
今回は、女優でファッションモデルでもあるレティシア・カスタLaetitia Castaが映画「歓楽通りRue des plaisirs」(2002年、パトリス・ルコントPatrice Leconte監督)のなかで歌った「手のひらに書いてあったからC'était écrit」。歌詞はしあわせな内容ですが、映画はハッピーエンドではありません。映画のあらすじは→こちら。
「あなたと私が出会い愛し合うということが、私の手のひらに書いてあった」という素敵な歌詞のこの曲は、実はとても古くて、1935年に「シュヴァリエの巴里っ子L'homme des Folies-Bergère」という映画のなかでモーリス・シュヴァリエMaurice Chevalierとナタリー・パレNathalie Paley が歌っていました。シュヴァリエが二役を演じる、ちょっと込み入ったコメディ風の映画。あらすじは→こちら。
C’était écrit 手のひらに書いてあったから
Laetitia Casta レティシア・カスタ
Ne pensons pas trop à ce que nous faisons
Mais laissons nous guider par la destinée
C’est sans raison qu’on cherche des raison
Mais notre existence est réglée d’avance
私たちが今していることをあまり深く考えないで
運命に導かれていきましょう
わけもなくひとは理由を求めるけれど
私たちが今こうあることは前もって決まっていたの

{Refrain}
C’était écrit dans ma main comme dans votre main
C’était écrit qu’un beau jour vous seriez sur mon chemin
J’ignore même comment on s’est trouvé
Si je vous aime, c’est que ça devait arriver
C’était écrit que j’aimerais caresser vos cheveux
C’était écrit que je verrais mon bonheur dans vos yeux
Mais je n’ai qu’un souci
C’est que vous m’aimiez aussi
Oui car c’est écrit
あなたの手のひらにと同じように私の手のひらにも書いてあった
いつかあなたが私のところにやってくると書いてあった
どのように出会ったさえ覚えていないけれど
あなたを愛しているとしたら、それは起こって当然のことなの
私があなたの髪をなでることを好むだろうと書いてあった
あなたの目のなかに私のしあわせが見えるだろうと書いてあった
でもひとつだけ気がかりなの
あなたも私を愛しているのかしら
ええ、だってそう書いてあるから

[注] C’était écrit que…という形が何度も繰り返されるが、タイトルでもあるC’était écritは受動態の半過去形。que以下は、過去における未来を表す条件法現在形。最後の行だけ、c’est écrit「現にそう書かれてある」となっている。なかなかしゃれた歌詞だ。
Comment:0

朝起きたら雪が降っていましたので、この曲を出しましょう。ご存じ、サルヴァトーレ・アダモSalvatore Adamoの「雪が降るTombe la neige」です。1963年にベルギーで発売されたこの曲は翌64年にフランスで大ヒットしました。この曲の歌詞は俳句と同様に、音節数が5・7・5で構成されているので日本人の耳に馴染みやすいと言われます。安井かずみの作った日本語の歌詞もまた5・7・5。またアダモは何度も来日しそのたびに歌っていますので、日本で人気が高まるのは当然のことでしょう。ティノ・ロッシが歌った「小雨降る径 Il pleut sur la route」と同様、来ない女性を待つ内容の歌詞はアダモ自身の17歳頃の実体験に基づいて書かれたそうです。昔、雪の中で車が立ち往生して、彼女のところに行けないというスノウ・タイヤのCMがあって、それにこの曲が使われていたとか。覚えてらっしゃる方はおありでしょうか?
Tombe la neige 雪が降る
Salvatore Adamo サルヴァトーレ・アダモ
Tombe la neige 注1
Tu ne viendras pas ce soir
Tombe la neige
Et mon cœur s’habille de noir
Ce soyeux cortège 注2
Tout en larmes blanches 注3
L’oiseau sur la branche
Pleure le sortilège 注4
雪が降る
君は今夜来ないんだ
雪が降る
そして僕の心は黒い衣をまとう
この絹のような隊列
すべては白い涙に覆われる
枝にとまった鳥が
この魔法を嘆く

Tu ne viendras pas ce soir
Me crie mon désespoir 注5
Mais tombe la neige
Impassible manège 注6
君は今夜来ないんだ
わが絶望が僕に向かって叫ぶ
だが雪は降る
無情なやり口だ
La la la…
{Parlé}
Tombe la neige
Tu ne viendras pas ce soir
Tombe la neige
Tout est blanc de désespoir
雪が降る
君は今夜来ないんだ
雪が降る
すべてが絶望の白一色だ

{Chanté}
Triste certitude 注7
Le froid et l’absence
Cet odieux silence
Blanche solitude
悲しい確信
この寒さと不在
このおぞましい静寂
白い孤独
Tu ne viendras pas ce soir
Me crie mon désespoir
Mais tombe la neige
Impassible manège
Mais tombe la neige
Impassible manège
君は今夜来ないんだ
わが絶望が僕に向かって叫ぶ
だが雪は降る
無情なやり口だ
だが雪は降る
無情なやり口だ

La la la…
[注] 主語・動詞の倒置、そして動詞のない名詞文を多用して簡潔な表現をしている。
1 la neigeが主語でtombeが動詞。倒置されている。
2 soyeux「絹のような、柔らかで光沢のある」cortège「(祭儀の)行列、列」。粛々とつらなって降る雪のありさまをあらわしている。
3 larmes blanches「白い涙」は、自分の悲しい気持ちから「雪」をそう表現している。blanc(he)は「白い」のほかに「うつろな、空しい」の意味も含んでいる。en larmesは「涙にくれる」だが、雪に覆われることと重ねた表現である。3節目にTout est blanc de désespoirという、より直接的な表現がある。雪の結晶は刃のイメージに近いものがあり、arme blanche「白刃、刀剣」と語呂合わせしている可能性もある。
4 sortilège「魔法、呪術」とは、雪がすべてを白一色に変えてしまうことを言っている。
5 ここも倒置されていて、mon désespoirが擬人化され、私に向かって叫ぶ。「絶望のあまり、僕は叫ぶ」と言っても同じことだろう。
6 manègeは、ピアフの曲にある「回転木馬」だが、そのように連続して回り続けるものを譬えることもあるし、「手管、やり口」の意味もある。
7 certitudeは、あなたが来ないという「確信」。したがって、次行のl’absenceも、あなたがいないこと。
Comment:2

「褐色のワルツLa valse brune」は、1909年にジョルジュ・ヴィヤール Georges Villardが作詞し、SACEM(著作権協会)の会長だったジョルジュ・クリエGeorges Krierが作曲したとても古い曲ですが、ジュリエット・グレコJuliette Grécoが歌うとこんなすてきな曲になりました。
グレコ以前には、ギイ・ベアールGuy Béart 、ジョルジェット・プラナGeorgette Plana、リュシエンヌ・ドリールLucienne Delyle、イタリアのリア・オリゴーニLia Origoni などが歌っています。
ジョルジェット・プラナGeorgette Plana
ジュリエット・グレコJuliette Gréco
La valse brune 褐色のワルツ
Juliette Gréco ジュリエットグレコ
Ils ne sont pas des gens à valse lente
Les bons rôdeurs qui glissent dans la nuit 注1
Ils lui préfèrent la valse entraînante
Souple, rapide, où l'on tourne sans bruit
Silencieux, ils enlacent leurs belles
Mêlant la cotte avec le cotillon 注2
Légers, légers, ils partent avec elles
Dans un gai tourbillon
彼らはスローなワルツを踊る輩ではない
夜間にしのび込むちょっとした夜盗である
彼らは魅惑的なワルツを好む
なめらかに、すばやく、音も立てずに回り
無言のうちに、彼らは愛する女たちを抱き寄せる
コット胴着にペチコートを絡ませて
軽やかに、軽やかに、彼らは女たちとともに入っていく
陽気な渦の中へと

{Refrain:}
C'est la valse brune
Des chevaliers de la lune
Que la lumière importune
Et qui recherchent un coin noir
C'est la valse brune
Des chevaliers de la lune
Chacun avec sa chacune
La danse le soir
それは光が邪魔で
暗い片隅を求める
月の騎士たちの
褐色のワルツ
それは月の騎士たちの
褐色のワルツ
それぞれ自分の女と
夕べにそのダンスを踊る
Ils ne sont pas tendres pour leurs épouses
Et, quand il faut, savent les corriger
Un seul soupçon de leur âme jalouse
Et les rôdeurs sont prêts à se venger
Tandis qu'ils font, à Berthe, à Léonore
Un madrigal en vers de leur façon
Un brave agent, de son talent sonore
Souligne la chanson
彼らは自分の連れ合いには優しくない
そして、必要とあらば、彼女たちを正し得る
嫉妬深い気質がわずかでも疑惑を抱いたなら
夜盗たちには報いる構えがある
彼らがベルトやレオノーレに
彼ら流の詩句でマドリガルを歌っていると
ひとりの勇敢な警官が、持ち前の美声で
歌を引き立てる

{Refrain}
Quand le rôdeur, dans la nuit, part en chasse
Et qu'à la gorge il saisit un passant
Les bons amis, pour que tout bruit s'efface
Non loin de lui chantent en s'enlaçant
Tandis qu'il pille un logis magnifique
Ou d'un combat il sait sortir vainqueur 注3
Les bons bourgeois, grisés par la musique
Murmurent tous en chœur 注4
夜盗が、夜なかに、猟に出かけるとき
そして通行人の喉もとを締め上げる時
良き仲間たちは、すべての物音が消えるようにと
彼から遠からぬところでいっしょになって歌う
彼が豪邸を荒らしているあいだ
あるいは戦いに勝利し得るまでのあいだ
善良な市民たちは、音楽に陶酔して
声を合わせてつぶやく
{Refrain}

[注]
1 rôdeur本来は「うろつく(roder)者、徘徊者」の意味だが、文意から、rôdeur de nuit「夜盗」とした。
2 cotte「コット」は、現在は「サロペット、ツナギ」を意味するが、rôdeurをchevalier「騎士」と呼び替えているので、鎧の上に羽織るコット・ダルムcotte d'armeを起源とする丈長のチュニック風の胴着をいうようだ(右図)。cotillon「ペチコート」と語呂を合わせている。
3 sortir vainqueur d’un combat「戦いの勝利者となる」
4 つぶやく内容は次のルフラン部。
Comment:0

パトリック・ブリュエルPatrick Bruelはブリュエルマニアという言葉が生まれたくらい女性に人気がある歌手ですが、俳優として多くの映画に出演し、また、ポーカーの世界チャンピオンになったことでも知られています。今回取り上げる「偉人広場Place des Grands Hommes」は、ブルーノ・ガルサンBruno Garcin作詞、ブリュエル自身の作曲で、1989年のセカンドアルバムAlors regardeに収録された曲です。1991年に作られたQui a le droitもたいへん評判になった曲。また、2002年に出されたアルバムEntre deux(二つの間)は、タイトルに二重の意味を持たせて、二つの大戦の間のヒット曲をデュエットで歌った、優れた2枚組アルバムです。
「偉人広場Place des Grands Hommes」とは、セーヌ左岸のサント=ジュヌヴィエーヴの丘la montagne Sainte-Genevièveのパンテオン広場 la place du Panthéonのこと。その中央に建つパンテオンPanthéon(元 サント・ジュヌヴィエーヴ教会l'église Saint-Étienne-du-Mont)の正面にはAUX GRANDS HOMMES LA PATRIE RECONNAISSANTE (偉大な人々へ、祖国は感謝の気持ちをこめて)という文字が書かれていて、地下には、キュリー夫妻Pierre et Marie Curie、ヴィクトル・ユゴーVictor Hugo、ジャン=ジャック・ルソーJean-Jacques Rousseau、エミール・ゾラÉmile Zola、ヴォルテールVoltaire、ジャン・モネJean Monnet、アンドレ・マルロー André Malraux、アレクサンドル・デュマAlexandre Dumas、アンリ=ルイ・ベルクソンHenri-Louis Bergsonなどの「偉人」が眠っています。
歌詞内容は、同級生たちが卒業の10年後に会うという話で、パンテオンの正面の階段が待ち合わせ場所だというわけです。
Place des Grands Hommes 偉人広場
Patrick Bruel パトリック・ブリュエル
{Refrain:}
On s' était dit rendez-vous dans dix ans
Même jour, même heure, mêmes pommes 注1
On verra quand on aura trente ans
Sur les marches d' la place des Grands Hommes
僕たちは10年後に会うと言い交していた
同じ日、同じ時間、同じ面子で
30歳になったら会おうよ
偉人広場の階段でね

Le jour est venu et moi aussi
Mais j' veux pas être le premier.
Si on avait plus rien à s' dire et si et si...
J' fais des détours dans l' quartier.
C'est fou c' qu' un crépuscule de printemps, 注2
Rappelle le même crépuscule qu' y a dix ans.
Trottoirs usés par les regards baissés. 注3
Qu'est-ce que j' ai fait d'ces années ?
J' ai pas flotté tranquille sur l' eau,
J' ai pas nagé le vent dans l' dos.
Dernière ligne droite, la rue Soufflot,
Combien s'ront là... 4, 3, 2, 1... 0 ?
その日が来て 僕も(出向いた)
でも僕は一番乗りしたくなかった。
もしなんにも言い交わす言葉がなかったら そしてもし そしてもし…
僕は界隈をうろうろ回り道していた。
妙だよな 春の夕暮れが、
10年前の同じ夕暮れを思いださせてさ。
伏せた視線ですり減らされた歩道。
ここ数年のあいだ僕は何をしたんだっけ?
水面に静かに浮かんでたわけじゃなし、
背中に風しょって泳いでたわけでもなし。
最後の直線コース、スフロ通り、
そこに何人いるだろう…4,3,2,1人…0?
{Refrain}
J' avais eu si souvent envie d' elle.
La belle Sév'rine me r'gardera-t-elle ?
Eric voulait explorer l' subconscient.
Remonte-t-il à la surface de temps en temps ?
J' ai un peu peur de traverser l' miroir.
Si j' y allais pas... J' me s'rais trompé d'un soir. 注4
D'vant une vitrine d' antiquités,
J' imagine les r'trouvailles de l' amitié.
"T' as pas changé, qu' est-ce tu d'viens ?
Tu t' es mariée, t' as trois gamins.
T' as réussi, tu fais médecin ?
Et toi Pascale, tu t' marres toujours pour rien ?"
Allez !
僕はうんと彼女に気があった。
きれいなセヴリヌは僕に視線を向けるだろうか?
エリックは潜在意識を開発したがっていた。
時々は表面に上がってくるのだろうか?
僕は鏡を横切るのがちょっと怖い。
もしも僕がそこへ行かなかったなら…僕はある晩自分を欺いてしまうことだろう。
骨董品のショーウィンドーの前で、
僕は友人たちとの再会を想像する。
「君は変わってないね、どうしてるんだい?
君は結婚し、3人の子供がいるのか。
君は成功し、医者をやってるの?
そしてきみパスカル、君はあいかわらずつまらんことを面白がってるのかい?」
さぁ!

{Refrain}
J' ai connu des marées hautes et des marées basses,
Comme vous, comme vous, comme vous.
J'ai rencontré des tempêtes et des bourrasques,
Comme vous, comme vous, comme vous.
Chaque amour morte à une nouvelle a fait place,
Et vous, et vous... et vous ?
Et toi Marco qui ambitionnait simplement d' être heureux dans la vie,
As-tu réussi ton pari ?
Et toi François, et toi Laurence, et toi Marion,
Et toi Gégé... et toi Bruno, et toi Evelyne ?
僕は満潮も干潮も知った、
君たち同様、君たち同様、君たち同様。
僕は嵐にも突風にも出会った、
君たち同様、君たち同様、君たち同様。
死んだ恋はみな新しい恋に席を譲る、
そして君たちは、そして君たちは…そして君たちは?
そして君 人生で幸福になることだけを熱望していたマルコ、
君は賭けに勝ったのかい?
そして君 フランソワ、そして君 ローレンス、そして君 マリオン、
そして君 ジェジェ…そして君 ブルノ、そして君 エヴリヌ?
{Refrain}
Et bien c' est formidable les copains !
On s' est tout dit, on s' sert la main !
On ne peut pas mettre dix ans sur table
Comme on étale ses lettres au Scrabble.
Dans la vitrine je vois l' reflet
D' une lycéenne derrière moi.
Si elle part à gauche, je la suivrai. 注5
Si c' est à droite... Attendez-moi !
Attendez-moi ! Attendez-moi ! Attendez-moi !
On s' était dit rendez-vous dans dix ans,
Même jour, même heure, mêmes pommes.
On verra quand on aura trente ans
Si on est d'venus des grands hommes...
Des grands hommes... des grands hommes..
さてさて仲間はすばらしい!
互いに何でも言い、互いに手を差し伸べる!
10年を俎上に載せることはできない
手持ちの文字を広げてクロスワード・パズルをやるみたいに。
ショーウインドーの中に
僕の後ろにいる女学生の姿が見えた。
もし彼女が左へ行ったら、ついて行こう。
もし右だったら…待ってくれ!
待ってくれ!待ってくれ!待ってくれ!
僕たちは10年後に会うと言い交していた、
同じ日、同じ時間、同じ面子で。
30歳になったら会おうよ
ひょっとしてみんな偉人になってたら…
偉人に…偉人に…

Tiens, si on s' donnait rendez-vous dans dix ans... ?
さぁ、10年後に会ってみないか…?
[注] 話し言葉風の歌詞なので結構苦労した。
1 pomme「リンゴ」は、口語で頭・顔のこと。
2 comme un crépusculeとする歌詞もあるが、耳で確認してこちらを選んだ。
3 考えごとをしながらずっと下を見て歩いていることを表現している。すり減るもんじゃないと思うが…。
4 「si+半過去、si+条件法過去」で、条件法過去が完了をマークし、未来に位置している。
5 サイコロの目で行動を決めるような、いやもっと人任せなやりかた。
Comment:0

アラン・スーションAlain Souchonは1944年にモロッコで生まれ、1971年に歌手としてデヴューしました。彼は俳優としても活躍し、「アニエス・Vによるジェーン・B Jane B. par Agnès V. 」や「ふたりだけの舞台Comédie !」など、多くの映画に出演しています。決して美男子ではなく、ちょっぴりダサいアンチ・ヒーロー風が受けるといったタイプ。73年に歌手のローラン・ヴールズィLaurent Voulzyと出会い、アラン作詞・ローラン作曲のコンビができあがり、1974年のファースト・アルバム「ボクは10才J'ai dix ans」がヒットして以来、長年、人気を保っています。
今回取り上げるのは、そのアルバムのタイトル曲。イイ歳の青年が、自分を10才だと夢みているというユニークな歌詞。ノリのいいリズムで、楽しい歌です。
この歌詞内容とはちょっとずれているかもしれませんが、私は小学校低学年の頃、学校の廊下の片隅でふと考えたことがありました。「私はこれからどんな人生を送るのだろうか。そしていつか、今こう思っている私を思い出すことだろう。」と。
その後60年ほどのあいだ何度も、その廊下の片隅にいる女の子に戻って、現在の自分のことを考えました。人は、現在何歳であろうと、かつての10歳、20歳の自分の延長で今あるわけで、当時の自分をどこかに保っているんじゃないでしょうか。
電車で席を譲られる私は、この歳であることを否定してもしかたない、でもこの歳だからと自分を限定しなくていいと思うのです。私はまだ10歳の私でもあるのですから…。
J'ai dix ans ボクは10才
Alain Souchon アラン・スーション
J'ai dix ans
Je sais que c'est pas vrai
Mais j'ai dix ans
Laissez-moi rêver
Que j'ai dix ans
Ça fait bientôt quinze ans
Que j'ai dix ans
Ça parait bizarre mais
Si tu m'crois pas hé
Tar' ta gueule à la récré 注
ボクは10才
それは本当じゃないってわかってる
だけどボクは10才
夢みさせてくれ
ボクは10才だと
もうすぐ15年経つ
ボクが10才になってから
奇妙に思えるだろうが
キミがボクを信じないんなら、おい
休み時間にキミをぶっ飛ばすぜ

J'ai dix ans
Je vais à l'école
Et j'entends
De belles paroles
Doucement
Moi je rigol'
Au cerf-volant
Je rêve je vole
Si tu m'crois pas hé
Tar' ta gueule à la récré
ボクは10才
ボクは学校へ行って
聞くんだ
ステキな話を
のんびりとね
ボクはね、ふざける
凧に乗って
ボクは夢見る 飛ぶんだ
キミがボクを信じないんなら、おい
休み時間にキミをぶっ飛ばすぜ
Le mercredi j'm'balade
Une paille dans ma limonade
Je vais embêter les quilles à la vanille
Et les gars en chocolat
水曜日にボクは散歩する
ストローをレモネードにつっこんで
ヴァニラ味の女の子たちや
チョコレ-ト色の男の子たちを困らせに行く
J'ai dix ans
Je vis dans des sphères
Où les grands
N'ont rien à faire
Je vais souvent
Dans des montgolfières des géants
Et des petits hommes verts
Si tu m'crois pas hé
Tar' ta gueule à la récré
ボクは10才
ボクは大人たちが
立ち入れないところで
生きていて
ときどき
巨人や緑の小人の
熱気球に乗るんだ
キミがボクを信じないんなら、おい
休み時間にキミをぶっ飛ばすぜ

J'ai dix ans
Des billes plein les poches
J'ai dix ans
Les filles c'est des cloches
J'ai dix ans
Laissez-moi rêver
Que j'ai dix ans
Si tu m'crois pas hé
Tar' ta gueule à la récré
ボクは10才
ポケットにビー玉いっぱい入れて
ボクは10才
女の子たちは間抜けさ
ボクは10才
夢みさせてくれ
ボクは10才だと
キミがボクを信じないんなら、おい
休み時間にキミをぶっ飛ばすぜ
Bien caché dans ma cabane
Je suis l'roi d'la sarbacane
J'envoie des chewing-gum mâchés à tous les vents
J'ai des prix chez le marchand
小屋のなかにうまく隠れて
ボクは吹き矢の王様になる
噛んだチューインガムをあちこちに飛ばして
店でオマケをもらうんだ

J'ai dix ans
Je sais que c'est pas vrai mais j'ai dix ans
Laissez-moi rêver que j'ai dix ans
Ça fait bientôt quinze ans que j'ai dix ans
Ça parait bizarre mais
Si tu m'crois pas hé
Tar' ta gueule à la récré
ボクは10才
それは本当じゃないってわかってる
だけどボクは10才
夢みさせてくれ
ボクは10才だと
もうすぐ15年経つ
ボクが10才になってから
奇妙に思えるだろうが
キミがボクを信じないんなら、おい
休み時間にキミをぶっ飛ばすぜ
Si tu m'crois pas hé
Tar' ta gueule à la récré
Si tu m'crois pas
Tar' ta gueule à la récré
Tar' ta gueule
キミがボクを信じないんなら、おい
休み時間にキミをぶっ飛ばすぜ
キミがボクを信じないんなら
キミをぶっ飛ばすぜ
休み時間に
キミをぶっ飛ばすぜ
[注] T'ar ta gueule=Tu vas voir ta gueuleは、口語表現で「キミをぶっ飛ばす」の意味のようだ。TV番組(映像と音声がずれている動画なので採用しなかった)では、アランは殴るジェスチャーをしている。à la récré「休み時間に」。
Comment:0
前回のボリス・ヴィアンBoris Vianの「僕はスノッブだJ'suis snob」と同様に、歌詞に「男性版」と「女性版」がある曲をもう一つご紹介しましょう。「ジュ・トゥ・ヴーJe te veux」です。アンリ・パコーリHenry Pacoryが人気シャンソン歌手ポーレット・ダルティPaulette Dartyのために書いた歌詞に、音楽界の異端児とよばれるエリック・サティErik Alfred Leslie Satieが曲をつけました。ポーレットは「スローなワルツの女王La Reine des Valses lentes」と呼ばれ「魅惑のワルツFacination」などの歌唱で知られます。1897年に作成され、SASEMに登録されたのは1902年だとされています。
女性が男性に「あなたが欲しい、私の言いなりになって」と言う、思いのほか過激な歌。のちに「僕を支配してくれ」という男性版の歌詞も、また、内容を発展させたピアノ独奏版も作られました。
1925年にイヴォンヌ・ジョルジュYvonne Georgeが収録しました。古い音源なので聴きづらいですが、→こちらで聴けます。
たいへん音域が広い曲なので、ジェシー・ノーマンJessye Normanやマテ・アルテリーMathé Altéryなどのソプラノ歌手が歌っています。フランスのシャンソン歌手としてはジュリエットJulietteくらいですが、ここでご紹介できる音源がありません。iTuneで曲を買うことは可能です。
変わったところでは、
ベルギーのデュオ・チーム、バイア・コン・ディオスVaya Con Diosが、かなり歌いやすい形にして歌っています。
日本の非常に風変わりなデュオ・チーム、ALI PROJECT(蟻プロジェクト)がフランス語と日本語でちょっとロリータ風に歌っています(宝野アリカ:ボーカル・作詞、片倉三起也:作曲・編曲)。発音がちょっと違うところがありますが…。
Je te veux(version femme) ジュ・トゥ・ヴー(あなたが欲しい:女性版)
{Refrain :}
J'ai compris ta détresse
Cher amoureux
Et je cède à tes vœux 注1
Fais de moi ta maîtresse 注2
Loin de nous la sagesse 注3
Plus de tristesse
J'aspire à l'instant précieux
Où nous serons heureux
Je te veux
あなたの苦しい気持ちは分かったわ
愛しいひと
だからあなたの望みを受け入れる
わたしの言いなりになって
良識はそっちのけにし
悲しみも忘れて
二人がしあわせに過ごす
貴重な時間を持ちたいわ
あなたが欲しい

Je n'ai pas de regrets
Et je n'ai qu'une envie
Près de toi là tout près
Vivre toute ma vie
Que mon corps soit le tien
e ta lèvre la mienne
Que ton cœur soit le mien
Et que toute ma chair soit tienne
わたしは悔やまないわ
望みはただ一つ
あなたのそばで すぐそばで
一生 生きること
わたしの身体があなたの身体に
そしてあなたの唇が私の唇になるといい
あなたの心がわたしの心に
わたしの肉体のすべてがあなたの肉体となるといい
{Refrain}
Oui je vois dans tes yeux
La divine promesse
Que ton cœur amoureux
Vient chercher ma caresse
Enlacés pour toujours
Brûlant des mêmes flammes
Dans un rêve d'amour
Nous échangerons nos deux âmes
ええ あなたの眼のなかに読みとれるわ
あなたの恋する心が
わたしの愛撫を求めに来るという
崇高な約束が
永遠に抱きしめ合い
同じ炎に身を焦がしながら
愛の夢のなかで
ふたつの魂を交換しましょう

{Refrain}
[注]
1 vœuは「誓い」「願い、要望」の両義があり、ここでは後者。cèder à …「…に譲歩する、屈する」。
2 直訳すると「私をあなたの女主人にして」だが、être (le) maître(sse) de …およびse rendre maître(sse) de…「…を支配する、思いどおりにできる」などの意味に合わせた訳がふさわしい。
3 Que la sagesse soit loin de nous.「良識は私たちから遠いところにあればいい」の意味。
Je te veux(version homme) ジュ・トゥ・ヴー(君が欲しい:男性版)
{Refrain :}
Ange d’or, fruit d’ivresse
Charme des yeux
Donne-toi, je te veux
Tu seras ma maîtresse
Pour calmer ma détresse
Viens, ô déesse
J’aspire à l’instant précieux
Où nous serons heureux
Je te veux

黄金の天使よ、陶酔の果実よ
ひとみの魅力よ
君をくれ、君が欲しい
僕を支配してくれ
俺の苦しみを鎮めるために
おいで、おお 女神よ
二人がしあわせに過ごす
貴重な時間を持ちたい
君が欲しい
Tes cheveux merveilleux
Te font une auréole
Dont le blond gracieux
Est celui d’une idole
Que mon cœur soit le tien
Et ta lèvre la mienne
Que ton corps soit le mien
Et que toute ma chair soit tienne
君のすばらしい髪は
君を後光で飾る
その優美なブロンドは
偶像の色だ
僕の身体が君の身体に
そして君の唇が僕の唇になるといい
君の心が僕の心に
僕の肉体のすべてが君の肉体となるといい
{Refrain}
Oui, je vois, dans tes yeux
La divine promesse
Que ton cœur amoureux
Vient chercher ma caresse
Enlacés pour toujours
Brûlés des mêmes flammes
Dans des rêves d’amour
Nous échangerons nos deux âmes
そうさ、君の眼のなかに読みとれるよ
君の恋する心が
僕の愛撫を求めに来るという
崇高な約束が
永遠に抱きしめ合い
同じ炎に身を焦がしながら
愛の夢のなかで
ふたつの魂を交換しよう
{Refrain}
女性が男性に「あなたが欲しい、私の言いなりになって」と言う、思いのほか過激な歌。のちに「僕を支配してくれ」という男性版の歌詞も、また、内容を発展させたピアノ独奏版も作られました。
1925年にイヴォンヌ・ジョルジュYvonne Georgeが収録しました。古い音源なので聴きづらいですが、→こちらで聴けます。
たいへん音域が広い曲なので、ジェシー・ノーマンJessye Normanやマテ・アルテリーMathé Altéryなどのソプラノ歌手が歌っています。フランスのシャンソン歌手としてはジュリエットJulietteくらいですが、ここでご紹介できる音源がありません。iTuneで曲を買うことは可能です。
変わったところでは、
ベルギーのデュオ・チーム、バイア・コン・ディオスVaya Con Diosが、かなり歌いやすい形にして歌っています。
日本の非常に風変わりなデュオ・チーム、ALI PROJECT(蟻プロジェクト)がフランス語と日本語でちょっとロリータ風に歌っています(宝野アリカ:ボーカル・作詞、片倉三起也:作曲・編曲)。発音がちょっと違うところがありますが…。
Je te veux(version femme) ジュ・トゥ・ヴー(あなたが欲しい:女性版)
{Refrain :}
J'ai compris ta détresse
Cher amoureux
Et je cède à tes vœux 注1
Fais de moi ta maîtresse 注2
Loin de nous la sagesse 注3
Plus de tristesse
J'aspire à l'instant précieux
Où nous serons heureux
Je te veux
あなたの苦しい気持ちは分かったわ
愛しいひと
だからあなたの望みを受け入れる
わたしの言いなりになって
良識はそっちのけにし
悲しみも忘れて
二人がしあわせに過ごす
貴重な時間を持ちたいわ
あなたが欲しい

Je n'ai pas de regrets
Et je n'ai qu'une envie
Près de toi là tout près
Vivre toute ma vie
Que mon corps soit le tien
e ta lèvre la mienne
Que ton cœur soit le mien
Et que toute ma chair soit tienne
わたしは悔やまないわ
望みはただ一つ
あなたのそばで すぐそばで
一生 生きること
わたしの身体があなたの身体に
そしてあなたの唇が私の唇になるといい
あなたの心がわたしの心に
わたしの肉体のすべてがあなたの肉体となるといい
{Refrain}
Oui je vois dans tes yeux
La divine promesse
Que ton cœur amoureux
Vient chercher ma caresse
Enlacés pour toujours
Brûlant des mêmes flammes
Dans un rêve d'amour
Nous échangerons nos deux âmes
ええ あなたの眼のなかに読みとれるわ
あなたの恋する心が
わたしの愛撫を求めに来るという
崇高な約束が
永遠に抱きしめ合い
同じ炎に身を焦がしながら
愛の夢のなかで
ふたつの魂を交換しましょう

{Refrain}
[注]
1 vœuは「誓い」「願い、要望」の両義があり、ここでは後者。cèder à …「…に譲歩する、屈する」。
2 直訳すると「私をあなたの女主人にして」だが、être (le) maître(sse) de …およびse rendre maître(sse) de…「…を支配する、思いどおりにできる」などの意味に合わせた訳がふさわしい。
3 Que la sagesse soit loin de nous.「良識は私たちから遠いところにあればいい」の意味。
Je te veux(version homme) ジュ・トゥ・ヴー(君が欲しい:男性版)
{Refrain :}
Ange d’or, fruit d’ivresse
Charme des yeux
Donne-toi, je te veux
Tu seras ma maîtresse
Pour calmer ma détresse
Viens, ô déesse
J’aspire à l’instant précieux
Où nous serons heureux
Je te veux

黄金の天使よ、陶酔の果実よ
ひとみの魅力よ
君をくれ、君が欲しい
僕を支配してくれ
俺の苦しみを鎮めるために
おいで、おお 女神よ
二人がしあわせに過ごす
貴重な時間を持ちたい
君が欲しい
Tes cheveux merveilleux
Te font une auréole
Dont le blond gracieux
Est celui d’une idole
Que mon cœur soit le tien
Et ta lèvre la mienne
Que ton corps soit le mien
Et que toute ma chair soit tienne
君のすばらしい髪は
君を後光で飾る
その優美なブロンドは
偶像の色だ
僕の身体が君の身体に
そして君の唇が僕の唇になるといい
君の心が僕の心に
僕の肉体のすべてが君の肉体となるといい
{Refrain}
Oui, je vois, dans tes yeux
La divine promesse
Que ton cœur amoureux
Vient chercher ma caresse
Enlacés pour toujours
Brûlés des mêmes flammes
Dans des rêves d’amour
Nous échangerons nos deux âmes
そうさ、君の眼のなかに読みとれるよ
君の恋する心が
僕の愛撫を求めに来るという
崇高な約束が
永遠に抱きしめ合い
同じ炎に身を焦がしながら
愛の夢のなかで
ふたつの魂を交換しよう
{Refrain}
Comment:1

ボリス・ヴィアンBoris Vianは、本人が歌う「脱走兵Le déserteur」と、作詞した「マッキーの哀歌La complainte de Mackie」をすでに取り上げました。「僕はスノッブだJ'suis snob」という曲は、1954年に彼自身が作詞し、ジミー・ワルターJimmy Walterが作曲。トランペッターでありジャズ評論家でもある彼らしいジャズ的な曲想と、彼独特の歌詞の面白さがマッチングした洒落た曲で、歌詞には男性ヴァージョンと女性ヴァージョンがあります。「脱走兵Le déserteur」と同様、1956年のアルバム:Chansons "possibles" et " impossibles"に収録されました。
日本語でもスノッブという言葉は通用しますが、辞書によると、「社交界や流行を規範とし、自分が上流社会に属するかのようにふるまう俗物」ということです。歌詞はそれを揶揄するというより、テーマとして転がして遊んでいる感じでしょうか。
ムルージMouloudjiも歌っています。セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgも、歌詞を見ながらいい感じで歌っています。バンジャマン・ビオレーBenjamin Biolay の語るような歌い方も魅力的です。
J'suis snob(version homme) 僕はスノッブだ(男性ヴァージョン)
Boris Vian ボリス・ヴィアン
J'suis snob... j'suis snob
C'est vraiment l'seul défaut que j'gobe 注1
Ça demande des mois d'turbin
C'est une vie de galérien
Mais quand j' sors avec Hildegarde, 注2
C'est toujours moi qu'on r'garde
J'suis snob... foutrement snob
Tous mes amis le sont
On est snobs et c'est bon
僕はスノッブだ…僕はスノッブだ
それは本当のところ僕の持つ唯一の欠点さ
それは何か月もの仕事を要する
ガレー船の奴隷の生活さ
だがヒルデガルドのお蔭で抜け出した時には
注目されるのはいつも僕さ
僕はスノッブだ…ものすごくスノッブだ
僕の友だちは皆そうさ
スノッブなんだよ それはいいことさ
Chemises d'organdi, chaussures de zébu
Cravate d'Italie et méchant complet vermoulu 注3
Un rubis au doigt... de pied, pas çui-là 注4
Les ongles tout noirs et un tres joli p'tit mouchoir 注5
J'vais au cinéma voir des films suédois 注6
Et j'entre au bistro pour boire du whisky à gogo 注7
J'ai pas mal au foie, personne fait plus ça 注8
J'ai un ulcère, c'est moins banal et plus cher
オーガンジーのシャツ、コブウシの革靴
イタリア製のネクタイと古くさくみすぼらしい三つ揃え
指にはルビーを付ける…そっちじゃなく足のね
爪はみな真っ黒で1枚のとても綺麗な小さなハンカチ
僕はスウェーデン映画を見に映画館に行く
ビストロに入ってウィスキーをがぶがぶ呑む
僕は肝臓は悪くない、誰ももうそんなことはしないさ
僕は潰瘍を持っていて、それは並じゃないだけに貴重なのさ

J'suis snob... c'est bat ! 注9
J'm'appelle Patrick, mais on dit Bob
Je fais du ch'val tous les matins
Car j'ador' l'odeur du crottin
Je ne fréquente que des baronnes 注10
Aux noms comme des trombones
J'suis snob... Excessivement snob
Et quand je parle d'amour
C'est tout nu dans la cour
僕はスノッブだ…それはビューティフルだ!
僕はパトリックというが、ボブと呼ばれる
僕は毎朝乗馬をやる
なぜって馬糞の匂いが好きだからさ
僕はトロンボーンのような名前の
女男爵たちとしか付き合わない
僕はスノッブだ…ものすごくスノッブだ
それで愛を語るときは
中庭で素っ裸でってことさ
On se réunit avec les amis
Tous les vendredis, pour faire des snobisme-parties
Y a du coca, on déteste ça
Et du camembert qu'on mange à la petite cuiller
Mon appartement est vraiment charmant
J'me chauffe au diamant, on n'peut rien rêver d'plus fumant 注11
J'avais la télé, mais ça m'ennuyait
Je l'ai r'tournée... d'l'aut' côté c'est passionnant
友だちと集まって
毎金曜日、スノビズム・パーティーをやるんだ
コカコーラがある、それ嫌いだけどね
カマンベールも それをちっちゃなスプーンで食べる
僕のアパルトマンは実にステキさ
僕は黒いダイヤで暖房する、これより上等に煙いものは望めない
僕は以前テレビを持っていた、だがつまらなかった
それをひっくり返した…うしろ向きに それは傑作さ

J'suis snob... ahhah
J'suis ravagé par ce microbe
J'ai des accidents en Jaguar
Je passe le mois d'août au plumard
C'est dans les p'tits détails comme ça
Que l'on est snob ou pas
J'suis snob... encor plus snob que tout à l'heure 注12
Et quand je serai mort
J'veux un suaire de chez Dior!
僕はスノッブだ…アハハー
僕はバイキンに冒されている
僕はジャガーに乗って何度も事故を起こした
僕は8月はベッドで過ごす
スノッブかそうじゃないかというのは
細かく言えばこんなところさ
僕はスノッブだ…さっきよりももっとスノッブだ
そして僕が死んだ時には
ディオールの死に装束を着たいな!

[注]歌詞サイトの一般的な歌詞を最初訳したのち、ボリス・ヴィアンが実際に歌っているのと違うことに気づき、歌に忠実な歌詞を見つけて修正した。
1 goberは「飲み込む、鵜呑みにする」「真に受ける」あるいは「評価する」という意味。自分のdéfaut「欠点」をgoberするというのは、「欠点を認める」くらいの意味だろう。
2 Hildegardeは幻視を得た実在の聖女。
3 méchantは「いじわるな」が本来の意味だが、名詞の前に付けて「危険な」あるいは「素晴らしい」「みすぼらしい」などの特殊な意味になる。ここでは、vermoulu「古くさい」もつけられているので、「みすぼらしい」を選んだ。ほかの豪華なものと対比させているようだ。
4 pas çui-là(=celui-là)そっち(手の指)じゃない。
5 爪が汚れて真っ黒。
6 特に、スウェーデン・ポルノのことを言うのだろう。
7 à gogo「好きなだけ、たらふく、浴びるほど」。1947年にフランスのパリに開店したディスコテックの名前が「Whisky à Gogo(またはGo-Go)」。それに因み、1964年にアメリカのハリウッド、サンセット大通りに開店したナイトクラブも同じ名前。
8 avoir mal au foie「(飲み過ぎで)肝臓がおかしい」
9 c'est bat !のbatは、英語のbeautifulからきた言葉で、 昔はこのような言葉遣いが面白がられていたが、今はほとんど使われない。
10 fréquenter(人と)「よく会う、付き合う」。結婚を目的として異性と付き合うことも言う。
11 charbon「石炭」を、純粋な charbon「炭素」であるdiamantに言い換え、fumantの「 煙を出す」と「素晴らしい」の二つの意味をかけて表現している。日本でも20世紀初頭まで、貴重な「石炭」を「黒いダイヤ」と呼んでいた。また、黒いダイヤモンドなるものも存在する。
12 tout à l'heureは「もうすぐ」の意味もあるが、ここは「少し前に、さきほど」。
女性ヴァージョンは、「雨の舗道Un soir de pluie」で以前ご紹介したブルース・トロットワールBlues Trottoirを選び、あらたに動画を作りました、
J'suis snob(version femme) 私はスノッブ(女性ヴァージョン)
J'suis snob... j'suis snob
C'est vraiment l'seul défaut que j'gobe
Ça demande des mois d'turbin
C'est une vie de galérien
Mais lorsque je suis à son bras,
J'suis fier' du résultat
J'suis snob... J'suis snob
Tous mes amis le sont
On est snobs et c'est bon
私はスノッブ…私はスノッブ
それは本当のところ私の持つ唯一の欠点よ
それは何か月もの仕事を要する
ガレー船の奴隷の生活
でも彼の腕にぶらさがっているとき
その成果を誇らしく思うの
私はスノッブ…私はスノッブ
私の友だちは皆そうよ
スノッブなの それはいいことよ
Nylons du Congo, guêpière de pilou, 注12
Chaussures de Diego et méchant deux pièces à cent sous 注13
Un rubis au doigt... de pied, pas çui-là
Les ongles tout noirs et un très joli p'tit mouchoir
J'vais au cinéma voir des films suédois
Et j'entre au bistro pour boire du whisky à gogo
J'ai pas mal au foie, personne fait plus ça
J'ai un ulcère, c'est moins banal et plus cher
コンゴーレッドのナイロンストッキング、ネル地のコルセット、
ディエゴの靴と百スーのダサいツーピース
指にはルビーを付ける…そっちじゃなく足のね
爪はみな真っ黒で1枚のとても綺麗な小さなハンカチ
スウェーデン映画を見に映画館に行くの
ビストロに入ってウィスキーをがぶがぶ呑むの
私は肝臓は悪くないの、誰ももうそんなことはしないわ
私は潰瘍を持っていて、それは並じゃないだけに貴重なの

J'suis snob... j'suis snob
J'm'appelle Chantal, mais on dit Bob,
Je fais du ch'val tous les matins
Car j'ador' l'odeur du crottin
Je ne fréquente que des baronnes 注14
Aux noms comme des trombones
J'suis snob... j'suis snob
Et quand je parle d'amour
C'est tout' nue dans la cour
私はスノッブ…私はスノッブ
私はシャンタルというけど、ボブと呼ばれるの
私は毎朝乗馬をやる
なぜって馬糞の匂いが好きだからよ
私はトロンボーンのような名前の
男爵たちとしか付き合わない
私はスノッブ…私はスノッブ
それで愛を語るときは
中庭で素っ裸でってことよ
On se réunit avec les amis
Tous les mercredis, pour faire des snobisme-parties
Y a du coca, on déteste ça
Et du camembert qu'on mange à la petite cuiller
Mon appartement est vraiment charmant
J'me chauffe au diamant, on n'peut rien rêver d'plus fumant
J'avais la télé, mais ça m'ennuyait
Je l'ai r'tournée... d'l'aut' côté, c'est passionnant
友だちと集まって
毎水曜日、スノビズム・パーティーをやるのよ
コカコーラがあるわ、それ嫌いだけどね
カマンベールも それをちっちゃなスプーンで食べるの
私のアパルトマンはとってもステキよ
私は黒いダイヤで暖房する、これより上等に煙いものは望めないわ
私は以前テレビを持っていた、でもつまらなかった
それをひっくり返した…うしろ向きに それは傑作よ
{instrumental}
J'suis snob... encore plus snob que tout à l'heure
J'ai une foudroyante garde-robe 注15
J'ai des accidents en Jaguar
Je passe le mois d'août au plumard
C'est dans les p'tits détails comme ça
Que l'on est snob ou pas
J'suis snob... j'suis snob
Et le jour de ma mort
J'veux un suaire de chez Dior!
私はスノッブ…さっきよりももっとスノッブ
私はめちゃ衣装持ち
私はジャガーに乗って何度も事故を起こした
私は8月はベッドで過ごす
スノッブかそうじゃないかというのは
細かく言えばこんなところ
私はスノッブ…私はスノッブ
そして私が死ぬ日には
ディオールの死に装束を着たいわ!

[注] 動画の歌は少々違うところがあるが、こちらのほうが一般的だろう。
12 nylons du Congoは「コンゴー・レッドのナイロン・ストッキング」。congo red(rouge congo)は鮮やかな赤の色素で、その名前は、コンゴ川の流路を解き明かした英国人ヘンリー・モートン・スタンリーSir Henry Morton Stanleyが探検を開始したのが、この色素が発明された年であったことによる。毒性が高すぎるため、綿織物、木材パルプ、紙などのセルロース工業には用いられていないというが、あえてストッキングの色としている。guêpièreはウエストニッパーに似たウエストを細く整える女性下着。
13 Diego Bellini「ディエゴベリーニ」はイタリアの靴のブランド。
14 女性ヴァージョンはbarons「男爵」にすべきだろうが、次行のtrombonesと韻を踏むためbaronnesのままにしている。訳語は「女男爵」とせず「男爵」とした。
15 garde-robe「洋服ダンス」集合的に「衣装一式」。avoir une garde-robe fournie「衣装持ちである」のfournie「豊かな、豊富な」をfoudroyant「電撃的な、すさまじい、驚異的な」に変えて誇張している。
Comment:0

「私は一人片隅でEt moi dans mon coin」という曲を、私は最初、グラシェラ・スサーナGraciela Susanaの日本語の歌で知りました。元は1966年のシャルル・アズナヴールCharles Aznavourの曲で、自分の恋人がカフェで、ほかの相手と接近していくのを見ているという状況を描いています。「片隅でdans mon coin」といっても、どうやら同席しているようで、何も言わず何の行動もせず心のなかで思っているだけ、という意味で「片隅で」というようです。古賀力の日本語歌詞はそれを女性の立場に置き換えながらも原曲の内容にかなり忠実です。正確に言うと、元の歌詞の「僕」をそのまま女性に変えたというより、相手の男の彼女の立場を想定した歌詞です。
私は、メロディーが魅力的なことだけでなく、歌詞内容が昔の苦い経験とダブるという個人的事情もあって、この曲にちょっと執着しています。
この日本語歌詞は、日本語シャンソンには珍しく個々の音符に何音節もの言葉を詰め込んでいて、間延びせず、フランス語と同等の言葉数がある感じに聴こえます。この曲なら、元の歌詞を女性向けに直すよりもと、私の日本語歌唱の唯一のレパートリーにしました。
カーメン・マクレエCarmen McRaeが歌うGuess who I saw todayというジャズの曲も、似た状況を描いています。こちらは、買い物のあとで偶然立ち寄ったカフェで仲良くいちゃついている男女を見かけ、帰宅後に夫にその話をし、「私がきょう誰に会ったとお思いになる?Guess who I saw today」と訊きます。そのあと、「それはあなたよ」という言葉で曲は終わります。
昔の苦い経験とは? 若かった私、最初は片隅にいたんですが、たまらなくなり、ずかずかと近づいて抗議してしまいました。結局は破局。今ならカーメン・マクレエ風になれるのに、Il est trop tard.もう遅すぎますね。
イタリア語での曲名はEd io tra di voi (「僕は君たちの間で」の意味)
グラシェラ・スサーナ
Et moi dans mon coin 私は一人片隅で
Charles Aznavour シャルル・アズナヴール
Lui il t’observe
Du coin de l’œil
Toi tu t’énerves
Dans ton fauteuil
Lui te caresse
Du fond des yeux
Toi tu te laisses 注1
Prendre à son jeu
あいつ あいつは君をうかがう
目の隅で
君 君は神経をとがらす
肘掛け椅子のなかで
あいつは君を
目の奥で愛撫する
君 君は捕えられる
あいつのたわむれに
Et moi dans mon coin
Si je ne dis rien
Je remarque toutes choses
Et moi dans mon coin
Je ronge mon frein 注2
En voyant venir la fin 注3
そして僕は片隅にいて
何も言わないまでも
すべてを見ている
そして僕は片隅にいて
終末が見える気がして
苛立ちを抑えきれない

Lui il te couve
Fiévreusement
Toi tu l’approuves
En souriant
Lui il te guette
Et je le vois
Toi tu regrettes
Que je sois là
あいつ あいつは君をじっと見つめる
熱に浮かされたように
君 君はそれを許している
ほほえみながら
あいつ あいつは君を狙っている
そして僕はそれを見ている
君 君は当惑している
僕がここにいるので
Et moi dans mon coin
Si je ne dis rien
Je vois bien votre manège
Et moi dans mon coin
Je cache avec soin
Cette angoisse qui m’étreint
そして僕は片隅にいて
何も言わないまでも
君たちのやり口をよく見ている
そして僕は片隅にいて
細心に隠している
僕をとらえる不安を
Lui te regarde
Furtivement
Toi tu bavardes
Trop librement
Lui te courtise
A travers moi 注4
Toi tu te grises
Ris aux éclats 注5
あいつ あいつは君を観察する
こっそりと
君 君はしゃべっている
いたって気楽に
あいつは君に言い寄る
僕をさしおいて
君 君はうっとりし
大声で笑いだす
Et moi dans mon coin
Si je ne dis rien
J’ai le cœur au bord des larmes
Et moi dans mon coin
Je bois mon chagrin
Car l’amour change de main 注6
そして僕は片隅にいて
何も言わないまでも
泣きだしそうな気持ちになる
そして僕は片隅にいて
苦汁を飲む
愛がひとの手に渡ってしまうから

{Parlé} 注7
Oh ! non c’est rien
Peut-être un peu de fatigue
Pas de tout qu’est-ce que tu vas chercher là? 注8
Non, non j’ai passé une excellente soirée
{語り}
ああ!なんでもないさ
たぶんちょっと疲れただけさ
全くなんでもないよ 君は何を思っているんだい?
いや、いや素敵な夜だったよ
[注]
1 se laisser prendre「捕まる」「だまされる」
2 ronger son frein「いらだちを抑え切れない」
3 voir venir「見透かす、予測する」という意味合い。
4 à travers qn.「…を通して、介して」。この状況では、「さしおいて」くらいか。
5 rire aux éclats「大声で笑う」
6 changer de main(s)「(ものが)所有者を変える」
7 自分の気持ちを隠し、なんでもないように装って彼女に話している内容。
8 pas du tout「全然…ない」。chercherは会話で「想像・推測する」の意味で、Qu’allez-vous chercher?「あなたはどう思いますか」と同様の表現。
Comment:0

今回は、ギヨーム・アポリネールGuillaume Apollinaireの詩にレオ・フェレLéo Ferréが曲をつけて歌っている「ミラボー橋Le pont Mirabeau」。この詩は、画家マリー・ローランサンMarie Laurencinとの恋の終焉を歌ったもので、詩集「アルコールAlcools」(1913年)に収められています。
下の左の画像はアンリ・ルソーHenri Rousseauの絵「詩人に霊感を与えるミューズ The Muse Inspiring the Poet」(1909年)で、アポリネールとローランサンをあらわしています。右はローランサン。


アポリネールは、1880年にイタリアのローマで生まれたポーランド人の詩人・小説家・美術批評家。19歳のときにパリに出て、当時モンパルナスに集まっていた、パブロ・ピカソPablo Picasso、マルク・シャガールMarc Chagall、マルセル・デュシャンMarcel Duchamp、フェルナン・レジェFernand Légerらの芸術家たちと交流します。そして1913年に、随筆「キュビストの画家たちLes Peintres cubistes」を発表して、印象主義を批判し、キュビスムの画風の革新性を論じて何人もの前衛画家を紹介し、新時代の芸術の確立に貢献しました。そのため、「キュビスムCubisme運動」の先導者といわれています。

詩作では、詩集「腐ってゆく魔術師L'enchanteur pourrissant」(1909年)、句読点を一切用いない独特の文体の「アルコールAlcools」(1913年)、文字で絵を描くという斬新な手法の「カリグラムCalligrammes」が代表作。
匿名で出版した「若きドン・ジュアンの冒険Les exploits d'un jeune Don Juan」は、奔放な性生活を綴り、ベストセラーとなりました(1987年に映画化)。また、短編集「異端教祖株式会社L'hérésiaque Et Cie」は、語呂合わせの技法を縦横に駆使した幻想的な世界を描いています。マルキ・ド・サドMarquis de Sadeの再評価とその文学の復興にも尽力し、自身も、同性愛やサディズム、殺人に関する描写をふんだんに盛り込んだ小説「一万一千本の鞭Les Onze Mille Verges」(1907年)を書きましたが、これは1970年まで発禁とされていました。
第1次世界大戦に従軍し、1916年に負傷。よく知られている頭に包帯を巻いた写真はこの時のものです。1917年、戯曲「ティレシアスの乳房Les Mamelles de Tirésias」が上演され、その翌年の1918年にスペイン風邪で病死。38歳でした。彼もペール・ラシェーズ墓地に埋葬されています。死の直後に「カリグラムCalligrammes」が公刊されました。
レオ・フェレLéo Ferréはこの曲をはじめ、アポリネールやアルチュール・ランボーArthur Rimbaud等の詩を歌詞として作曲した曲のコンサートを1986年に開き、ライブアルバムLéo Ferré chante les poètesを出しました。
フェレの歌。ミラボー橋のほかセーヌ川の橋の写真がいっぱい用いられている動画です。
同じメロディで、イヴェット・ジローYvette Giraudほかも歌っていますが、セルジュ・レジアーニSerge Reggianiはまた違った美しいメロディーで歌っています。
マルク・ラヴォワーヌMarc Lavoineの、まったく違った歌い方もなかなか面白いです。
パウワウPow Wowというグループもおしゃれに歌っています。
Le pont Mirabeau ミラボー橋
Léo Ferré レオ・フェレ
Sous le pont Mirabeau coule la Seine
Et nos amours 注1
Faut-il qu'il m'en souvienne 注2
La joie venait toujours après la peine
ミラボー橋のしたをセーヌ川は流れる
ぼくたちの恋も流れ去る
思い出せというのか
辛いことのあとにはかならず歓びが来たことを

Vienne la nuit sonne l'heure 注3
Les jours s'en vont je demeure
夜よ来い 鐘よ時を告げるがいい
日々は過ぎようが 僕はこのままさ
Les mains dans les mains restons face à face 注4
Tandis que sous
Le pont de nos bras passe
Des éternels regards l'onde si lasse 注5
手に手をとって 見つめ合おうよ
つないだ僕らの腕の橋のしたを
見られっぱなしにうんざりした波が
通り過ぎていくあいだ

Vienne la nuit sonne l'heure
Les jours s'en vont je demeure
夜よ来い 鐘よ時を告げるがいい
日々は過ぎようが 僕はこのままさ
L'amour s'en va comme cette eau courante
L'amour s'en va
Comme la vie est lente 注6
Et comme l'Espérance est violente 注7
流れるこの水のように恋は行ってしまう
恋は行ってしまう
なんと生の歩みののろいこと
またなんと希望の酷なことよ
Vienne la nuit sonne l'heure
Les jours s'en vont je demeure
夜よ来い 鐘よ時を告げるがいい
日々は過ぎようが 僕はこのままさ

Passent les jours et passent les semaines 注8
Ni temps passé
Ni les amours reviennent 注9
Sous le pont Mirabeau coule la Seine
何日も過ぎ 何週も過ぎ
過ぎた時間も
愛も戻って来はしない
ミラボー橋のしたをセーヌ川は流れる
Vienne la nuit sonne l'heure
Les jours s'en vont je demeure
夜よ来い 鐘よ時を告げるがいい
日々は過ぎようが 僕はこのままさ
[注] eで終わる女性韻が多いことで、優しい響きを与える詩である。大家の翻訳も数多いが、それらと若干異なる解釈を自分なりの自信をもって示したい。下に、堀口大學訳を記載する。
1 nos amoursにcoulentを補って読み取る必要がある。Sous le pont Mirabeau coulent la Seine et nos amoursと記述したとしても、耳で聞く分には同じである。
2 Faut-il…!「…としか思えない、全く…である」という成句があるが、ここは単なるIl faut…の疑問文である。souvenirは文語で、「…が思い出される」の意で、se souvenir「(…を)思い出す」とは異なる用法。Il me souvient de qcやIl me souvient que+ind.といった形で用いられる。ここでは、queが省かれているが、次行につながる。直訳すると、「(次行の内容)が思い出される必要があるのか」。
3 Vienne la nuit sonne l'heure接続法の倒置法で、願望・仮定をあらわすが、次行とのつながりで、譲歩のニュアンスと解釈される。この点、仏語の解説文をいくつか参照して確認した。
4 命令文。愛し合っていた頃の状態にとどまったままの気持ちを表現しているのだろう。
5 語順を戻して読み取る必要がある。L'onde passe sous le pont de nos bras.「私たちの腕の橋の下を波が過ぎる。」そしてl'ondeをsi lasse des éternels regards「(恋人たちが)いつまでも注ぐ視線にうんざりした」と説明している。なお、le pontには「橋」の意味のほか、「つながり、関係」の意味もあり、ここは、二つの意味を兼ねた表現。
6 Comme…「なんと…だ」という感嘆文。
7 Espéranceが大文字になっている。「希望」すなわち強引に未来へと急き立てるものの暴力性を表現している。<vie-est-lente>→ <vi-o-lente>の語呂合わせが絶妙。
8 主語と動詞が倒置されている。
9 reviennent の主語はtemps passéとles amours で、niで否定され、reviennentの前のneが省略されている。souvienne、vienne、reviennentという語呂合わせにも注目したい。
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ
われらの恋が流れる
わたしは思い出す
悩みのあとには楽しみが来ると
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
手に手をつなぎ顔と顔を向け合はう
かうしていると
われ等の腕の橋の下を
疲れたまなざしの無窮の時が流れる
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
流れる水のように恋もまた死んでいく
恋もまた死んでゆく
生命ばかりが長く
希望ばかりが大きい
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
日が去り、月がゆき
過ぎた時も
昔の恋も 二度とまた帰って来ない
ミラボーー橋の下をセーヌ河が流れる
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
Comment:0

今回は、フランソワ・トリュフォーFrançois Truffaut監督の1962年の映画「突然炎のごとくJules et Jim」で、女優のジャンヌ・モローJeanne Moreauが歌った、「つむじ風Le tourbillon」。映画にアルベール役で出演したシリュス・バシアックCyrus Bassiak (別名セルジュ・レズヴァニSerge Rezvani)が作詞し、音楽監督のジョルジュ・ドルジュGeorges Delerueが作曲しました。先日取り上げた「極楽生活La vie de cocagne」もシリュスの作でした。
映画では、ジュールとジムという二人の青年が、アドリア海で見た彫像↓にそっくりの美女カトリーヌに出会ったところから、三人の三角関係が始まります。詳細なあらすじは→こちらを。

邦題は「つむじ風」とされていてそれを採用しますが、tourbillonはつむじ風以外にも渦状のものすべてを指し、つむじ風すなわち塵旋風はそのうちのひとつで、フランス語ではtourbillon de poussièreといいます。たしかに、カトリーヌの気まぐれさ、激しさにはふさわしいかもしれません。原題はLe tourbillon de la vieともされ、歌詞には「人生の渦」という意味が表れています。
映画のなかで、シリュスがギターを弾いて、モローが歌っているシーンです。
Le tourbillon つむじ風
Jeanne Moreau ジャンヌ・モロー
Elle avait des bagues à chaque doigt,
Des tas de bracelets autour des poignets,
Et puis elle chantait avec une voix
Qui sitôt m’enjôla
彼女はどの指にも指輪をはめ
手首にはたくさんのブレスレットをつけていた
そして彼女は歌っていた
その声は即座に僕をたぶらかした
Elle avait des yeux, des yeux d’opale
Qui m’fascinaient, qui m’fascinaient,
Y avait l’ovale d’son visage pâle
De femme fatale qui m’fut fatal {x2} 注1
彼女は僕を魅惑する、魅惑する
オパール色の目を、目をしていた
その青白い顔は卵形で
ひとを破滅させる妖婦のもの、その妖婦は僕を破滅させた

On s’est connus, on s’est reconnus,
On s’est perdus d’vue, on s’est r’perdus d’vue
On s’est retrouvés, on s’est réchauffés
Puis on s’est séparés
僕たちは出会い、ふたたび会い、
会わなくなり、ふたたび会わなくなり
ふたたび出会い、ふたたび燃え上がり
そして別れた
Chacun pour soi est reparti
Dans l’tourbillon d’la vie 注2
Je l’ai revue un soir, aïe, aïe, aïe! 注3
Ça fait déjà un fameux bail {x2} 注4
それぞれ自分勝手にまた立ち去った
人生の渦のなかで
ある晩 僕は彼女にまた出会った、いやはやなんたること!
ずいぶん久しぶりだね!

Au son des banjos, je l’ai reconnu 注5
Ce curieux sourire qui m’avait tant plu
Sa voix si fatale, son beau visage pâle
M’émurent plus que jamais 注6
バンジョーの音色を聴きながら、僕はそれとわかった
僕がとっても気に入っていたこの不思議な笑みを
男を狂わせる声と、美しい青白い顔は
僕の心をかつてないほどかき乱した
Je me suis soûlé en l’écoutant
L’alcool fait oublier le temps
Je me suis réveillé en sentant
Des baisers sur mon front brûlant {x2}
その声を聞きながら僕は陶酔した
アルコールは時を忘れさせる
熱い額に口づけされたのを感じて
僕は目覚めた
On s’est connus, on s’est reconnus,
On s’est perdus d’vue, on s’est r’perdus d’vue,
On s’est retrouvés, on s’est séparés
Puis on s’est réchauffés
僕たちは出会い、ふたたび会い、
会わなくなり、ふたたび会わなくなり
ふたたび出会い、別れ
それからふたたび燃え上がった
Chacun pour soi est reparti
Dans l’tourbillon d’la vie
Je l’ai revue un soir ah là là
Elle est retombée dans mes bras {x2}
それぞれ自分勝手にまた立ち去った
人生の渦のなかで
ある晩 僕は彼女にまた出会った、あらら
彼女はまた僕の腕のなかに飛び込んだ

Quand on s’est connus,
Quand on s’est reconnus,
Pourquoi s’perdre d’vue,
Se reperdre d’vue?
Quand on s’est retrouvés,
Quand on s’est réchauffés,
Pourquoi se séparer?
出会って、
ふたたび会って、
なぜ会わなくなるんだ、
なぜふたたび会わなくなるんだ?
ふたたび出会って、
ふたたび燃え上がって
なぜ別れるんだ?
Alors tous deux, on est repartis
Dans l’tourbillon d’la vie
On a continué à tourner
Tous les deux enlacés {x3}
それからふたりして、戻って行った
人生の渦のなかに
回り続けた
ふたりで抱き合って
[注] ジャンヌが歌っているが、男性(映画ではジム?)の立場の歌詞。
1 être fatal (à qn)「(…に)破滅(不幸、死)をもたらす」。femme fatale「男を破滅させる女、妖婦」
2 tourbillonは歌詞のなかでは「渦」と訳した。
3 aïeは不快な驚きを表す擬音語で「ちぇ、いやはや、やれやれ」。繰り返して用いられる。
4 Ça fait un bail.「ずいぶん長いことになる。」
5 l’=leは次行のce curieux sourire。
6 plus que jamais「かつてないほど」
Comment:0

今日、東京でちょっぴり降りはじめたのは雨なのか雪なのか?実は、「雪が降るTombe la neige」を出そうとずっと待っていたんですが、それはもっとドカンと雪が降ったら出すことにして、雨の曲を先に出すことにしましょう。もじどおり「雨が降るIl pleut」です。アズナヴールCharles Aznavourはソロ活動をし始める前、ピアニストのピエール・ロッシュPierre Rocheと「ロッシュ&アズナヴールRoche et Aznavour」というデュオを組んで歌っていましたが、1948年にそのロッシュといっしょに作って歌った曲。とても詩的な歌詞です。
1948年から1950年までの彼らの曲を集めたPierre Roche / Charles Aznavourという1996年のアルバムに、ロッシュとアズナヴールのデュオの歌が入っています。
後年、アズナヴールはソロで歌っています。
エディット・ピアフÉdith Piafも歌っています。
Il pleut 雨が降る
Charles Aznavour シャルル・アズナヴール
Il pleut
Les pépins tristes compagnons 注1
Comme d'immenses champignons
Sortent un par un des maisons
雨が降る
大きなキノコのような
陰気な連れの雨傘たちが
一つずつ家を出てくる

Il pleut
Et toute la ville est mouillée
Les maisons se sont enrhumées
Les gouttières ont la goutte au nez
雨が降る
街全体がびしょ濡れ
家たちは風邪を引き
樋が鼻水を垂らしている
Il pleut
Comme dirigés par un appel
Les oiseaux désertent le ciel
Nuages et loups
Les fenêtres, une larme à l'œil
Semblent toutes porter le deuil 注2
Des beaux jours
雨が降る
召集の合図に導かれたかのように
鳥たちは空から逃げ出す
雲たちやオオカミたち
窓たち、目の一粒の涙
みんな悼んでいるようだ
晴天の日々の喪失を
Il pleut
Et l'on entend des clapotis
La ville n'a plus d'harmonie
Solitaires, les rues s'ennuient
Il pleut
雨が降る
そしてザアザアと音が聞こえる
街はもう調和を失い
人気はなく、街路たちは退屈している
雨が降る

J'écoute
Quand s'égoutte
La pluie qui me dégoûte
Sur les chemins des routes
Et partout alentour
Les gouttes
Qui s'en foutent 注3
Ne savent pas sans doute
Que mon cœur en déroute 注4
A perdu son amour
僕は聞く
私をうんざりさせる雨が
街路のうえに
滴り落ちるのを
そしてあたり一面を覆う
雨粒どもは
おかまいなしだ
おそらく知りやしないんだ
僕の心が
恋人を失って混乱しているということを
Il pleut
Les pépins, tristes compagnons
Comme d'immenses champignons
Sortent un par un des maisons
雨が降る
大きなキノコのような
陰気な連れの雨傘たちが
一つずつ家を出てくる
Il pleut
Et toute la ville est mouillée
Les maisons se sont enrhumées
Les gouttières ont la goutte au nez
雨が降る
街全体がびしょ濡れ
家たちは風邪を引き
樋が鼻水を垂らしている

Il pleut
La nature est chargée d'ennuis
Là-haut tout est vêtu de gris
Le ciel est boudeur
Le nez aplati au carreau
J'attends, laissant couler le flot de mes pleurs
Il pleut 注5
雨が降る
野山は倦怠に覆われる
上方はすべてが灰色に包まれる
空は仏頂面をしている
鼻を窓ガラスにぺちゃんこにくっつけて
僕は待つ、涙がとめどなく流れるままに
雨が降る

Il pleut
Dans mon cœur aux rêves perdus
Sur mon amour comme dans la rue
Et sur mes peines sans issue
Il pleut
雨が降る
夢破れた僕の心のなかに
僕の愛の上に、通りに降るのと同様に
そしてはけ口のない僕の苦しみのうえに
雨が降る
[注] 擬人化した表現が目立つ歌詞である。
1 pépinいつも雨傘を離さないヴォードヴィルvaudeville(17世紀末にパリの大市に出現した演劇形式)の登場人物だが、会話で「雨傘」の意味で用いられる。
2 porter le deuil「喪服を着る」の本義のほか、「(心の中で大事にしてきたものを)失う」の意味にも用いられる。歌詞の意図を汲んで意訳した。
3 s'en foutre「(場所・状態に)身を置く」のほか「無視する、問題にしない」の意味もある。
4 en déroute「混乱している」。son amourはmon cœur「僕の心」を擬人化してそのamour「恋人」といった表現。「混乱した僕の心が恋人を失った」という文字通りの訳より「僕の心は恋人を失って混乱している」のほうが自然だろう。
5 ここがIl pleurとなっている歌詞がほとんどだったので悩んだ。ダリダDalidaの「雨のブリュッセルIl pleut sur Bruxelles」の記事に書いた、ポール・ヴェルレーヌPaul Verlaineの詩の一節、Il pleure dans mon cœur/Comme il pleut sur la ville「巷に雨の降るごとく わが心にも涙ふる」(堀口大学訳)を真似た表現かと思ったが、pleurerの3人称単数形pleureにせず、pleurとしているのはおかしいし、アズナヴールとピアフの歌を聴いて確認し、Il pleutに訂正した。
Comment:0

ジルベール・ベコーGilbert Becaudの「そして今はEt maintenant」(1961年、作詞ピエール・ドラノエPierre Delanoë、作曲ジルベール・ベコー)は、早鐘を打つ心臓の音を思わせるボレロのリズムに乗って、失恋時のどうしようもない心境を歌う曲です。彼がブリジット・バルドーBrigitte Bardotと別れた時に書かれたといわれます。その後に恋仲になったセルジュ・ゲンズブールは「バルドーを手に入れるのが人生最大の夢だった」と言ったそうですが、BBは男を惑わす美女だったようです。
のちに、グロリア・ラッソGloria Lasso、イザベル・オーブレIsabelle Aubret 、イザベル・ブーレイIsabelle Boulayなど、多くの歌手がカヴァーしています。ベコー自身、What now, my love?というタイトルで英語でも歌っていますが、英語圏でも、フランク・シナトラFrank Sinatra、エルビス・プレスリーElvis Aron Presley、アンディ・ウィリアムスHoward Andrew "Andy" Williamsほか多くの歌手が歌っています。日本語でもよく歌われています。
まずは、ジルベール・ベコーとブリジット・バルドーのラブラブの映像をご覧ください。
Et maintenant
What now, my love?
以前、「パリParis」をご紹介したエロディー・フレジェElodie Frégé
Et maintenant そして今は
Gilbert Becaud ジルベール・ベコー
Et maintenant que vais je faire
De tout ce temps que sera ma vie
De tous ces gens qui m'indiffèrent
Maintenant que tu es partie
そして今 僕はなにをすりゃいいんだ
人生のすべての時間
僕にはどうでもいい人々に対し
君が去ってしまった今

Toutes ces nuits, pour quoi pour qui
Et ce matin qui revient pour rien
Ce cœur qui bat pour qui pour quoi
Qui bat trop fort trop fort
夜が相変わらず訪れるのは、なんのため誰のためなのか
そして朝はなんの意味もなくまたやってくる
誰のためなんのために脈打つんだ
あまりにも強く あまりにも強く打つこの心臓は
Et maintenant que vais je faire
Vers quel néant glissera ma vie
Tu m'as laissé la terre entière
Mais la terre sans toi c'est petit
そして今 僕はなにをすりゃいいんだ
いかなる虚無に向かって僕の人生は滑り落ちて行くのか
君は僕に大地をまるごと残して行った
だが君のいない大地なんてちっぽけなものだ

Vous, mes amis, soyez gentils
Vous savez bien que l'on y peut rien
Même Paris crève d'ennui
Toutes ces rues me tuent
君たち、僕の友人たちよ、気遣ってくれないか
君たちは先刻承知のはずだ 手の打ちようがないってことを
パリの街さえも倦怠で死に瀕していて
どの通りだって僕を殺しかねない
Et maintenant que vais je faire
Je vais en rire pour ne plus pleurer
Je vais bruler des nuits entières 注1
Et au matin je te hairai
そして今 なにをすりゃいいんだ
これ以上泣かないためにこのザマを笑うことにするさ
夜はすべて発散燃焼させることにするさ
そうすりゃ朝には君を憎むようになる

Et puis un soir dans mon miroir
Je verrai bien la fin du chemin
Pas une fleur et pas de pleurs
Au moment de l'adieu 注2
そしてある晩 鏡のなかに
終点がちゃんと見えることだろう
花もなく 涙もないさ
さよならの時には
Je n'ai vraiment plus rien à faire
Je n'ai vraiment plus rien…
僕は本当にもうなにもすることはない
僕は本当にもうなにも…
[注]
1 燃やして無くしてしまうという捉え方もあるが、前行の「笑う」という表現の延長で、心に反したことを敢えておこなって状況を変えようとする、すなわち、お祭り騒ぎをしたり、別の女性たちと楽しんだりする意味だと解釈した。
2 au moment de l'adieu「さよならの時」とは、彼女のことを忘れ去った時で、その時には、fleur「花」すなわちロマンティックな気持ちや、pleurs「涙」も消える、と解釈した。この曲と同年に作られたセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの「プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて)La chanson de Prévert」とも相通じる歌詞内容だ。
Comment:4

今回は、ミレーヌ・ファルメールMylène Farmerの1988年のセカンドアルバムのタイトル曲「アンシ・ソワ・ジュAinsi soit je…」です。このアルバムは彼女の最初のダイアモンドディスクとなりました。ファルメール自身の作詞で、ローラン・ブトナLaurent Boutonnatの作曲。ファルメールの曲の歌詞はたいてい分かりにくいです。でも、とてもきれいな曲で歌いたくなりましたので、歌うからには可能な限り訳に挑戦してみることにしました。歌詞にboule d´incertitudeという言葉が出てきますが、私の訳も「不確かさの球」。邦題は悩んだ末、原題のカナ表記にとどめました。
性格の違いなどでうまくいかない二人の関係、本当は彼を愛していて淋しいのに嘘をつき逃げようとしてしまう、関係の修復を願いながら悲観しているといった状況。でも、これを相手に訴えているわけですし、あなたは私の状況を分かってくれているともあるので、けっして消極的な内容ではないでしょう。
Ainsi soit je… アンシ・ソワ・ジュ…
Mylène Farmer ミレーヌ・ファルメール
Bulle de chagrin
Boule d'incertitude
Tant de matins
Que rien ne dissimule
悲しみの泡
不確かさの球
たくさんの朝を
なにも隠してくれない

Je veux mon hiver
M'endormir loin de tes chimères
Je sais bien que je mens
Je sais bien que j'ai froid dedans
私は願う 私の冬が
あなたの妄想から遠いところで私を眠らせてくれるよう
よく分かっているわ 自分が嘘をついていること
よく分かっているわ 心のなかに寒さを感じていること
Bulle de chagrin
Boule d'incertitude
De nos destins
Naît que solitude
悲しみの泡
不確かさの球
私たちの運命からは
孤独しか生まれない
Tu dis qu'il faut du temps
Qu'aimer n'est pas un jeu d'enfant
Je sais bien que tu mens
Mais je suis si seule à présent
あなたは言う 時間が必要だと
愛することは子どもの遊びじゃないと
よく分かっているわ あなたが嘘をついていると
でも私は今とても孤独

{Refrain:}
Ainsi soit Je 注1
Ainsi soit Tu
Ainsi soit Il
「私」はこうあってほしい
「あなた」はこうあってほしい
かくあれかしと
Ainsi moi je 注2
Prie pour que Tu
Fuies mon exil 注3
こう私は
祈る あなたが
私の逃亡を止めてくれるようにと

Mais quel espoir
Pourrais-je avoir
Quand tout est noir?
でもどんな希望を
私は持てるの
すべてが真っ暗なとき
Ainsi soit Je
Ainsi soit Tu
Ainsi soit ma vie
Tant pis 注4
「私」はこうあってほしい
「あなた」はこうあってほしい
私の人生はこうあってほしいけど
しかたないわ

Bulle de chagrin
Boule d'incertitude
Deux orphelins
Que le temps défigure
悲しみの泡
不確かさの球
二人の孤児
時が彼らを歪めてしまう
Je voudrais mon hiver
M'endormir loin de tes chimères
Tu sais bien que je mens
Tu sais bien que j'ai froid dedans
私は願う 私の冬が
あなたの妄想から遠いところで私を眠らせてくれるよう
あなたは知っている 私が嘘をついていること
あなたは知っている 私が心のなかに寒さを感じていること
{au Refrain, x2}
[注]
1 ainsi「このように」は副詞で、文頭に置かれると主語と動詞は倒置される。接続法を用いているのは願望の意味。Ainsi soit-ilというアーメンAmenと同義の祈りの言葉をもじった表現であり、Ainsi sois-je / Ainsi sois-tu / Ainsi soit-ilとせず、主語をJe / Tu / Ilと大文字表記して代名詞ではない形で用い、動詞をすべて3人称単数形にしている。
…と解釈したが、タイトルでは、jeが小文字で、soitとなっており、[-]がついていない。どうにも説明がつかないが、言外の意味をあらわす「…」を加えてあることが鍵になるようだ。
2 曲全体がとてもきれいに韻を踏んでいるが、この3行も、前の3行(注1の部分)と韻を踏んでいる。前の3行が祈りの内容。
3 fuirは「逃亡する」という意味の自動詞ではなく、他動詞で、「避ける」という意味。mon exil「私の逃亡」を「阻止する」ということで、双方ともに逃亡して遠ざかっていくわけではない。
4 tant pis「それは残念、しかたがない」の意味。上記のことを祈るけれど、あきらめていることをあらわしている。
Comment:1

ミッシェル・ポルナレフMichel Polnareffは、「シェリーに口づけTout,tout pour ma chérie」「ノンノン人形La poupée qui fait non」が日本でも大ヒット、大きなサングラスとカールしたロングへアーをトレード・マークとし、お尻を露出したポスターやサングラスと帽子だけを付けたヌード写真を披露するなど、スキャンダラスな行動で世間を騒がせた人物です。
でもその裏に、幼時よりクラシック音楽の教育を受け、コンセルバトワール(パリ音楽院)に通っていたという、音楽的素養をきちんと持っています。その彼の音楽的下地の確かさが、この曲Lettre à Franceにも表れています。ポロポロと弾かれるピアノの旋律の美しさ、独特の前倒しの歌い方がとても印象的です。一般的には「哀しみのエトランゼ」という邦題で呼ばれていますが、それは副題とし、直訳の題名を用いることにしました。エトランゼを、エトランジェと訂正したいところでもありますし。
1973年、税務担当者の横領によって数年間の納税未納が発覚し、彼はアメリカに逃げ延びることになりますが、この曲は、彼方の国から祖国フランスに宛てたラブレターというかたちで作られた曲です。ジャン=ルー・ダバディJean-Loup Dabadieが作詞し、ポルナレフが作曲し1977年に、シングル版でリリースされました。翌78年のアルバム「美しきロマンの復活Coucou me revoilou」に収録されたと思っていましたが、そのアルバムが1989年にCD化された時に初めて収録されたそうです。コメントをいただき判明しました。
Lettre à France フランスへの手紙(哀しみのエトランゼ)
Michel Polnareff ミッシェル・ポルナレフ
Il était une fois 注1
Toi et moi
N'oublie jamais ça
Toi et moi !
昔々
君と僕がいた
けっしてそれを忘れないで
君と僕がいたんだ!
Depuis que je suis loin de toi
Je suis comme loin de moi
Et je pense à toi tout bas
Tu es à six heures de moi
Je suis à des années de toi
C'est ça être là-bas 注2
僕が君から遠く離れてからは
僕は自分自身からも遠くなったみたいだ
そして僕は君をひそかに思ってる
君は僕から6時間の距離に
僕は君から何年もの距離にいる
こっちにいるってそういうことさ

La différence
C'est ce silence
Parfois au fond de moi
違いはね
時おり僕の心の奥におとずれる
この静けさなんだ
Tu vis toujours au bord de l'eau
Quelquefois dans les journaux
Je te vois sur des photos
Et moi, loin de toi
Je vis dans une boite à musique
Electrique et fantastique
Je vis en chimérique 注3
君はいつも水のほとりで生きている
時々は新聞のなかで
僕は君を写真で見る
君から遠いところにいる僕は
ファンタスティックな電気仕掛けの
オルゴールのなかで生きている
ぼくは空想のなかに生きている

La différence
C'est ce silence
Parfois au fond de moi
違いはね
時おり僕の心の奥におとずれる
この静けさなんだ
Tu n'es pas toujours la plus belle
Et je te reste infidèle
Mais qui peut dire l'avenir
De nos souvenirs ?
Oui, j'ai le mal de toi parfois 注4
Même si je ne le dis pas
L'amour c'est fait de ça
君は常に一番きれいってわけじゃない
そして僕は君に不実なままだ
でも誰が 僕たちの思い出の
その後のことを言えるだろう?
そう、僕は時々君が懐かしくなる
かりに僕がそう言わなくったってね
愛ってそんなものさ

Il était une fois
Toi et moi
N'oublie jamais ça
Toi et moi !
昔々
君と僕がいた
けっしてそれを忘れないで
君と僕がいたんだ!
Depuis que je suis loin de toi
Je suis comme loin de moi
Et je pense à toi là-bas
Oui, j'ai le mal de toi parfois
Même si je ne le dis pas
Je pense à toi tout bas
僕が君から遠く離れてからは
僕は自分自身からも遠くなったみたいだ
そして僕はかなたの君を思っている
そう、僕は時々君が懐かしくなる
かりに僕がそう言わなくったってね
僕は君をひそかに思っているんだ
[注]
1 Il était une fois…「昔々、あるところに…がいました」といった、おとぎ話の書き出し。
2 là-basは、「向こう」とか「あっち」という意味だが、ここでは自分のいるところを、君から見て「向こう」として示すので、「こっち」と訳した。後半で、君がいるところを指す部分では「かなた」と訳した。
3 avoir le mal de qqn は、être en mal de qqnと同義で、誰かの不在を辛く思うという意味。
4 chimériqueは、空想の、架空のという意味の形容詞だがここでは名詞的に用いられ、Amériqueすなわちアメリカ(大陸)をかけている。
Comment:3

今回は、アンリ・コルピHenri Colpi監督の映画「かくも長き不在Une aussi longue absence」(1961年。原作:マルグリット・デュラスMarguerite Duras)のテーマ曲、コラ・ヴォケールCora Vaucaireの「三つの小さな音符Trois petites notes de musique」(作詞:アンリ・コルピHenri Colpi 、作曲:ジョルジュ・ドルリューGeorges Delerue)です。昔、デュラスが好きでよく読んでいたということもあって訳したくなりました。映画と歌詞内容は無関係なようですが、「記憶」という共通テーマを持っているようです。
まずはざっと、あらすじを。
カフェの女主人テレーズ(アリダ・ヴァリAlida Valli)は、ゲシュタポに連行され行方不明になった夫アルベールを待ち続けています。夫と思しき浮浪者(ジョルジュ・ウィルソンGeorges Wilson)を見つけ、店に引き入れます。男は記憶を失っていますが、テレーズは夫であることを確信していきます。彼女は何とか男の記憶を取り戻させようと、夕食に誘い、昔二人がよく歌った曲「三つの小さな音符Trois petites notes de musique」をジュークボックスでかけ、二人はダンスを踊ります(→そのシーン)。そのとき、後頭部にゲシュタポによって行われた脳手術のあとがあることに彼女は気づきます。男の記憶は戻らず立ち去ってしまいますが、テレーズは、いつか冬がくればあの人はきっと戻ってくると言いながら、男を見送ります。
コラ・ヴォケール
イヴ・モンタンYves Montandも歌っています。
Trois petites notes de musique 三つの小さな音符
Cora Vaucaire コラ・ヴォケール
Trois petites notes de musique
Ont plié boutique 注1
Au creux du souvenir
C’en est fini de leur tapage
Elles tournent la page 注2
Et vont s’endormir
三つの小さな音符が
想い出のなかで
鳴り止んだ
音符たちは演奏を終え
譜面を閉じて
眠りにつく
Mais un jour sans crier gare 注3
Elles vous reviennent en mémoire 注4
だがある日、予告もなく
音符たちは君たちの記憶のなかに蘇る
Toi, tu voulais oublier
Un p’tit air galvaudé 注5
Dans les rues de l’été
Toi, tu n’oublieras jamais
Une rue, un été
Une fille qui fredonnait
君は、忘れたいと思っていた
夏に街で聞いた
ある短いありふれたフレーズを
君は、けっして忘れないだろう
ある街を、ある夏を
ハミングしていたひとりの少女を

La, la, la, la, je vous aime 注6
Chantait la rengaine
La, la, mon amour
Des paroles sans rien de sublime
Pourvu que la rime 注7
Amène toujours
Une romance de vacances 注8
Qui lancinante vous relance
ララララ、愛してるわ
流行り歌は歌っていた
ララ、恋人よ
高尚でもなんでもない歌詞を
韻が常に
運んでくれさえすればいい
君たちに付きまとい胸を疼かせる
ヴァカンスの恋歌を
Vrai, elle était si jolie
Si fraîche épanouie
Et tu ne l’as pas cueillie
Vrai, pour son premier frisson
Elle t’offrait une chanson
A prendre à l’unisson
本当に、彼女はとてもきれいで
みずみずしく花開いていた
けれど君は彼女を摘まなかった
本当に、初めて心が震えたことに
彼女は君にもちかけた ある歌を
いっしょに歌おうと

La, la, la, la, tout rêve
Rime avec s’achève 注9
Le tien n’rime à rien
Fini avant qu’il commence 注10
Le temps d’une danse
L’espace d’un refrain
ララララ、すべての夢は
韻を踏んで終わる
君の夢はなんの韻も踏まず
ダンスの拍子も
ルフランの部分も
始まらないうちに終わる
Trois petites notes de musique
Qui vous font la nique 注11
Du fond des souvenirs
Lèvent un cruel rideau de scène 注12
Sur mille et une peines
Qui n’veulent pas mourir
三つの小さな音符が
想い出の底で
君たちをあざ笑い
過酷な幕を開ける
消え去ろうとしない
無数の苦しみの場面の
[注]
1 plier boutique「店じまいする、店を畳む、仕事をやめる」
2 tourner la page成句として「新たな問題に移る、(今までのことは忘れて)先へ進む」。ここでは原義を活かして意訳した。
3 crier gare「警告する」gareは「駅」とは異なる語で間投詞「…に注意しろ、気をつけろ」。
4 このellesはもちろんtrois petites notes de musique 「三つの小さな音符たち」。vousはこのあと出てくるtoi+elle。
5 airには複数の意味があり、ここでは「歌、歌の節」。galvauderは「浪費する、乱用する」で、galvaudéは「使い古された、乱用された」の意味となる。
6 La, la, la, la,je vous aimeと、あとのLa, la, mon amourは、流行歌の歌詞。
7 Pourvu que「…であればよい、…でありさえすればよい」
8 参照した歌詞では、この前で節が区切られていたが、意味的に前行とつながるので区切りをなくした。une romanceは前行のamèneの目的語。「恋愛詩、恋の歌」で、日本で言うロマンスとは意味が違う。
9 rimer avec「韻を踏む」。rimer (~à,avec)「(…と)韻を踏む」。
10 il+(出現・存在・欠如を示す)動詞+名詞の構文で、名詞(le temps, l’espace)が意味上の主語。この二語は「拍子」「(五線譜の)間、線間」という音楽用語として解釈した。
11 faire la nique à qn.「…をあざ笑う、嘲笑する」
12 scène「舞台、場面」lever un rideau de scène「(芝居の)幕を上げる、幕を切って落とす」→「始める」主語はtrois petites notes。mille et un, mille et deuxなどは、多数をあらわす比喩的表現。surは「…に関する、…についての」で、scèneを修飾。
Comment:4

今回は、リュシエンヌ・ドリールLucienne Delyleが歌う「私のジゴロC'est mon gigolo」です。gigoloっていったい何なのかネットで調べたら、フランス語で、「女性から金銭的サポートを受けて性的な関係を続ける男性、いわゆるヒモ」あるいは、「エレガントな若者で、どのように生活しているのか不明の者」「女性のダンスのパートナーとして雇われた男性」とありました。辞書では、「若いつばめ」「見かけ倒しの優男」などと。漢字で書けば「治五郎」? ごめんなさい、その名前の人に怒られそうですね。
gigoloをテーマとした映画・演劇としては、フランソワーズ・サガンFrançoise Saganの戯曲Le gigolo、映画「真夜中のカーボーイMidnight cowboy」、リチャード・ギアRichard Gere主演の映画「アメリカン・ジゴロAmerican gigolo」。そして、1978年にデヴィッド・ヘミングズDavid Hemmingsの作ったドイツ映画Schöner gigolo, armer gigolo (Just a gigolo)などがあります。
この曲はもともと、イタリアの作曲家レオネッロ・カズッチLeonello Casucci が作曲したSchöner gigolo, armer gigoloというタンゴの曲。1929年にドイツ語の歌詞でドイツで発表されました。
ダミアDamia や、ベルト・シルヴァBerthe Sylvaは、フランス語に翻案した歌詞で歌いました。
アメリカではルイ・アームストロングLouis Armstrong やビング・クロスビーBing CrosbyがJust a gigoloというタイトルで英語で歌い、ジャズのナンバーとして多くのピアニストたちに演奏されてきました。
原曲のSchöner gigolo, armer gigolo
フランスでは1952年にリュシエンヌ・ドリールLucienne Delyleがあらたな歌詞で録音し、この曲をリバイバルさせました。その後、この曲を使った映画La môme Pigalleが作られ、そこで、クローディーヌ・デュピClaudine Dupuisが歌っています。デュピの動画は残念ながら削除されました。
リュシエンヌ・ドリールLucienne Delyle
ジャクリーヌ・フランソワJacqueline François
ヴィッキー・オーティエVicky Autierのピアノの弾き語り
上に挙げたデヴィッド・ヘミングズのドイツ映画では、マルレーネ・ディートリッヒMarlene Dietrichが、英語でこの曲を歌っています。→動画の後半で歌が始まります。
C'est mon gigolo 私のジゴロ
Lucienne Delyle リュシエンヌ・ドリール
{Refrain:}
C’est mon gigolo
Charmant gigolot
Avec ses yeux plein de flammes
M’aime-ti, je n’en sais rien 注1
Mais il m’prend si bien
Qu’à lui je suis corps et âme !
Son amour est faux
Mais il est si beau
Qu’il plaît à toutes les femmes
Et je m’dis, bien des fois
Je voudrais l’avoir seul pour moi 注2
Je l’aime trop
Mon gigolo
それは私のジゴロ
燃えるまなざしの
すてきなジゴロ
私を愛しているのか、私にはわからない
でも彼は私をちゃんと射止め
身も心も、私は彼のもの
彼の愛はいつわりだけど
彼はとても美しくて
すべての女性たちに好かれるわ
だから私は思うの、いつだって
彼を独占したいと
私はあまりにも愛しているのよ
私のジゴロを

Quand j’ai suibi l’attirance irresistible
L’exquis attirait de tes grands yeux de velours 注3
Bien follement, j’ai fait le rêve impossible…
De te garder à moi, toujours, toujours…
さからえない魅力について行くと
あなたのビロードのような大きな瞳の甘美さが心を誘い
おろかにも、私は叶わぬ夢を描いてしまう
あなたを私のもとに、ずっと、ずっと、引き留めておくという…
Moi, je n’avais que mes baisers pour richesse
Mais des baiser, pour toi, c’est pas beaucoup
Et ma tendresse
N’est rien auprés de l’argent, des bijoux
私が、富といえるものとして持っているものは接吻しかない
でもあなたにとって、接吻など、たいしたものじゃないし
わたしの優しさだって
お金や宝石に比べりゃ何でもないのね
{au Refrain}
[注]
1 -tiは、3人称単数疑問形のt-ilが短縮されたもので、疑問文での主語の倒置を避けるために俗語で用いられる。
2 彼を、とりまきなしに一人にした状態で所有したいという文脈だが意訳した。
3 exquisは形容詞だが、ここでは名詞として用いられている。
Comment:0

以前、「忘却J'oublie(Oblivion) 」を取り上げました。今回は、それと同様に、ミルバMilvaがアストル・ピアソラAstor Piazzollaの曲を彼のバンドネオン伴奏でフランス語で歌い、同じライブアルバムに収録されている「チェ・タンゴ・チェChe tango che」です。「忘却」の記事でアストル・ピアソラAstor Piazzollaについて少々解説していますので参照ください。
また、「忘却J'oublie(Oblivion) 」の記事に出した「ライヴ・イン・東京1988」の全ステージの動画にも、「チェ・タンゴ・チェChe tango che」は入っています。40:05くらいから始まります。字幕に出ている邦訳は私の解釈とは異なりますが。
ヴァイオリンのギドン・クレーメルGidon Kremerとの共演も素晴らしいです。
Che tango che チェ・タンゴ・チェ
Milva & Astor Piazzolla ミルヴァ&アストル・ピアソラ
Che tango che 注1
rosée usée 注2
abusée et
désabusée
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
バラ色に染められ、使い古され
もてあそばれ そして
目を覚まされた私
チェ・タンゴ・チェ

che tango che
qui m’as draguée
qui m’as droguée
qui m’as croquée
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
私を引っ掛け
私に麻薬を飲まし
私をものにした
チェ・タンゴ・チェ
che tango che
limée minée
élimée et
éliminée
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
磨かれ 蝕まれ
擦り切れ そして
つまみ出された私
チェ・タンゴ・チェ
che tango che
qui m’as violée 注3
qui m’as viciée
qui m’as virée
チェ・タンゴ・チェ
私を汚し
私を犯し
私を追っぱらった
che tango che
fauchée fichée
esseulée et
déboussolée
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
巻き上げられ 放り出され
一人ぼっちで
途方に暮れた私
チェ・タンゴ・チェ
qui me frôlais
qui m’affolais
et qui m’as flouée
che tango che
私にちょっかいを出し
私をかき乱し
そして私を騙した
チェ・タンゴ・チェ
tu m’as fait valdinguer
tu m’as fait déglinguer
tu m’avait déshabillée
tu m’avait dévergondée
おまえは私を押し倒した
おまえは私をめちゃめちゃにした
おまえは私を脱がせ
おまえは私をふしだらにした

tu m’as fait me pâmer
tu m’as fait me paumer
tu m’avait tannée
tu m’avait matée
tu m’as baratinée
et tu m’as laissée rétamée
おまえは私をしびれさせ
おまえは私を惑わした
おまえは私を打ちのめし
おまえは私を屈服させ
おまえは私を言いくるめた
そしておまえは私をへとへとにさせた
(tango)
(タンゴ)
che tango che
râpée tapée
camée cassée
décarcassée
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
ぼろぼろにされ 叩かれて
麻薬中毒にされ 皺くちゃにされ
骨抜きにされた私
チェ・タンゴ・チェ
che tango che
qui m’as gâtée
qui m’as fêtée
qui m’as jetée
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
私を甘やかし
私を祭り上げ
私をほうり出した
チェ・タンゴ・チェ
bandominée 注4
bandorlotée
bando dormant
néon néant 注5
abandonée
バンドに支配され
バンドにちやほやされた私
バンドは休止し
ネオンは消滅
捨てられた私

che tango che
qui m’as soûlée
qui m’as roulée
et qui m’as coulée
チェ・タンゴ・チェ
私を酔わせ
私を騙し
そして私を破滅させた
che tango che
tango câlin
tango éteint
tango destin
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
甘ったれタンゴ
しょぼくれタンゴ
運命のタンゴ
チェ・チェ・タンゴ・チェ
qui m’as grisée
qui m’as brisée
mais qui m’as aimée
私をうっとりさせた
私を傷つけた
けれど私を愛してくれた
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
che tango che
チェ・タンゴ・チェ
[注]
1 che tango cheのcheは、アルゼンチン、ウルグアイで、「ねぇ」「あの」といった意味で用いられ、「チェ・バンドネオンChe bandoneón」という曲の歌詞は、バンドネオンに呼びかける内容。ここはあえて日本語にせず、読みのカナ表記にした。呼びかけの場合は¡che! とも表記され、アルゼンチン人がよく使うので、チェcheはアルゼンチン人のあだ名にもなっている。ちなみにキューバ革命の闘士ラモーン Ramónはチェ・ゲバラChe Guevaraの愛称で呼ばれる。
2 この節やほかのいくつかの節では過去分詞の女性形が並ぶが、男性名詞のtangoを形容するものではなく、女である自分がタンゴによってもたらされた状態を形容している。次節ほかでは複合過去が用いられているが、過去分詞が代名詞meに性数一致するのでqui m’as draguéeなどと女性形にならねばならない。採用した動画に添えられた歌詞は間違えている。
3 qui m’as viciée/ qui m’as violée/qui m’as viréeの順に歌っている音源もある。
4 bandominéeとbandorlotéeはそれぞれ、dominée、dorlotéeにbandonéon「バンドネオン」の前半のbandoを合体させた造語。bando dormantは2語に分けている。
※バンドネオンbandonéonという名称は、発明者のドイツ人ハインリヒ・バンドHeinrich Bandの名に由来する。1829年にウィーンで発明されたアコーディオンaccordion(仏accordéon)に続き、1834年にドイツでキーがボタン式のコンサーティーナconcertinaという楽器が開発される。その後ハインリヒ・バンドがその音域を広げ改良し、1847年にバンドネオンを発明した。
5 bandonéonの後半のnéonは「ネオンサイン、ネオン管」の意味の語と同じ。語呂合わせでnéant「虚無、無価値」を加えている。
Comment:0

今回の曲は、フランス語版「マック・ザ・ナイフMack The Knife」である「マッキーの哀歌La complainte de Mackie」です。
ドイツで初演されたベルトルト・ブレヒトBertolt Brechtの戯曲「三文オペラDie Dreigroschenoper」(1928年)の挿入歌「メッキー・メッサーのモリタートDie Moritat von Mackie Messer」は、主人公マッキーMackie (ドイツ語読みでメッキー)が犯罪を犯すときに口笛で吹く歌で、ブレヒトの原詞をもとにマーク・ブリッツスタインMarc Blitzsteinが作詞し、クルト・ワイルKurt Weillが作曲。1954年、「三文オペラ」の英訳版のThe Threepenny Operaのニューヨーク公演の際に英詞がつけられ、Mack The Knifeという名で呼ばれるようになりました。1956年にルイ・アームストロングLouis Armstrongが歌い,59年にはボビー・ダーリンBobby Darinがカバーし,ビルボード年間ヒットNo.1,グラミー賞最優秀新人賞と最優秀レコード賞を受賞しました。その後、エラ・フィッツジェラルドElla Jane Fitzgeraldはじめ多くの歌手がカバーしています。
クルト・ワイルの妻のロッテ・レンヤLotte Lenyaの歌うドイツ語の元歌
それをフランス語に翻案した歌詞は2種類あり、ひとつはダミアDamia、フロレルFlorelle、ユーグ・オーフレイHugues Aufrayなどが歌っているもの。はっきり言ってこちらはあまりおもしろくありません。
もうひとつは、ボリス・ヴィアンBoris Vianが作詞したもので、こちらを取り上げることにします。本人のほか、カトリーヌ・ソヴァージュCatherine Sauvageやローラ・フィジー Laura Fygiなどが歌っていて、ボリス・ヴィアンとカトリーヌ・ソヴァージュのデュエットのものもあるようです。
3人のなかでオランダ人歌手のローラ・フィジーLaura Fygiを選ぶことにしました。この曲は2007年のアルバム:Rendez-vous に収録されています。
彼女 は1955年にアムステルダムで生まれ、母親はエジプト人の元ベリー・ダンサー。技師であった父親の転勤で、幼い頃に南米のウルグアイに移り、そこで育ちました。しかし60年代はじめに父親が亡くなり、オランダに戻りました。20歳の時にテラTerraという多国籍のバンドに参加しましたが、テラは2枚のシングルを出したあと2年ほどの活動で解散。そのあとローラは、センターフォールドCenterfoldというセクシーな女性トリオに7年間参加しました。トリオが活動をやめた91年に、ソロ歌手としてアルバム「瞳のささやきIntroducing」でデヴュー。その後、シャンソン、ラテン、ジャズの曲のアルバムを続々と出し、最近では2011年にニュー・アルバムThe best is yet to comeを出しています。
先日、ローラ・フィジーの動画を作成し投稿しました。Youtubeではカトリーヌ・ソヴァージュの歌が削除され、ボリス・ヴィアンの歌詞の歌は他にはないようです。
La complainte de Mackie マッキーの哀歌
Laura Fygi ローラ・フィジー
Les dents longues, redoutables 注1
Le requin tue sans merci 注2
Le surin au fond d'la poche
Sans reproche, c'est Mackie 注3
貪欲な歯を持つ、恐ろしいやつ
サメは殺すよ 容赦なく
ポケットの底にはナイフ
完璧さ、そいつはマッキー

Sur les bords de la Tamise
Le sang coule dans la nuit
On périt les poches vides
Poches pleines, quelqu'un fuit
テームズの川のほとり
宵闇に血が流れる
命を落とすやつのポケットは空っぽ
ポケットを膨らませ、誰かが逃げる
Gens de bien ou hommes riches 注4
Disparaissent au grand jour 注5
Sur leurs traces, quelqu'un passe
Qui ramène le butin
慈善家や金持ちの旦那が
真っ昼間に消える
彼らの足あと踏んで、誰かが通る
戦利品を持ち去るやつが
Jenny Trowler agonise
Un couteau entre les seins
Sur la rive dans l'eau grise 注6
M'sieur Mackie s'en lave les mains
ジェニー・トロウラーは死に瀕す
ナイフが胸に刺さり
川岸では 濁った水で
マッキー氏が手を洗う

Et la veuve d'âge tendre 注7
Que l'on viole dans son lit
Que l'on vole sans attendre 注8
Le gentleman, c'est Mackie
また 若い後家さんを
彼女のベッドで強姦し
すぐさま物品も失敬
その紳士、それはマッキー
Incendie sur la ville 注9
Le feu brille, la mort vient
On s'étonne, on questionne
Oui mais Mackie ne sait rien
街なかで火事だ
火が燃えさかる、死がやって来る
みんなは驚く、みんなは尋ねる
ああ だがマッキーの知ったことか
Le sang coule des mâchoires
Au repas du grand requin
Mains gantées et nappe blanche
M'sieur Mackie croque son prochain...
血がアゴを伝い落ちる
でっかいサメのお食事時
手には手袋、白いテーブルクロス
マッキー氏はかぶりつく 次の…に

Les dents longues, redoutables 注10
Le requin tue sans merci
Ummmm…c'est Mackie
貪欲な歯を持つ、恐ろしいやつ
サメは殺すよ 容赦なく
ウムムム…そいつはマッキー
[注]多くの歌詞サイトで示される歌詞と、カトリーヌ・ソヴァージュ、ローラ・フィジー、Le collectif 129が実際に歌っている歌詞とは少し違う部分があるので、訂正した。下記に個別に説明を加える。
1 Avoire des dents longues「貪欲である」。
2 sans merci「容赦なく」
3 sans reproche「非の打ち所なく、完全に」
4 この節は、いずれの歌手も歌わないので文字の色を変えた。gens de bien「慈善家」
5 au grand jour「真っ昼間に」
6 多くの歌詞ではles rivesと複数になっているが、歌手たちは単数形で歌っている。
7 d'âge tendre「年若い」。tendreは「若い」という意味では、こうした用例でしか用いられない。
8 volerは「飛ぶ」と「盗む」の両義があり、ここは後者。sans attendre「ただちに」
9 この行は、Le feu gronde dans la villeとされていることが多いが、歌手たちは実際にはこのように歌っている。
10 この節をローラは歌わず、前節の最後のM'sieur Mackie croque son prochain..を繰り返して終わっている。
Mack the knife
Oh the shark has pretty teeth, dear
And he shows them pearly white
Just a jack knife has MacHeath, dear
And he keeps it out of sight
When the shark bites with his teeth, dear
Scarlet billows start to spread
Fancy gloves though wears MacHeath, dear
So there's not a trace of red
On the sidewalk, Sunday morning
Lies a body oozing life
Someone's sneaking round the corner
Is the someone Mack the knife?
From a tug boat by the river
A cement bag's dropping down
The cement's just for the weight, dear
Bet you Mack is back in town
Louie Miller disappeared, dear
After drawing out his cash
And MacHeath spends like a sailor
Did our boy do something rash?
Sukey Tawdry, Jenny Diver
Polly Peachum, Lucy Brown
Oh the line forms on the right, dear
Now that Mack is back in town
Comment:0

ジャンヌ・モローJeanne Moreauは1928年生まれ、英仏混血の大女優で、出演した映画は数えきれません。その筆頭は、やはりマイルス・デイビスMiles Davis演奏の主題曲で知られる「死刑台のエレベーターAscenseur pour l'échafaud」でしょう。「雨のしのび逢いModerato cantabile」ではカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞。そして1962年の「突然炎のごとくJules et Jim」で「つむじ風Le tourbillon」を歌って以来、歌手としての肩書も得ました。1969年の「ジャンヌ、ジャンヌを歌うJeanne chante Jeanne」は、自身の詩を元にした曲が収められています。「雨のしのび逢いModerato cantabile」の原作者マルグリット・デュラスMarguerite Durasには縁があるようで、「インディア・ソングIndia song」は、デュラスの同名の著作をデュラス自身が1975年に監督制作した同名の映画の挿入歌。2001年の「デュラス 愛の最終章Cet amour-là」では、老齢のデュラスになりきった演技が好評でした。
ごく新しいところでは、2011年に6人組ロックバンドTête Raidesのクリスティァン・オリヴィエChristian Olivierとデュオで「エマEmma」という曲を歌っています(アルバムL'an Demain desに収録)。2012年には「クロワッサンで朝食をUne Estonienne à Paris」という映画に出演。80歳をとっくに超え、老いてますます盛んなりです。
今回取り上げるのは「極楽生活La vie de cocagne」というちょっと変わった曲で、62年のアルバム:Chante 12 chansons deすなわち、シリュス・バシアックCyrus Bassiak (別名セルジュ・レズヴァニSerge Rezvani)の作った12の曲をモローが歌っているアルバムのうちの1曲です。そのジャケット(記事の冒頭の画像)の写真は、「突然炎のごとくJules et Jim」で、シリュスがギターを弾いて、彼が作った「つむじ風Le tourbillon」をモローが歌っているシーンです。
ジャズ的なアレンジがステキな曲です。現実の味気ない生活のなかで夢みる極楽のような生活。でも、最後は現実に戻らなきゃならない。お正月や冬休みが終わっていつもの生活に戻った今、同感だと感じる人は多いかも…。
La vie de cocagne 極楽生活
Jeanne Moreau ジャンヌ・モロー
Je rêve toujours d'me tirer, d'me barrer, 注1
D'me tailler, de foutre le camp
Moi qu'aimerais tant m'arrêter d'cavaler 注2
Prendre le temps
D'avoir des chats, des petits chats,
Des chiens, des tas d'enfants,
Un vieux fauteuil au coin du feu
Où me laisser glisser à deux,
Avoir mes bouquins sous la main
Qui s'ouvrent d'eux-mêmes
Aux pages que l'on aime
Et qu'on relit sans fin
Parce qu'on les aime 注3
私はいつも夢みてる 抜け出し、逃げ出し、
ずらかり、逃亡することを
私ったらね、うんと願ってるの
駆けずり回るのをやめて
猫たちや、子猫たちや
犬たちや、たくさんの子供たちがいる時間をもつの
炉辺の古いひじ掛け椅子があって
二人いっしょに座り込むの、
好きなページが
勝手に開いて
際限なく読み返せる
そんな本を片手に持つの
だって私たちそんなこと好きだから

Un petit clocher de Cocagne
Que j'entendrais tinter
L'hiver tout comme l'été,
La nuit, le jour, sur la campagne
Me donneraient envie de n'plus changer ma vie,
On verrait chaque soir
L'tourbillon fou du monde devant la télé,
Mes chats, mes chiens roupillant à nos pieds
À poings fermés
Et qu'au dehors le vent d'hiver
Se donnerait un mal de chien 注4
Pour faire plier les peupliers
Que nous aurions plantés à deux
Et les soirées d'automne couleraient
Douces et monotones
Et chaque nuit on se dirait "chéri, on réveillonne" 注5
極楽の小さな鐘が
鳴るのが聞こえ
冬はまったく夏のようで、
田舎での夜と昼は
私に自分の生活をもう変えないよう願わせるわ、
私たちは毎晩、
テレビの前で、世界の目まぐるしい動きを見るの、
私の猫たち、犬たちは私たちの足元で
こぶしを握ってぐっすり眠りこんでいて
そして外では冬の風が
私たちが二人で植えたポプラの木を
束ねるのに
すごく苦労するのよ
そして甘くて単調な
秋の宵がいくつも過ぎて行き
毎夜、私たちは「いとしい人、真夜中の晩餐をしようよ」と言うのよ

Aïe ! Quelle petite vie de Cocagne
L'hiver tout comme l'été
J'pourrais pas m'en lasser,
La nuit, le jour, dans ma campagne
Ni vue et ni connue dans mon petit coin perdu
あぁ!なんとささやかな極楽生活
冬はまったく夏のようで、
私は飽きることなどできやしないわ、
夜も、昼も、田舎で
人里離れた場所での誰にも見られることも知られることもないのよ
Mais v'là qu'il faut me tirer, me barrer, 注6
Me tailler, foutre le camp,
J'ai même pas l'temps d'm'oublier
Un instant loin du présent,
Adieu mes chats, mes petits chats, mes chiens
Adieu le vent,
Ce vieux fauteuil au coin du feu,
J'm'y serais jamais planquée à deux
C'est bête ce rêve que j'fais chaque jour
Dans ma p'tite auto
En venant du bureau
Qui pourrit ma vie de nostalgie.
だけどもう、抜け出し、逃げ出し、
ずらかり、逃亡しなきゃならない、
現在から遊離した一瞬のあいだ
自分を忘れる時間さえ私はもう持ってないの、
さようなら、私の猫たち、子猫たち、犬たち
さようなら、風よ
炉辺の古いひじ掛け椅子よ、
私がそこに二人で腰を落ち着けるなんてこと絶対ないわ
馬鹿げてるわ、
憧れの生活を腐らせる会社を出て、
ちっちゃな車のなかで
私が毎日見るこの夢は。
[注] 採用した歌詞サイトでは、タイトルはcocagneと表記し、歌詞中はCocagneと大文字で表記しており、そのまま用いた。この語は「享楽」の意の古語で、vie de cocagne「極楽生活」、 pays de cocagne「宝の国」などの限られた表現でしか使われない。仮名書きすると「コカーニュ」。菓子パンを意味する語あるいは青色染料を意味する語が語源だといわれる。ヨーロッパの国々にはそれぞれに、同じ意味の類似した語がある。カナダには、Cocagneという地名があるようだ。
1 se tirer, se barrer, se tailler, foutre le campはすべて同義で、「逃げ出す」こと。
2 qu'はquiのiの省略。Moi qui…は関係詞節を伴った「私って…だ。」といった表現。そしてaimeraisにm'arrêter…とprendre le tempsがつながり、そのle tempsにd'avoirがつながり、そのavoirする対象は、des chatsからdes tas d'enfantsまで。次のun vieux fauteuilの説明がoùの行。そこのme laisser glisserと次のavoirは不定詞で、これもaimerais tantとつながると考えられる。avoirの対象はmes bouquinsで、そのあとのqui以下がそれを説明している。
3 lesは列記された事柄。とくに不定詞であらわされた内容。
4 se donner un mal de chienは、「たいへんな苦労をする」風が木を束ねるというのは、本のページが勝手に開くのと同様、ファンタスティックな空想である。
5 réveillonnerはクリスマスイヴや大晦日にお祝いの夜食をとること。
6 ここでは極楽生活の夢から逃げ出して現実生活に戻るわけだ。

Comment:2

今回は、カナダのケベックの詩人・シンガー・ソングライターであるジル・ヴィニョーGilles Vigneaultの「わが故郷Mon pays」。雪で覆われた酷寒の地ケベックを歌った曲で、1965年に発表し、翌66年に同名のアルバムに収録されました。
彼は1928年にケベック州の海辺の町ナタシュカンで、漁師の息子として生まれ、長い勉強ののち、詩人、コント作家になりました。ロンサールPierre de Ronsard、ユーゴーVictor Hugo、ネリガンÉmile Nelligan、 ランボーArthur Rimbaud、ボードレールCharles Baudelaire、ヴェルレーヌPaul Verlaineを崇拝し、ソネットやアレクサンドラン形式の詩を書いていましたが、1950年頃から、複数の歌手にシャンソンを提供し始め、1960年からは自らシンガー・ソングライターとしての活動を始めました。作品数は300を超え、昨年2014年の最新盤まで、出したアルバムは37枚。7人の子どものうち4人が音楽ミュージシャンです。現86歳で風貌はレオ・フェレ風でしょうか、いまだ現役です。
Mon pays わが故郷
Gilles Vigneault ジル・ヴィニョー
Mon pays ce n’est pas un pays, c’est l’hiver
Mon jardin ce n’est pas un jardin, c’est la plaine
Mon chemin ce n’est pas un chemin, c’est la neige
Mon pays ce n’est pas un pays, c’est l’hiver
わが故郷 それは国ではない、それは冬だ
わが庭 それは庭ではない、それは平原だ
わが道 それは道ではない、それは雪だ
わが故郷 それは国ではない、それは冬だ
Dans la blanche cérémonie
Où la neige au vent se marie
Dans ce pays de poudrerie
Mon père a fait bâtir maison
Et je m’en vais être fidèle
A sa manière, à son modèle
La chambre d’amis sera telle 注1
Qu’on viendra des autres saisons
Pour se bâtir à côté d’elle
雪が風と結婚する
白い儀式のなかで
粉雪が舞う地に
父は家を建てた
そして僕は従うことになる
彼の様式、彼の模範に
友人が泊まる部屋は
別の季節にやって来られるように
家の傍らに建てられるだろう

Mon pays ce n’est pas un pays, c’est l’hiver
Mon refrain ce n’est pas un refrain, c’est rafale
Ma maison ce n’est pas ma maison, c’est froidure 注2
Mon pays ce n’est pas un pays, c’est l’hiver
わが故郷 それは国ではない、それは冬だ
僕の曲 それは曲ではない、それは一陣の風だ
僕の家 それは家ではない、それは寒気だ
わが故郷 それは国ではない、それは冬だ
De ce grand pays solitaire
Je crie avant que de me taire
A tous les hommes de la terre
Ma maison c’est votre maison
Entre ses quatre murs de glace
Je mets mon temps et mon espace
A préparer le feu, la place
Pour les humains de l’horizon
Et les humains sont de ma race
この淋しき広大な故郷について
地上のすべての人々に
僕は訴える 口をつぐむまえに
氷の壁で四方を囲まれた
僕の家 それはあなたの家だ
地平線の向こうからやってくる人々のために
火と居場所を用意するために
僕は自分の時間と空間を注ぎ込む
そしてその人々はわが同族だ
Mon pays ce n’est pas un pays, c’est l’hiver
Mon jardin ce n’est pas un jardin, c’est la plaine
Mon chemin ce n’est pas un chemin, c’est la neige
Mon pays ce n’est pas un pays, c’est l’hiver
わが故郷 それは国ではない、それは冬だ
わが庭 それは庭ではない、それは平原だ
わが道 それは道ではない、それは雪だ
わが故郷 それは国ではない、それは冬だ

Mon pays ce n’est pas un pays, c’est l’envers
D’un pays qui n’était ni pays ni patrie 注3
Ma chanson ce n’est pas une chanson, c’est ma vie
C’est pour toi que je veux posséder mes hivers 注4
わが故郷 それは国ではない、それは国とは正反対のもので
国でも邦でもない
僕の歌 それはそれは歌ではない、それは僕のいのちだ
僕が自分の冬を保っていたいのは 君のためだ
[注]
1 telle que「…ように、のとおり」。seraは2行後のpourにつながり、être pour+inf.「まさに…しようとしている」。
2 froidureはfroid「寒い」の名詞であるfroideurとは異なり、医学用語で「霜焼け」を主に指すが、文章用語として「寒気、寒い季節」としても用いられる。
3 patrieは「祖国」あるいは「故郷」。また、paysは「国」「地方」「祖国」「故郷」と、広い意味を持ち、同じ意味を言い換えているだけだろう。日本語の「国」も国家のみならず「故郷」を示す言葉であり、「邦」の字を用いることもある。
4 toiはこの曲の主役であるmon paysを指すかとも思われたが、mon paysがl’hiver「冬」だと何度も言っており、mes hivers「僕の冬」を保つ理由とはしがたい。toiは、 前行でma vie「僕のいのち」だと表現されるma chanson「僕の歌」であろう。
Comment:0

今回は、ティノ・ロッシTino RossiのPardonne-moiです。歌詞がどうしても見つからなかったので、歌を聴きながら書き取ってみました。気持ちの行き違いで別れた彼女ともう一度やり直そうという内容です。「許したまえ」という邦題にしておきましょう。
動画も自分で作りました。
Pardonne-moi 許したまえ
Tino Ross ティノ・ロッシ
Pardonne-moi
Si j’ai cru t’oublier mon amour
Pardonne-moi
Si je t’ai fait souffrir le long du jour
Après tant de bonheur
Tu ne fuis qu’en aigreur
Aveuglée de jalousie
J’ai voulu renier nos plus tendres baisers
Dans un geste de folie
許したまえ
もしも君を忘れてしまったつもりでいたなら、愛しい人よ
許したまえ
もしも君を一日中苦しめていたのなら
いっぱいのしあわせののち
君は嫉妬で目がくらんで
刺々しさのなかに逃げ込むばかりだった
僕は二人のこの上なく甘い接吻をも否定したかった
無分別な行為で
Pardonne-moi
Pour l’amour qui comblera nos deux cœurs
Si je tends les bras
Reviens-moi et pitié de mes pleures
Mon tourment est si fort
Et j’ai tant de remords
Pour l’espoir m’abandonne
Je t’en supplie pardonne
Au nom de notre amour
許したまえ
僕たちの二つの心を満たす愛を求めて
もし僕が腕を伸ばしたら
僕のもとに帰りたまえ、そして僕の嘆きを憐れんでくれ
僕の苦しみは多大で
僕はおおいに後悔している
希望が僕を見放したゆえに
君に許しを乞う
僕たちの愛の名にかけて

Perdu de l’ombre
Devant ta porte longtemps je suis resté
Au bras de notre bonheur
J’avais peur de te trouver
Mais quand tremblante tu m’a dit "Entre"
J’ai cru mourir de joie
Il n'y avait personne, personne près de toi
暗がりに潜んで
君の家の戸口の前に僕は長いあいだ佇んでいた
僕たちの幸運にすがって
僕は君に会うのが怖かった
だが君が震えながら「入って」と言ったとき
僕は喜びで死にそうな思いだった
君の傍らには誰も、誰もいなかった
Pardonne-moi
Pour l’amour qui comblera nos deux cœurs
Viens dans mes bras
J’ai gardé des baisers les meilleurs
Oubliant le chagrin
Ne pensons qu’à demain
Le bonheur nous l’ordonne
Je t’en supplie pardonne
Pour notre belle amour
許したまえ
僕たちの二つの心を満たす愛のために
僕の腕のなかにおいで
僕はこの上ない接吻を覚えている
悲しみは忘れ
明日のことだけを考えよう
しあわせが僕たちにそれを命ずるんだ
君に許しを乞う
僕たちの美しい愛のために

Comment:0

ミレーヌ・ファルメールMylène Farmerはあやしげな魅力を持ち、ちょっと危ない歌を歌う女性シンガー・ソングライター。1961年にカナダ、ケベックで、フランス人の両親のもとに生まれました。1984年に「ママンは間違っているMaman a tort」(アルバムCendres de luneに収録)でデヴュー。以降、フランスでディスクを一番多く売った女性歌手で、その数は500万枚近いといわれます。フランスで1位を獲得したシングルは9枚。フランス語圏外でも、とくにロシアや東ヨーロッパでたいへん人気があります。フランス最大の音楽賞であるNRJ Music Awardsを複数のジャンルで計9回、Victoires de la Musiqueを3回、ワールド・ミュージック・アウォードを1回受賞。しかし、彼女はあまりメディアに顔を出さず、これだけの人気ながら、コンサートも6回しか開いていません。ジュリエット・グレコJuliette Grécoの「脱がせてちょうだいDéshabillez-moi」も持ち歌にしています。
今回取り上げる曲は、1991年にフランスでシングル売り上げ最高記録となり9週間シングルチャートNo.1となったDésenchantéeです。「夢から醒めて…」という邦題がつけられていますが、原題の意味から遠いように思われますので、「夢やぶれて」に変えました。
ローラン・ブトナLaurent Boutonnat が作曲し、動画も作っています。歌詞内容をかなり逸脱したスゴイ動画!曲が終わった後、エンドロールがずらずら出てきますので長いです。
ステージでの歌唱。もはやDésenchantéeではなくて「華麗なるお祭りFête enchantée」の世界ですね。
Désenchantée 夢やぶれて
Mylène Farmer ミレーヌ・ファルメール
Nager dans les eaux troubles
Des lendemains
Attendre ici la fin
Flotter dans l’air trop lourd
Du presque rien
A qui tendre la main
濁った水のなかで泳ぎ
来たる日々の
終わりをここで待つ
ほとんど無意味な
うっとうしい空気のなかに浮いて
誰に助けを求めるの
Si je dois tomber de haut 注1
Que ma chute soit lente
Je n’ai trouvé de repos
Que dans l’indifférence
Pourtant, je voudrais retrouver l’innocence
Rien n’a de sens, et rien ne va
もしも私が高みから落ちなきゃならないなら
落下はゆっくりであってほしい
私は無関心のなかにしか
休息を見いだせなかった
けれど、私は無垢に戻りたい
何も意味を持たず、何もうまくいかない

{Refrain:}
Tout est chaos
A côté
Tous mes idéaux : des mots abîmés
Je cherche une âme qui
Pourra m’aider
Je suis
D’une génération désenchantée, désenchantée
すべてが混沌
的外れ
私の理想のすべて:役立たずの言葉
私を助けることのできる
ある魂を私は探している
私は
夢やぶれた、夢やぶれた世代の人間
Qui pourrait m’empêcher
De tout entendre
Quand la raison s’effondre
A quel sein se vouer 注2
Qui peut prétendre
Nous bercer dans son ventre
私がすべてを理解することを
誰が妨げることができるの
理性が崩れ落ちるとき
誰にすがればいいの
誰が私たちをその懐であやす
ふりをしてくれるの
Si la mort est un mystère
La vie n’a rien de tendre
Si le ciel a un enfer
Le ciel peut bien m’attendre
Dis-moi,
Dans ces vents contraires comment s’y prendre
Rien n’a de sens, plus rien ne va
もしも死が謎なら
生だってなんら優しいものじゃない
もしも空に地獄があるなら
空は私を待ってくれてもいいじゃないの
ねぇ教えて、
この逆風のなかでどうすればいいの
なにも意味を持たず、もう何もうまくいかない

{au Refrain}+{ad lib:}
[注] 正直言って理解の及ばない部分が残るが、今のところはこれで精一杯だ。
1 tomberは人気が落ちることも言う。
2 ne pas savoir à quel saint se vouer「誰にすがればいいのか分からない、途方に暮れる」のsaint「聖人」をsein「ふところ」に変えているが、同じ意味。
Comment:0

リーヌ・ルノーLine Renaudの歌う「昔の歌Ce refrain d'autrefois」は、1972年にリーヌ・ルノー自身が作詞し、彼女の夫のルールー・ガステLoulou Gastéが作曲した曲で、日本語でよく歌われています。リーヌの歌の動画はありましたが、フランス語の歌詞が見つからず、歌を聴きながらかなり苦労して歌詞を再現してみました。
屋根裏で誰かが書いた古い歌の譜面を見つけた…という内容ですが、母親か誰かここに以前住んでいた人が昔、恋人から贈られたものなのか…。本人が昔、恋人から贈られたのを、このように表現しているということもあり得るでしょう。
リーヌ・ルノーの動画は、2種類ご紹介いたします。
Ce refrain d'autrefois 昔の歌
Line Renaud リーヌ・ルノー
J’ai retrouvé dans un grenier
Parmi quelques objets fanés
Ce refrain d'autrefois
わたしは屋根裏で見つけた
いくつかの色あせた物のあいだに
この昔の歌を
Il gisait là sur le plancher 注1
Près d’un bouquet de fleures sèchées
Ce refrain d'autrefois
それは床の上に落ちていた
乾いた花束のかたわらに
この昔の歌は

En vague ce papier jauni
Un inconu avait écrit
A toi, à toi pour la vie
Et la mélodie en était si joli
Les mots plein de poèsie
はっきりしないけど この黄ばんだ紙は
誰か知らない人が書いたもの
あなたのために、一生あなたのためにと
そしてそのメロディーはとても美しく
歌詞は詩に満ちていた
Depuis ce jour-là dans ma tête
Tous ces notes désuettes 注2
Chantent en moi ce refrain d'autrefois
Sur mon piano je l'ai posé
Un musicien me l’a joué 注3
Ce refrain d'autrefois
その日から私の脳裏で
これらの古めかしい音符が
この昔の歌を歌う
私はピアノにこの歌を置いた
ひとりのミュージシャンが私に演奏してくれた
この昔の歌を

Les yeux fermés j’imaginais
Les violons et des cœurs chantaient
Ce refrain d'autrefois
目を閉じて私は想像した
ヴァイオリンと二つの心が
この昔の歌を歌っていた
mmmm
A toi, à toi pour la vie
Cette mélodie si simple et si jolie
Racontait une autre vie
Où les amants prenaient le temps
De se dire ‘je t’aime’ simplement
En chantant ce refrain d'autrefois
ムムムム
あなたのために、一生あなたのためにと
そしてとても素朴でとても美しいそのメロディーは
ある別の人生を物語っていた
そこでは恋人たちはただ愛をささやき合うだけの
時を過ごしていた
この昔の歌を歌いながら

…
Ce refrain d'autrefois
…
この昔の歌
…
Ce refrain d'autrefois
…
この昔の歌
mmmm
A toi, à toi pour la vie
Quand dans son écrin j’ai rangé ce refrain 注4
Des notes se sont envolés
Depuis la pluie sur mes volets fredonne toute la journée avec moi
Ce refrain d'autrefois
Ce refrain d'autrefois
ムムムム
あなたのため、一生あなたのためにと捧げた歌
私が宝石箱にこの歌をしまうと
音符たちは舞い散った
以来、部屋の雨戸を叩く雨音が私といっしょにひねもす口ずさむ
この昔の歌を
この昔の歌を
[注]
1 gisait:文章用語のgésir「横たわる、落ちている」の3人称単数半過去
2 désuet(te)「すたれた、古くさい」
3 ピアノにce refrain つまり譜面を置いた。ひとりのミュージシャンが演奏したというのは、心のなかで描いているのか、あるいは本人がピアノで弾いたということだろう。
4 sonはce refrainのために用意したという意味合いだろう。いただいたコメントに示唆され、オルゴール付きの宝石箱を想定すると理解しやすくなった。
Comment:4

「愛の喜びPlaisir d'amour」は、ジャン・ピエール・クラリスJean-Pierre Claris de Florianの詩に、ドイツに生まれフランスで活動した作曲家ジャン・ポール・マルティーニJohann Paul Aegidius Martiniが曲を付けた歌曲として1775年に作られたものですが、多くのシャンソン歌手に歌われ、シャンソンの古典といったものになりました。後にベルリオーズLouis Hector Berliozは、小編成のオーケストラのための管弦楽曲として編曲しています。
ケベックの新世代歌手マリー・ドゥニーズ・ペルティエMarie Denise Pelletierを、私は選びました。声がとても気に入ったことと、元の歌詞のとおり歌っているという理由でです。彼女は、数々のシャンソン・コンクールで受賞し、1986-1987にロック・オペラ「スターマニアStarmania」に出演している注目の歌手。この曲は、2000年に出した同名のタイトルのアルバムに収録されています。以前あった動画が削除されていたので、私があらたに作成しました。
著名な歌手では、ティノ・ロッシTino Rossi、リナ・マルジーLina Margy、ミレイユ・マチューMireille Mathieu、リナ・ケティRina Ketty、ナナ・ムスクーリNana Mouskouriなどが歌っています。ジョーン・バエズJoan Baezは仏英ミックスでフォークソング風です。
意外なところで、ブルジット・バルドーBrigitte Bardotも。
エルヴィス・プレスリーElvis Presleyの「好きにならずにいられないCan't Help Falling in Love」は、この曲が原曲です。
Plaisir d'amour 愛の喜び
Marie Denise Pelletier マリー・ドゥニーズ・ペルティエ
Plaisir d'amour ne dure qu'un moment
Chagrin d'amour dure toute la vie
愛の喜びはひとときだけのもの
愛の悲しみは一生続くもの
J'ai tout quitté pour l'ingrate Sylvie 注
Elle me quitte et prend un autre amant
僕はつれないシルヴィーのためにすべてを捨て
シルヴィーは僕を捨てて別の恋人を得る

Plaisir d'amour ne dure qu'un moment
Chagrin d'amour dure toute la vie
愛の喜びはひとときだけのもの
愛の悲しみは一生続くもの
Tant que cette eau coulera doucement
Vers ce ruisseau qui borde la prairie
野原に沿った小川のほうに
この水がゆっくりと流れている限り
Je t'aimerai, me répétait Sylvie
L'eau coule encore, elle a changé pourtant
あなたを愛するわと、シルヴィーは僕に繰り返し言った
水は今でも流れている、それなのに彼女は変わってしまった

Plaisir d'amour ne dure qu'un moment
Chagrin d'amour dure toute la vie
愛の喜びはひとときだけのもの
愛の悲しみは一生続くもの
歌詞に挿入した写真はマリー・ドゥニーズ・ペルティエ
[注] ナナ・ムスクーリは、Tu m'as quitté pour la belle Sylvie「あなたは美しいシルヴィーのために私を捨て」Elle te quitte pour un autre amant「シルヴィーは別の恋人のためにあなたを捨てる」と歌い、リナ・マルジー、ミレイユ・マチューもそれぞれ違った形で歌っている。
Comment:1

今回はシルヴィー・ヴァルタンSylvie Vartanの「私はブルースを歌うJe chante le blues」。カルラ・ブルーニCarla Bruniが作った曲で、2009年の同名のアルバムに収録されています。ヴァルタンは歳を重ねた今、かつてのイエイエYéyé時代とはまた違った味の素晴らしい歌を聴かせてくれています。
ブルースは、米国深南部でアフリカ系アメリカ人の間から発生した音楽のひとつで、19世紀後半頃に黒人霊歌、労働歌などから発展したといわれ、日常の幸せなことや憂鬱なこと(blues)を12小節に乗せて歌います(→ウィキペディアより) 。
ヴァルタンは、白人の女の子である私はブルースを歌う素質は持ち合わせていないんだけれどブルースが大好きだと、男性名詞であるブルースle bluesを擬人化して「彼」に対する愛を歌います。
録音風景です。カルラ・ブルーニも登場します。
Je chante le blues 私はブルースを歌う
Sylvie Vartan シルヴィー・ヴァルタン
歌詞の間に、4人の女性ブルース歌手の写真を入れました。ベッシー・スミスBessie Smith、オデッタOdetta、ビッグ・ママ・ソーントンBig Mama Thorntonそしてジャニス・ジョプリンJanis Lyn Joplinです。
Moi, je chante le blues
Même si le blues n’est pas pour les filles comme moi
C’est que j’aime tant le blues
Même si le blues, lui, ne m’aime pas 注1
私はブルースを歌う
たとえブルースが私のような女の子たちのためのものではなくても
とってもブルースが好きだから
たとえブルースが、彼のほうが、私を好きじゃなくても
J’suis bien trop pâle pour le blues 注2
Je n’en ai ni l’âme ni la voix
Pourtant, ma vie n’est rien qu’un blues
Trois notes sans pourquoi 注3
私はブルースにとっては色が白すぎる
私はブルースの魂も声も持っていない
でも、私の生は1曲のブルースにほかならない
なぜだか3つの音なの

Que l’on me donne le blues
Car le blues, lui, se donne tout à moi 注4
Depuis le berceau, le blues
Remplit ma vie, mon cœur et mes doigts
ブルースが私に与えられたのよ
だってブルースが、彼のほうが、私に全身を捧げてくれた
幼い頃から、ブルースは
私の人生を、私の心を、そして私の指を満たした
J’ suis bien trop frêle pour le blues
Je n’en ai ni la chair ni la foi
Pourtant, ma vie n’est rien qu’un blues
Trois notes sans pourquoi
私はブルースにとっては弱々しすぎる
私はブルースの肉体もその信条も持っていない
でも、私の生は1曲のブルースにほかならない
なぜだか3つの音なの

Vois comme il me prend les mains
Vois comme il se niche au creux des reins
Oh! Douce
Il m’enveloppe et me prend, il me tient
Je connais son parfum
どんな風に彼が私の手を取るのか見てよ
どんな風に彼が腰のくびれに入り込むのか見てよ
おお!ステキだわ
彼は私を包み込み私を捉え、私を手に入れた
私は彼の香りを知っている
C’est que je sais bien, le blues
Je le bois, ivre de lui, jusqu’au petit matin
Rien à faire contre le blues
Il vous frappe, happe et vous laisse, errant comme un chien 注3
つまり私はよく知っているということよ、ブルースを
私は彼を飲み、彼に酔う、夜明けまで
ブルースに逆らってなす術はない
彼はあなたを引きつけ、あなたをつかまえ、あなたを犬のように落ち着かなくさせる

Ainsi, je chante le blues
Malgré la pâleur de mon destin
Car la vie passe, tout comme un blues
Trois notes et plus rien
こんなわけで、私はブルースを歌うの
私の行く末が精彩のないものでも
だって人生は過ぎていくのよ、まるで1曲のブルースのように
3つの音それだけよ
Vois comme il se penche sur moi
Comme il se réjouit de mes chagrins
Regarde, il me suit pas à pas
Vois comme il me réveille au matin
彼がどんな風に私の上に身を屈めるか
彼がどんな風に私の悲しみを喜んでいるか見て
ほら、彼は私に1歩ずつついて来るわ
彼がどんな風に朝、私を起こすか見て

Et alors, je chante le blues
Même si le blues n’est pas pour les filles comme moi
だから、私はブルースを歌うの
たとえブルースが私のような女の子たちのためのものではなくても
[注]
1 visage pâle白人の色の白さを表現している。ブルースは黒人に似つかわしいから。
2 trois notes「3つの音符」。(ネットで得た情報によると、)ブルースは、ブルー・ノート・スケールと呼ばれる5音階(ペンタトニック・スケール)で即興的に演奏される。短3度、減5度、短7度の3つの音に用いられる微妙な音の「訛り」はクオーターと呼ばれるブルース独特の音である。また、長音階のドミソ、ファラドなどの和音の上に、ミbソbシbといった短音階のメロディを重ねているとも説明されている。
3 errantは「遍歴の、流浪の」と「落ち着きのない」の両義があり、後者を選んだ。chien errantは「野良犬」だが。

前回の「イザベルIsabelle」の「笑い」というテーマを引き継ぎ、エルヴェ・ヴィラールHervé Vilardの「彼女を笑わせろFais-la rire」を取り上げましょう。1969年にリリースされたセカンド・アルバムのタイトル曲です。エルヴェ・ヴィラールHervé Vilardは1946年にパリで生まれたシンガー・ソングライターで、大ヒット曲「カプリ、セ・フィニCapri, c'est fini 」などの自作の歌詞の曲のほか、ルイ・アラゴンLouis Aragon、マルグリット・デュラスMarguerite Duras、イオネスコEugène Ionesco、ジャック・プレヴェール Jacques Prévert、ジャン・ジュネJean Genetなどの詩を歌詞にした曲も作って歌っています。自分がホモセクシュアルであることを公表した最初のフランス人歌手です。
Fais-la rire 彼女を笑わせろ
Hervé Vilard エルヴェ・ヴィラール
Puisque ton cœur a su l’enlever à mon cœur,
Que malgré mon amour le tien n’avait pas peur,
Tâche donc maintenant à force de l’aimer 注1
D’effacer de sa vie tout le mal que j’ai fait.
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
Pour elle tout peut recommencer.
君の心は僕の心から彼女を奪い取る術を得たんだから
僕の愛にもかかわらず君の愛は恐れを知らなかったんだから、
さて今は彼女を愛することで
僕が与えたすべての苦しみを彼女の人生から消すよう務めてくれ
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
彼女にとってはすべてがあらたに始まる。

Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
De joie, de joie fais-la chanter.
Non tout n’est pas perdu puisque tu viens ce soir,
Puisqu’elle prend ta main
C’est qu’il n’est pas trop tard,
L’amour est un soleil qui ne peut pas mourir,
Je la tenais dans l’ombre, à toi de l’en sortir. 注2
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
喜びで、喜びで彼女を歌わせろ。
いやすべて失われたわけじゃない君が今夜来たんだから、
彼女は君の手を取ったんだから
遅すぎはしないんだ、
愛は死ぬことのできない太陽だ、
僕は彼女を日陰に留めていたが、君が彼女をそこから解き放つんだ。
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
Pour elle tout peut recommencer,
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
De joie, de joie, fais-la chanter.
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
Pour elle tout peut recommencer,
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
De joie, de joie, fais-la chanter.
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
彼女にとってはすべてがあらたに始まる、
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
喜びで、喜びで彼女を歌わせろ。
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
彼女にとってはすべてがやり直せる、
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
喜びで、喜びで彼女を歌わせろ。

Voici votre chemin, fuyez ce carrefour,
Oubliez je vous prie mon pénible retour,
Oubliez qui je suis, de même qui je fus,
Et si vous êtes heureux, j’aurai un peu vécu. 注3
君たちの進む道はここにある、この岐路を抜け出せ
お願いだから僕の辛い反省を忘れてくれ。
僕が誰なのか、誰だったかも忘れてくれ、
そしてもしも君たちがしあわせなら、僕はちょっとは生きたことになる。
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
Pour elle tout peut recommencer,
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
De joie, de joie, fais-la chanter.
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
彼女にとってはすべてがあらたに始まる、
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
喜びで、喜びで彼女を歌わせろ。

Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
Pour elle tout peut recommencer,
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire,
Car avec moi elle a trop pleuré.
Fais-la rire, fais-la rire, fais-la rire.
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
彼女にとってはすべてがあらたに始まる、
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、
僕といっしょだと彼女は泣くばかりだったから。
彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ、彼女を笑わせろ。
[注]
1 tâcher de+inf.「…しようと務める」
2 (C’est)àqn. de+inf.「…が…する番だ、…が…するべきだ」
3 avoir vécu「充実した人生を過ごした、豊かな人生経験を積んだ」あるいは「廃れた、終わった」。
Comment:0

今回は、1968年にシャルル・アズナヴールCharles Aznavourが作った「イザベルIsabelle」です。
昨日、《アミカル・ド・シャンソン》の新年会を兼ねた歌会で、この曲を歌った方がありました。歌のなかで、歌いながら笑う、いえ、笑いながら歌うところがあって、その方は、「以前はそれができなかったんだけれど、年金をもらうようになってなぜかできるようになった」とのこと。なかなかうまく笑って、いえ、歌っていらっしゃったんですが、それを聞いて、この曲を見直しました。泣きながら歌う曲はある、というより、感情を込めすぎて泣いているような感じで歌う人は実際います。が、笑いながら歌うというのは練習する価値がありそうですね。
そういえば、「アンリ・サルヴァドールはふざけるHenri Salvador s'amuse」(私が投稿した動画)は、3分以上もずっと笑いっぱなしで歌ではないのに、1曲としてCDに入っています。これが歌笑力というものでしょうか。
IsabelleはElisabeth同様、旧約聖書に登場する女性の名Elishebhaに由来する各国歴代の女王・王女の名前で、なかでもIsabelle de Franceは、英国王と結婚して王を殺し息子を立てて摂政政治をおこなったやり手の王妃として知られています。
歌詞のあいだに、イザベルIsabelleという名の女性の写真を入れました。一番目は最も手ごわそうな女優・歌手のイザベル・アジャーニIsabelle Adjani、次はケベックの歌手イザベル・ブーレイIsabelle Boulay 、そして、歌手のイザベル・オーブレIsabelle Aubret、女優のイザベル・ユペール Isabelle Huppertです。
Isabelle イザベル
Charles Aznavour シャルル・アズナヴール
Depuis longtemps mon cœur était à la retraite
Et ne pensait jamais de voir se réveiller
Mais au son de ta voix j'ai relevé la tête
Et l'amour m'a repris
Avant que d'y penser
長いあいだ 私の心は引きこもったままで
目覚めようとは決して思っていなかった
だが 君の声音に 私は頭を起こし
再び恋のとりこになった
考えるいとまもなく

Isabelle Isabelle Isabelle Isabelle
Isabelle Isabelle Isabelle mon amour
イザベル イザベル イザベル イザベル
イザベル イザベル イザベル モナムール
Comme on passe les doigts entre l'arbre et l'écorce
L'amour s'est infiltré s'est glissé sous ma peau
Avec tant d'insistance et avec tant de force
Que je n'ai plus depuis ni calme ni repos
人が指を木とその樹皮の間に差し込ませていくように
愛が浸み込み 私の肌の下に入り込んできた
あまりにも執拗にあまりにも強引に
ゆえにそれ以来 私には鎮静も休息もない

Isabelle Isabelle Isabelle Isabelle
Isabelle Isabelle Isabelle Isabelle
Isabelle Isabelle Isabelle mon amour
イザベル イザベル イザベル イザベル
イザベル イザベル イザベル イザベル
イザベル イザベル イザベル モナムール
Les heures près de toi fuient comme des secondes
Les journées loin de toi ressemblent a des années
Qui donnent à mon amour un goût de fin du monde
Elles troublent mon corps autant que ma pensée
君のそばにいる数時間は数秒のように速く過ぎ
君と離れている何日かは何年かのように長く
私の恋に世界の果ての味わいを与える
そうした時間は私の思考とともに私の身体をも乱す

Isabelle Isabelle Non, ahahah! Isabelle non, arête! Isabelle
Isabelle Isabelle Isabelle mon amour
イザベル イザベル だめ、アハハ! イザベル だめ、やめろよ! イザベル
イザベル イザベル イザベル モナムール
Tu vis dans la lumière et moi dans les coins sombres
Car tu te meurs de vivre et je me meurs d'amour 注
Je me contenterais de caresser ton ombre
Si tu voulais m'offrir ton destin pour toujours
君は光の中に生き 私は暗い片隅で生きる
なぜなら君は生きることに焦れ 私は恋に焦れているから
私は君の影を愛撫することで満足しよう
もしも君がその運命を永遠に私に捧げてくれる気があるのなら

Isabelle Isabelle Isabelle Isabelle
Isabelle Isabelle Isabelle mon amour
イザベル イザベル イザベル イザベル
イザベル イザベル イザベル モナムール
[注] イザベル イザベルと連呼する部分はアドリブ的に表現を変えているので、正確な表記は不能。
se mourir de+inf.「非常に…したい」

今回は、こんな可愛い歌。ジュリエット・グレコJuliette Grécoの「小さな魚と小さな鳥Un petit poisson,un petit oiseau」です。1966年、作詞:ジャン=マックス・リヴィエールJean-Max Rivière、 作曲:ジェラール・ブルジョワGérard Bourgeois。
素朴でなかなかいい動画です。
Un petit poisson,un petit oiseau 小さな魚と小さな鳥
Juliette Gréco ジュリエット・グレコ
{Refrain:}
Un petit poisson, un petit oiseau
S'aimaient d'amour tendre
Mais comment s'y prendre 注1
Quand on est dans l'eau
Un petit poisson, un petit oiseau
S'aimaient d'amour tendre
Mais comment s'y prendre
Quand on est là-haut
小さな魚と小さな鳥が
甘い恋をしたの
でもどうしたらいいんでしょ
水のなかにいて
小さな魚と小さな鳥が
甘い恋をしたよ
でもどうしたらいいんだろ
空の高いところにいて

Quand on est là-haut
Perdu aux creux des nuages
On regarde en bas pour voir
Son amour qui nage
Et l'on voudrait bien changer
Ses ailes en nageoires
Les arbres en plongeoir
Le ciel en baignoire
空の高いところにいて
雲のくぼみにかくれ
泳いでる恋人を見ようと
下をのぞきこみ
そして 翼をひれに変えたいと
木々を飛び込み台に
空を水槽に変えたいと願うよ
Un petit poisson, un petit oiseau
S'aimaient d'amour tendre
Mais comment s'y prendre
Quand on est là-haut
Un petit poisson, un petit oiseau
S'aimaient d'amour tendre
Mais comment s'y prendre
Quand on est dans l'eau
小さな魚と小さな鳥が
甘い恋をしたよ
でもどうしたらいいんだろ
空の高いところにいて
小さな魚と小さな鳥が
甘い恋をしたの
でもどうしたらいいんでしょ
水のなかにいて

Quand on est dans l'eau
On veut que vienne l'orage
Qui apporterait du ciel
Bien plus qu'un message 注2
Qui pourrait d'un coup
Changer au cours du voyage 注3
Des plumes en écailles
Des ailes en chandail
Des algues en paille.
水のなかにいて
雷さんが来るよう願うの
雷さんはメッセージよりもすてきなものを
空から持ってきてくれて
旅のとちゅう あっという間に
羽をうろこに
翼をセーターに
海藻を麦わらに
変えられるのよ
{au Refrain}
[注]たぶん、空にいる鳥は男で、水のなかにいる魚は女だろう。主語のonはあえて訳さなかった。
1 s'y prendre+様態「…の仕方で行動する、振る舞う」
2 bien plus qu'un message「メッセージよりもすてきなもの」というのは、「羽をうろこに、翼をセーターに」変えられた、恋人の「鳥」であろう。
3 au cours du voyage「旅の途中で」

今年の3曲目はイヴ・モンタンYves Montandの「頭にいっぱい太陽をDu soleil plein la tête」。1953年に、アンドレ・オルネズAndré Hornezが作詞、アンリ・クロラHenri Crollaが作曲。モンタンらしいおしゃれな曲で、彼の自伝のタイトルにもなりました。太陽は、希望、元気、熱情、思いやりなど肯定的な心情の象徴。「頭」を「心」に言いかえたほうが分かりやすいかもしれませんね。
イヴ・モンタン
ジャクリーヌ・フランソワJacqueline Françoisはこの曲も実にうまいです。
Du soleil plein la tête 頭にいっぱい太陽を
Yves Montand イヴ・モンタン
Trouver belle la vie quotidienne
Ça peut vous paraître innocent
Mais la joie des autres c’est la mienne
Et ça m’rapporte cent pour cent
Ne cherchez pas
C’est à cause de ça 注1
日常の暮らしを美しいと感じること
それはあなた方には無邪気なことに見えるかもしれない
だがひとの喜びは僕の喜びだ
そしてそれは僕に100パーセント届く
深く考えないで
そんなわけなのさ

Que j’ai du soleil plein ma tête
Et du printemps plein mon cœur
Dès que je chante une chansonnette
J’ai d’la joie et du bonheur
Et je descends
Faire un petit tour
Toute la ville m’en met plein la vue 注2
Et en passant
Je dis bonjour
A tous les copains
Que j’croise dans la rue
僕が頭にいっぱい太陽を
そして心にいっぱいの春を持っているのはね
小唄を歌いだすやいなや
喜びと幸福を感じる
そして一回りしようと
出ていくと
街全体が僕を圧倒するんだ
そして通りがかりに
僕はこんにちはと言うのさ
通りですれ違う
すべての仲間たちにね

Car la vie est vraiment chouette
Quand on la prend gentiment
Y a bien de temps en temps 注3
Des petits embêtements
Mais quand ma rue m’sourit
Alors j’suis content
Y a bien de temps en temps
Des petits embêtements
Mais quand ma rue m’sourit
Alors j’suis content
だって人生はほんとうに素敵なものさ
優しい気持ちで過ごせばね
時にはあるよ
小さないざこざがね
けど僕の街が微笑みかけてくれれば
僕は満足なのさ
時にはあるよ
小さないざこざがね
けど僕の街が微笑みかけてくれれば
僕は満足なのさ
[注]
1 à cause de …「…ゆえに、…のために」。次節につながって、C'est à cause de ça que …「(que以下)はça(それまでに述べた内容)のためである」。
2 en met plein la vue à qn.「…の目をくらませる、…を圧倒する」
3 bienは譲歩の意味で、2行あとのmaisと呼応している。
Comment:0

前回のY'a de la joieに合わせ、今回はY'a tant d'amourすなわち「恋がいっぱい」です。なんだか福袋をふるまってるみたいですが、楽しい年になってほしいなと…。この美しい曲は、1949年に、エディット・ピアフÉdith Piafの曲で知られるレイモン・アッソRaymond Assoが作詞し、その夫人でピアニストのクロード・ヴァレリーClaude Valéryが作曲。翌50の映画「マ・ポンムMa pomme」で用いられました。この作者夫妻のデュオがすばらしいので、私が動画をYouTubeに投稿しました。
ダミアDamia
ルネ・ルバRenée Lebasのために作った曲だそうですが、彼女の歌は見つかりませんでした。ほかに、ティノ・ロッシTino Rossi やパタシューPatachouなども歌っています。
Y'a tant d'amour 恋がいっぱい
Raymond Asso & Claude Valéry レイモン・アッソ&クロード・ヴァレリー
Et de toutes ces chansons, même de celles qui peuvent sembler puériles, faut-il en sourire d’en air supérieur? Non !
だからこうした唄をすべて、幼稚に思えるものだって、偉そうな態度で嘲笑すべきだろうか? いいや!
Faut pas s'moquer de ces rengaines
Qui par les rues et les faubourgs
S'en vont bercer les cœurs en peine
Et consoler du mal d'amour
Elles se racontent mieux qu'un poème
Plus gentiment et sans façon
Rappelle-toi !, pour dire: Je t'aime
Je t'avais fait une chanson

はやり唄を馬鹿にしちゃいけない
それらは街やその周辺で
苦しむ心をなぐさめ
恋の苦しみをいやすもの
それらは詩よりももっとうまく
もっと優しく気どりなく語られる
思い出してよ!「愛している」というために
僕が君に唄を1曲作ったことを
Y'a tant d'amour sur toute la terre
Donne-moi ta main !
Le temps d'aimer ne dure guère
Pourquoi demain ?
Dans leur chambrette
Pierrot, Pierrette,
Perdent la tête
Et sont heureux
Y'a tant d'amour sur toute la terre
Faisons comme eux !
地上には恋がいっぱい
あなたの手をとらせてちょうだい!
恋の季節は長くは続かない
なぜ明日というの?
男女のピエロは
逢引き部屋でのぼせ上がって
悦に入っているわ
地上には恋がいっぱい
彼らみたいにしましょう!

Faut pas s'moquer des chansonnettes
Où le soleil et le lilas
Ont rendez-vous dans une guinguette
On peut danser sur ces airs-là
Viens donc valser l'un contre l'autre !
Et doucement là, dans ton cou,
Cette chanson qui est la nôtre
Je la dirai rien que pour nous
小唄を馬鹿にしちゃいけないわ
お日さまとリラの花が
ダンスホールでランデヴーするといった文句でも
この曲でダンスができるのよ
だから抱き合ってワルツを踊ろうよ!
そして優しく、君のうなじに、
この僕たちの唄を
二人のためだけに歌いかけるよ
Y'a tant d'amour sur toute la terre
Pour qui en veut
Le temps d'aimer ne dure guère
Soyons heureux
Y'a tant d'amour sur toute la terre
Et dans tes yeux.
地上には恋がいっぱい
それを欲する人々にとって
恋の季節は長くは続かない
幸せになろう
地上には恋がいっぱい
そしてあなたの目にも
Faut pas s'moquer de ces rengaine
Qui durent plus que les amours
Ah! Que mon cœur a de la peine.
Adieu, musique ! Adieu, beaux jours !
Adieu, carresses! Adieu, guenguette !
Mais les amants qui nous suivront
Sur la chanson que tu m’as faite
Iront au bar et s’aimeront
はやり唄を馬鹿にしちゃいけない
それらは恋よりもいのちが長い
ああ!僕の心はなんと苦しいのだろう。
さらば、音楽よ!さらば、美しい日々よ!
さらば、愛撫よ!さらば、ダンスホールよ!
でも私たちの後をつぐ恋人たちは
あなたが私に作ってくれた唄に乗って
バーに行って愛し合うでしょう
…Donne-moi, ta main…
…Mais pourquoi demain ?…
Mon dieu, que c’est bête
Je perds la tête
La chansonnette je ne la sais plus !
…Y'a tant d'amour sur tout’ la terre…
Non ! non, non, je ne sais plus…
…Le temps d’aimer ne dure guère
…君の手を取らせておくれ…
…だが、なぜ明日と言うんだ?…
神さま、なんてことだ
僕は頭がどうかしてる
小唄をもう思いだせない!
…地上には恋がいっぱい…
いや!いや、いや、分からない…
…恋の季節は長くは続かない
[注] 男女のデュオとして訳し、クロード・ヴァレリーが歌っている部分は文字色を変えた。

皆さま、明けましておめでとうございます。今年も、朝倉ノニーの<歌物語>2をよろしくお願いいたします。
2015年の第1回の曲は、1936年にシャルル・トレネCharles Trenetが作り歌った「喜びありY'a de la joie」です。トレネはこの頃、兵役に従事しており、嫌な思いを振り払い自らに勇気を与えるためにこの曲を作ったと言われます。軽快なメロディーに乗せて、日常的なことがらが歌われている楽しい歌だと思いきや、エッフェル塔が歩くといったとんでもない話が出てくるユニークな歌詞です。1937年にモーリス・シュヴァリエMaurice Chevalierが初めてカジノ・ド・パリで歌って大当たりし、録音しました。シュヴァリエは最初、歌詞がシュールレアリズム的だとして嫌ったのですが、トレネを信頼するミスタンゲットなどの説得で歌うことを承諾したそうです。その後、トレネが兵役から解放されてソロ活動を開始した際に、この曲も自ら歌うようになりました。
モーリス・シュヴァリエ
シャルル・トレネ
Y'a de la joie 喜びあり
Charles Trenet シャルル・トレネ
{Refrain:}
Y a d'la joie bonjour bonjour les hirondelles
Y a d'la joie dans le ciel par dessus le toit
Y a d'la joie et du soleil dans les ruelles
Y a d'la joie partout y a d'la joie
Tout le jour, mon cœur bat, chavire et chancelle
C'est l'amour qui vient avec je ne sais quoi 注1
C'est l'amour bonjour, bonjour les demoiselles
Y a d'la joie partout y a d'la joie
喜びあり こんにちはこんにちはツバメたち
喜びあり 屋根の上の空に
喜びあり太陽あり 路地のなかに
喜びあり いたるところに喜びあり
一日中、胸は高鳴り、動転しぐらぐらするよ
それは愛だ 何かといっしょにやってきたんだ
それは愛だ こんにちは、こんにちはお嬢さんたち
喜びあり いたるところに喜びあり

Le gris boulanger bat la pâte à pleins bras 注2
Il fait du bon pain du pain si fin que j'ai faim 注3
On voit le facteur qui s'envole là-bas
Comme un ange bleu portant ses lettres au Bon Dieu
Miracle sans nom à la station Javel 注4
On voit le métro qui sort de son tunnel
Grisé de ciel bleu de chansons et de fleurs
Il court vers le bois, il court à toute vapeur 注5
銀髪のパン屋が一抱えもあるパン生地を叩く
おいしいパンを 僕が空腹を感じるほど上等のパンを彼は作る
あっちに郵便屋が飛んで行くのが見える
神様への手紙を運ぶ青い天使みたいだ
ジャヴェル駅のなんと不思議なこと
トンネルを出てくる地下鉄が見える
青空とシャンソンと花々にうっとりしながら
列車は森へと走る、全速力で走る
Y a d'la joie la tour Eiffel part en balade
Comme une folle elle saute la Seine à pieds joints 注6
Puis elle dit:
" Tant pis pour moi si j'suis malade
J'm'ennuyais tout' seule dans mon coin"
Y a d'la joie le percepteur met sa jaquette
Plie boutique et dit d'un air très doux, très doux 注7
" Bien l'bonjour, pour aujourd'hui finie la quête 注8
Gardez tout
Messieurs gardez tout"
喜びあり エッフェル塔が散歩にでかける
きちがい女みたいに両脚そろえてセーヌ川をひとまたぎ
そして言うんだ:
「あらいやだ わたし病気かしら
独りぼっちで隅っこにいてうんざりしてたのよ」
喜びあり 収税官が上着を着る
仕事を終えて とてもおだやかな、とてもおだやかな様子で言う
「ではまた、今日のところは集金はおしまい
そっくりそのまま
ダンナ方そっくりそのまま取ってお置きなさい」

Mais soudain voilà je m'éveille dans mon lit
Donc j'avais rêvé, oui, car le ciel est gris
Il faut se lever, se laver, se vêtir
Et ne plus chanter si l'on n'a plus rien à dir'
Mais je crois pourtant que ce rêve a du bon
Car il m'a permis de faire une chanson
Chanson de printemps, chansonnette d'amour
Chanson de vingt ans chanson de toujours.
だが突然僕はベッドの上で目が覚める
つまり僕は夢を見ていたんだ、そう、だって空は灰色だ
起きなきゃ、顔を洗わなきゃ、服を着なきゃ
そして 言うことがもうないなら歌う必要はないよね
だけどそれでもこの夢はよかったと思うよ僕は
なぜならこの夢は僕にシャンソンを1曲作らせてくれたから
春のシャンソン、恋のシャンソネット
二十歳のシャンソン 毎日のシャンソンを。
{au Refrain}
[注] 題名:Y a d'la joie=Il y a de la joie
1 je ne sais quoi「何だか分からないもの」
2 à pleins bras「両腕にいっぱい」
3 du bon painとdu pain si fin que j'ai faim
4 sans nomここでは「名もない」ではなく「名状しがたい」という意味。
Javel - André Citroën「ジャヴェル=アンドレ・シトロエン」はパリのメトロ10号線の駅でミラボー橋のたもとにある。ここで地下鉄は地上に出て2つに分岐してセーヌ川を渡り、ブーローニュの森へと向かう。
5 à toute vapeur「全速力で」
6 sauter à pieds joints「両足をそろえて跳ぶ」
7 plier boutique「店を畳む、仕事をやめる」
8 Bien l'bonjour「ではまた」。Je vous souhaite bien le bonjoir.の略。
Comment:0