
前回の「ブリュッセルBruxelles」に続き、ジャック・ブレルJacques Brelで、「ヴズールVesoul」という曲です。1967年のアルバム:J'arriveに収録。このタイトルも地名で、フランス東部、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏région Bourgogne-Franche-Comtéオート=ソーヌ県la Haute-Saôneの県庁所在地。
ブレルは1960年に2つのリサイタルの間に、ヴズールに一泊し、その町をテーマにした曲を作ることを約束していましたが、1967年に再び訪れた時にその約束を思い出し、何ヵ月後かにこの曲を作りました。そしてテレビ番組のための2回目の録音に付き合ったアコーデオニストのマルセル・アソラMarcel Azzolaが手伝って改編しました。曲のなかほどにChauffe Marcelというブレルの叫びが入っているのはその状況を物語るものです。曲名は最初、「ヴィエルゾン-ヴズールVierzon - Vesoul」でしたが、「アソラ-ヴズール Azzola – Vesoul」に変えようとブレルが言い出し、アソラはそれに反対し、「ヴズールVesoul」となりました。ブレル自身は1967年に興行をやめており、この曲をステージで歌うことはありませんでしたが、20を超える言語で、140以上もカヴァーされています。日本語はなさそうなので作ってみましょうか(#^.^#)
その後、ヴズールの町ではブレルの名を広場と学校に冠し、シャンソンの新人歌手発掘のためのコンクール「ブレル・フェスティヴァルFestival Jacques Brel」をエドウィッジ・フイエール劇場Théâtre Edwige-Feuillèreにて2000年以降毎年開催しています。また、2016年にはブレルの胸像をそのホールに設置しました。(以上、Wikipédia等を参照しました。)
Vesoul ヴズール
Jacques Brel ジャック・ブレル
T'as voulu voir Vierzon
Et on a vu Vierzon,
T'as voulu voir Vesoul
Et on on a vu Vesoul,
T'as voulu voir Honfleur
Et on a vu Honfleur,
T'as voulu voir Hambourg
Et on a vu Hambourg,
J'ai voulu voir Anvers
Et on a revu Hambourg,
J'ai voulu voir ta sœur
Et on a vu ta mère
Comme toujours
君がヴィエルゾンに行きたがったから
僕らはヴィエルゾンに行った、
君がヴズールに行きたがったから
僕らはヴズールに行った、
君がオンフルールに行きたがったから
僕らはオンフルールに行き、
君がハンブルグに行きたがったから
僕らはハンブルグに行き、
僕がアンヴェールに行きたかったから
僕らはハンブルグにまた行き、
僕が君の姉さんに会いたかったから
僕らは君の母さんに会った
相変わらずのことさ

T'as plus aimé Vierzon
Et on a quitté Vierzon,
T'as plus aimé Vesoul
Et on a quitté Vesoul,
T'as plus aimé Honfleur
Et on a quitté Honfleur,
T'as plus aimé Hambourg
Et on a quité Hambourg,
T'as voulu voir Anvers
Et on n'a vu qu'ses faubourgs,
Tu n'as plus aimé ta mère
Et on a quitté sa sœur
Comme toujours
君がヴィエルゾンをもう好きじゃなくなったから
僕らはヴィエルゾンを去った、
君がヴズールをもう好きじゃなくなったから
僕らはヴズールを去った、
君がオンフルールをもう好きじゃなくなったから
僕らはオンフルールを去り、
君がハンブルグをもう好きじゃなくなったから
僕らはハンブルグを去り、
君はアンヴェールに行きたがったけど
僕らはその郊外にしか行かず、
君が母さんをもう好きじゃなくなったから
僕らは叔母さんと別れた
相変わらずのことさ
Mais je te le dis,
Je n'irai pas plus loin,
Mais je te préviens,
J'irai pas à Paris.
D'ailleurs j'ai horreur
De tous les flonflons, 注1
De la valse musette
Et de l’accordéon,
だが君に言っておく、
これ以上は行かない、
だが先に言っておく、
僕はパリには行かない。
それに僕は嫌いなのさ
あらゆるブンチャカブンチャカ、
ワルツ・ミュゼット、
アコーデオーンが、
T'as voulu voir Paris
Et on a vu Paris,
T'as voulu voir Dutronc 注2
Et on a vu Dutronc,
J'ai voulu voir ta sœur,
J'ai vu le mont Valérien,
T'as voulu voir Hortense, 注3
Elle était dans l'Cantal,
J'ai voulu voir Byzance
Et on a vu Pigalle
À la gare Saint-Lazare,
J'ai vu les « Fleurs du Mal » 注4
Par hasard
君がパリに行きたがったから
僕らはパリに行った、
君がデュトロンに会いたがったから
僕らはデュトロンに会った、
僕が君の姉さんに会いたかったから
僕らはモン・ヴァレリアンに行き、
君はオルタンスに会いたがったが
彼女はカンタルにいて、
僕はビュザンティオンに行きたかったけど
僕らはピギャールに行き
サン・ラザール駅で
僕は『悪の華』を見たよ
たまたまね

T'as plus aimé Paris
Et on a quitté Paris,
T'as plus aimé Dutronc
Et on a quitté Dutronc,
Maintenant je confonds ta sœur
Et le mont Valérien,
De ce que je sais d'Hortense,
J'irai plus dans l'Cantal,
Et tant pis pour Byzance
Puisque j'ai vu Pigalle,
Et la gare Saint-Lazare
C'est cher et ça fait mal
Au hasard
君がパリをもう好きじゃなくなったから
僕らはパリを去った、
君がデュトロンをもう好きじゃなくなったから
僕らはデュトロンと離れた、
今じゃ僕は君の姉さんと
モン・ヴァレリアンとを混同してしまう、
僕がオルタンスについて知っていることのため
僕はカンタルにはもう行かない、
またビュザンティオンには悪いね
だって僕はピギャールにも
サンラザール駅にも行ったから
金がかかるしたいへんだもの
行き当たりばったりじゃ
Mais je te le redis...chauffe Marcel chauffe ! 注5
Je n'irai pas plus loin
Mais je te préviens...kaï kaï kaï 注6
Le voyage est fini
D'ailleurs j'ai horreur
De tous les flonflons
De la valse musette
Et de l'accordéons...chauffe !
だが君にもう一度言っておく…熱くなれ、マルセル、熱くなれ!
これ以上は行かない、
だが先に言っておく…キャンキャンキャン
旅はおしまいだ。
それに僕は嫌いなのさ
あらゆるブンチャカブンチャカ、
ワルツ・ミュゼット、
アコーデオーンが…熱くなれ!

T'as voulu voir Vierzon
Et on a vu Vierzon
T'as voulu voir Vesoul
Et on on a vu Vesoul
T'as voulu voir Honfleur
Et on a vu Honfleur
T'as voulu voir Hambourg
Et on a vu Hambourg
J'ai voulu voir Anvers
Et on a revu Hambourg
J'ai voulu voir ta sœur
Et on a vu ta mère
Comme toujours
君がヴィエルゾンに行きたがったから
僕らはヴィエルゾンに行った、
君がヴズールに行きたがったから
僕らはヴズールに行った、
君がオンフルールに行きたがったから
僕らはオンフルールに行き、
君がハンブルグに行きたがったから
僕らはハンブルグに行き、
僕がアンヴェールに行きたかったから
僕らはハンブルグにまた行き
僕が君の姉さんに会いたかったから
僕らは君の母さんに会った
相変わらずのことさ
T'as plus aimé Vierzon
Et on a quitté Vierzon... chauffe... chauffe... chauffe !
T'as plus aimé Vesoul
Et on a quitté Vesoul
T'as plus aimé Honfleur
Et on a quitté Honfleur
T'as plus aimé Hambourg
Et on a quitté Hambourg
T'as voulu voir Anvers
Et on n'a vu qu'ses faubourgs
Tu n'as plus aimé ta mère
Et on a quitté sa sœur
Comme toujours ... Chauffez les gars !
君がヴィエルゾンをもう好きじゃなくなったから
僕らはヴィエルゾンを去った…熱く…熱く…熱くなれ!
君がヴズールをもう好きじゃなくなったから
僕らはヴズールを去った、
君がオンフルールをもう好きじゃなくなったから
僕らはオンフルールを去り、
君がハンブルグをもう好きじゃなくなったから
僕らはハンブルグを去り、
君はアンヴェールに行きたがったけど
僕らはその郊外にだけ行き
僕が君の母さんをもう好きじゃなくなったから
僕らは叔母さんと別れた
相変わらずのことさ…熱くなれ、お前たち!

Mais mais je te le reredis ... Kaï !
Je n'irai pas plus loin
Mais je te préviens
J'irai pas à Paris
D'ailleurs j'ai horreur
De tous les flonflons
De la valse musette
Et de l'accordéon
だが君にもう一度言っておく…キャン!
これ以上は行かない、
だが先に言っておく
旅はおしまいだ。
それに僕は嫌いなのさ
あらゆるブンチャカブンチャカ、
ワルツ・ミュゼット、
アコーデオオーンが
T'as voulu voir Paris
Et on a vu Paris
T'as voulu voir Dutronc
Et on a vu Dutronc
J'ai voulu voir ta sœur
J'ai vu le mont Valérien
T'as voulu voir Hortense
Elle était dans l'Cantal
J'ai voulu voir Byzance
Et on a vu Pigalle
À la gare Saint-Lazare
J'ai vu les Fleurs du Mal
Par hasard
君がパリに行きたがったから
僕らはパリに行った、
君がデュトロンに会いたがったから
僕らはデュトロンに会った、
僕が君の姉さんに会いたがったから
僕らはモン・ヴァレリアンに行き、
君はオルタンスに会いたがったが
彼女はカンタルにいて、
僕はビュザンティオンに行きたかったけど
僕らはピギャールに行き
サン・ラザール駅で
僕は『悪の華』を見たよ
たまたまね

[注]
地名を先に順次まとめておく。
Vierzon「ヴィエルゾン」パリの南フランス中央部、サントル=ヴァル・ド・ロワールCentre-Val de Loire地域圏、シェールCher県のコミューン。
Hambourg「ハンブルグ」ドイツ北部の港湾都市。
Honfleur「オンフルール」フランス、ノルマンディー地方の港町。
Anvers「アンヴェール」(オランダ語: Antwerpenアントウェルペン)パリのメトロの駅ではなく、ベルギーのフランデレン地域・アントウェルペン州の州都。
Le mont Valérien「モン・ヴァレリアン」パリ郊外オー=ド=セーヌ県Hauts-de-Seine、副都心ラ・デファンスLa Défenseの裏手に位置する小高い丘。第二次世界大戦の多くのレジスタンスが命を奪われた五稜郭型のモン・ヴァレリアン城塞がある。
Cantal「カンタル県」フランスのオーヴェルニュ地域圏Auvergneの県であった。オーヴェルニュ地域圏は2016年にローヌ=アルプ地域圏と統合されオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏Auvergne-Rhône-Alpesとなった。
Byzanceヨーロッパの南東、バルカン半島のトラキアの東端に位置する小さな半島(現在のトルコ領イスタンブールの旧市街地区)の先端部分にあった、古代ギリシア人の建設による都市
Pigalle「ピギャール」モンマルトルMontmartreの西南麓の地域で歓楽街である。セルジュ・ラマSerge Lamaの「ピガールの娘たちLes petites femmes de Pigalle」参照。
la gare Saint-Lazare「サン=ラザール駅」
1 flonflon「ぷかぷかどんどん、ぶんちゃかぶんちゃか」など、お祭りや楽隊の笛や太鼓の音をあらわす擬音語。
2 Dutronc「デュトロン」は男性名。歌手・俳優のジャック・デュトロンJacques Dutroncのことであろう。1966年に最初のディスクを出し、1967年よりフランソワーズ・アルディーFrançoise Hardyと同棲を始めた。すなわちこの曲の年。
3 Hortense「オルタンス」女性名。オルタンス・ド・ボアルネHortense de Beauharnaisはナポレオン1世の皇后ジョゼフィーヌの娘で、ナポレオンの弟ルイ・ボナパルトの妻、ナポレオン3世の母。
4 les Fleurs du mal「悪の華」シャルル・ピエール・ボードレールCharles-Pierre Baudelaireの詩集(初版1857年)。サン=ラザール駅で見たというのはどういう意味か不明。
5 chauffer他動詞としては「熱する」。自動詞としては「熱くなる」。解説に書いたが、Marcelはアコーデオニストのマルセル・アソラMarcel Azzola。
6 kaï kaï「キャンキャン」叩かれるなどして怯える犬の声を表す擬音語。
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ジャック・ブレルJacques Brelの「ブリュッセルBruxelles」は彼の故郷のブリュッセルの祖父・祖母の若かりし時代(20世紀初頭?)を歌った曲。1962 年のアルバム:Les Bourgeoisに収録されています。作詞はブレル自身。作曲は、彼のピアニストであったジェラール・ジュアネストGérard Jouannest(後にジュリエット・グレコJuliette Grécoの夫となった)との共作。
Bruxelles ブリュッセル
Jacques Brel ジャック・ブレル
{Refrain :}
C'était au temps où Bruxelles rêvait
C'était au temps du cinéma muet 注1
C'était au temps où Bruxelles chantait
C'était au temps où Bruxelles bruxellait 注2
それはブリュッセルが夢を持っていた時代のこと
それは無声映画の時代のこと
それはブリュッセルが歌っていた時代のこと
それはブリュッセルがブリュッセルだった時代のこと
Place de Broukère on voyait des vitrines 注3
Avec des hommes des femmes en crinoline 注4
Place de Broukère on voyait l'omnibus 注5
Avec des femmes des messieurs en gibus 注6
Et sur l'impériale 注7
Le cœur dans les étoiles
Y avait mon grand-père
Y avait ma grand-mère
Il était militaire
Elle était fonctionnaire
Il pensait pas elle pensait rien
Et on voudrait que je sois malin
ブルッケール広場でショーウインドーを覗いたものさ
男たちやクリノリン・スカートの女たちと
ブルッケール広場で乗合馬車を見たものさ
女たちやシルクハットの男たちが乗っていた
そして屋上席には
星間に心を馳せて
僕の祖父がいた
僕の祖母がいた
祖父は兵隊で
祖母は公務員
祖父は考えもせず祖母は何も考えなかった
そして僕が利口であるよう望んだ
{Refrain :}

Sur les pavés de la place Sainte-Catherine
Dansaient les hommes les femmes en crinoline
Sur les pavés dansaient les omnibus
Avec des femmes des messieurs en gibus
Et sur l'impériale
Le cœur dans les étoiles
Y avait mon grand-père
Y avait ma grand-mère
Il avait su y faire
Elle l'avait laissé faire
Ils l'avaient donc fait tous les deux
Et on voudrait que je sois sérieux
聖カトリーヌ広場の舗道の上で
男たちやクリノリン・スカートの女たちが踊った
舗道の上で乗合馬車が踊った
女たちやシルクハットの男たちを乗せて
そして屋上席には
星間に心を馳せて
僕の祖父がいた
僕の祖母がいた
祖父はなすべきことを知っていた
祖母はそうさせた
彼らは二人してそれをなした
そして僕が真面目であるよう望んだ
{Refrain }

Sous les lampions de la place Sainte-Justine
Chantaient les hommes les femmes en crinoline
Sous les lampions dansaient les omnibus
Avec des femmes des messieurs en gibus
Et sur l'impériale
Le cœur dans les étoiles
Y avait mon grand-père
Y avait ma grand-mère
Il attendait la guerre
Elle attendait mon père
Ils étaient gais comme le canal 注8
Et on voudrait que j'aie le moral 注9
聖ジュスティーヌ広場のランタンのもとで
男たちやクリノリン・スカートの女たちが歌った
ランタンのもとで乗り合い馬車が踊った
女たちやシルクハットの男たちを乗せて
そして屋上席には
星間に心を馳せて
僕の祖父がいた
僕の祖母がいた
祖父は戦争を待っていた
祖母は僕の父を待っていた
彼らは運河のように陽気だった
そして僕が意気軒昂であるよう望んだ
{Refrain}
[注]
1 cinéma muet「無声映画、サイレント映画」トーマス・エジソンThomas Alva Edisonが映画の発明者と呼ばれるが、世界最初の映画は、フランスの発明家ルイ・ル・プランスLouis Aimé Augustin Le Princeが1888年に製作した、「ラウンドヘイの庭の場面Roundhay Garden Scene」という上映時間2秒の作品。1927年にアメリカのワーナー・ブラザースが世界初の長編商業トーキー「ジャズ・シンガーThe Jazz Singer」を製作するまではサイレント映画であった。
2 bruxellait:Bruxelleを動詞化した造語bruxellerの半過去形。Bruxelleは英語でBrussel であり、bristle「動物が怒って毛を逆立てる」の視覚方言brusselと同じ綴りなのでその意味合いも含ませているのかもしれない。
3 la place de Brouckère「ブルッケール広場」はブリュッセルにある広場。あとに出てくるla place Sainte-Catherine「サント=カトリーヌ広場」も同様。la place Sainte-Justine「サント=ジュスティーヌ広場」はウィキメディア・コモンズのCategory:Squares in Brusselsでも確認できない。歌詞にはないが、ブリュッセルで一番有名なのはヴィクトル・ユゴーVictor Hugoが賛嘆したことでも知られ、世界遺産であるグラン・プラスGrand-Place。ジャック・ブレルスクエアーJacques Brelsquareなるものも後年作られている。
4 crinoline「クリノリン」元来、19世紀なかばに登場する馬毛と麻の混紡地を使ったスカートを広げるためのアンダースカートを意味したが、のちには材料の如何に関わらず大きく膨らんだスカートやその腰枠をさすようになった。
5 omnibus「乗合馬車」元々はラテン語で「すべての人のための」の意味の言葉で、不特定多数の客を乗せ、一定の路線を時刻表にしたがって運行される馬車。1662年にパリで初めて走行したがいったんすたれ、1820年代に再発明されて19世紀が最盛期であったが、19世紀末に乗合自動車すなわちバスbus(語源はomnibus)が発明され次第に取って代わられた。路面に敷かれた馬車軌道を走行するようにしたものがのちに路面電車となった。
6 gibus「オペラハット」ばね仕掛けで折り畳めるシルクハット。普通の「シルクハット」はhaut-de-forme。
7 impériale「屋上席」は1855年以来設けられた。
8 canal「運河」のように陽気だというのは妙だが、canard「カモ、アヒル」を次行のmoralと韻を踏むため変えたのかと。
9 moralは形容詞としては「道徳的な」だが、名詞としては「気力、士気」の意味。
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マリー・ラフォレMarie Lafôretの「秋のさかりにAu cœur de l'automne」は彼女の声の魅力がよく発揮された歌だと思います。1963年。作詞・作曲:ミッシェル・ジュルダンMichel Jourdan、アルマン・カンフォラArmand Canfora。1969年のアルバム:La vin de l’étéに収録されています。
陰暦8月は、今年の新暦では9月20日~10月19日にあたり、秋らしい風情が最高潮なので「盛秋」と呼ばれます。この曲のタイトルはちょうどその頃のことで、夏が恋の季節で秋は別れの季節、という定番とはまた違った季節感があらわされています。
Au cœur de l'automne 秋のさかりに
Marie Lafôret マリー・ラフォレ
Au cœur de l'automne
Ce soir, deux enfants
Me rappellent qu'il y a longtemps
Notre amour de même
Notre amour de même
A fleuri tout en se cachant
Nous n'avions pas encore l'âge
Pour ce grand voyage
Que l'on fait lorsqu'on est grand
Et pourtant l'amour lui-même
D'une voix lointaine
Nous chantait "Je vous attends"
秋のさかりに
今宵、二人の若い子たちが
私に思い出させる、遠い日の
私たちの同じような愛を
私たちの同じような愛は
こっそり隠れつつ花開いた
大きくなったらするような
この大旅行に出る年頃には
私たちはまだ至っていなかった
けれど、愛は
遠くから聞こえる声で
私たちに歌っていた「あなたを待っている」と

Au cœur de l'automne
Ce soir, deux enfants
Ont les yeux perdus dans le ciel
Notre amour de même
Notre amour de même
Espérait vivre au grand soleil
Mais nous vivions en cachette
Loin des bruits des fêtes
Nous attendions le printemps,
Le printemps pour avoir l'âge
De n'être plus sage
Et pour nous aimer vraiment
秋のさかりに
今宵、二人の若い子たちが
目を空にさまよわせている
私たちの同じような愛
私たちの同じような愛は
赤日のもとに生きたいと願っていた
けれど、私たちは隠れて生きていた
祭りの喧騒からは遠ざかって
私たちは春を待っていた、
春を、もうお利口にしていなくていい
年になるために
そして本当に愛し合えるために

Au cœur de l'automne
Deux enfants bientôt
Connaîtront leur premier matin
Autant que l'on s'aime,
Presque autant que nous,
Eux aussi s'aimeront
Demain
秋のさかりに
二人の子どもたちはまもなく
最初の朝を知るだろう
人々が愛し合うのと同じように
私たちと同じように
彼らもまた愛し合う
明日
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1949年のアンドレ・カイヤットAndré Cayatte監督の映画「火の接吻Les amants de Vérone」は、セルジュ・レジアーニSerge Reggiani とアヌーク・エーメAnouk Aimée が主演。筋書きは、ロメオとジュリエットの物語の映画撮影に、主役のスタントマンとして雇われた二人が恋に落ち、ロメオとジュリエットの悲劇そのままの運命を辿るというもの。音楽担当は ジョゼフ・コズマJoseph Kosma。
映画と同じ原題のLes amants de Véroneという曲を1965年にイザベル・オーブレIsabelle Aubretが歌っています。ジャン・フェラJean Ferratの作曲で、「太陽の子供たちDeux enfants au soleil」と同様、作詞はクロード・ドレクリューズClaude Delécluse。Véroneの仮名書きを用いて「ヴェローヌの恋人たち」としましょう。ロメオとジュリエットの物語の舞台である街ヴェローヌに、「あんたはあの二人をどうしちゃったの?」と訊きます。「ロミオとジュリエット」の話自体はフィクションですが、イタリアの新婚旅行の定番都市といえば、ヴェローナ。「ジュリエットの家」と呼ばれる建物があり、バルコニーでの記念撮影はカップル旅行の定番で、庭に作られたジュリエット像の右胸に触ると幸せな結婚ができるともいわれます。
ミッシュル・ポルナレフMichel Polnareffの「ジュリエットとロメオのようにComme Juliette et Roméo」は、恋人の理想であるあの二人のようになりたいという、ポルナレフにしてはたいへん素直な内容でしたね。
ちなみに、劇団四季の「ヴェローナの恋人たち」は、シェイクスピアWilliam Shakespeareの第一作とされる「ヴェローナの二紳士The Two Gentlemen of Verona」をミュージカル化したものでロメオとジュリエットには無関係。
Les amants de Vérone ヴェローヌの恋人たち
Isabelle Aubret イザベル・オーブレ
{Refrain:}
Vérone
Qu'as-tu fait
Des deux amants si beaux
Qui s'appelaient je crois,
Juliette et Roméo ?
ヴェローヌ
あなたどうしちゃったの?
とっても美しい二人の恋人たちを
その名はたしか
ジュリエットとロメオだったわね
Les amants de Vérone
Sont à jamais couchés 注
Est-ce donc pour mourir
Qu'ils se sont tant aimés ?
Plus de baisers donnés,
Plus de corde au balcon
Le temps qui brise tout
N'a laissé que de l'ombre.
L'alouette qui chante
Pour annoncer le jour,
Ne verra plus s'enfuir
L'amoureux et l'amour.
ヴェローヌの恋人たちは
永遠の眠りについた
じゃあ二人があれほど愛し合っていたのは
死ぬためだったの?
もう口づけも与えられず
バルコニーにはもう縄梯子も無く
時がすべてを破壊し
幻影しか残さない。
時を告げて
さえずるヒバリは、
愛し合う恋人たちと恋が
去る姿をもう見ることはないわ。

{Refrain}
Les amants de Vérone
N'irons plus au jardin,
L'iris bleu de la nuit
Peut refleurir en vain.
Si parfois deux colombes
Inclinent un peu le cou,
C'est que le vent murmure
Quelque chose de fou.
Mais leurs cœurs apaisés
Ne craignent plus l'aurore
Et dans leurs mains trouées
La rose brûle encore.
ヴェローヌの恋人たちは
もう楽園に行くことはなく、
夜の青いアイリスは
むなしく咲くことでしょう。
もし二羽の鳩が
すこし首を傾げていたなら、
それは風が
おかしなことをつぶやくから。
けれど安らいだ彼らの心は
もはや夜明けを怖れず
そして穿たれた二人の手のなかには
今もバラが燃えているわ。

{Refrain}
[注] à jamais「永遠に」で「けっして…ない」ではない。
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イヴ・デュテイユYves Duteilの「眼前の刑務所の壁Le mur de la prison d'en face」は、パリ14区のサンテ刑務所Prison de la Santéをテーマにした曲です。先にご紹介した「夜の通行人に捧ぐHommage au passant d'un soir」には、天文台大通りAvenue de l'Observatoireが出てきますが、その天文台はリュクサンブール公園 Jardin du Luxembourgの南に位置し、そのすぐ近く、アラゴ通りBoulevard Aragoを隔てたはす向かいの南東にサンテ刑務所はあります。歌詞に出てくるモンパルナス・タワーTour Mont-Parnasse.、セルジュ・ゲンズールSerge Gainsbourgの眠っているモンパルナス墓地Cimetière du Montparnasseなども近辺にあります。
サンテ刑務所に収容された著名人としては、詩人のギョーム・アポリネールGuillaume Apollinaire、作家のジョルジュ・ベルナノスGoerges Bernanosとジャン・ジュネJean Genetが挙げられます。日本人としてはアナキストの大杉栄、カニバリスト(?)の佐川一政が。
ギョーム・アポリネールはその体験を、詩集「アルコール」(1913年)に収録された詩「ラ・サンテ刑務所にてÀ la Santé」(1911年)であらわしています。
その最後の6節目の前半
J’écoute les bruits de la ville 私は街の物音を聴く
Et prisonnier sans horizon そして視界を持たぬ囚人の身の
Je ne vois rien qu’un ciel hostile 私に見えるのは悪意のある空と
Et les murs nus de ma prison 刑務所の裸の壁だけ
が、この曲のヒントになったように思えます。
歌詞に挿入した写真をご覧ください。サンテ刑務所の壁は、並じゃない風情を持っています。この姿を見れば、この歌詞を作ったイヴ・デュテイユの気持ちが分かる気がします。でも、この壁は改装中で、2019年には新しい姿に生まれ変わるとか。
いえいえ、そんな注釈抜きで、この曲を味わって下さい。ほんとうに魅力的な曲です。1977年のアルバム:Tarentelleに収録されています。
2007年のEntre elles et moiでは、Véronique Rivièreとデュオで歌っています。急きょ自分で動画を作りました。
Le mur de la prison d'en face 眼前の刑務所の壁
Yves Duteil イヴ・デュテイユ
En regardant le mur
De la prison d'en face,
J'entends tous les ragots
Et les bruits des autos,
Boulevard Arago,
Qui passent,
Sur les toits des maisons
Qui servent d'horizon, 注1
Un bout de la tour Mont- 注2
Parnasse.
眼前の刑務所の
壁を見ながら、
僕はいろんな噂話や
アラゴ大通りを、
通る、
車の音を聞く、
地平の代わりとなる
家々の屋根の上には
モンパルナス・タワーの
端っこが

L'hiver on voit les gens
Dans les maisons d'en face,
L'été les marronniers
Les cachent aux prisonniers
Et les bruits du quartier
S'effacent,
Quand l'école a fermé
Combien ont dû penser 注3
Au jour de la rentrée 注4
Des classes.
冬には
向かいの家々の人々が見える
夏はマロニエの木々が
それを囚人たちから隠し
界隈の物音は
消える、
学校が休みになった時
クラスが
再開する日を
どれだけの人が思ったことか。

En regardant le mur,
J'imagine à sa place 注5
Les grillages ouvragés
D'un parc abandonné
Explosant de rosiers, 注6
D'espace,
Les grillages ouvragés
D'un parc abandonné
Où les arbres emmêlés
S'enlacent.
壁を見ながら
僕はその代わりに想像する
一面に
バラの木々を爆発させる
さびれた公園の
凝った作りの柵を、
もつれた木々が
たがいに絡み合う
さびれた公園の
凝った作りの柵を。
En regardant le mur
De la prison d'en face,
Le cœur un peu serré
D'être du bon côté, 注7
Du côté des autos,
Je passe
Et du toit des maisons
Qui ferment l'horizon,
Un morceau de la Tour
Dépasse.
眼前の刑務所の
壁を見ながら、
壁のいい方の側にいることに
少し心を締め付けられながら
車たちの傍らを
僕は通る、
そして地平をふさぐ
家々の屋根から
タワーのかけらが
抜きん出る。

[注]
1 servir de qc.「(…として)役立つ、(…の)役目を務める」
2 la tour Mont-Parnasse「モンパルナス・タワー」
3 フランスの新学期は9月。rentréeだけで「夏休み明け、新学期、新学年」の意味。
4 ontの主語はcombienで複数形扱い。
5 à sa place「それ(彼、彼女)の代わりに」。saはle mur「壁」。
6 explosantはexploser「爆発する」の現在分詞。比喩的な表現だが、あえて意訳しないでおく。
7 le bon côté de la routeは、「車が通行すべき側」(フランスでは右側)を言うが、ここでは、刑務所の壁の内側に対して外側を言っている
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タイトルはStation 4 Septembreとも表記されますが、パリ2区にあるメトロ3号線の駅で、オペラOpéraからブルスBourseまで東西に走る通り、la rue du Quatre-Septembreの中央に位置するのでQuatre-Septembreという駅名が付けられました。そもそもその通りの名称は「9月4日」の意味で、皇帝ナポレオン3世の廃位と第三共和政の開始が宣言された1870年9月4日を記念して付けられました。右上の地図は、通りと駅が出ていてちょうどいいので、ブック・オフさんお借りします。宣伝になるので許してね(#^.^#)
ついでながら、おもしろいエピソードを。昨2016年のエイプリル・フールの日に、RATPがパリの13のメトロの駅の駅名表示が言葉遊び風に変えました。この駅は「4月1日Premier avril 」とされました。→記事
Station Quatre Septembre キャトル・セプタンブル駅
Vanessa paradis ヴァネッサ・パラディ
On s'est connus un matin station quatre septembre
Reconnus dès le lendemain pour aller boire un café ensemble
On en a fait du chemin, du moins il me semble
Depuis le premier verre de vin au dernier baiser sans la langue
On a connu les arrières cours, les frimas de décembre
Les ingénues qui portent court, qui font du pied aux pieds-tendres 注1
Les nuits moites allongé sur le coco et la cendre 注2
Le vin chenu, la misère nue mais quel bonheur ensemble
私たちはある朝キャトル・セプタンブル駅で知り合った
翌朝にはまた会って一緒にコーヒーを飲みに行った
私たちはそんな成り行きに従った、少なくとも私にはそう思えたわ
ワインを飲み始めてから、最後に黙ってキスをするまでのあいだ
裏庭と12月の濃霧を何度も体験した
うぶな娘たちは性急で、優しい足に足で合図する
ココや灰の上に横たわる長い湿っぽい夜
年代もののワイン、無一物の貧乏、でも二人でいることが幸せだった

Même au siècle prochain j'en parlerai encore
Même au siècle prochain j'en parlerai encore
Même au siècle prochain j'en pleurerai encore
Même au siècle prochain j'en pleurerai encore
来世紀まで私はそれを語るわ
来世紀まで私はそれを語るわ
来世紀まで私はそれに涙するわ
来世紀まで私はそれに涙するわ
On s'est perdus un matin station quatre septembre
Eperdus, ivres de ce vin qui vous fait les yeux en amandes
On a rasé quelques murs, toi levé quelques jambes 注3
Une pensée bien saugrenue, dire adieu à ces grands ensembles
Adieu nuits tendres, adieu caresses, adieu lait à l'amande
Adieu relative allégresse de prendre un café ensemble
ある朝キャトル・セプタンブル駅で互いを見失った
取り乱し、ひとの目をアーモンド色にさせるこのワインに酔って、
私たちはいくつかの壁を取り払い、あなたはいくつかの支柱を取り除いた
突拍子も無い考えが浮かぶ、この素晴らしい愛の暮らしにさよならすること
やさしい夜よさよなら、愛撫よさようなら、アーモンドミルクよさよなら
一緒にコーヒーを飲むことのそれなりの喜びもさよなら

Même au siècle prochain j'en parlerai encore
Même au siècle prochain j'en parlerai encore
Même au siècle prochain j'en pleurerai encore
Même au siècle prochain j'en pleurerai encore
J'en pleurerai encore
私は来世紀までそれを語っているわ
私は来世紀までそれを語っているわ
来世紀までそれに涙しているわ
来世紀までそれに涙しているわ
涙しているわ
Même au siècle prochain j'en parlerai encore
Même au siècle prochain j'en parlerai encore
Même au siècle prochain j'en pleurerai encore
Même au siècle prochain j'en pleurerai encore
J'en pleurerai encore
私は来世紀までそれを語っているわ
私は来世紀までそれを語っているわ
来世紀までそれに涙しているわ
来世紀までそれに涙しているわ
涙しているわ

[注]
1 faire du pied à qn.「(テーブルの下などで)…の足を自分の足で触る」異性の気を引いたりするため。
2 cocoは「ココナッツ」「ガソリン」「安酒」「頭」「靴」「パイロット」「喉」「胃」「卵」「幼児・恋人の愛称」「(軽蔑的に)ヤツ」「共産党員」「コカイン」など多数の意味がある。cendre「灰」が続くので「コカイン」か「安酒」かとも思ったが、仮名書きの「ココ」にとどめた。ちなみに、今、パリではジュリアン・ドレJulien DoréのCoco câlineという曲が流行っているという。これはココ・シャネルCoco Chanel同様、女性の名前。
3 lever quelques jambesは「脚を上げる」ではなくraser quelques murs「壁を取り払う」と合う意味として「支柱を取り外す」だろう。
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