
ミッシェル・ベルジェMichel Bergerの「白い天国Le paradis blanc」は1990年のアルバム:Ça ne tient pas deboutに収録されている曲。
鯨(正確にはシャチ)の鳴き声で始まります。Le paradis blanc(白い天国)とは、白い大陸すなわち南極大陸のことのようで、汚れた文明社会を離れて清らかな別天地に向かうのです。それは「新生」なのですがparadis(天国)というからには、「死」という概念も重なっていて、その2年後1992年のベルジェの突然の死を予告していたように感じられます。
フランス・ギャルFrance Gall
ヴェロニク・サンソンVéronique Samson
Le paradis blanc 白い天国
Michel Berger ミッシェル・ベルジェ
Il y a tant de vagues et de fumée
Qu'on arrive plus à distinguer
Le blanc du noir
Et l'énergie du désespoir
Le téléphone pourra sonner
Il n'y aura plus d'abonné 注1
Et plus d'idée
Que le silence pour respirer
Recommencer là où le monde a commencé 注2
たくさんの波と煙が立ち
もう見分けがつかないほどだ
暗闇の白
そして絶望のエネルギー
電話が鳴るかもしれないが
電話を取る人はいないだろう
そして一息つくための静寂が
世界が始まったところでまた始まるという
ことしかもう考えられないだろう

Je m'en irai dormir dans le paradis blanc
Où les nuits sont si longues qu'on en oublie le temps
Tout seul avec le vent
Comme dans mes rêves d'enfant
Je m'en irai courir dans le paradis blanc
Loin des regards de haine
Et des combats de sang
Retrouver les baleines
Parler aux poissons d'argent
Comme, comme, comme avant 注3
僕は白い天国に眠りに行く
そこでは夜は時を忘れるほど長い
風とともにたった一人で
子どもの頃に夢に見たように
僕は白い天国に走りに行く
憎悪の視線からも
そして血肉の争いからも遠く離れて
鯨たちにまた会い
銀色の魚たちに話しかけに
まるで、まるで、まるで以前のように
Y a tant de vagues, et tant d'idées
Qu'on arrive plus à décider
Le faux du vrai
Et qui aimer ou condamner
Le jour où j'aurai tout donné
Que mes claviers seront usés
D'avoir osé
Toujours vouloir tout essayer
Et recommencer là où le monde a commencé
たくさんの波、そしてたくさんの考えが起こり
もう決められない
真実の虚偽を
そして愛してくれるあるいは非難する人
僕がすべてを捧げ終える日
僕のピアノが使いつぶされる日
すべてをやってみようと
あえて常に望んだせいで
世界が始まったその場所でまたやり始めよう

Je m'en irai dormir dans le paradis blanc
Où les manchots s'amusent dès le soleil levant
Et jouent en nous montrant
Ce que c'est d'être vivant
Je m'en irai dormir dans le paradis blanc
Où l'air reste si pur
Qu'on se baigne dedans
A jouer avec le vent
Comme dans mes rêves d'enfant
Comme, comme, comme avant
Parler aux poissons d'argent
Et jouer avec le vent
Comme dans mes rêves d'enfant
Comme avant
僕は白い天国に眠りに行く
そこではペンギンたちが日の出とともに遊びまわり
僕たちにいのちに溢れたものを
見せつつ戯れる
僕は白い天国に眠りに行く
そこでは空気はいまだ澄み渡り
僕たちはそこのなかにひたる
風と戯れつ
子どもの頃に夢に見たように
まるで、まるで、まるで以前のように
銀色の魚たちに話しかける
まるで、まるで、まるで以前のように
そして風と戯れる
子どもの頃に夢に見たように
まるで以前のように
まるで以前のように

[注]
1 abonné「電話の加入者、ガス電気などの使用者など定期契約の顧客」。ミッシェル・ジョナスMichel Jonaszの「君を待っているJe voulais te dire que je t'attends」にも出てきた言葉。
2 où le monde a commencé「世界が始まったところ」という表現は、南極大陸の長い歴史を物語っている。カンブリア紀(約5億4200万年前~約4億8830万年前)、南極大陸は超大陸ゴンドワナの一部であった。現在の西南極に相当する地域は北半球に位置し,東南極に相当する地域は赤道上にあった。1億8000万年前頃からゴンドワナは徐々に分裂し、南極大陸の現在の形は約2500万年前に形成された。2億6000万年以上前の木の化石が発見されているが、南極に氷がなかった最後の時代は紀元前4000年頃とされる。また、グーグルアースで古代遺跡かと思われる最大直径170mほどの造形が発見されて話題になっている(下の画像)。
3 comme avantというフレーズは、バルバラBarbaraの「黒いワシL'aigle noir」のなかで繰り返されていた。ミッシェル・ベルジェはそれを意識しているように思える。

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サルヴァトーレ・アダモSalvatore Adamo自作の「夜のメロディーLa nuit」は、「夜」を、つれない恋人のように人格化していますが、もっと具体的なイメージは夜空に浮かぶ月が担っているように私には思えます。ともに女性名詞ですし、おのずと重なり合う語彙なのでしょう。 歌詞に「僕は気が狂う」という表現が繰り返されますが、西洋では月が人間を狂気に引き込むと考えられ、lunatique(英語:lunatic)とは気が狂っていることを表します。
私がこの曲に重ねてしまうのは平安末期の歌人、佐藤義清こと西行のこと、彼は「月」の語の入った歌を数多く詠んでいます。その「月」とは、彼の出家の原因とされる平安版マドンナ、待賢門院璋子(藤原璋子)のことだといわれます。でも、アダモにはまったく無縁の話ですし、この歌詞に描かれている「君」はなんだか、「不思議の国のアリス」に登場するチェシャ猫のようにも思えます。
1965年に「ろくでなしLe mauvais garçon」といっしょに収録されてリリースされました。原題はLa nuitで単に「夜」ですが、「夜のメロディー」という邦題で呼ばれます。
日本語でも歌っています。この歌詞では君は「暗闇」です。
La nuit 夜
Salvatore Adamo サルヴァトーレ・アダモ
Si je t'oublie pendant le jour
Je passe mes nuits à te maudire
Et quand la lune se retire
J'ai l'âme vide et le cœur lourd
昼のあいだは君を忘れているとしても
夜毎君を呪って過ごす
そして月が消えるころ
僕の魂はうつろで心は重い重い
La nuit tu m'apparais immense
Je tend les bras pour te saisir
Mais tu prends un malin plaisir
A te jouer de mes avances
夜よ、君は僕に巨大な姿を現す
僕は君をつかもうと両腕を伸ばす
だが君は僕の接近を手玉に取って
たちの悪い楽しみ方をする

La nuit
Je deviens fou
Je deviens fou
夜よ
僕は狂う
僕は狂う
Et puis ton rire fend le noir
Et je ne sais plus où chercher
Quand tout se tait revient l'espoir
Et je me reprends à t'aimer
それから君の笑いは闇を切り裂き
僕はもうどこを探せばいいのか分からない
すべてが静まると希望が戻り
僕はまた君を愛しはじめる

Tantôt tu me reviens fugace
Et tu m'appelles pour me narguer
Mais chaque fois mon sang se glace
Ton rire vient tout effacer
つかの間僕のところに戻って来るやいなや
鼻先で嘲笑おうと僕を呼ぶ
だがその都度僕の血は凍りつき
君の笑いがすべてを消し去る
La nuit
Je deviens fou
Je deviens fou
夜よ
僕は狂う
僕は狂う
Le jour dissipe ton image
Et tu repars, je ne sais où
Vers celui qui te tient en cage
Celui qui va me rendre fou
昼のあいだ君の面影は消え
君は去る、どこだか知らないが
君を囲うやつのところへ
そいつは僕を狂わせるんだ

La nuit
Je deviens fou
Je deviens fou fou fou
夜よ
僕は狂う
僕は狂う 狂う 狂う
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7月13日(金)に《東京パリ祭》をヤマハ銀座スタジオにて開催いたします。マティネ(午後)、ソワレ(夜)の2部制です。
《東京シャンソン・コンクール》のグランプリ・準グランプリ、プルミエプリ、歌唱賞、《大阪ヴォーカル・コンクール》のグランプリ、そして、その他のコンクールの入賞者がずらっと出演します。またマティネでは、ドミニク・シャニャンがベースを弾くだけでなく数曲歌います。聴き応えのあるコンサートになるでしょう。当日券もありますので是非ご来場ください。お問合せ・チケットのご予約の電話番号・アドレスは下記画像下部にあります。

《東京シャンソン・コンクール》のグランプリ・準グランプリ、プルミエプリ、歌唱賞、《大阪ヴォーカル・コンクール》のグランプリ、そして、その他のコンクールの入賞者がずらっと出演します。またマティネでは、ドミニク・シャニャンがベースを弾くだけでなく数曲歌います。聴き応えのあるコンサートになるでしょう。当日券もありますので是非ご来場ください。お問合せ・チケットのご予約の電話番号・アドレスは下記画像下部にあります。

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今回はクロード・ヌガロClaude Nougaro の「僕の上で踊れDansez sur moi 」、ヌガロの代表作「トゥールーズToulouse」と同じアルバム、1967 年の「オー・トゥールーズÔ Toulouse」に収録されています。
先日の歌会で仲間が歌いました。女性だったので、「私の上で踊って」なんてちょっとエロティックなタイトルだと感じてしまいましたが、訳してみると、ミシェル・ポルナレフMichel Polnareffの「ラーズ家の舞踏会Le bal des Laze」とちょっと近い恨み節で、恋人とその相手に、「僕を踏みつけて踊れ」と言っている訳でした。
すみません。大事なことが抜けていました。この曲の原曲はジャズのGirl Talk:映画「ハーロウHarlow」の主題歌です。1930年代のアイドル女優ジーン・ハーロウJean Harlowの生涯を描いた映画で、歌詞は、女性の日常的なおしゃべりがテーマ。1965年。作詞:ボビー・トゥループBobby Troup、作曲:ニール・ヘフティNeal Hefti) Bridget Maynes。
ボビー・トゥループの奥さんのジュリー・ロンドンが歌っています。動画の上方のタイトルをクリックしてYouTubeでご覧ください。
オスカー・ピーターソンOscar Petersonの演奏でも知られています。
ヌガロはまったく違う歌にしました。
Dansez sur moi 僕の上で踊れ
Claude Nougaro クロード・ヌガロ
Dansez sur moi dansez sur moi
Le soir de vos fiançailles
Dansez dessus mes vers luisants
Comme un parquet de Versailles
Embrassez-vous, enlacez-vous
Ma voix vous montre la voie
La voie lactée, la voie clarté
Où les pas ne pèsent pas
Dansez sur moi
Dansez sur moi
Dansez sur moi
僕の上で踊れ 僕の上で踊れ
君たちの婚約の夕べに
僕の輝かしい詩のもとで踊れ
ヴェルサイユの寄せ木細工の床のように
抱き合え、絡み合え
僕の声は君たちに道を示す
ミルキー・ウェイを、光の道を
そこでは、足取りは重さを持たない
僕の上で踊れ
僕の上で踊れ
僕の上で踊れ

Dansez sur moi dansez sur moi
Qui tourne comme un astre
Etrennez-vous, étreignez-vous 注1
Pour que vos cœurs s'encastrent
Tel un tapis, tapis volant
Je me tapis sous vos pieds
C'est pour vous tous que sur mes doigts
La nuit je compte mes pieds
Dansez sur moi
Dansez sur moi
Dansez sur moi
僕の上で踊れ 僕の上で踊れ
天体のように回転する僕の上で
デヴューしろ、抱きしめ合え
君たちの心が融けあうように
絨毯のように、空飛ぶ絨毯のように
僕は君たちの足の下に身を潜める
すべて君たちのためだ
僕が指折って夜に自分の足を数えるのは
僕の上で踊れ
僕の上で踊れ
僕の上で踊れ

Dansez sur moi dansez sur moi
Le soir de mes funérailles
Que la vie soit feu d'artifice 注2
Et la mort un feu de paille
Un chant de cygne s'est éteint
Mais un autre a cassé l'œuf
Sous un saphir en vrai saphir
Miroite mon sillon neuf
Dansez sur moi
Dansez sur moi
Dansez sur moi
僕の上で踊れ 僕の上で踊れ
僕の葬いの夕べに
生は花火のようであれ
そして死はつかの間の炎であれ
白鳥の歌は消えた
だが別の男が卵をつぶした
碧天のもと、まぎれもない碧みのなか
僕のあらたな皺が光る
僕の上で踊れ
僕の上で踊れ
僕の上で踊れ
[注]
1 etrennerは「初めて使う、下ろす」の意味だが意訳した。s'étreigner「抱きしめ合う」と語呂を合わせている。
2 feu d'artifice「花火」は「華やかなもの、きらびやかなもの」の例えにも用いられる。次行のfeu de pailleは直訳すると「藁の炎」だが「つかの間の輝き(情熱)」の意味に用いられる。
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以前、「バテ・ヴーBattez-vous」をご紹介したブリジットBrigitteというデュオが作詞・作曲し歌っている「パラディウムPalladium」(2017年)は、失恋した友だちを慰める内容の曲で、ジュリアン・クレールJulien Clercの「何でもないさCe n'est rien」の女性版といったところ。また失恋して友だちのところに戻っていく立場の曲としては、アニー・フィリップAnnie Philippe「友だち、仲間(若草の恋)Mes amis, mes copains」がありましたね。
タイトルのPalladium「パラディウム」はもともとは、ギリシア神話やローマ神話において、都市の安全を守るとされた非常に古い像のこと。原子番号46の元素名ともされています。元素記号は Pdで、白金族元素の1つで貴金属にも分類されます。昨今はフランスの靴のブランド名にもなっていて、ネットで画像検索すると靴がいっぱい出てきます。でもこの曲ではディスコの名前のようで、パリにはBus Palladiumというディスコがあります。
Palladium パラディウム
Brigitte ブリジット
T'es belle même quand tu pleures
T'as l'spleen élégant le blues enchanteur
Il devait être aveugle et sourd
Pour être allé faire un tour
あなたは泣いていてもきれいよ
あなたにはエレガントな憂鬱さと魅力的なブルースがある
彼は目も見えず耳も聞こえなかったに違いない
そっぽ向いて行っちゃうなんて
C'est pas la peine de faire semblant
Je sais qu'on n'est pas des géants
Viens on pleure on piss'ra moins 注1
見栄を張ることないわ
私たちは超人じゃない
ほら泣いたらおしっこが減るよ
{Refrain :}
Comme toujours ça passera
Ça va ça vient ça s'en va
Dans deux ans on en rira toi et moi
Viens j't'emmène au Palladium
On boira du rock'n'roll 注2
Sur des vieux hits à la gomme 注3
いつだって過ぎていくことなのよ
行きつ戻りつして行ってしまうわ
2年も経ちゃあなたと私は笑える話よ
さぁパラディウムに連れてったげる
ダサい懐メロに乗って
ロックンロールを呑むのよ

Si c'est la mer à boire 注4
Le grand fiasco
Le Chaos et son cafard
Je t'en ferai des calembours
Et des comptines pour l'histoire 注5
それが海を飲むみたいに難しくても
大失敗を
混沌と憂鬱を
私はあなたのために冗談に
作り話のはやし歌にしちゃうわ
Tomber de Charybde en Scylla 注6
Si tu chiales
Je coule avec toi
Viens on danse
Ça s'verra moins 注7
一難去ってまた一難で
あなたが泣いたなら
私はあなたといっしょに涙を漏らすわ
踊りに行きましょう
あまり気にならなくなるわ
{Refrain}
Flamme éternelle 注8
Pluie violette
Un gros taxi jaune à Vancouver
Des Amoureux solitaires
L'oiseau noir
La ritournelle
Un hôtel bleu face amour, face amère
エテルネル・フラム
パープル・レイン
黄色い大きいタクシー ヴァンクーヴァー
孤独な恋人たち
ブラックバード
繰り言
ブルー・ホテル 愛の顔、苦い顔

S'il faut j'lui casse la gueule 注9
J'lui règle son compte 注10
Il finira tout seul
Ça n'servirait peut-être à rien
Et ça nous f'rait p't'êt' du bien
C'est pas la peine d'être exemplaire 注11
Je sais qu'on s'ra pas les dernières 注12
Viens on chante on l'aim'ra moins
必要なら私、彼をやっつけるわ
懲らしめるわ
彼は勝手に果てる
それはたぶんなんにもならないけど
私たちにはたぶんいいことよ
立派である必要はないわ
私たちは最悪じゃないわよ
さあ歌ったら彼への気持ちも薄れるわ
{Refrain}

[注] 成句的な言い回しが多くて結構難しいがとりあえず見切り発車。
1 on pleure on pissera moins「泣いたらおしっこが減る」小便になるはずの水分が涙になる。ということで、泣いている子どもを軽くいなす表現。
2 rock'n'roll「ロックンロール」をon the rocks「オン・ザ・ロックにひっかけてboire「呑む」というのか?結局は酒を飲みながら踊るということだろう。boireを「享受する」という意味合いで用いているというご意見もいただいたが、先述の駄洒落的な解釈を残したい。
3 à la gomme「つまらない」
4 Ce n'est pas la mer à boire「大して難しいことではない」という慣用句を肯定形にしているので、逆に困難なことを言う。
5 comptine子どもの遊びで鬼などを決める時に歌う「はやし歌」
6 Charybde「カリュブディス」はイタリアのメッシナ海峡の怪物でそれを避けた船が別の岩礁の怪物Scylla「スキュラ」の餌食になるという伝説から。tomber de Charybde en Scyllaは「一難去ってまた一難、泣き面に蜂」といった意味。
7 se voirは受動態的な意味で「見られる、認められる、目立つ」。Ça se verra moins「あまり目立たなくなるだろう」
8 この節は、この曲をレパートリーとしているデュオ:Com'Ci Com 'Çaのメンバーに指摘していただき。曲名の羅列であることが判明した。
Flamme éternelle=Eternal Flame(The Bangles)
Pluie violette=Purple Rain (Prince)
Un gros taxi Jaune=Big Yellow Taxi (Joni Michell)
Vancouver(Véronique Sanson)
Amoureux solitaires(Lio)
L’oiseau noir=Blackbird(The Beatles)
La ritournelle(Sébastien Tellier)
Un hôtel bleu=Blue Hôtel(Chris Isack)
Face amour face amère(Daniel Balavoine)
9 casser la gueule「やっつける」
10 règle son compte「懲らしめる」
11 Ce n‘est pas la peine de inf.「…するには及ばない」
12 dernièr(e) は名詞として、順位的に「最後の人(物)」あるいは質的に「最下等の人(物)」の意味。
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