空のほかは、なにも見覚えがない

Marjolaine, toi si jolie
Marjolaine, le printemps s'enfuit
Marjolaine, je sais trop bien
Qu'amour perdu
Plus jamais ne revient
マルジョレーヌ、君はとてもきれいだ
マルジョレーヌ、春は去った
マルジョレーヌ、僕にはよく分かる
恋は失われ
もうけっして戻っては来ないと
Un inconnu et sa guitare
Ont disparu dans le brouillard
Et avec lui ses compagnons
Sont repartis, emportant leur chanson
見知らぬ人がギターを抱え
霧のなかに消えた
そして彼とともに連れたちも
戻って行った、歌をたずさえながら
Marjolaine, toi si jolie
Marjolaine, le printemps fleurit
Marjolaine, j'étais soldat
マルジョレーヌ、君はとてもきれいだ
マルジョレーヌ、春爛漫だ
マルジョレーヌ、僕は兵隊だった
[注] 1人称で語られる部分と、3人称で語られる部分とがある。1人称の部分は歌っていた歌の歌詞だろう。
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