
フランス・ギャルFrance Gallが7日に亡くなりました。彼女は私と同い年。幸運な出来事以上に不運な出来事の多かった70年の人生だったようです。
彼女の訃報を聞いてしばらくは何も発信できないでいましたが、今日、この曲を出しましょう、「アルビノーニのアダージョJ'entends cette musique」。独仏伊共作の映画「審判The Trial」(1962年。監督:オーソン・ウエルズOrson Welles。原作:フランツ・カフカFranz Kafka。主演:アンソニー・パーキンズAnthony Perkins)の主題曲です。クラシックの「アルビノーニのアダージョAdagio di Albinoni」すなわち「アダージョ ト短調Adagio in Sol minore」をアレンジしてジャック・ダタンJacques Datinが作曲し、作詞は父親のロベール・ギャルRobert Gall。1964年のアルバム: N'écoute pas les idolesに収録されています。
ちなみに原曲は、レモ・ジャゾットRemo GiazottoがアルビノーニTomaso Albinoniの自筆譜の断片を編曲したと称して出版したので「アルビノーニのアダージョ」と呼ばれていますが、今日では完全なジャゾットの創作であることが判明しています。ギャルの曲の原題は「私はこの音楽を聞く」という意味ですが、この邦題も「アルビノーニのアダージョ」といたしましょう。
J'entends cette musique アルビノーニのアダージョ
France Gall フランス・ギャル
J'entends cette musique
Cette douce musique
Qui me répète toujours
Il arrivera le jour
Le jour où je l'aimerai 注
À la saison de mes amours
私はこの音楽を聞く
この快い音楽を
それはいつも言っている
私がその人を愛する日が
その日が来るだろうと
私の恋の季節に

J'entends cette musique
Cette douce musique
Qui accompagne sans fin
Mon grand amour en chemin
Pour me prendre par le cœur
Et m'emporter vers le bonheur
私はこの音楽を聞く
この快い音楽を
それは私の大いなる恋に道ながら
いつまでも付いてきて
私の心をとらえ
私を幸福に導いてくれることでしょう
Il viendra le temps des baisers
Le temps de nous aimer
Et tous les mots et les secrets
Que je gardais pour toi
Au plus profond de moi
Je te les donnerai
口づけの時が
愛し合う時がやってきて
あなたのためにと
胸深く秘めていた
すべての言葉も秘密も
あなたに捧げることでしょう

J'entends cette musique
Cette douce musique
Qui me répète toujours
Il arrivera le jour
Le jour où je l'aimerai
À la saison de mes amours
À la saison de mes amours
私はこの音楽を聞く
この快い音楽を
それは私にいつも言っている
私がその人を愛する日が
その日が来るだろうと
私の恋の季節に
私の恋の季節に
[注] Il arrivera以下はcette musiqueがrépèter繰り返し言った内容で、l'aimeraiのleはまだ会わない恋人。3節目では、その人が現実にいると想像してtu「あなた」と言っている。
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今回はサルヴァトーレ・アダモSalvatore Adamoの「ひとつぶの涙Une larme aux nuages」です。1968年のアルバム:J'ai tant de rêves dans mes bagagesに収録されています。もう半世紀も前、この邦題で日本でもヒットしましたので、懐かしく思われる方も多いでしょう。
原題のUne larme aux nuagesは、歌詞のなかでは、Accroche une larme aux nuagesすなわち「ひとつぶの涙を雲にかけるんだ」と君に指示する言葉になっています。涙形の宝石のついたネックレスをイメージすると分かりやすいでしょうが、それを雲にぶら下げて、風に運ばせる…。
なんとなくカントリー調だし、ボブ・ディランBob Dylanの「風に吹かれてBlowing In The Wind」(1963年)にも似ている気がします。歌詞に「風」が出てきますし、ちょっと意識して作ったのかもしれませんね。なお、「風に吹かれて」のフランス語版は、2曲ご紹介しています。ユーグ・オーフレイHugues Aufrayの「風に吹かれてDans le souffle du vent」とリシャール・アントニーRichard Anthonyの「風に吹かれてEcoute dans le vent」です。
Une larme aux nuages ひとつぶの涙
Salvatore Adamo サルヴァトーレ・アダモ
Accroche une larme aux nuages
Et laisse le vent l'emporter
Bergère tu n'es pas très sage
Et le vent me l'a raconté
一粒の涙を雲にかけるんだ
そして風に運ばせるんだよ
羊飼いの娘、君はあまり利口じゃない
風が僕にそう話してくれた

Accroche une larme aux nuages
Je la cueillerai au réveil
Je la ferai couler sur ton visage
Et la pluie sera mon soleil
一粒の涙を雲にかけるんだ
僕は目覚めたときにその涙を摘むよ
僕はその涙を君の顔に流すよ
すると雨が僕の太陽になる
Le vent n'ose plus me parler de toi
Il ne connaît que des refrains sans joies
Il s'est blotti dans le creux de ma main
Pour se cacher en attendant demain
風はもう君のことを話そうとしない
風は楽しくない歌しか知らない
風は僕の手のひらのなかに入り込む
明日を待ちながら身を潜めるために

Accroche une larme aux nuages
Pour que le vent se mette à danser
Je lui donnerai comme gage
De courir te couvrir de mes baisers
一粒の涙を雲にかけるんだ
風が踊り始めるために
僕は風に証しとして示すよ
急いで君を接吻で覆って
Accroche une larme aux nuages
Et au désert la rose fleurira
Et même si ce n'est qu'un mirage
Elle est si belle que j'y crois déjà
一粒の涙を雲にかけるんだ
すると砂漠にバラが咲くだろう
そしてそれが幻に過ぎなくても
そのバラは信じていたように美しい

Accroche une larme aux nuages
Et laisse le vent l'emporter
Bergère tu n'es pas très sage
Et le vent me l'a raconté ...
Et le vent me l'a raconté ...
Et le vent me l'a raconté ...
一粒の涙を雲にかけるんだ
そして風に運ばせるんだよ
羊飼いの娘、君はあまり利口じゃない
風が僕にそう話してくれた…
風が僕にそう話してくれた…
風が僕にそう話してくれた…
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バルバラBarbaraは1973年にパリの東30kmのプレシー=シュル=マルヌPrécy-sur-Marneに居を構え、庭いじりも楽しんでいました。「プレシーの庭Précy Jardin」はその庭のことを歌った曲で、1981年のアルバム:seuleに収録されています。
Précy Jardin プレシーの庭
Barbara バルバラ
Précy,
Oh, jardin de Précy,
Précy,
Oh, que j'aime tes soirs de mélancolie,
Mélancolie.
Jardin
A ciel ouvert, 注1
Jardin,
Est-ce déjà le paradis ?
プレシー、
おお、プレシーの庭、
プレシー、
おお、あなたの憂鬱な夕べが大好きよ
憂鬱。
庭って
露天の、
庭って、
もう天国じゃない?

Précy,
Oh, que j'aime t'attendre, le soir, à Précy, 注2
Silence.
Juste le clocher qui sonne minuit,
Les oiseaux de soie qui se glissent
Près des pivoines endormies
Et les glycines qui frémissent.
Jardin,
Oh, jardin de Précy,
Oh, ma merveille,
Oh, mon pays,
Suis-je déjà en paradis ?
プレシー
おお、あなたを待つことがどんなに好きか、夕べに、プレシーで
静寂を。
ちょうど鐘の音が真夜中を告げる時、
眠っている牡丹のかたわらに
忍び込む絹のような鳥たち
そしてそよめく藤。
庭、
おお、プレシーの庭、
おお、私の驚異、
おお、私の国、
私はもう天国にいるの?

Précy,
Bien sûr, un jour, je m'en irai d'ici
Plus loin,
Là-bas, vers un autre pays 注3
Mais, si je peux vouloir quelque chose,
Oh, j'aimerais savoir que fleurissent mes roses
A ciel ouvert
Pour ceux qui s'aiment,
A ciel ouvert,
Que tu deviennes,
プレシー、
もちろん、いつか、私はここから出て行く
もっと遠くへ、
向こうに、別の国へ
でも、もし私が何か望めるのなら、
おお、私のバラたちが咲いているのを知りたいわ
露天で、
愛し合う者たちのために、
露天で、
あなたになってもらいたいわ、

Un square,
Un square,
Joli,
Tout petit, petit,
Un square,
Qui deviendrait le paradis
Pour tous les enfants
De Précy.
Oh, mon cher jardin,
Précy,
Oh, ma merveille,
Mon Précy jardin...
公園に、
すてきな、
とっても小さな、小さな
公園に、
それは天国になるわ
プレシーの
すべての子どもたちのための。
おお、私の愛する庭、
プレシー、
おお、私の驚異、
私のプレシーの庭…
[注]
1 à ciel ouvert「露天で」
2 jardin「庭」に「あなた」と呼びかける歌詞だが、t'attendreのteは、次行のsilence「静寂」。
3 「あの世」へ行くことを想定しているようにもとれる。

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今回は、ジェーン・バーキンJane Birkin「それなのにEt quand bien même」(作詞・作曲:セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourg)。1990年にシングル盤とアルバムAmours des feintesに収録されました。2002年のアルバム:アラベスクArabesqueにも入っています。
タイトルのquand (bien) mêmeは、「そうした状況や条件に関わらず」といった意味で、歌詞では「あなたは私を愛すでしょう」といった表現が続きます。1980年にジェーンはゲンズブールと別れましたが、その後も、この曲の1年後の1991年にゲンズブールが亡くなるまで仕事上の協力関係は続いていました。歌詞は二人の関係と重なるようです。
一種の雰囲気効果がねらいでしょうか、ロートレアモン伯爵の「マルドロールの歌」が出てきます。エドガー・アラン・ポーEdgar Allan Poeの作品のキーワードも出てきます。また、脚韻がMaldororの語尾のor、そしてmeの2種類だけだということ、mの音が多いということも、この曲の独特のエロティシズムを支えているようです。「ラ・ジャヴァネーズLa Javanaise」の記事にもそんなことを書きましたね。ゲンズブールの言葉遊びは結構深いです。
長い間奏の入ったライヴ版
Et quand bien même それなのに
Jane Birkin ジェーン・バーキン
Et quand bien même
Tu m'aimerais encore
J'me passerai aussi bien de ton désaccord
C'est l' mêm' dilemne
Entre l'âme et le corps
Comme un arrièr' goût de never more 注1
Lautréamont les chants d' Maldoror 注2
Tu n'aimes pas moi j'adore
それでもやはり
あなたはまだ私を愛すでしょう
私はあなたの不一致なところも受け入れる
それは魂と体の関係と
同じジレンマよ
「二度とない」という言葉の後味のように
ロートレアモンのマルドロールの歌
あなたは好きじゃないけど私は大好き

Et quand bien même
Tu m' pass' rais sur le corps 注3
Je ne me sens plus de faire aucun effort
C'est l' théorème
De tous les anticorps
Un problèm' de rejet ou d'accord
Lautréamont les chants d' Maldoror
Tu n'aimes pas moi j'adore
それでもやはり
あなたは私を踏み台にするでしょう
私は何らかの努力をしている気がもうしない
それは定理よ
あらゆる抗体のね
拒絶か同意かの問題よ
ロートレアモンのマルドロールの歌
あなたは好きじゃないけど私は大好き
Et quand bien même
Je me lève aux aurores
Et je fais les cents pas dans le corridor
Les chrysanthèmes
Sont des fleurs pour les corps
Refroidis ça t' va bien quand tu dors
Lautréamont les chants d' Maldoror
Tu n'aimes pas moi j'adore
それでもやはり
私は夜明けに起きる
そして廊下を百歩歩く
菊は
冷たくなった体のための花で
あなたが眠っているとき、あなたに似合うわ
ロートレアモンのマルドロールの歌
あなたは好きじゃないけど私は大好き

Et quand bien même
Tout se voile dehors 注4
Je me guiderai sur l'étoile du Nord 注5
Rompre les chaînes
Sans souci de son sort
S'éloigner des regrets et remords
Lautréamont les chants d' Maldoror
Tu n'aimes pas moi j'adore
それでもやはり
満帆を掲げ出発よ
私は北極星に導かれて進むわ
鎖を断ち切り
運命を気にせず
後悔や悔恨から遠ざかるのよ
ロートレアモンのマルドロールの歌
あなたは好きじゃないけど私は大好き
Et quand bien même
Tu m'aimerais encore
J'me passerai aussi bien de ton désaccord
C'est l' mêm' dilemne
Entre l'âme et le corps
Comme un arrièr' goût de never more
Lautréamont les chants d' Maldoror
Tu n'aimes pas moi j'adore
それでもやはり
あなたはまだ私を愛すでしょう
私はあなたの不一致なところも受け入れる
それは魂と体の関係と
同じジレンマよ
「二度とない」という言葉の後味のように
ロートレアモンのマルドロールの歌
あなたは好きじゃないけど私は大好き
Lautréamont les chants d' Maldoror
Tu n'aimes pas moi j'adore (×3....)
ロートレアモンのマルドロールの歌
あなたは好きじゃないけど私は大好き
[注]
1 arrière-goût「後味、事後の思い」。Nevermore「二度とない」は、エドガー・アラン・ポーEdgar Allan Poeの物語詩「The Raven(大鴉)」のなかで大鴉が主人公に繰り返し語る言葉。主人公は、死んだ恋人を忘れたい欲求と忘れたくない欲求との狭間の葛藤のなかでこの言葉を聞き続けるうちに次第に精神が崩壊し、最後には発狂し、自身がNevermoreと叫ぶ事しかできなくなる。→ウィキペディアの記事
2 les chants d' Maldoror「マルドロールの歌」19世紀の詩人ロートレアモン伯爵Le Comte de Lautréamont(本名:イジドール・リュシアン・デュカスIsidore Lucien Ducasse)の代表作。1868年、1869年に発表。マルドロールは、残虐な行為を続けながら変身を繰り返す、悪の化身のような人物。死後に再評価されシュルレアリスム文学に大きな影響を与えた。
3 passer sur le corps(ou le ventre) de qn.「…を踏み台(犠牲)にして目的を達する」
4 voile dehors「「帆を張った」(成句)toutes (les) voiles dehors「満帆を掲げて、大急ぎで、あらゆる手段を用いて」。ここではse voilerという代名動詞を用いている。
5 étoile de Nord=étoile polaire「北極星」
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