
今回はジャクリーヌ・フランソワJacqueline Françoisの「あの日、パリでCe jour-là à Paris」です。この歌詞に「11月の空Le ciel de novembre」という言葉が出てくるということに気づいたのは昨日。今日で11月が終わってしまうので大急ぎで出しました。なんとか滑り込みセーフです。
作曲:カルロ・アルベルト・ロッシCarlo Alberto Rossi作詞:マルク・ランジャンMarc Lanjean。1957年にアンドレ・クラヴォーAndré Claveauが創唱しました。
ジャクリーヌ・フランソワはミッシェル・ルグラン・オーケストラMichel Legrand et son orchestreをバックに歌っています。
アンドレ・クラヴォー
Ce jour-là à Paris あの日、パリで
Jacqueline François ジャクリーヌ・フランソワ
[Premier couplet chanté dans la version d'André Claveau :]
Les beaux souvenirs, Dieu merci, ça vous suit à la ronde 注1
Je suis sûr qu'en ce moment-ci, à l'autre bout du monde
Devant un verre de whisky, y a un gars qui raconte
Écoute ça, c'est comme ça, ce jour-là...
[アンドレ・クラヴォーのヴァージョンで最初に歌われるクープレ:]
美しい想い出、ありがたいことに、それは離れずについて来てくれる
私は思う、いま、どこか世界の隅で
ウィスキー・グラスを前にして、こう語る人がいるに違いないと
その話を聞こう、それはこんな風だ、あの時…
La Seine flânait dans son lit
Le printemps rôdait sur la Seine
Notre-Dame sonnait midi
A Paris, à Paris, à Paris
Le ciel des beaux jours avait pris 注2
Le drapeau d'azur pour emblème 注3
Devant les passants tout surpris
A Paris, à Paris, à Paris
セーヌは川底をぬらりくらりと流れていた
春はセーヌの上をうろついていた
ノートルダムは正午を告げた
パリで、パリで、パリで
晴天の空は
紺碧の旗を紋章にする
唖然としている人たちの目の前で
パリで、パリで、パリで

Sur un air de valse, des morceaux de ciel
Dansaient, dansaient dans l'eau
Et, dans ce miroir, son sourire irréel 注4
Brillait comme un flambeau
ワルツの調べに乗って、空のかけらたちは
踊っていた、水のなかで踊っていた
そして、この水鏡のなかで、虚像の微笑は
松明のように輝いていた
Les moineaux de l'île Saint-Louis
Me soufflaient des vers de Verlaine
Mais nos cœurs parlaient mieux que lui 注5
A Paris, à Paris, à Paris
サン=ルイ島のスズメたちは
ヴェルレーヌの詩節を私にささやいていた
でも私たちの心は彼よりもっとよく語ったわ
パリで、パリで、パリで

Mais à Paris, tout s'envole au son d' l'accordéon
Et les images sur l'eau se noient dans un frisson
Y a trop d'oiseaux étourdis par la même chanson 注6
Et voilà, c'est pourquoi ce jour-là...
でもパリでは、すべてがアコーデオンの音色に舞い上がり
水面に映った像たちは慄きのなかに溺れる
同じ歌に酔うたくさんの鳥たちがいる
そうなの、そんなわけであの日…
La Seine flânait dans son lit
L'automne rôdait sur la Seine
Notre-Dame sonnait midi
A Paris, à Paris, à Paris
Le ciel de novembre avait mis
De l'or dans le gris des persiennes 注7
Devant les passants tout surpris
A Paris, à Paris, à Paris
セーヌは川底をぬらりくらりと流れていた
秋はセーヌの上をうろついていた
ノートルダムは正午を告げた
パリで、パリで、パリで
11月の空は
よろい戸の灰色のなかに金を置いた
唖然としている人たちの目前で
パリで、パリで、パリで
Sur un air de valse, la brise éperdue
Tournait, tournait, tournait
Le parfum volage des bonheurs perdus
Volait, volait, volait
ワルツの調べに乗って、半狂乱のそよ風が
回っていた、回っていた、回っていた
失われたしあわせの移り気な香りが
舞っていた、舞っていた、舞っていた

Les moineaux de l'île Saint-Louis
Me soufflaient des vers de Verlaine 注8
Mais mon cœur pleurait mieux que lui
Mon chéri, mon chéri, mon chéri
A Paris, à Paris, à Paris
サン=ルイ島のスズメたちは
ヴェルレーヌの詩節を私にそっとささやいていた
でも私の心は彼よりももっと嘆いていたわ
いとしい人、いとしい人、いとしい人
パリで、パリで、パリで
[注]
1 このアンドレ・クラヴォーのヴァージョンのクープレは、ウィスキーという表現からも男性歌手向き。vous「不特定な人、人間一般」。à la ronde「四方に、まわりに」「順番に」。このフレーズは意訳した。

2 les beaux jours「気候のよい季節、春、青春時代」。des=de+les
3 フランスの国旗は青・白・赤の三色旗だが、このle drapeau d'azur「紺碧の旗」とは、フランスの王家のemblème「紋章」である Fleur-de-Lys(青い地色に金色の百合の花)の図柄の旗。空を擬人化し、立てられた旗を紋章として身に付けていると表現している。
4 ce miroir「この鏡」とはla Seine「セーヌ川」のl´eau「水」。son sourire irréel「非現実的な(現実に存在しない)微笑」とは水に映った太陽を擬人化しているようだ。
5 lui「彼」はVerlaine「ヴェルレーヌ」。
6 oiseaux「鳥たち」とは、(若い)人々のことであろう。
7 orは、紅葉の色、あるいは秋の日差しの色彩を「金」そのもののように示している。
8 このdes vers de Verlaine「ヴェルレーヌの詩節」とは「秋の歌(落葉)(Chanson d'automne)」を言うのだろう。「君に別れを告げに来た(手ぎれ)Je suis venu te dire que je m'en vais」の記事の最後にこの詩を記載した。
Comment:0

今回取り上げるのはAutour de minuitという曲で、その原曲の「ラウンド・ミッドナイトRound midnight」は、ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンク Thelonious Monkが1942年に発表したジャズのスタンダード曲(発表時の題名はRound about midnight)。私は、以前はシャンソンよりもジャズのほうを多く聴いていましたので、今回は、少々ジャズにウエイトを置いてご紹介していきます。
モンクは1936年、19歳頃にGrand finaleという題名ですでにこの曲の下書きを作っていたといわれます。1944年にチャールズ・クーティー・ウィリアムズが版権を買い取り、彼のオーケストラのテーマ曲にしました。そのときのピアノはバド・パウエルBud Powell。その頃に、バーニー・ハニゲンBernard D. Hanighenが歌詞を作り、多くの歌手に歌われるようになりました。モンク自身は1946年からディジー・ガレスピーDizzy Gillespieのバンドで演奏し、当時のボーカルは、カーメン・マクレエCarmen McRae。世界で最も多くレコーディングされた曲として、現在まで、千枚を超えるアルバムに収録されてきました。
1986年に制作されたアメリカ・フランス合作の「ラウンド・ミッドナイトRound midnight」はバド・パウエルのフランスでの実話を元に作られた音楽映画で、ジャズ・サックス奏者のデクスター・ゴードンDexter Gordonが主演し、ハービー・ハンコックHerbie Hancockがアカデミー作曲賞を受賞しましたが、そのなかでも同名のこの曲が使われました。
セロニアス・モンクのピアノ・ソロ。長いです。クラシック系の人には良さが分かってもらえないかも。
カーメン・マクレエ。クリックしてYouTubeでご覧ください。
1978年に、クロード・ヌガロClaude Nougaro がフランス語に翻案して歌い、Tu verrasというアルバムに収録されました。英語の歌詞は、帰って来ない人を待つといった内容ですが、こちらはそれとは違って、夜空の星に憧れる、詩的な歌詞です。邦題は原曲の読みを用いることにしました。
クロード・ヌガロに関しては、後日、彼の代表曲「トゥールーズToulouse」を取り上げる際に解説する予定です。
1979年のライブの動画です。
レ・ヌビアンLes Nubiansという姉妹デュオの歌。1コーラス目は歌っていません。代名詞の「私」を「彼」に替えて歌っています。
Autour de minuit ラウンド・ミッドナイト
Claude Nougaro クロード・ヌガロ
Aux rendez-vous d’amour
Tout mon temps t’appartient et pour toujours
Aux rendez-vous d’amis
A n’importe quelle heure je suis admis
Aux rendez-vous d’affaires
Quand l’argent est urgent, je croise le fer 注1
Il est un rendez-vous pourtant 注2
Où j’aime aller isolément
恋人との待ち合わせでは
僕の時間はすべて君のもの ずっとね
友だちとの待ち合わせでは
何時だって僕は許してもらえる
仕事上の待ち合わせでは
緊急に金が必要なら、僕は剣を交える
だが僕がまた別に向かいたい
待ち合わせがある
Autour de minuit, je donne parfois rancard
A ma bonne étoile, la plus belle des stars
Elle est en retard, bien sûr
Cette étoile au baiser d’azur
Elle est en retard, bien sûr, du fond de ses nuits
Mais je l’attends quand même du fond de mon puits
Je l’attends comme une maman
Dans le noir du firmament
真夜中ごろ、僕は時々デートの約束をする
星々のうちで一番きれいな僕の幸運の星と
彼女は時間に遅れる、きっと
青色のキスをしてくれるこの星は
彼女は時間に遅れる、きっと、夜の底に沈み込んで
だがそれでも僕は井戸の底で待っている
僕は彼女をママンを待つように待つ
蒼穹の闇のなかで

Je l’attends sous un vieux bec de jaz 注3
Vu de loin, j’peux paraître un peu nase
Mais ne t’inquiète pas, passant
Si tu me croises au tournant
Je ne guette comme un gosse
Qu’un clin d’œil du cosmos
僕は古いジャズ楽器の吹口の下で彼女を待つ
遠くから見て、僕はちょっとクレイジーに見えるかもしれない
でも心配しないで、通りがかった君
もしも君が曲がり角で僕とすれ違っても
僕は小僧っ子のように
宇宙のウインクしか待ち受けていないんだ

Autour de mes nuits, allez luis, je t’attends
O toi ma bonne étoile, allez, va, descends
Dans tes bras d’années-lumière
Je veux tomber en poussière
Poussière d’étoile autour d’minuit 注4
僕の夜の時間に、そら、光ってよ、僕は君を待っている
オー君、僕の幸運の星よ、そら、来てよ、降りてよ
君の何光年もの腕のなかで
僕は砕け散って屑になりたい
真夜中の星屑に

[注] 題名のAutour de minuitは英題のRound midnightと同義で「真夜中ごろ」の意味。
1 croiser le fer avec qn.「(…と)剣を交える、(…と)議論を戦わせる」
2 Il est=Il y a
3 jaz「ジャズ」(gaz「ガス」としている歌詞が多いが音源で判断した)、したがってbecは「吹奏楽器の吹口」。映画に主演したサックス奏者のデクスター・ゴードンをイメージした表現に思える。
4 スターダストStardustというジャズのスタンダード・ナンバーを想起させる。
Comment:0

ジャック・ブレルJacques Brelの「行かないでNe me quitte pas」は、1959年にブレルが当時彼のピアニストだったジェラール・ジュアネストGérard Jouannestの協力を得て作った曲。女優であり歌手であったスザンヌ・ガブリエロSuzanne Gabrielloとの別れの後に書かれたとされますが、歌詞内容とは逆にスザンヌのもとを去ったのはブレルのほうだったとか。

ジャック・ブレル
ニーナ・シモンNina Simone
スティングSting
もう一つ加えましょう。ブラジルの若手女性シンガー、マリア・ガドゥMaria Gadú。非常に面白いアレンジです。
このように、何人もの大物歌手たちが英語ではなくフランス語で歌いたかったというのはとてもおもしろい現象ではないでしょうか。
英語ヴァージョンのIf You Go Awayもあり、ダスティ・スプリングフィールドDusty Springfieldはフランス語を一部加えながら歌っていて一番人気のようですが、バーブラ・ストライザンドBarbra StreisandやマドンナMadonna もいいです。
そしてなんと、パトリシア・カースPatricia Kaasも英語で歌っています。
マルレーネ・ディートリッヒMarlene Dietrichはドイツ語です。
Ne me quitte pas 行かないで
Jacques Brel ジャック・ブレル
Ne me quitte pas
Il faut oublier
Tout peut s'oublier
Qui s'enfuit déjà
Oublier le temps
Des malentendus
Et le temps perdu
A savoir comment
Oublier ces heures
Qui tuaient parfois
A coups de pourquoi
Le cœur du bonheur
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
行かないでくれ
忘れるべきだ
すでに過ぎ去ったことは
すべて忘れうる
行き違いの時を
そして 疑問に
費やされた時を
忘れることだ
なぜの一言で
しあわせな心を
しばしば抹殺してしまった
そうした時を
忘れることだ
行かないで
行かないで
行かないで
行かないで

Moi je t'offrirai
Des perles de pluie
Venues de pays
Où il ne pleut pas
Je creuserai la terre
Jusqu'après ma mort
Pour couvrir ton corps
D'or et de lumière
Je ferai un domaine
Où l'amour sera roi
Où l'amour sera loi
Où tu seras reine
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
この僕は君に捧げる
雨の降らない
国から届いた
雨のしずくの真珠を
土を掘りつづけよう
僕が死んだのちもなお
君のからだを
黄金と光で覆うために
国をつくろう
そこでは愛が王となり
そこでは愛が掟となり
そこでは君が女王となるだろう
行かないで
行かないで
行かないで
行かないで

Ne me quitte pas
Je t'inventerai
Des mots insensés
Que tu comprendras
Je te parlerai
De ces amants-là
Qui ont vu deux fois
Leurs cœurs s'embraser
Je te raconterai
L'histoire de ce roi
Mort de n'avoir pas
Pu te rencontrer
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
行かないでくれ
君のために
奇抜な言葉を創り出そう
君はそれを理解してくれるだろう
君に話そう
自分たちの心が燃え上がるのを
ふたたび見た
あの恋人たちのことを
君に語ろう
君に逢うことが
できずに死んだ
あの王の物語を
行かないで
行かないで
行かないで
行かないで

On a vu souvent
Rejaillir le feu
De l'ancien volcan
Qu'on croyait trop vieux
Il est paraît-il
Des terres brûlées
Donnant plus de blé
Qu'un meilleur avril
Et quand vient le soir
Pour qu'un ciel flamboie
Le rouge et le noir
Ne s'épousent-ils pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
ひとはしばしば目にする
あまりにも古いと思われていた
昔の火山の火が
再び吹き出すのを
どうやら
焼かれた土地は
より良好な4月にもまして
多くの麦をもたらすらしい
夕暮れが訪れるとき
空が燃え上がるようにと
赤と黒とが
契りを結ぶではないか
行かないで
行かないで
行かないで
行かないで

Ne me quitte pas
Je n'vais plus pleurer
Je n'vais plus parler
Je me cacherai là
A te regarder
Danser et sourire
Et à t'écouter
Chanter et puis rire
Laisse-moi devenir
L'ombre de ton ombre
L'ombre de ta main
L'ombre de ton chien
行かないでくれ
もう泣くまい
もう話すまい
あそこに身を潜め
君が踊りまた微笑むのを
見ていよう
そして君が歌いまた笑うのを
聞いていよう
ならせてほしい
君のシルエットの影に
君の手の影に
君の犬の影に

Mais
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas.
だが
行かないで
行かないで
行かないで
行かないでくれ。
[注] よく知られている邦題の「行かないで」を使うことにした。そして歌詞中のNe me quitte pasと音節数がうまく合うのでそのまま歌詞中の訳語にもしたが、正確に訳すと、「僕のもとを去らないでくれ」となる。さらに砕けば、「僕を捨てないで」かも。
歌詞には難しい箇所はないが、「雨の降らない国から届いた雨のしずくの真珠を…」などと言語矛盾だらけである。思いつく限りの言葉を尽くして、去りゆく恋人を引き留めようとする、けなげな男心の歌だと理解いただければ結構。
Comment:2

「あとには何もないIl n'y a plus d'après」は、サン=ジェルマン=デ=プレSaint-Germain-des-Présの様変わりを歌った歌。1960年にギイ・ベアールGuy Béart が作った曲で、歌っているのはジュリエット・グレコJuliette Gréco。「モンマルトルの丘La complainte de la butte」を歌ったコラ・ヴォケールCora Vaucaireが「サン=ジェルマン=デ=プレの白い貴婦人」と呼ばれていたのと対照的に、黒が彼女のシンボル・カラーです。
90歳のシャルル・アズナヴールCharles Aznavourも86歳のリーヌ・ルノーLine Renaudも現役。アンリ・サルヴァドールHenri Salvadorも90歳で亡くなるまで歌い続けていました。グレコは現87歳。今年も来日して歌ってくれました。シャンソン歌手は息が長いです。
彼女は、サルトルJean-Paul Sartreを始めとする実存主義者たちと親交や、彼女自身の生き方や歌に対する考え方のために実存主義的な歌手と評されます。ジャン・コクトーJean Cocteauの「オルフェOrphée」などに出演し、映画女優としても知られています。何度かの結婚暦のほかに、ジャズ・トランペッターのマイルス・デイビスMiles Davisと恋仲だったことがあり、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgともつかの間の付き合いがあったようです。現在の夫はジャック・ブレルJacques Brelのピアニストだったジェラール・ジュアネストGérard Jouannestで、もう40年以上、彼女の伴奏を続けています。
この曲を作ったギ・ベアール自身がギターの弾き語りで歌っています。
アメリカの俳優のアンソニー・パーキンズAnthony Perkinsも歌っています。
Il n'y a plus d'après あとには何もない
Juliette Gréco ジュリエット・グレコ
Maintenant que tu vis
A l'autre bout d'Paris
Quand tu veux changer d'âge
Tu t'offres un long voyage
Tu viens me dire bonjour
Au coin d'la rue du Four 注1
Tu viens me visiter
A Saint-Germain-des-Prés 注2
今、あなたは
パリの向こうの端に住んでいるから
歳を遡りたいと思ったら
長い旅をしなきゃならないわ
あなたは私にこんにちはを言いに
デュフール通りの角までやって来る
あなたは私を訪ねてくる
サン=ジェルマン=デ=プレに

{Refrain:}
Il n'y a plus d'après
A Saint-Germain-des-Prés
Plus d'après-demain
Plus d'après-midi
Il n'y a qu'aujourd'hui
Quand je te reverrai
A Saint-Germain-des-Prés
Ce n'sera plus toi
Ce n'sera plus moi
Il n'y a plus d'autrefois
あとには何もないわ
サン=ジェルマン=デ=プレには
明日以後もなく
午後もなく
今日しかない
サン=ジェルマン=デ=プレで
あなたがわたしに再会するときは
もう昔のあなたじゃないし
もう昔の私でもない
昔のものは何もないわ
Tu me dis "Comme tout change ! "
Les rues te semblent étranges
Même les cafés-crème
N'ont plus le goût qu'tu aimes
C'est que tu es un autre 注3
C'est que je suis une autre
Nous sommes étrangers 注4
A Saint-Germain-des-Prés
あなたは私に言う「なんという変わり様だ!」
通りはあなたには見知らぬ通りのように見え
カフェ・クレームだって
あなたが好んでいた味じゃない
それはあなたが別人になり
私も別人になり
私たちがよそ者になったってこと
サン=ジェルマン=デ=プレでは

{Refrain}
A vivre au jour le jour
Le moindre des amours
Prenait dans ces ruelles
Des allures éternelles
Mais à la nuit la nuit 注4
C'était bientôt fini
Voici l'éternité
De Saint-Germain-des-Prés
その日その日を生きていると
恋のささいな一コマも
永遠に続きそうなゆっくりした足どりで
小路を辿っていたわ
けれど夜がおとずれると
それはもう終わってしまっている
これがサン=ジェルマン=デ=プレの
永遠というものなのよ
{Refrain}
[注]
1 la rue Dufourとする歌詞が多いが、通りの正式名を選択した。セーヌ川の左岸の第6区にある通り。
2 Saint-Germainは6世紀末にローマから来た聖人の名。des-Présのpréは牧草の生えた草地のこと。近くを意味するprèsとはアクサンが異なる。
3 男性が歌う場合は、tu es une autre / je suis un autreとなる。Nous sommes étrangersは、この街のよそ者になったという意味と、あなたと私が互いに見知らぬ人になったという2つの解釈が可能だが、前者を選択した。サンジェルマン・デ・プレが変わっただけでなく、自分たちも変わってしまったというところが、ニコレッタNicolettaの「想い出のサン=ジェルマン=デ=プレOù Es-tu passé mon Saint-Germain-des-Prés」との違い。
4 かつてそこで青春を送っていた時期が去ってしまった今を夜に譬えている。そして、Voici l'éternitéは反語的な表現。したがって、あとには何もないのである。
Comment:1

今の季節、晩秋から初冬にかけて見られる、温やかで暖かい春に似た天気のことを「小春日和」と呼びますが、これは日本に限らず北半球全体で広く見られる気候現象で、英語でIndian Summerと呼ばれています。これをフランス語にした「インデアン・サマーL'été indien」をタイトルにした曲をジョー・ダッサンJoe Dassinが歌っています。11月ももうすぐ終わってしまいますね。もう少し早く思いつけばよかったですが、急ぎそれを取り上げましょう。
ジョー・ダッサンJoe Dassinのプロフィールから。
彼は、1938年に映画監督ジュールス・ダッシンJules Dassin(仏語読みではダッサン)の息子としてニューヨークに生まれました。
父親ジュールスはハリウッドの映画監督でしたが、なんらかの事情でハリウッドから追放され、一家は1950年にパリに移ります。ジュールスはその後、カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞し、60年には、監督・主演したギリシャ映画「日曜日はダメよΠοτέ Την Κυριακή」の世界的な大ヒットでハリウッドを見返します。
息子ジョーは、スイスで教育を受けたのち、56年にアメリカのミシガン大学へ入学しますが2年で中退。ラジオ局でDJのアルバイトをしていたとき、まだ無名時代のボブ・ディランBob Dylanと知り合ったことなどをきっかけに音楽に関心を持ち始めます。60年代の初めにパリに戻り、一時は父ジュールスの仕事を手伝っていましたが、その後、フランスの大手ラジオ局のDJとなります。そして当時の恋人がジョーのデモテープを送ったことでCBSにスカウトされ、専属歌手となります。
そして、69年にリリースされたシングル「オー・シャンゼリゼLes Champs-Elysées」(イギリスの曲「ウォータールー・ロードWaterloo Road」の翻案)が爆発的にヒットし、ジョーはシャンソン界のトップ・スターとしての地位を確かなものにします。また、75年に発表された「インデアン・サマーL'été indien」は、彼の曲のなかで最大のヒットとなりました。79 年には3度目のオランピア劇場コンサートを成功させましたが、同年12月に心臓疾患で緊急入院して手術を受けます。翌80年、2度目の離婚のあと、彼の別荘のあるタヒチのレストランで食事中、心臓発作のため帰らぬ人となりました。
そのほかの曲としては、「君がいなかったらEt si tu n'existais pas」「野ばらのひとSiffler sur la colline」などを挙げておきましょう。
この「インデアン・サマーL'été indien」は、珍しく語りの多い曲です。
L'été indien インデアン・サマー
Joe Dassin ジョー・ダッサン
Tu sais, je n’ai jamais été aussi heureux que ce matin-là
Nous marchions sur une plage un peu comme celle-ci
C’était l’automne, un automne où il faisait beau
Une saison qui n’existe que dans le Nord de l’Amérique
Là-bas on l’appelle l’été indien
Mais c’était tout simplement le nôtre
Avec ta robe longue tu ressemblais
A une aquarelle de Marie Laurencin
Et je me souviens, je me souviens très bien
De ce que je t’ai dit ce matin-là 注1
Il y a un an, y a un siècle, y a une éternité 注2
ねぇ、僕はあの朝ほど幸せだったことはないよ
僕たちはちょっとこれと同じような浜辺を歩いていたね
それは秋、晴れ渡った秋で
北アメリカにしかない季節だった
向こうではインデアン・サマーと呼ばれている
だがそれはひたすら僕たちのものだった
長いドレスを着た君は
マリー・ローランサンの水彩画のようだった
そして僕は覚えている、とてもよく覚えているよ
あの朝に僕が君に言ったことを
1年前、いや1世紀も前、もうずうっと前のことだ

On ira où tu voudras, quand tu voudras
Et on s’aimera encore, lorsque l’amour sera mort
Toute la vie sera pareille à ce matin
Aux couleurs de l’été indien
君が望むところに行こう、君が望むときに
そしてまた愛し合おう、愛が消えてしまっても
人生はずっと今朝みたいに
インデアン・サマーの色をしているだろう
Aujourd’hui je suis très loin de ce matin d’automne
Mais c’est comme si j’y étais. Je pense à toi.
Où es-tu? Que fais-tu? Est-ce que j’existe encore pour toi?
Je regarde cette vague qui n’atteindra jamais la dune
Tu vois, comme elle je reviens en arrière
Comme elle je me couche sur le sable
Et je me souviens, je me souviens des marées hautes 注3
Du soleil et du bonheur qui passaient sur la mer
Il y a une éternité, un siècle, il y a un an
今では僕はあの秋の朝から遠く離れてしまった
だがまるであの日に戻ったようだ。僕は君のことを思う。
君はどこにいるんだ?何をしているんだ?
君にとって僕はまだ存在しているのか?
決して砂丘まで届くことのないこの波を僕は見ている
そう、その波のように僕は後ずさりする
その波のように僕は砂の上に身を横たえる
そして僕は思い出す、満潮と
海の上を通る太陽と幸せを僕は思い出す
もうずうっと前、いや1世紀前、1年前のことだ

On ira où tu voudras, quand tu voudras
Et on s’aimera encore lorsque l’amour sera mort
Toute la vie sera pareille à ce matin
Aux couleurs de l’été indien
君が望むところに行こう、君が望むときに
そしてまた愛し合おう、愛が消えてしまっても
人生はずっと今朝と同じように
インデアン・サマーの色をしているだろう
[注]
1 ce que je t’ai dit「言ったことと」とは、次節に歌われる内容。
2 Il y a une éternité「ずっと昔のこと」。後の節では、un an、un siècle、une éternitéの順序を逆にしている。
3 des marées hautes潮がどんどん引いていく心境の現在と対比して、当時の心の高まりを満潮と表現している。潮汐は月と太陽の引力で引き起こされるが、それが海の上を通る太陽と幸せによって引き起こされたというつながりも読み取れる。
Comment:3

今回は「懐かしき恋人たちの歌」という邦題で知られるジャック・ブレルJacques BrelのLa chanson des vieux amantsです。この曲は1967年にブレルが作詞し、ブレルの曲想をもとに、そのピアニストで現在はジュリエット・グレコJuliette Grécoの夫であるジェラール・ジュアネストGérald Jouannestが作曲しました。この邦題は歌詞内容に合わず意味不明です。英訳のタイトルはThe Song of Old Loversとされており、vieuxもoldも、「歳を取った」ではなく、「古くからの」という意味で用いられていますから、「歳月を経し恋人たちの歌」という邦題に変えました。
ひとりの伴侶と長い年月、人生を分かち合うことは素晴らしいことです。でも、それは生易しいことじゃないんだということをこの歌は語っています。これはブレル自身の人生から吐き出された言葉のようです。
ジュリエット・グレコ
モラーヌMaurane
イヴ・デュテイユYves DuteilやミルヴァMilvaも歌っています。
La chanson des vieux amants 歳月を経し恋人たちの歌
Jacques Brel ジャック・ブレル
Bien sûr, nous eûmes des orages
Vingt ans d'amour, c'est l'amour fol 注1
Mille fois tu pris ton bagage
Mille fois je pris mon envol
Et chaque meuble se souvient 注2
Dans cette chambre sans berceau
Des éclats des vieilles tempêtes
Plus rien ne ressemblait à rien 注3
Tu avais perdu le goût de l'eau 注4
Et moi celui de la conquête
もちろん、僕たちには嵐の日もあった
20年の恋、それは気違いじみた恋だ
いく度となく君は荷物をまとめ
いく度となく僕は飛び出した
そしてひとつひとつの家具は覚えている
揺りかごのないこの部屋にかつて起こった
何度かの嵐を
もうなにもかもが意味をなさなくなって
君は水の味も分からなくなり
そして僕は征服欲をなくしていた

Oh, mon amour
Mon doux, mon tendre, mon merveilleux amour
De l'aube claire jusqu'à la fin du jour
Je t'aime encore, tu sais, je t'aime
おお、恋人よ
僕の甘い、優しい、素晴らしい恋人よ
すがすがしい夜明けから日の暮れる時まで
君をなおも愛している、そうだよ、君を愛している
Moi, je sais tous tes sortilèges
Tu sais tous mes envoûtements
Tu m'as gardé de pièges en pièges 注5
Je t'ai perdue de temps en temps
Bien sûr tu pris quelques amants
Il fallait bien passer le temps
Il faut bien que le corps exulte
Finalement, finalement
Il nous fallut bien du talent
Pour être vieux sans être adultes
僕は君の魔力をすべて知っている
君は僕の魅力をすべて知っている
君はいくつかの罠から僕を護った
僕は何度か君を見失いもした
むろん君は何人か恋人を持った
時間の経過が必要だったろうし
肉体的快楽も必要だ
つまりは、つまりは
僕たちは成長せずに老いるための
すべを必要としたんだ

Oh, mon amour
Mon doux, mon tendre, mon merveilleux amour
De l'aube claire jusqu'à la fin du jour
Je t'aime encore, tu sais, je t'aime
おお、恋人よ
僕の甘い、優しい、素晴らしい恋人よ
すがすがしい夜明けから日の暮れる時まで
君をなおも愛している、そうだよ、君を愛している
Et plus le temps nous fait cortège 注6
Et plus le temps nous fait tourment
Mais n'est-ce pas le pire piège
Que vivre en paix pour des amants
Bien sûr tu pleures un peu moins tôt
Je me déchire un peu plus tard
Nous protégeons moins nos mystères 注7
On laisse moins faire le hasard 注8
On se méfie du fil de l'eau 注9
Mais c'est toujours la tendre guerre
時は僕たちに従順について来るだけに
時は僕たちにうるさくつきまとう
だが恋人同士として平穏に生きること
それは最悪の落とし穴ではなかろうか
もちろん君はそんなにすぐには泣かないし
僕が自身をさいなむのも少し経ってからだ
僕たちは内輪の隠し事を守ろうとし過ぎず
なりゆきに任せ過ぎず
水の流れにも気をつける
だがそれはいつだって優しい戦いなのだ

Oh, mon amour...
Mon doux, mon tendre, mon merveilleux amour
De l'aube claire jusqu'à la fin du jour
Je t'aime encore, tu sais, je t'aime.
おお、恋人よ
僕の甘い、優しい、素晴らしい恋人よ
すがすがしい夜明けから日の暮れる時まで
君をなおも愛している、そうだよ、君を愛している
[注]
1「プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて)La chanson de Prévert」で、男性名詞であるamourの複数形が女性名詞扱いされると書いたが、ここでfol(fouの男性第2形) が用いられていることに関しては、envolと韻を踏むためというしか説明がつかない。
2「家具が覚えている」という擬人化した表現。
3 ne ressembler à rien「ユニークである、並外れている」と「まともなものではない、意味をなさない」の二つの意味がある。Plus rienのrienが主語で、二重否定になるのではなく、後者の意味が強調されている。
4 perdre le goût de l'eauはperdre le goût du painは「やる気をなくす」と近い意味だろう。Barbaraの「ペルランパンパンPerlimpinpin」http://blogs.yahoo.co.jp/alfonsinayelmal/11980087.htmlの歌詞には、À en perdre le goût de vivre, Le goût de l'eau, le goût du painというフレーズがある。次行のceluiはle goût。
5 garderは「留めておく」と「(危険などから)守る」。de…en…は次のde temps en tempsと共通で、移行・度合・周期を示す表現。
6 plus…(et) plus「…が多ければ多いほどなお…が多い、…であればあるほどますます…である」
7 mystèreは、「神秘、不思議」というより「隠し事、秘密」の意味だろう。文脈的には、「自分たちの秘事を、外部に対して…」ととらえるのが自然である。「僕と君それぞれが、自分の隠し事を、相手に対して…」ということをnousとnosで一括りにした表現ととらえた方が意味が分かりやすいのだが…。
8 ここは、Laisser faire, laisser passer.「なすに任せよ、行くに任せよ」単に「レッセフェール」ともいわれる、アダム・スミスの放任主義の標語を想起させる。le hasardは「偶然」(「危険」という意味も別にある)。つまりは、「偶然のなすがままにさせ過ぎない。」ということ。
9 se laisser aller au fil de l'eau「自然の成り行きに任せる」という成句があり、le fil de l'eau「水の流れ」は「自然の成り行き」を意味する。それにse méfier「用心する」ということで、注7での表現を言い直している内容である。
この節の5行目以降は、vivre en paix pour des amants「恋人同士として平穏に生きること]というle pire piège「最悪の落とし穴」を乗り切るための自分たちのあり様を肯定的に列記している。最後にそれはla tendre guerre「優しい戦い」なんだと締め括られる。
Comment:0

ブールヴィルBourvilはコメディアンそして歌手。1917年にフランス北部で生まれました。パン屋などさまざまな職業につきましたが、1937年に軍隊に入り、同じ隊に、「バラ色の人生La vie en rose」「あじさい娘Mademoiselle Hortensia」などの作曲で知られるルイギーLouiguyがいたことで、音楽に関心をもち始めます。除隊後、「鉛筆Les crayons」を作詞し、ヒットします。その後も作品を出し続け、59年に出した「フルーツ・サラダの歌Salada de fruits」は世界的にヒットしました。彼はジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensと友だちで、シャンソンに関する知識を共有しあったそうです。
Wikipédeiaのフランス語のページは、ほとんど俳優としての活動をメインに書かれています。でも、ここではごく簡単に。1945年に映画デビューした以後、フランスで最も人気のあるコメディアンのひとりとなりました。また、シリアスな演技を見せることもあります。1956年の「パリ横断La treversée de Paris」でヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞。1962年の「史上最大の作戦The Longest Day」にも出演しました。当然ながら多くの俳優たちとも交流がありました。
1970年にパリ郊外の病院で亡くなりました。
今回取り上げるのは、1958年にブールヴィルが創唱した「アイルランドのバラードBallade irlandaise」(作詞:エディ・マルネイEddy Marnay 、作曲:エミル・ステルンEmil Stern )。
ダニエル・ダリューDanielle Darrieuxという名女優は歌もすばらしいです。ブールヴィルとは少し歌詞が違います。
Ballade irlandaise アイルランドのバラード
Bourvil ブールヴィル
{Refrain:}
Un oranger sur le sol irlandais,
On ne le verra jamais.
Un jour de neige embaumé de lilas,
Jamais on ne le verra.
Qu'est ce que ça peut faire ? 注1
Qu'est ce que ça peut faire ?
アイルランドの地のオレンジの木、
そんなの誰もけっして見やしない。
リラの花の香りのする雪の日、
けっして誰もそんなの見やしない。
それがなんだっていうんだ?
それがなんだっていうんだ?

Tu dors auprès de moi, (Je dors auprès de toi,)
Près de la rivière,
Où notre chaumière
Bat comme un cœur plein de joie.
おまえは僕の傍らで眠る、 (私はあなたの傍らで眠る、)
川のほとりで、
そこでは僕たちの藁ぶきの家が
喜びでいっぱいの心臓のように息づいている

Un oranger sur le sol irlandais,
On ne le verra jamais.
Mais dans mes bras, quelqu'un d'autre que toi, (Mais quelqu'un d'autre que toi dans mes bras,)
Jamais on ne le verra.
Qu'est ce que ça peut faire ?
Qu'est ce que ça peut faire ?
アイルランドの地のオレンジの木、
そんなの誰もけっして見やしない。
だが僕の腕のなかに、おまえ以外の者など、 (でもあなた以外の人など私の腕のなかに)
けっして誰もそんなの見やしないんだから。
それがなんだっていうんだ?
それがなんだっていうんだ?
Tu dors auprès de moi. (Je dors auprès de toi.)
L'eau de la rivière,
Fleure la bruyère, 注2
Et ton sommeil est à moi. (Et ton amour est à moi.)
おまえは僕の傍らで眠る。(私はあなたの傍らで眠る)
川の水は、
ヒースの香りがする、
そしておまえのまどろみは僕のもの。 (そしてあなたの愛は私のもの)

{Refrain}
Toi, mon enfant, tu es là ! (Toi, tu seras toujours là !) 注3
おまえ、僕のかわいい子、おまえはここにいる!(あなた、あなたはいつもここにいるわ!)
[注] ダニエル・ダリューの歌は女性の立場の歌詞。違っている部分は括弧に入れて示した。
1 Qu'est ce que ça peut faire ? 「それがなんだっていうんだ?」は反語で、「なんでもないことだ」という意味。
2 fleurer「…の香りを放つ」。区切られてはいるが、前行のl'eauが主語。
3 ブールヴィルの歌詞のmon enfantは、妻・恋人をこう呼んでいるようだが、文字通り自分の子どもに対する呼びかけと捉えてもいいだろう。
Comment:0

リーヌ・ルノーLine Renaudの「カナダの私の小屋Ma cabane au Canada」は、1947年にミレイユ・ブロセイMireille Broceyが作詞し、リーヌ・ルノーの夫のルールー・ガステLoulou Gastéが作曲し、1949年にACCディスク大賞を受賞しました。
若い頃の歌
最近の歌です。歳を重ねてますます美しくなり、歌も磨かれていてステキです。見習いたいものです。
Ma cabane au Canada カナダの私の小屋
Line Renaud リーヌ・ルノー
Ma cabane au Canada
Est blotie au fond des bois
On y voit des écureuils
Sur le seuil
Si la porte n’a pas de clé
C’est qu’il n’y a rien a voler
Sous le toît de ma cabane au Canada
カナダの私の小屋は
森の奥にうずくまっている
リスたちが
戸口にいるのが見える
ドアに鍵がないのは
盗むものは何もないから
カナダの私の小屋の屋根の下には

Elle attend engourdie sous la neige
Elle attend le retour du printemps
Ma cabane au Canada
C’est le seul bonheur pour moi
La vie libre qui me plait
La forêt
A quoi bon chercher ailleurs
Toujours l’élan de mon cœur 注
Reviendra vers ma cabane au Canada
小屋は雪の下でこごえつつ待っている
小屋は春が戻って来るのを待っている
カナダの私の小屋
それは私の唯一のしあわせ
私の好きな自由な生活と
森は
他所を探してなんになるの
いつも私の弾む心は
カナダの私の小屋に戻って来るわ
Mais je rêve d’ y emmener
Celui qui voudra me suivre
Viens avec moi si tu veux vivre
Au cher pays où je suis née
でも私はそこに連れて行くことを夢みている
私について来たいと願う人を
私といっしょにいらっしゃい もしもあなたが
私が生まれた懐かしい国で生きたいと願うなら

Ma cabane au Canada
J’y reviendrai avec toi
Nous rallumerons le feu tous les deux
Nous n’aurons pas de voisins
Parfois seul un vieil indien
Entrera dans ma cabane au Canada
カナダの私の小屋
私はそこにあなたと帰るわ
私たちは二人でまた火を燃やしましょう
私たちには隣人もなく
時おり年老いたインデアンだけが
カナダの私の小屋を尋ねて来るでしょう
Je te dirai le nom des fleurs sauvages
Je t’apprendrai le chant de la forêt
Ma cabane au Canada
Tant que tu y resteras
Ce sera le paradis
Mon chéri
A quoi bon chercher ailleurs
Je sais bien que le bonheur
Il est là
Dans ma cabane au Canada
私はあなたに野生の花の名前を言うわ
私はあなたに森の歌を教えるわ
カナダの私の小屋
あなたがそこに留まるかぎり
そこは楽園になるわ
いとしいあなた
よそを探してなんになるの
私には分かっているわ
しあわせがそこにあるって
カナダの私の小屋に

[注] l’élan de mon cœur「胸の高まり」と訳したほうが正確だが、文脈上「弾む心」と意訳した。
Comment:0

「パリ・カナイユParis canaille」は、1952年にレオ・フェレLéo Ferréが作り、カトリーヌ・ソヴァージュCatherine Sauvageが創唱しました。canailleは「不良、ごろつき」といった意味。パリを擬人化して二人称で呼び、さんざんけなしつつも、この街への愛情を表現している歌です。1955年に作られた映画「パリ野郎Paris coquin」にこの曲が用いられました。coquinはcanailleと似たり寄ったりで「いたずらっ子、ろくでなし」の意味ですが、その邦題に合わせ、この曲も「パリ野郎」と呼ばれます。
レオ・フェレ自身、そしてイヴ・モンタンYves Montand、ジュリエット・グレコJuliette Grécoらも歌っています。
ザズZaz はかなり型破りな歌い方で面白いです。
Paris canaille パリ・カナイユ(パリ野郎)
Catherine Sauvage カトリーヌ・ソヴァージュ
かなり長い歌詞で特殊な表現が多いので、下線を引いた語句の説明をその右側に付けた。
Paris marlou
Aux yeux de fille
Ton air filou
Tes vieilles guenilles
Et tes gueulantes
Accordéon
Ça fait pas d'rentes
Mais c'est si bon
パリのごろつき野郎
女の子の目には
アンタのペテン師みたいな風貌
アンタの着古したボロ服
そしてアンタの、がなりまくる
アコーデオン
そんなのお金になりゃしない
だけどステキさ

Tes gigolos
Te déshabillent
Sous le métro
De la Bastille
Pour se saouler =soûler
À tes jupons ペチコート、(会話では)女、娘
Ça fait gueuler
Mais c'est si bon
アンタんちの女たらしたちは
バスチーユの
メトロの駅の下で
アンタを脱がす
アンタの下着に
酔いしれようと
それはきゃあきゃあわめかせる
だけどステキさ
Brins des Lilas Porte de lilasにいる街娼のこと
Fleurs de Pantin Porte de Pantinにいる街娼のこと
Ça fait des tas faire le tas「街娼が客引きする」とtasの原義「たくさん」をかけている
De p'tits tapins 街娼の客引き
Qui font merveille すばらしい効果をあげる
En tout'saison
Ça fait d'l'oseille (俗語で)金銭
Et s'est si bon
ポルト・ド・リラの小枝たち
ポルト・ド・パンタンの花たちは
たくさん
ちょっとした客引をする
それは効果てきめん
年中やってりゃ
結構な身入り
それまたステキさ

Dédé-la-croix
Bébert d'Anvers ベルギーのアントワープ
Ça fait des mois
Qu'ils sont au vert =se mettre au vert田舎(実は刑務所)で療養中
Alors ces dames
S'font un' raison
A s'font bigames 二重結婚
Et c'est si bon
デデ・ラ・クロワ
アントワープのベベールは
何ヵ月も
別荘にいる
そこで奥方たちは
それをいいことに
彼氏をつくる
それまたステキさ
Paris bandit
Aux mains qui glissent
T'as pas d'amis
Dans la police
Dans ton corsage
De néon
Tu n'es pas sage
Mais c'est si bon
滑り込む手を持つ
パリのワルめ
アンタは
サツにダチはいない
アンタのネオン飾りの
ブラウスの中じゃ
アンタはお利口ぶっていない
だけどステキさ

Hold-up savants
Pour la chronique 新聞等のコラム
Tractions avant 前輪駆動
Pour la tactique
Un p'tit coup sec 鋭い一撃
Dans l'diapason 音域
Rang' tes kopecks ロシア通貨「カペイカ」
Sinon t'es bon 窮した
手を上げろ先生方
新聞ネタになるぜ
ポンコツ車は
手筈した
鋭い銃声が
調子よく響く
金を並べな
さもなきゃ痛い目を見るぜ
À la la une
À la la deux
Fil'-moi trois thunes filer(金を)与える。thune旧5フラン銀貨
J' te verrai mieux
La tout' dernière dernière des éditions印刷物の最終版
Des éditions
T' es en galère 囚人や奴隷の「ガレー船」→「ブタ箱」
Mais c'est si bon
あらら1枚
あらら2枚
5フラン銀貨を3枚よこせって
アンタがどうなるかもっと分かるだろう
最後の
結末としちゃ
アンタはブタ箱入りさ
だけどステキさ
À la la der
À la la rien
T'es un gangster
À la mie d'pain 役たたずの
Faut être adroit
Pour fair'carton 標的を撃つ
La prochain' fois
Tu s'ras p'têt'bon peut-être
あららヘッポコ
あららロクデナシ
アンタはギャング
見かけ倒しの
腕がよくなきゃね
的を射抜くには
この次は
アンタ上手く行くかも

Paris je prends
Au cœur de pierre 非情な心
Un compt' courant
Des bell's manières
Un coup d'chapeau 帽子を軽く持ち上げる挨拶
À l'occasion
Il faut c'qui faut
Mais c'est si bon
パリさん、いただくよ
心を鬼にして
当座預金を
手際良く
失敬!
必要に迫られた
時にはね
だけどステキさ
Des sociétés
Très anonymes
Un député
Que l'on estime
Un p'tit mann'quin
En confection
C'est pas l'bais'-main 手に接吻する礼
Mais c'est si bon
まったく得体の知れない
世の中だ
評判のいい
議員さんだって
格好だけの
しけたマネキンさ
敬意に値しない
だけどステキさ
Pass'la monnaie
V'la du clinquant Voilà
Un coup d'rabais
And gentleman
Un carnet d'chèque
Sans provision 不渡り
Faut faire avec あるもので我慢する
Mais c'est si bon
お代をおくれ
ほら、金ぴかだよ
1パツ負けるよ
ソレカラ ダンナ
不渡りの
小切手
これで我慢しなきゃ
だけどステキさ
Un p'tit faubourg
Saint Honoré
Trois petits fours
Et je m'en vais
Surpris'party (昨今は)ダンスパーティ、(以前は)持ち寄りパーティ
Surpris'restons
On est surpris
Mais c'est si bon
小さな通りの
サントノレに寄って
プチ・フールを3つ買い
それから行くよ
びっくりパーティーに
こちらはびっくりしっぱなし
みんなもびっくり
だけどステキさ

Paris j'ai bu
À la voix grise
Le long des rues
Tu vocalises
Y'a pas d'espoir
Dans tes haillons
Seul'ment l'trottoir
Mais c'est si bon
パリは、呑んじゃったよと
酔っぱらった声で
道すがら
アンタは高らかに歌う
アンタのボロ着にゃ
希望はないが
歩道だけはある
だけどステキさ
Tes vagabonds
Te font des scènes ここでは「喧嘩、大騒ぎ」
Mais sous tes ponts
Coule la Seine
Pour la romance
À illusion
Y'a d'l'affluence
Mais c'est si bon.
アンタんちの浮浪者たちは
いざこざをやらかす
だけど橋の下には
セーヌが流れ
夢を膨らませるような
ロマンスなら
溢れかえっている
だけどステキさ

Môm's égarées égaréesが女性形なのでmômeは「少女」
Dans les faubourgs
Prairie pavée
Où pouss'l'amour
Ça pousse encore
À la maison
On a eu tort
Mais c'est si bon
道にはぐれた少女たち
場末で
石畳の広場に
恋が芽生え
家の中だって
恋が芽生える
ひとは間違いをやらかしたさ
だけどステキさ
Regards perdus うつろな目
Dans le ruisseau
Où va la rue
Comme un bateau
Ça tangue un peu 船が縦に揺れる
Dans l'entrepont 中甲板、passager d’entrepont三等船室
C'est laborieux
Mais c'est si bon
うつろな目を
溝に落としていると
通りが
船みたいに行くかに見える
少々揺れて
甲板じゃ
ご苦労なありさま
だけどステキさ
Paris flon flon
T'as l'âme en fête
Et des millions
Pour tes poètes
Quelques centimes
À ma chanson
Ca fait la rime
Et c'est si bon
パリはぷかぷかどんどん
アンタはお祭り気分
アンタんちの詩人たちには
何百万
私の歌には
数サンチーム
ちゃんと韻を踏んでるんだよ
そしてステキなんだよ
Comment:0

ジャック・ブレルJacques Brelの曲は「アムステルダムAmsterdam」、「忘れないOn n'oublie rien」、「千拍子のワルツLa valse à mille temps」の3曲をすでに取り上げましたが、今回、彼のプロフィールを簡単にご紹介しましょう。
ブレルは1929年にベルギーに生まれたシンガー・ソングライター。地元で、父親の経営していた板紙工場で働きながら、自ら作った曲を歌い始めました。1953年に出した処女録音のレコードがフランスのディレクターの目に留まり、その招きによりパリに出ました。
1954年に初のアルバムを発表してから彼の評価はしだいに高まり、国に残した妻子を呼び寄せました。1959年に出した「愛しかない時Quand on n'a que l'amour」を含むセカンド・アルバムがディスク大賞を受賞し、同年、「行かないでNe me quitte pas」が世界的な大ヒットとなり、その後も、多岐にわたるテーマの幅広いスタイルの曲を次々と世に出しました。彼は、ちょっと堅物だったらしくその服装・雰囲気からも神父L'abbéとあだ名され、これまた大物歌手でゴリラGorilleとあだ名されるジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensと仲がよかったようです。
彼は人気絶頂の1966年に、突然シャンソンからの引退を発表し、セルバンテスMiguel de Cervantesの小説「ドン・キホーテDon Quixote」をもとにしたブロードウェイ・ミュージカル「ラ・マンチャの男Man of La Mancha」(1965年)のフランス語版L'Homme de la Manchaの制作・上演に没頭します。
そして彼の作ったフランス語版ミュージカル「ラ・マンチャの男L'Homme de la Mancha」は、1967年にカーネギー・ホールで、1968年にはブリュッセルの「ベルギー王立歌劇場(モネ劇場)」で、そしてまたパリの「シャンゼリゼ劇場Le théâtre des Champs-Élysées」で彼自身の主演で上演されました。
ブレルの68年のアルバム「ラ・マンチャの男L'Homme de la Mancha」は、その舞台の曲集で、全曲とも、原曲の作詞はジョー・ダリオンJoe Darion, 作曲はミッチ・レイMitch Leigh、フランス語訳詞はブレル。そのなかの1曲、フランス語版「見果てぬ夢The Impossible Dream」すなわちLa quêteを今回取り上げましょう。
実はこの頃にはすでに肺ガンが彼の体を蝕んでいたようです。同じ68年の曲「孤独への道J'arrive」は死病に取りつかれた無念さを吐露するようなすさまじい内容の曲です。
74年、ガンの治療を受けたのち南太平洋に逃げます。そして、77年にパリに戻って出した最後のアルバム「偉大なる魂の復活Les Marquises」にはポリネシアで書いた18の新曲のうちの12曲が収録されていて、残りの6曲は永久に公開しないという契約が成されていたそうです。78年、再発した肺癌によりパリ郊外で亡くなり、フランス領ポリネシアのヒバオア島アツオナの墓地に埋葬されました。
後年、何人かの歌手が歌っていますが、ケベックのジネット・リノGinette Renoをお勧めしたいと思います。
ニコル・クロワジルNicole Croisille、ジョニー・アリディーJohnny Hallydayも聴いてみてください。双方ともちょっと感情を込め過ぎかとも思いますが…。
La quête 見果てぬ夢
Jacques Brel ジャック・ブレル
Rêver un impossible rêve
Porter le chagrin des départs
Brûler d'une possible fièvre
Partir où personne ne part
叶わぬ夢を抱く
旅立ちの悲哀を忍ぶ
能うるかぎりの熱情に燃ゆる
誰も向かわぬ地に向かう

Aimer jusqu'à la déchirure
Aimer, même trop, même mal, 注1
Tenter, sans force et sans armure,
D'atteindre l'inaccessible étoile
愛する、心張り裂けるまでに
愛する、過度なるまで、不都合なるまでに、
試みる、武器も鎧も持たず、
届き得ぬ星に至らんと
Telle est ma quête,
Suivre l'étoile
Peu m'importent mes chances 注2
Peu m'importe le temps
Ou ma désespérance
Et puis lutter toujours
Sans questions ni repos
Se damner 注3
Pour l'or d'un mot d'amour
Je ne sais si je serai ce héros
Mais mon cœur serait tranquille
Et les villes s'éclabousseraient de bleu 注4
Parce qu'un malheureux 注5
わが探求はかくなるもの、
星を追う
わが運気など なにせんや
時機など なにせんや
はたまた わが絶望など なにせんや
げに常に闘う
問わず休まず
身を滅ぼすまでに
愛の語の黄金を愛す
英雄になるや否や知ろうことか
なれどわが心は静かなりき
また 巷は青に染まりし
一人の不幸なる者の

Brûle encore, bien qu'ayant tout brûlé 注6
Brûle encore, même trop, même mal
Pour atteindre à s'en écarteler
Pour atteindre l'inaccessible étoile.
燃え尽きてなお さらに心燃え
過度なるまで、不都合なるまでに、さらに心燃ゆるが故に
身の引き裂かるるとも至らんとて
届き得ぬ星に至らんとて。
[注]原題を直訳すると「探求」。「募金、カンパ」の意味もあるが。
今回、ちょっとお遊びで文語調の訳語を用いてみた。
1 ブレルはmêmeの発音がベルギー訛り。
2 chancesは複数で「確率、可能性」、単数は「運、幸運」とされる。ここではmesがつき、個人の「可能性」ということで「運」と等しくなる。
3 se damner pour…「(身を滅ぼすほど)…を愛する、…に夢中になる」
4 s’éclabousser本来は「(自分で)水の跳ねを受ける」という意味。éclabousserは「モンマルトルの丘」にも出てきたが、水や泥についての表現が光や光線についても用いられる。
5 次節につながる。
6 bien que=malgré que…「…にもかかわらず」

英語の原曲もご紹介しましょう。
ピーター・オトゥールPeter O'Tooleの舞台
松本幸四郎(高橋大輔のフィギュアー・スケートの映像)
フランク・シナトラFrank Sinatraや、イル・ディーヴォIl Divoもいいですね。ほかには、エルヴィス・プレスリーElvis Presley 、アンディ・ウィリアムズAndy Williamsも歌っています。
The Impossible Dream
To dream the impossible dream
To fight the unbeatable foe
To bear with unbearable sorrow
To run where the brave dare not go
To right the unrightable wrong
To love pure and chaste from afar
To try when your arms are too weary
To reach the unreachable star
This is my quest
To follow that star
No matter how hopeless
No matter how far
To fight for the right
Without question or pause
To be willing to march into Hell
For a heavenly cause
And I know if I'll only be true
To this glorious quest
That my heart will lie peaceful and calm
When I'm laid to my rest
And the world will be better for this
That one man, scorned and covered with scars
Still strove with his last ounce of courage
To reach the unreachable star
Comment:0

「街角Coin de rue」は、シャルル・トレネCharles Trenetが1954年に作詞・作曲したシャンソン。トレネはジュリエット・グレコJuliette Grécoの当時の夫だった俳優のフィリップ・ルメールPhilippe Lemaireに頼まれて、カフェ・テラスの紙ナプキンにわずか15分でこの曲を書いたといわれます。創唱はグレコですが、同年、トレネ自身も録音しています。歌詞の内容は、男性歌手・女性歌手いずれにも合うものです。過去への郷愁は、たびたび出て来るテーマながら、それぞれの曲がそれぞれの魅力をもっていますね。
トレネ
グレコ
新しいところで、バンジャマン・ビオレィBenjamin Biolay
Coin de rue 街角
Juliette Gréco ジュリエット・グレコ
Je me souviens d'un coin de rue
Aujourd'hui disparu.
Mon enfance jouait par là.
Je me souviens de cela.
Il y avait une palissade,
Un taillis d'embuscades.
Les voyous de mon quartier
Venaient s'y batailler.
思い出すわ
いまは消えてしまった ある街角を。
子供のころにそこで遊んだ。
そのことを思い出すわ。
柵を巡らしてあって、
身を隠す茂みがあった。
うちの近所の不良たちが
喧嘩しにやって来た。

A présent, il y a un café,
Un comptoir tout neuf qui fait de l'effet, 注1
Une fleuriste qui vend ses fleurs aux amants
Et même aux enterrements.
いまは、そこにはカフェが、
ピカピカの新しいカウンターがあり、
花売りが恋人たちに花を売っている
また葬儀用にも。
Je me souviens d'un coin de rue
Aujourd'hui disparu.
Je me souviens d'un triste soir
Où, le cœur sans espoir,
Je pleurais en attendant
Un amour de quinze ans, 注2
Un amour qui fut perdu
Juste à ce coin de rue
思い出すわ
いまは消えてしまった ある街角を。
ある悲しい夕べを思い出す
そこで、希望をなくし、
待ちながら泣いていた
15歳の恋、
うしなった恋
ちょうどその街角で

Et depuis, j'ai beaucoup voyagé,
Trop souvent en pays étrangers.
Mondes neufs, constructions et démolitions,
Vous me donnez des visions. 注3
それから、わたしはたくさん旅をしたわ、
見知らぬ国々に何度も。
新しい世界、建設と破壊、
それらは私に幻覚を与える。
Je crois voir mon coin de rue
Et, soudain apparus,
Je retrouve ma palissade,
Mes copains, mes glissades,
Mes deux sous de muguet de printemps,
Mes quinze ans... mes vingt ans,
Tout ce qui fut et qui n'est plus,
Tout mon vieux coin de rue.
La la la la la la la
Tout mon coin de rue…
私のあの街角を見た気がする
そして、突然あらわれたの、
私はまた目にする あの柵、
仲間たち、滑りっこ遊び、
春のすずらんの花を買った2スー
私の15の頃…はたちの頃、
過ぎ去ったものすべて そして戻って来ないものすべてを、
私の昔の街角のすべてを。
ラララララララ
私の街角のすべてを…

[注] トレネとグレコの歌っている歌詞には異なる部分があるが、グレコに合わせた。
1 tout neuf「真新しい」。faire de l'effet「見栄えがする」
2 amourは前行のattendreの目的語と解釈でき、amourには「恋人」の意味もあるが、ここはそうとも言い難い。次行は区切られている。
3 vousは特定の人物ではなく、mondes neufs, constructions et démolitionsを擬人化したものか。
4 sou(お金の単位)「スー」。フランスでは、5月1日のメーデーにスズランの小さな花束が街中で売られている。トレネの歌っているようにMon muguet d’deux sous「2スーのスズラン」という語順のほうが理解しやすいが、グレコの歌っているとおり訳した。

Comment:1