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2014
10.31

夢見るシャンソン人形Poupée de cire,poupée de son

France Gall Poupée de cire poupée de son


今回は、ご存じ、「夢見るシャンソン人形Poupée de cire,poupée de son」です。セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが作詞・作曲し、1965年にフランス・ギャルFrance Gallが創唱。同年、ルクセンブルクにて第10回ユーロビジョン・ソング・コンテストでグランプリを獲得。日本語でも、多くの歌手にカヴァーされています。 ウィキペディアに詳しく解説されていますので参照ください。
その記事に書かれているとおり、原題のPoupée de cire,poupée de sonは、直訳すると「蝋人形、詰め物をした人形」ということですが、「夢見るシャンソン人形」という、よく知られた邦題を用いることにしましょう。
この曲のメロディーはベートーヴェンLudwig van Beethovenのピアノソナタ第1番Sonate pour piano nº 1 の第4楽章を元にしているそうです。



Poupée de cire,poupée de son     夢見るシャンソン人形
France Gall                 フランス・ギャル


Je suis une poupée de cire
Une poupée de son 注1
Mon cœur est gravé dans mes chansons
Poupée de cire poupée de son

  私はロウ人形
  音を出すおがくず人形
  わたしの歌に 私の心が刻まれている
  ロウ人形 音を出すおがくず人形

Suis-je meilleure suis-je pire
Qu'une poupée de salon 注2
Je vois la vie en rose bonbon
Poupée de cire poupée de son

  サロンの高級人形よりも
  私はいいのかしら 悪いのかしら
  人生はバラ色のボンボンに思えるわ
  ロウ人形 音を出すおがくず人形

Mes disques sont un miroir 注3
Dans lequel chacun peut me voir
Je suis partout à la fois
Brisée en mille éclats de voix 注4

  私のレコードは鏡
  みんなはそこに私の姿を見ることができる
  声がたくさんのかけらに分かれて
  一度にいろいろなところに行けるわ

poupée de son1


Autour de moi j'entends rire
Les poupées de chiffon 注5
Celles qui dansent sur mes chansons
Poupée de cire poupée de son

  私の周りで笑い声がする
  ぬいぐるみ人形たちの声
  私の歌で踊っているのね
  ロウ人形 音を出すおがくず人形

Elles se laissent séduire
Pour un oui pour un nom 注6
L'amour n'est pas que dans les chansons
Poupée de cire poupée de son

  あの娘たちは誘惑に身を任せてしまう
  ホイホイと乗ってうわべだけのために
  恋は歌の中にだけあるわけじゃないのに
  ロウ人形 音を出すおがくず人形

Mes disques sont un miroir
Dans lequel chacun peut me voir
Je suis partout à la fois
Brisée en mille éclats de voix

  私のレコードは鏡
  みんな私の姿を見ることができる
  声がたくさんのかけらに分かれて
  一度にいろんなところに行けるわ

Poupée de cire5


Seule parfois je soupire
Je me dis à quoi bon
Chanter ainsi l'amour sans raison
Sans rien connaître des garçons

  ときにはひとり ため息ついて
  男の子を知りもしないくせに
  こんな風にわけもなく恋の歌を歌って
  なんになるの と思ってしまう

Je n'suis qu'une poupée de cire
Qu'une poupée de son
Sous le soleil de mes cheveux blonds
Poupée de cire poupée de son
  
  私はロウ人形にすぎず
  音を出すおがくず人形にすぎない
  私のブロンドの髪のような色の太陽のもとで
  ロウ人形 音を出すおがくず人形

Mais un jour je vivrai mes chansons
Poupée de cire poupée de son
Sans craindre la chaleur des garçons
Poupée de cire poupée de son.

  でもいつか 私の歌みたいに生きるわ
  私はロウ人形 音を出すおがくず人形
  男のコの情熱を怖がらずに
  ロウ人形 音を出すおがくず人形

Poupée de cire3


[注]
1 poupée de cire「蝋人形」は、アイドル歌手がただの飾り物で命を持っていないというニュアンスを表現。poupée de sonは「おがくずを詰めた人形」。sonは「(詰め物用の)おがくず」と「音」との二つの意味を重ねている。ここでは「音」のほうがより重要。
2 salonは「客間」「美術展」そして、「個人の邸宅で貴族や芸術家などが集まる場」といった意味で、高級なイメージをもつ語。日本語でも「サロン」で通用する。
3 今の人間としてはCDを思い浮かべてしまうが、LPの時代であり、盤面が鏡のようだというわけではなく、歌手の姿をそのなかに映し出しているという意味。
4 多量のディスクが作られて、あちこちに声が届く。
5 chiffonは「ぼろ切れ」の意味。「薄くて柔らかい生地」を意味する日本語の「シフォン」とは異なる。したがって、les poupées de chiffonは「ぼろきれで作られた人形」だが、「ぬいぐるみ人形」のほうが分かりやすいだろう。ミーハー的なファンの女の子たちのこと。
6 恋を歌う歌詞の内容に引きずられて誘惑に乗る。un oui「いいわ」と軽はずみに受け入れることと、(un non「いいえ」と拒否することではなく)un nom「名目、うわべ」のためにそうしてしまう。



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2014
10.31

君に別れを告げに来た(手ぎれ)Je suis venu te dire que je m'en vais

Serge Gainsbourg Je suis venu te dire que je men vais


Je suis venu te dire que je m'en vais という曲名を直訳すると「君に別れを告げに来た」となりますが、邦題は「手ぎれ」。ま、いさぎよくていいかなと。セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが作り、歌いました。Vu de l'exterieur(「外観」の意味)というアルバムに収められています。「ゲンスブール版女性飼育論」というアルバムの邦題はご紹介するのさえためらいます。

彼の曲想は、言葉遊びやエロティックな内容が特徴と思われがちですが、実はその裏に、非常にセンシティヴな感性と、深い音楽性を隠し持っています。そして、ジャック・プレヴェールJacques Prévertほかの詩人たちの詩を元にした、秀作を少なからず作っています。
この曲にも、有名なポール・ヴェルレーヌPaul Verlaineの「秋の歌Chanson d'automn」の詩句がうまく縫いこまれています。歌詞のあとに、元の詩句と、上田敏の「海潮音」に所収された名訳「落葉」とを加えましたので、参照ください。



何人かの歌手のカヴァーもあります。
お勧めは、アルビノの黒人歌手、サリフ・ケイタSalif Keïta。



米国のシンガー・ソングライター、ルーファス・ウェインライトRufus Wainwrightもなかなかいいです。

Je suis venu te dire que je m'en vais    君に別れを告げに来た(手ぎれ)
Serge Gainsbourg               セルジュ・ゲンズブール


Je suis venu te dir'que je m'en vais 注1
et tes larmes n'y pourront rien changer
comm'dit si bien Verlaine "au vent mauvais"
je suis venu te dir'que je m'en vais
tu t'souviens des jours anciens et tu pleures
tu suffoques, tu blémis à présent qu'a sonné l'heure
des adieux à jamais
et je suis au regret 注2
d' te dir'que je m'en vais
mais je t'aimais, oui, mais- 注3

  君に別れを告げに来た
  君の涙は事態を何も変えられやしない
  まさしくヴェルレ-ヌが言ったように「いやな風に吹かれて」
  君に別れを告げに来た
  君は過ぎた日々を思い出して泣き
  息を詰まらせ、青ざめる
  永遠の別れの時が告げられた今
  そうさ残念だが
  君に別れを告げる
  だが君を愛していた、そうさ、だが―

je men vais 4


je suis venu te dir'que je m'en vais
tes sanglots longs n'y pourront rien changer
comm'dit si bien Verlaine "au vent mauvais"
je suis venu te dir'que je m'en vais
tu t'souviens des jours heureux et tu pleures
tu sanglotes, tu gémis à présent qu'a sonné l'heure
des adieux à jamais
oui je suis au regret
d' te dir'que je m'en vais
car tu m'en as trop fait-

  君に別れを告げに来た
  君の長いすすり泣きは事態を何も変えられやしない
  まさしくヴェルレ-ヌが言ったように「いやな風に吹かれて」
  君に別れを告げに来た
  君はしあわせな日々を思い出して泣き
  すすり泣き、うめく
  永遠の別れの時が告げられた今
  そうさ残念だが
  君に別れを告げる
  だって君は僕にさんざんひどい仕打ちをしたから―

je men vais 5


je suis venu te dir'que je m'en vais 注4
et tes larmes n'y pourront rien changer
comm'dit si bien Verlaine "au vent mauvais"
je suis venu te dir'que je m'en vais
tu t'souviens des jours anciens et tu pleures
tu suffoques, tu blémis à présent qu'a sonné l'heure
des adieux à jamais
oui je suis au regret
d' te dir'que je m'en vais
oui je t'aimais, oui, mais-

  君に別れを告げに来たんだ
  君の涙は事態を何も変えられやしない
  まさしくヴェルレ-ヌが言ったように「いやな風に吹かれて」
  君に別れを告げに来た
  君は過ぎた日々を思い出して泣き
  息を詰まらせ、青ざめる
  永遠の別れの時が告げられた今
  そうさ残念だが
  君に別れを告げる
  そうさ君を愛していた、そうさ、だが―

je men vais2


je suis venu te dir'que je m'en vais
tes sanglots longs n' y pourront rien changer
comm'dit si bien Verlaine "au vent mauvais"
je suis venu te dir'que je m' en vais
tu t'souviens des jours heureux et tu pleures
tu sanglotes, tu gémis à présent qu' a sonné l'heure
des adieux à jamais
oui je suis au regret
d' te dir'que je m'en vais…

  君に別れを告げに来た
  君の長いすすり泣きは事態を何も変えられやしない
  まさしくヴェルレ-ヌが言ったように「いやな風に吹かれて」
  君に別れを告げに来た
  君はしあわせな日々を思い出して泣き
  すすり泣き、うめく
  永遠の別れの時が告げられた今
  そうさ残念だが
  君に別れを告げる…

[注]  歌詞や詩句は語尾の韻が重要だが、語尾に限らず、同様の音を繰り返すのは、音フェティシズムとも評される彼の性癖のあらわれ。この曲ではais[ɛ]の音に注目しよう。
1 元の歌詞は、この最初のJの字が大文字になっていて、あとは小文字ばかりで、ずらずらと途切れなく続く。
2 être au regret de+inf.は、「残念だが~する」あるいは「…するのは残念だ」。
3 行頭の語をouiとする歌詞が多いが、maisと聴こえる。あとで出てくる同様の部分ではouiと聴こえる。
2番目のmaisのあと、数行先のfaitのあと、言葉としてはつながるが音楽的には切れるところにハイフンを入れてある。ここを区切りとして、全体を4節に分けた。4つとも類似しているが1と3、2と4は同じ内容である。4の最後はフェードアウトしているが。
4 このあたりから、ジェーン・バーキンJane Birkinのすすり泣く声が入る。だが、実際には、ジェーンのほうが、自堕落から立ち直ろうとしない彼を見限って別れを告げた。


feuilles mortes2


Chanson d'automn       落葉(「海潮音」より)
Paul Verlaine       上田敏

※ヴェルレーヌの各行と上田敏の邦訳の行とは対応していません。

Les sanglots longs       秋の日の
Des violons       ヰ゛オロンの
De l'automne       ためいきの
Blessent mon cœur       ひたぶるに
D'une langueur       身にしみて
Monotone.       うら悲し。

Tout suffocant       鐘のおとに
Et blême, quand       胸ふたぎ
Sonne l'heure,       色かへて
Je me souviens       涙ぐむ
Des jours anciens       過ぎし日の
Et je pleure       おもひでや。

Et je m'en vais       げにわれは
Au vent mauvais       うらぶれて
Qui m'emporte       ここかしこ
Deçà, delà,       さだめなく
Pareil à la       とび散らふ
Feuille morte.       落葉かな。




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2014
10.30

プティ・コンセール《ゲンズブールを歌う》

10月13日(月・祝)に予定していました、第5回プティ・コンセール《ゲンズブールを歌う》は、11月2日(日)に延期いたします。お持ちのチケットはそのまま使っていただけます。延期が幸いして、フランス人歌手のスブリームさんも加わることになりました!時間・場所・伴奏者は変わりません。

私と宇藤カザンがお世話している、フランス語でシャンソンを歌う会《アミカル・ド・シャンソン》では、月に1回の例会を開いているほか、プティ・コンセールと題したユニークなコンサートも開いています。その第1回は昨年11月2日の《バルバラを歌う》、第2回は今年3月10日の《ピアフを歌う》、第3回は4月26日の《モンタンを歌う》、第4回は7月5日の《アズナヴールを歌う》でした。そして第5回目、今回の《ゲンズブールを歌う》は、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの曲だけを全部フランス語で歌うコンサートです。

Serge Gainsbourg


原宿「アコスタジオ」で14時開場、14時半開演です。

出演者はアミカル・ド・シャンソンのメンバー:上村良子、寺島寧環、野村幸子、橋本裕子、日栄照美、笹環来、菱田京子、高岡晴美、宇藤カザン、朝倉ノニー、そしてスブリームさんの11人。ピアノ伴奏は上里知巳さんです。

全席自由 ¥2500。
当日券ありますが、小さな会場なので座席数は限られます。chatenparadis*gmail.comの*を@に換えてメールでご予約ください。

ゲンズブールが歌っている曲よりも、ゲンズブールが作り、いろんな女性歌手が歌っている曲がメインとなります。私もジェーン・バーキンJane Birkinの曲を歌います。
なにせゲンズブールの曲はとってもおしゃれです!面白いコンサートになることは間違いないでしょう。

22曲の曲目をご紹介しましょう。
はこのブログ、は宇藤カザンのブログに曲の紹介記事(邦訳)が出ています。クリックして開いてご覧ください。

Baudelaire(Le serpent qui danse) ボードレール(踊る蛇)
Le charleston des déménageurs de piano ピアノ運搬屋のチャールストン
L’eau à la bouche 唇によだれ
Sous le soleil exactement 太陽の真下
Je suis venu te dire que je m’en vais 君に別れを告げに来た(手ぎれ)
La javanaise ラ・ジャヴァネーズ
La chanson de Prévert プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて)
Quoi コワ
Pull marine マリン・ブルーのセーター
La ballade de Jonny-Jane ジョニー・ジェーンのバラード
Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve しあわせは逃げていく(虹の彼方)
Baby alone in Babylone バビロンの妖精
La gadoue ぬかるみ
Attends ou va-t’en 待って、さもなきゃ行って(涙のシャンソン日記)
La noyée 溺れる人(ラ・ノワイエ)
Les petits papiers 小さな紙切れ
Lost song ロスト・ソング
L’aquoiboniste アクワボニスト(無造作紳士)
Le poinçonneur des Lilas リラの門の切符切り
Couleur café コーヒー色
Poupée de cire poupée de son 夢見るシャンソン人形
Ces petits riensセ・プティ・リアン(どうでもいい事)


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2014
10.30

唇によだれL'eau à la bouche

Serge Gainsbourg Leau à la bouche2


セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの「唇によだれL'eau à la bouche」は、ジャック・ドニオル・ヴァルクローズJacques Doniol-Valcrozeが1959年に制作した同名の映画の主題曲。シャトーを舞台に三組の男女の恋愛が展開するスト-リーのモノクロ映画で、当時の蓄音機やパリ・モードなどが見られてとてもお洒落な作品です。音楽は同年の「墓にツバをかけろJ'irai cracher sur vos tom」のテーマ曲「褐色のブルースBlues de Memphis」で一躍有名になったアラン・ゴラゲールAlain Goraguerとセルジュ・ゲンズブールのコンビが担当しました。

「唇によだれ」はチャチャチャCha-Cha-Chaのリズムがおしゃれな曲で、女を口説く男の言葉がそのまま歌になっています。1960年にリリースされ、1968年に出たアルバム「ボニーとクライドBonnie and Clyde」にも収録されています。





ヴァネッサ・パラディVanessa Paradis。そう、女性が歌ってもいいんですよね。



ほかに、バンブーBambouとの間にできた息子Lulu Gainsbourgも歌っています。

L'eau à la bouche         唇によだれ
Serge Gainsbourg         セルジュ・ゲンズブール


Ecoute ma voix écoute ma prière
Ecoute mon cœur qui bat laisse-toi faire 注1
Je t’en pris ne sois pas farouche 注2
Quand me viens l’eau à la bouche 注3

  僕の声を聴いて 僕の祈りを聴いて
  脈打つ僕の心臓の音を聴いて 言うことを聞いてよ
  お願いだ 抵抗しないで
  僕が唇によだれ垂らして欲しがっていたら


Je te veux confiante je te sens captive
Je te veux docile je te sens craintive
Je t’en prie ne sois pas farouche
Quand me viens l’eau à la bouche

  信頼してよ 君はつかまっちゃったみたいだよ
  素直にしてよ 君はびくびくしているようだね
  お願いだ 抵抗しないで
  僕が唇によだれ垂らして欲しがっていたら

Laisse toi au gré du courant 注4
Porter dans le lit du torrent 注5
Et dans le mien 注6
Si tu veux bien
Quittons la rive
Partons à la dérive 注7
Je te prendrais doucement et sans contrainte
De quoi as-tu peur allons n’aie nulle crainte

  流れに身を任せて
  急流に乗って
  僕のベッドまでおいでよ
  よかったら
  岸を離れ
  漂流しようよ
  僕は君を優しくつかまえ 無理強いはしないよ
  君が怖れることはね さぁ怖がったりしないで

Je t’en prie ne sois pas farouche
Quand me viens l’eau à la bouche

  お願いだ 抵抗しないで
  僕が唇によだれ垂らして欲しがっていたら

Cette nuit près de moi tu viendras t’étendre
Oui je serai calme je saurai t’attendre
Et pour que tu ne t’effarouches
Vois je ne prend que ta bouche

  今宵僕のそばに君は横たわるだろう
  そう僕はおとなしく君を待てるだろう
  そして君がおびえて逃げたりしないように
  ねぇ僕は君の唇しか奪わないよ

Gainsbourg birkin8


[注]
1 se laisser faire「人に言いなりになる」「(気をそそる)勧めに従う、(引かれる自分の心に)素直に従う」
2 farouche「(動物などが)人になつかない、飼いならしにくい」。そうなるなということは、se laisser faireと同じ意味になる。
3 avoir l’eau à la bouche「よだれが出そうだ、欲しくてたまらない」。ここではもちろん食欲ではなく、女性に対する欲望。venirは「…の状態に達する」の意味。
4 au gré de「…のままに」
5 litは「(潮や風の)流れ」の意味。dans le lit de「…の流れに乗って」。
6 le mien=mon lit「僕のベッド」。前行のlitの意味を変えて引き継いでいる。
7 (être ou aller)à la dérive「漂流する」「成り行き任せになる」



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2014
10.29

リラの門の切符切りLe poinçonneur des Lilas

Serge Gainsbourg Le poinçonneur des lilas


「リラの門Porte des Lilas」というルネ・クレールRené Clair監督の1956年の映画をご存知でしょうか。地下鉄3号線の終点のリラの門駅Porte des Lilasのプラットホームの壁にはこの映画に主演したジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensの肖像画が飾られています。

1958年のセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgのデビュー作は、この駅の切符切りが主人公の「リラの門の切符切りLe poinçonneur des Lilas」。この曲は、あるとき改札係に「なにか望みは」と尋ねたところ、「空が見たい」と答えたことから生まれたとか。どの駅でもよかったでしょうに、この駅を選んだのはこの映画を意識してのことだったかもしれません。歌詞のなかで繰り返されるtrous(穴)という語は、いわずもがなゲンズブール流の性的な隠喩。自動改札に慣れた私たち、切符切りなんて仕事があったことも忘れてしまっていますね。

来たる11月2日の《ゲンズブールを歌う》 は、歌い手10人のうち9人までが女性。唯一の男性である宇藤カザンが、この曲を歌います。



Le poinçonneur des Lilas         リラの門の切符切り
Serge Gainsbourg            セルジュ・ゲンズブール


J'suis le poinçonneur des Lilas
Le gars qu'on croise et qu'on ne regarde pas
Y a pas de soleil sous la terre, drôle de croisière
Pour tuer l'ennui, j'ai dans ma veste
Les extraits du Reader's Digest
Et dans ce bouquin y a ecrit
Que des gars se la coulent douce à Miami 注1
Pendant ce temps que j'fais le zouave 注2
Au fond de la cave
Parait qu'il y a pas de sots métiers 注3
Moi j'fais des trous dans les billets

  僕はリラの門の切符切り
  人がすれ違っても目も向けない若造さ
  地下には太陽はなく、
  退屈しのぎの奇妙な周遊、上着のポケットには
  リーダーズ・ダイジェストの
  ダイジェスト版
  この本には書かれている
  マイアミでは若者たちはぬくぬくと暮らしていると
  僕がこの穴ぐらの奥で
  つまらんことをしているあいだ
  馬鹿げた仕事はないというが
  僕ときたら切符に穴を開けているのさ

Le poinçonneur des lilas1


J'fais des trous, des p'tits trous, encore des p'tits trous
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous
Des trous de seconde classe, des trous de premiere classe.

  僕は穴を開ける、ちっちゃな穴、またちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴
  二等車の穴、一等車の穴。

J'fais des trous, des p'tits trous, encore des p'tits
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous
Des petits trous, des petits trous, des petits trous, des petits trous

  僕は穴を開ける、ちっちゃな穴、またちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴。

J'suis le poinçonneur des Lilas,
Pour Invalides changer à l'Opéra,
J'vis au cœur de la planète
J'ai dans la tête un carnaval de confettis
J'en ammene jusque dans mon lit.
Et sous mon ciel de faïence
J'n'vois briller que les correspondances

  僕はリラの門の切符切り、
  アンヴァリッドへはオペラで乗換え、
  僕はこの星の奥底に住み
  頭の中は紙吹雪舞うカーニヴァル
  それをベッドにまで持ち込む。
  陶製の空の下では
  乗換え案内板が光ってるのしか見えやしない

Parfois j'rêve, j'divague, j'vois des vagues 注4
Et dans la brume au bout du quai 注5
J'vois un bateau qui vient m'chercher

  しばしば僕は夢を見る、妄想にひたる、波のようなものが見える
  そしてプラットホームの埠頭の奥の霧の中に
  僕を探しに来た船が見える

Pour sortir de ce trou, je fais des trous
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous

  この穴から抜け出すために、僕は穴を開ける
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴

Le poinçonneur des lilas3


Mais le bateau se taille
Et je vois que je déraille 注6
Et je reste dans mon trou à faire des p'tits trous
Des petits trous, des petits trous, des petits trous, des petits trous

  だけど船はずらかっちまい
  僕は本筋からずれちまった自分に気づき
  元の穴ぐらでちっちゃな穴を開け続ける
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴

J'suis le poinçonneur des Lilas,
Arts et Métiers direct par Levallois
J'en ai marre, j'en ai ma claque de ce cloaque. 注7
J'voudrais jouer la fille de l'air 注8
Laisser ma casquette au vestiaire.

  僕はリラの門の切符切り、
  ルヴァロワ経由アール・ゼ・メティエ直通
  もうたくさんだ、この掃き溜めにはうんざりだ。
  僕は逃げ出したい
  制帽をロッカーに置き去りにしたいんだ。

Le poinçonneur des lilas2


Un jour viendra, j'en suis sur
Où je pourrai m'évader dans la nature
J'partirai sur la grand route
Et coûte que coûte 注9
Et si pour moi il est plus temps
J'partirai les pieds devant. 注10

  僕は確信する
  大自然の中に脱出できる、そんな日が
  きっと来ると
  僕は大旅行に出発するんだ
  どんな犠牲を払ってもね
  でも僕にそのチャンスがないなら
  僕は死出の旅路につくさ。

J'fais des trous, des p'tits trous, encore des p'tits trous
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous

  僕は穴を開ける、ちっちゃな穴、またちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴

Y a d'quoi devenir dingue 注11
De quoi prendre un flingue.
S'faire un trou, un p'tit trou, un dernier p'tit trou.
Un p'tit trou, un p'tit trou, un dernier p'tit trou

  気が狂うにもそれなりの訳があるし
  はじきを使うのにもね。
  自分に穴を開けるのさ、ちっちゃな穴、最後のちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、最後のちっちゃな穴

Et on me mettra dans un grand trou.
Et j'n'entendrais plus parler de trous
Des petits trous, des petits trous
Des petits trous, des petits trous

  そして僕は大きな穴に入れられるだろう。
  そしてもう穴についての話も聞くことはないだろう
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴

Le poinçonneur des lilas4


[注]
1 se la couler douce「安穏に暮らす」
2 faire le zouave「からいばりをする、無駄なことをする」
3 Il y a pas de sots métiers, il n’y a que de sottes gens.「ばかげた仕事はない、ばかげた人がいるだけだ」という諺がある。
4 vague「波」あるいは「虚空」のほか、「はっきりしない、不明瞭な」という形容詞とその意味の名詞がある。夢や妄想のような「はっきりしないもの」に「波」の意味を同時に重ねているようだ。
5 quai 駅の「プラットホーム」、港の「埠頭」。二つの意味を重ねている。
6 dérailler本来は「脱線する」の意味だが、「常軌を逸する、調子が狂う」の意味でも用いられる。地下鉄のレールという意味合いを持たせつつ後者の意味で用いられているようだ。
7 en avoir marre「もうたくさんだ、飽き飽きする」。en avoir sa claque「がっくりする、うんざりする」
8 jouer la fille de l'air「逃げ出す、風をくらう」
9 coûte que coûte「どんな犠牲を払っても」
10 les pieds devant出棺の時、足が先になることから、partir(sortir) les pieds devant「埋葬される、死ぬ」
11 de quoi+inf.「…するのに必要なもの」「…する理由、値打ち」



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2014
10.28

ぬかるみLa gadoue

Petula Clark La gadoue


今回は、1966年にセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが作り、まずペチュラ・クラークPetula Clarkが歌い、その後ジェーン・バーキンJane Birkinが歌った「ぬかるみLa gadoue」を取り上げましょう。

ゲンズブールの歌詞にはなにか裏の意味が隠されていることが多いのですが、この曲の「ぬかるみ」も、恋人同士の関係のありようを象徴しているのかもしれません。

ペチュラ・クラーク



ジェーン・バーキン



La gadoue                ぬかるみ
Petula Clark               ペチュラ・クラーク


Du mois de septembre au mois d'août
Faudrait des bottes de caoutchouc
Pour patauger dans la gadoue la gadoue la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue 注1

  9月と8月は
  ゴム長靴が要るわ
  ぬかるみを歩くには、
  ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  ウー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー

La gadoue2


Une à une les gouttes d'eau
Me dégoulinent dans le dos
Nous pataugeons dans la gadoue la gadoue la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue

  雨粒が一滴一滴
  私の背中にしたたり落ちる
  私たちはぬかるみを歩く
  ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  ウー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー

Vivons un peu sous le ciel gris-bleu
D'amour et d'eau de pluie 注2
Et puis mettons en marche les essuie-glaces
Et rentrons à Paris

  灰青色の空のもとでちょっとのあいだ
  恋と雨水だけで暮らしましょう
  それから車のワイパーをかけて
  パリに戻りましょう

Ça nous changera pas d'ici
Nous garderons nos parapluies
Et nous retrouverons la gadoue la gadoue la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue

  でも私たちはここにいる時と変わらないでしょう
  傘はまだ持っているだろうし
  そしてぬかるみをまた見ることになるわ、
  ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  ウー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー

La gadoue1


Il fait un temps abominables
Heureusement tu as ton imperméable
Et ça n'empêche pas la gadoue la gadoue la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue

  ひどいお天気ね
  さいわいにもあなたはレインコートを持っている
  でもぬかるみには役に立たない

Il fallait venir jusqu'ici
Pour jouer les amoureux transis
Et patauger dans la gadoue la gadoue la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue

  ここまで来なきゃならなかったのよ
  臆病な恋人たちを演じるには
  そしてぬかるみを歩かなきゃならなかった、
  ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  ウー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー

La gadoue3


Vivons un peu sous le ciel gris-bleu
D'amour et d'eau de pluie
Et puis mettons en marche les essuie-glaces
Et rentrons à Paris

  灰青色の空のもとでちょっとのあいだ
  恋と雨水だけで暮らしましょう
  それから車のワイパーをかけて
  パリに戻りましょう

L'année prochaine nous irons
Dans un pays où il fait bon
Et nous oublierons la gadoue la gadoue la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue la gadoue la gadoue
Ou la gadoue la gadoue


  私たち来年は行くわ
  いい気候の国に
  そしてぬかるみを忘れるわ、
  ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  ウー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  ウー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥーラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  ウー、ラ・ガドゥー、ラ・ガドゥー
  …

[注]
1 pataugerは「(ぬかるみなどを)難儀して歩く」。la gadoue「ぬかるみ」の語の繰り返しは、日本語の「エッチラオッチラ」のように、その様子をオノマトペ風に表現しているようである。歌詞サイトに掲載されている歌詞には表記されていなかったが、歌われているとおりに加え、間に入っている「ウー」の音はouと表記した。訳語にも原語の読みで表記した。
2 vivre d’amour et d’eau claire(ou fraîche)「恋と水だけで生きている」すなわち、寝食も忘れるほど恋に夢中になっているという意味の成句をもとにした表現。




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2014
10.27

プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて)La chanson de Prévert

Serge Gainsbourg La chanson de Prévert


前回、「枯葉Les feuilles mortes」を取り上げましたが、その曲をモチーフにして、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgは、作詞者の詩人ジャック・プレヴェールJacques Prévertの名を冠した曲、La chanson de Prévertを作りました。1961年のアルバム「驚異のゲンズブールL'étonnant Serge Gainsbourg」に収録されています。「枯れ葉に寄せて」という既存の邦題は副題とし、「プレヴェールのシャンソン」という直訳の邦題にいたします。
「枯葉」の歌詞に、「ほら、私は忘れていない あなたが歌ってくれたこの歌を。それは私たちに似つかわしい歌…」とあります。「この歌」とは「枯葉」自体だと伺わせる表現ですが、ジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensの「オーヴェルニュ人に捧ぐChanson pour l'auvergnat」の歌詞中の「この歌」が明らかにその歌自体なのとは違って、「枯葉」の場合は、その歌詞をかつてあなたが歌ったとするのは無理があります。また、最後の節の「結ばれぬ恋人たちの足跡」という部分も、いっしょに歩いていた時はまだ別れていない…。いえ、歌は理屈で考えてはいけませんね。さて、ゲンズブールの曲では「この歌」は「枯葉」です。でも、それはちょっとひねった形で、そのタイトルや歌詞を地の歌詞のなかにうまく織り込んでいるのです。そして、les feuilles mortes「枯葉」すなわち「死んだ葉」にles amours mortes「死んだ恋」を重ね合わせます。



La chanson de Prévert  プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて)
Serge Gainsbourg     セルジュ・ゲンズブール


‟Oh je voudrais tant que tu te souviennes” 注1
Cette chanson était la tienne
C'était ta préférée je crois
Qu'elle est de Prévert et Kosma

  「おぉ君に思い出してもらいたいものだ」
  この歌は君のもの
  僕が思うに 君のお気に入りだった
  これはブレヴェールとコスマの作品だ

Et chaque fois les feuilles mortes 注2
Te rappellent à mon souvenir 注3
Jour après jour les amours mortes 注4
N'en finissent pas de mourir 注5

  そして枯葉の季節はその都度
  君を記憶によみがえらせ
  来る日も来る日も 過去の恋は
  死にきらない

La chanson de Prévert1


Avec d'autres bien sûr je m'abandonne 注6
Mais leur chanson est monotone 注7
Et peu à peu je m' indiffère
À cela il n'est rien à faire 注8

  もちろん 他の女たちとも関係したよ
  だが 彼女たちの歌は単調で
  しだいに僕は無関心になった
  そんなものにね どうしようもないさ

Car chaque fois les feuilles mortes
Te rappellent à mon souvenir
Jour après jour les amours mortes
N'en finissent pas de mourir

  だって枯葉の季節はその都度
  君を記憶によみがえらせ
  来る日も来る日も 過去の恋は
  死にきらない

La chanson de Prévert2


Peut-on jamais savoir par où commence 注9
Et quand finit l'indifférence
Passe l'automne vienne l'hiver 注10
Et que la chanson de Prévert 注11

  無関心がどこから始まっていつ終わるのか
  いつか分かるだろう
  秋よ過ぎ去れ 冬よ来い
  そしてプレヴェールの歌

Cette chanson ‟Les feuilles mortes” 注12
S'efface de mon souvenir 注13
Et ce jour là mes amours mortes
En auront fini de mourir

  この歌 「枯葉」も
  僕の記憶から消え去ってくれ
  その頃には 僕の過去の恋は
  死に絶えてしまっていることだろう

La chanson de Prévert3


[注]曲名
1 プレヴェールのシャンソン「枯葉」の冒頭であるが、引用しつつ歌詞内容に組み込んでいる。
2 chaque fois que..「…するたびに」.ではない。les feuilles mortesは、ここと4節目では、普通名詞とシャンソンの題名を兼ねており、普通名詞として表記する。
3 te「君」をà mon souvenir「私の記憶」にrappeler「呼び戻す」。すなわち、rappeler qc/qn à qn「…に…を想い出させる、想起させる」という表現と同義。
4 amour は男性名詞だが、文章語で複数形が女性名詞として扱われるため、mortesとなっている。Les feuilles mortesと合わせた表現。
5 死んだ恋が死ぬという矛盾した表現である。ne pas finir de+infは「…することを終えない」の意で、mourir「死ぬ」過程が完了しない。恋人との関係は終わったが、心のなかに残る思いは消えずに、「枯葉」の季節になるたびに息を吹き返し、来る日も来る日も、死んだはずの恋が死に切っていない状態が続いているのである。ちょうど、消えた火がまだくすぶっているように。
6 s'abandonner「身をゆだねる、気楽にやっていく」女性の場合なら「身を任せる」といった訳語になる。ゲンズブールの歌なので、男性の立場での訳文にしたが、女性の歌にしたほうがいいかもしれない。お試しあれ。
7 leur chanson est monotone「つまらない相手だった」という意味。
8 il est=il y a「…がある」。il n'est rien à faire=il n'y a rien à faire「なす術がない、どうしようもない」
9 jamaisは否定の意味ではなく、un jour「いつの日か」の意味。
10 Vienne la nuit sonne l'heureという、アポリネールGuillaume Apollinaireの「ミラボー橋Le pont Mirabeau」の歌詞を思い出させる、接続法を使った願望表現。Que l'automne passe/Que l'hiver vienne.
11 que以下、願望の付け加えで、次の節につながる。
12 cette chanson ‟Les feuilles mortes” ここだけシャンソンの題名として表記されている。前節のla chanson de Prévertを言い換えている。
13 s'effacer de「…から消え去る」



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2014
10.27

枯葉Les feuilles mortes

Cora Vaucaire Frédé


エディット・ピアフEdith Piafの「愛の讃歌L'hymne à l'amour」が愛を歌うシャンソンの代名詞なら、失恋のシャンソンの代名詞ともいえるのが、この「枯葉Les feuilles mortes」。

この曲は、ジョゼフ・コズマJoseph Kosmaが、1945年にローラン・プティRoland Petit演出によるバレエ「ランデヴーLe rendez-vous」のパ・ド・ドゥのために書いた曲が原型。先に取り上げた「バルバラBarbara」の歌詞を書いた詩人ジャック・プレヴェールJacques Prévertがそれに詩をつけました。
プレヴェールが脚本を、コズマが音楽を担当した、マルセル・カルネMarcel Carné監督の1946年の映画「夜の門Les portes de la nuit」のなかで、当時新人歌手だったイヴ・モンタンYves Montandが歌いましたが、映画共々ヒットしませんでした。しかし、続いてジュリエット・グレコJuliette Grécoが歌ったことで知られるようになりました。最初の録音は1949年、コラ・ヴォケールCora Vaucaire。続いて同年にモンタンも録音しました。

「枯葉」はモンタンだと思う方が多いでしょうが、彼は最初の節を歌わずに語ったり、2節目から歌い出したりします。コラのほうが忠実な歌い方をしていますし、最初に録音した歌手でもあり、あえて彼女を選びました。きれいな発音がフランス語の教材にも使われたそうです。冒頭の画像は私のお勧めのアルバムLa dame blanche de Saint-Germain-des-Prés。動画にも同じ画像が使われていて、同様にピアノ伴奏ですが、音源は異なるようです。

コラ・ヴォケール



イヴ・モンタン



英語に翻案されたAutumn leavesを最初に歌ったのは、1950年のビング・クロスビーBing Crosbyで、続いてナット・キング・コールNat King Cole。エディット・ピアフÉdith Piafも英語で録音しています。枯葉の舞い散る様をピアノで模したロジャー・ウィリアムズRoger Williamの演奏も大人気となりました。元の歌詞では枯葉はすでに落ちて地面に積もっているのですが、英語ではdrift by my windowあるいはstart to fallと表現されていて、まったく違う光景なのです。
この曲はアドリブ演奏の格好の素材となるためか、ジャズの分野でも多くのミュージシャンが取り上げ、スタンダード曲となりました。実は私は今のようにシャンソンに専念する前はジャズをよく聴いていましたので、キャノンボール・アダレイCannonball Adderleyの演奏などとても懐かしいです。

エディット・ピアフ(英語+仏語)



Les feuilles mortes  枯葉
Cora Vaucaire     コラ・ヴォケール


Oh ! je voudrais tant que tu te souviennes
Des jours heureux où nous étions amis.
En ce temps-là la vie était plus belle,
Et le soleil plus brûlant qu'aujourd'hui.
Les feuilles mortes se ramassent à la pelle. 注1
Tu vois, je n'ai pas oublié...
Les feuilles mortes se ramassent à la pelle,
Les souvenirs et les regrets aussi
Et le vent du nord les emporte
Dans la nuit froide de l'oubli.
Tu vois, je n'ai pas oublié
La chanson que tu me chantais. 注2

  おぉ!あなたに思い出してもらいたい
  私たちが恋人同士だった幸せな日々を。
  あのころ人生はもっと素晴らしく、
  太陽も今よりもっと輝いていた。
  枯葉がいっぱい吹き集められているわ。
  ほら、私は忘れてはいない…
  枯葉がいっぱい吹き集められている、
  思い出も心残りもまた
  そして北の風がそれらを運び去っていく
  忘却の夜の冷たさのなかへと。
  ほら、私は忘れていない
  あなたが歌ってくれたこの歌を。

Les feuilles mortes1


{Refrain:}
C'est une chanson qui nous ressemble.
Toi, tu m'aimais et je t'aimais
Nous vivions tous les deux ensemble,
Toi qui m'aimais, moi qui t'aimais.

  それは私たちに似つかわしい歌。
  あなたは私を愛し 私はあなたを愛していた
  私たちはふたり一緒に生きていた、
  私を愛するあなたと、あなたを愛する私は。

Mais la vie sépare ceux qui s'aiment,
Tout doucement, sans faire de bruit
Et la mer efface sur le sable
Les pas des amants désunis. 注2

  けれど人生は愛し合う者たちを引き離す、
  そっと、音も立てずに
  そして海は洗い流す 砂の上の
  結ばれぬ恋人たちの足跡を。

Les feuilles mortes2


[注] コラの歌として紹介するので、訳は女性の言葉で表現した。
1 se ramasserは代名動詞で「まとめられる、拾われる、かき集められる」。pelleは「シャベル」だが、à la pelleは「多量に、たくさん」という熟語。se ramasser à la pelle全体で、「いっぱいある」くらいの意味。後に、Les souvenirs et les regrets aussiとあるので、思い出や心残りにも通用する表現が必要なことからも、シャベルを持ち出すとまずい。
2 「あなたが歌ってくれたこの歌」「私たちに似つかわしい歌」とは、この「枯葉」自体だと伺わせるが、それは矛盾する。
3 désuniは「仲たがいした、別れた」の意味でdes amantsにかかるが、いっしょに歩いていた時はまだ別れていないから「別れた恋人たち」ではまずい。後日の視点での表現なので「結ばれぬ恋人たち」とした。



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2014
10.26

パリParis

Elodie Frégé Paris

今回取り上げる曲は、エロディー・フレジェElodie Frégéの「パリParis」。明後日28日の《第4回アミカル・ド・シャンソン コンサート》にエントリーされた曲のうち、宇藤カザンと私のブログでまだ訳していない最後の曲となりましたので、なんとか取り上げたいと思いました。
ところが、とても分かりづらく訳しづらい歌詞で、原詞のフィーリングだけでも表わせればと、可能な範囲で一応訳しました。そして、28日にこれを歌った人から、私が理解できなかった幾つかの言葉が、パリを周知している人ならすぐ分かる固有名詞であることを教えてもらって謎がだいぶ解け、大幅に訳し直しました。

エロディー・フレジェElodie Frégéは、1982年生まれの歌手・女優でギターも弾きます。
2003年に、テレビ番組:スター・アカデミーStar Academyに出演して、アルバムのリリースと賞金を獲得してデヴューを果たし、すでに4枚のアルバムを出しています。

スター・アカデミーで「黒いワシL'aigle noir」を歌った動画



YouTubeには、スター・アカデミーのほかの出演者たちのいろんな動画が出ていますので、Star Academyで検索してご覧ください。

「パリParis」は、2006年にリリースされた、バンジャマン・ビオレーBenjamin Biolayが製作に関わったセカンド・アルバム:Le jeu des 7 erreursに収録されています(Wikipédiaのデータではこの曲は入っていなくて、musicMeではこのアルバムの曲として出ていますので、ボーナストラックとして追加されたようです)。



名前の出てくるカフェやレストラン、そして美しすぎるエロディーの写真をはさみながら歌詞をご紹介しましょう。

Paris      パリ
Elodie Frégé エロディー・フレジェ


Devant un chocolat chaud
A minuit au café de flore 注1
Et la pluie qui coule a flot
Et tes mains douces qui m’effleurent
Quelques traces au coin des lèvres
Un souffle un baiser rouge nuit
Déposé sur fond de fièvre
Pour y essuyer ton ennui

  ホット・ショコラを前に
  真夜中にカフェ・ド・フロールで
  そして流れるようにざぁっと降る雨
  そして私に軽く触れるあなたの両手
  唇の隅になにかしらの跡
  ルージュのキスが妨げる息
  熱情の深みに身を置くあなた
  そこで倦怠を拭い去るために

café de flore


A la closerie des lilas 注2
Un whisky entre les voix
Et la saveur de l’absinthe
Brûle au coin de ses yeux de sainte
Laisse goutter dans mon cou
Le goût d’un liquide aigre doux
Jouant la Seine sur ma chair
Pour s’éterniser dans mon verre

  クロスリー・ド・リラで
  話し声の合間にウィスキー
  そしてアプサンの味が
  彼の聖人の目の隅に燃える
  私の喉にしたたらせてよ
  強くて甘い液体の味を
  私の身体の上でセーヌ川になって
  私のグラスに長くとどまるために

la closerie des lilas


Paris en touriste chez l’interdit 注3
En terre inconnue on se fuit 注4
Taxi, on bat le pavé chaque nuit 注5
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis

  滞在を禁じられ旅行者としてパリに
  ひとは見知らぬ地へと逃亡する
  タクシー、ひとは夜ごと街をうろつく
  ひとはある人生から別の人生へとさまよう
  しかたないこと

Un café sur un quai de gare
Au train bleu, noir c’est noir 注6
Sous les ombres je te cherche
Mais les wagons pleins sont de mèche 注7
Je t’attrape un dernier regard
Il aurait fallu un retard
Pour qu’à mes rails tu t’attaches
Pour qu’on s’apprenne
pour qu’on se sache

  駅のプラットホームのカフェ
  ブルー・トランで、暗い、その店は暗い
  影たちのなかに私はあなたを探す
  でも込み合った車両は団子状
  私はあなたを最後に見つける
  時間の猶予が必要だったのよ
  私のレールにあなたが引き込まれるには
  私たちがおたがいを知るには
  私たちがおたがいを理解するには

train bleu


Un perrier rondelle sur la butte 注8
Nos souvenirs accusent la chute
Et reviennent en reflet reluire
Dans mon dos drapé de cuir
Relire sans fin tes missives
Empreintes de tes mains attentives
Trop d’images sous mon front brûlant
Nos clichés je te les rends

  モンマルトルでソーダ水を1杯
  私たちの想い出は消失するかに見え
  そして再び燦然と輝くようになる
  革着をまとった背中で
  あなたの手紙を何度となく読み返す
  あなたの慎重な手の跡
  私の燃える額の裏に幾多の心象が浮かぶ
  私たちのネガをあなたに返すわ

Elodie Frégé1


Paris en touriste chez l’interdit
En terre inconnue on se fuit
Taxi, on bat le pavé chaque nuit
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis

  滞在を禁じられ旅行者としてパリに
  ひとは見知らぬ地へと逃亡する
  タクシー、ひとは夜ごと街をうろつく
  ひとはある人生から別の人生へとさまよう
  しかたないこと

Paris en touriste chez l’interdit
En terre inconnue on se fuit
Taxi, on bat le pavé chaque nuit
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis
Taxi, on mord le pavé chaque nuit 注9
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis

  滞在を禁じられ旅行者としてパリに
  ひとは見知らぬ地へと逃亡する
  タクシー、ひとは夜ごと街をうろつく
  ひとはある人生から別の人生へとさまよう
  しかたないこと
  タクシー、ひとは夜ごとパヴェをかじる
  ひとはある人生から別の人生へとさまよう
  しかたないこと

[注] パリにある店の名前などの固有名詞が出てくるが、すべて大文字で書かれていない。
1 Café de Flore「カフェ・ド・フロール」は、戦後の左岸文化人のたまり場だったサンジェルマン大通りのカフェで、現存する。floreは本来、学術用語で「植物相」。大文字のFloreはローマ神話で花と豊穣の春の女神。
2 la Closerie des Lilasはモンパルナスにあるカフェ。closerieには「(農家の周りの)小耕地」と「(19世紀にパリで公園に設けられた)舞踏会場」の意味がある。
3 interditは名詞として、民法の「禁治産者」と、刑法の「滞在禁止者」の両義があり、後者を選んだ。chezは「…の家に、」ではなく「…にあっては」で、住むことが禁じられた身で、en touriste「観光客として」パリにいる、ということか。
4 onは「私たち」とせず「(不特定の)ひと」として訳した。
5 battre le pavé直訳すれば「舗道を叩く」だが、「街のあちこちをうろつく、ほっつき回る」こと。
6 Le Train Bleuは1900年代に作られたリヨン駅構内にあるベルエポック調のレストラン。古いクラシックな「青列車」すなわち北フランスのカレーあるいはパリと南フランスのコート・ダジュール(リヴィエラ)地方を結んでいた「夜行列車」をも言うので、あとの行では列車の話に変えてles wagons車内と表現し、mes rails「私のレール」という言葉も用いている。
7 話し言葉でêtre de mèche avec qn.「…と共謀する、ぐるになる」という表現があり、団子状に混み合った様子を表わしているのだろう。
8 Perrier Rondelle「ペリエ・ロンドル」は炭酸飲料。la butte「丘」はパリではMontmartre「モンマルトル」の代名詞。
9 battre le pavé(注5参照)のbattre「叩く」をmordre 「かじる」に変えている。pavéは「舗道」の意味のほかに、チーズやケーキなどを敷石状にかたどった料理「パヴェ」の意味がある。



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2014
10.25

太陽の真下Sous le soleil exactement

Anna Karina Sous le soleil exactement


「太陽の真下Sous le soleil exactement」は、1967年に女優アンナ・カリーナAnna Karina主演のミュージカル映画「アンナAnna」のためにセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが書いた曲。彼の7枚目のアルバム:Annaはその映画の曲を収録したアルバムです。

簡潔な表現で、ことさらにエロティックな言葉を用いていない歌詞ですが、やはりゲンズブールのことですから、目が眩むような異次元のポイント、すなわちエクスタシーをあらわしているようです。

アンナ・カリーナ



セルジュ・ゲンズブール



ヴァネッサ・パラディVanessa Paradis。ピアノはルル・ゲンズブールLulu Gainsbourg(ゲンズブールの息子)。



Sous le soleil exactement            太陽の真下
Anna Karina                    アンナ・カリーナ


Un point précis sous le tropique
Du Capricorne ou du Cancer
Depuis j´ai oublié lequel
Sous le soleil exactement
Pas à côté, pas n´importe où 
Sous le soleil, sous le soleil
Exactement juste en dessous.

  ちょうど回帰線のもと
  南回帰線あるいは北回帰線
  その後、どっちだか忘れてしまった
  太陽の真下
  近辺じゃダメ、どこでもいい訳じゃない
  太陽の下、太陽の下
  ちょうど真下。

Sous le soleil exactement1


Dans quel pays, dans quel district
C´était tout au bord de la mer
Depuis j´ai oublié laquelle
Sous le soleil exactement
Pas à côté, pas n´importe où
Sous le soleil, sous le soleil
Exactement juste en dessous.

  どこかの国で、どこかの地方で
  それはなにせ海辺でのことだった
  その後、どの海だか忘れてしまった
  太陽の真下で
  近辺じゃダメ、どこでもいい訳じゃない
  太陽の下、太陽の下
  ちょうど真下。

Sous le soleil exactement2


Etait-ce le Nouveau-Mexique
Vers le Cap Horn, vers le Cap Vert
Etait-ce sur un archipel
Sous le soleil exactement
Pas à côté, pas n´importe où
Sous le soleil, sous le soleil
Exactement juste en dessous.

  それは新メキシコの
  ホーン岬、ヴェール岬の辺りだったか
  ある群島のなかだったか
  太陽のちょうど真下の
  近辺じゃダメ、どこでもいい訳じゃない
  太陽の下、太陽の下
  ちょうど真下。

Sous le soleil exactement3


C´est sûrement un rêve érotique
Que je me fais les yeux ouverts
Et pourtant si c´était réel?
Sous le soleil exactement
Pas à côté, pas n´importe où
Sous le soleil, sous le soleil
Exactement juste en dessous.

  目を開けたまま見るのは
  たしかにエロティックな夢よ
  でもあれは現実だったのかしら?
  近辺じゃダメ、どこでもいい訳じゃない
  太陽の下、太陽の下
  ちょうど真下。

[注] à côté「近くに」とn´importe où「どこでもいい」を否定し、 exactement「まさに、正確に」sous le soleil「太陽の下」、つまり「真下、直下」だと言っている。


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2014
10.24

待って、さもなきゃ行って(涙のシャンソン日記)Attends ou va t'en

France Gall Attends ou va ten


セルジュ・ゲンズブール Serge Gainsbourgの曲、今回はフランス・ギャルFrance Gallで、1965年に作られた、「待って、さもなきゃ行って(涙のシャンソン日記)Attends ou va t'en」です。原題に即した邦題を新たに付け、一般的な邦題はまったくもって気に入りませんがよく知られているので、副題として括弧で囲って入れました。
1985年、日本で、ホンダが同社の製品のバラード・スポーツCR-X SiのテレビCMのバックミュージックに採用しました。アタン・ウ・ヴァタンという言葉の響きがメロディとマッチした、とても魅力的な曲です。



一夜を共にした二人。行ってしまわないで朝まで待ってくれれば、これがただの遊びじゃなくなる。また、彼はどうやら訳ありで死ぬことを考えています。彼女は彼を引きとめようとします…。

先立っていった、フランス・ギャルの最愛の夫、ミッシェル・ベルジェMichel Bergerといっしょの写真を入れて、歌詞をご紹介しましょう。

Attends ou va t'en 待って、さもなきゃ行って(涙のシャンソン日記)
France Gall     フランス・ギャル


À peine sorti de la nuit
À peine né d'hier
C'est la guerre
Attends demain
On verra bien
Qui gagne et qui perd

  夜が明けたばかり
  昨日から始まったばかりなのに
  もう戦いだわ
  明日まで待って
  分かることよ
  どっちが勝ってどっちが負けるか

De la dernière pluie de la nuit 注1
Nous sommes tombés tous deux
Amoureux
Attends le jour
Où cet amour
Ne seras plus un jeu

  夜に降ったさっきの雨で
  私たち二人は
  恋に落ちたばかり
  朝まで待って
  そのときこの恋は
  もう遊びじゃなくなる

Attends ou va ten2


Attends ou va-t'en 注2
Mais ne pleure pas
Attends ou va-t'en loin de moi
Attends ou va-t'en
Ne m'embête pas
Va-t'en, ou alors attends-moi

  待って、さもなきゃ行って
  でも泣かないで
  待って、さもなきゃ私から遠くに行って
  待って、さもなきゃ行って
  私を困らせないで
  行って、さもなきゃ私を待って

À peine sorti de la nuit
Et tu parles sans rire
De mourir
Attends un peu
Ce n'est pas le moment
De partir

  夜が明けたばかりで
  あなたは笑いもせず話す
  死ぬことを
  ちょっと待ってよ
  今はまだ
  行ってしまう時じゃない

De la dernière pluie de la nuit
Est tombée de mon cœur
Une fleur
Attends l'aurore 注3
De rose et d'or
Sera sa couleur

  夜に降ったさっきの雨で
  私の心から
  一つの花がこぼれた
  待って、朝焼けの
  バラ色と黄金色が
  その花の色となるのを

Attends ou va ten


Attends ou va-t'en
Mais ne pleure pas
Attends ou va-t'en loin de moi
Attends ou va-t'en
Ne m'embête pas
Va-t'en, ou alors attends-moi

  待って、さもなきゃ行って
  でも泣かないで
  待って、さもなきゃ私から遠くに行って
  待って、さもなきゃ行って
  私を困らせないで
  行って、さもなきゃ私を待って

La dernière pluie de la nuit
C'est le premier chagrin
Du matin
À tout hasard
Attends ce soir
Et tu verras bien

  夜に降ったさっきの雨
  それは朝の
  最初の悲しみ
  念のため
  今晩まで待って
  そうすればあなたはよく分かるわ

Attends ou va ten3


Attends ou va-t'en
Mais ne pleure pas
Attends ou va-t'en loin de moi
Attends ou va-t'en
Ne m'embête pas
Va-t'en ou alors attends-moi

  待って、さもなきゃ行って
  でも泣かないで
  待って、さもなきゃ私から遠くに行って
  待って、さもなきゃ行って
  私を困らせないで
  行って、さもなきゃ私を待って

[注]
1 ne pas être né de la dernière pluie「世慣れしている、場数を踏んでいる」という成句をもじって、二人の関係が始まったばかりであることをあらわしている。
2 ouは二者択一を示す。「待つか行ってしまうかどっちかにして」と言うが、実際はAttends「待って」と言いたいのである。
3 l'aurore de rose et d'or「バラ色と金色の朝焼け」がsa couleur「その(花の)色」となるのを待って。つまり、私の心からこぼれた花が朝焼けのバラ色と金色に染まるのを待ってという意味。



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2014
10.23

アクワボニスト(無造作紳士)L'aquoiboniste

Jane Birkin


セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが作りジェーン・バーキンJane Birkinが歌った曲を続けます。「アクワボニスト(無造作紳士)L'aquoiboniste」です。1978年のアルバム「想い出のロックン・ローラーEx-Fan des Sixties」に収録され、1999年に、TBSドラマ「美しい人」の主題歌に使用されて日本でも知られるようになりました。11月2日の《ゲンズブールを歌う》で、私はこれも歌います。

この曲も「ロスト・ソングLost song」や前回の「コワQuoi」同様、ゲンズブール自身のようなアナーキーな性格の男と付き合っている女性の立場の歌詞ですが、この曲では、「いいかげんにしてよ」とはまだ思っていなくて、「彼ってこんな人なのよ」とのろけているような内容。この男のモデルはゲンズブール自身ではなくて、フランソワーズ・アルディFrançoise Hardyのダンナのジャック・デュトロンJaques Dutroncだそうです。ですから、アルディの立場の歌詞ということになりますね。(歌詞中の画像はゲンズブール。)

原題のL'aquoibonisteは造語で日本語に訳しにくいので「コワ」同様にカナ表記の「アクワボニスト」を邦題にしました。どんな人なのかは歌詞が語っていますので。「無造作紳士」って誰が考えたのでしょう、「無頓着紳士」としたほうが近い気がしますが…。ともかく定着していますし、なかなかインパクトがあって面白いので副題といたしましょう。



L'aquoiboniste  アクワボニスト(無造作紳士)
Jane Birkin    ジェーン・バーキン


C'est un aquoiboniste 注1
Un faiseur de plaisantristes 注2
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Un modeste guitariste
Qui n'est jamais dans le ton
À quoi bon

  彼はアクワボニスト
  ふざけてばかりいるヒト
  なんにもならない
  なんにもならないといつも言って
  アクワボニスト
  さえないギタリスト
  いつだって調子っぱずれで
  なんにもならない

aquoiboniste6.jpg


C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Un peu trop idéaliste 注3
Qui répèt' sur tous les tons
À quoi bon

  彼はアクワボニスト
  ふざけてばかりいるヒト
  なんにもならない
  なんにもならないといつも言って
  アクワボニスト
  ちょっとあまりにもイデアリスト
  あらゆる口調でくり返すヒト
  なんにもならないと

C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Un drôl' de je m'enfoutiste 注4
Qui dit à tort à raison 注5
À quoi bon

  彼はアクワボニスト
  ふざけてばかりいるヒト
  なんにもならない
  なんにもならないといつも言って
  アクワボニスト
  とんでもなく無頓着なヒト
  間違っていても正しくても言うのよ
  なんにもならないと

aquoiboniste2.jpeg


C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Qui s'fout de tout et persiste 注6
À dire j'veux bien mais au fond 注7
À quoi bon

  彼はアクワボニスト
  ふざけてばかりいるヒト
  なんにもならない
  なんにもならないといつも言って
  アクワボニスト
  なんでもばかにするくせに こだわるヒト
  はい喜んでと言うことに でも本音は
  なんにもならない

C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Qu'a pas besoin d'oculiste 注8
Pour voir la merde du monde
À quoi bon

  彼はアクワボニスト
  ふざけてばかりいるヒト
  なんにもならない
  なんにもならないといつも言って
  アクワボニスト
  目医者なんていらないヒト
  腐った世界見たって
  なんにもならないさ

C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Qui me dit le regard triste
Toi je t'aime, les autres ce sont
Tous des cons

  彼はアクワボニスト
  ふざけてばかりいるヒト
  なんにもならない
  なんにもならないといつも言って
  アクワボニスト
  わたしに哀しい目で語るヒト
  きみが好き、他の人は
  みんな馬鹿だよと

aquoiboniste4.jpg


[注]繰り返し部分は、文字の色を変えた。
ゲンズブール特有の言葉遊びで造語が多く用いられているので、厳密な訳は不能。その点は了承願いたい。
1 タイトルでもあるaquoibonisteは、à quoi bon「何になる?何にもならない」に…iste「…する人」の語尾をつけて作られた造語。言葉遊びを活かしたいということで、歌詞中でもカナ表記した。quoiが中に含まれた語でありアコワボニストという表記も考えられるが、「コワQuoi」の注1に書いたように発音記号は[qwa]なのでアクワボニストとした。同じisteの語尾を付けたほかの造語は、少々語呂を合わせて「…ヒト」という表現を用いた。
2 faiseur de +無冠詞名詞「…を繰り返す人」plaisantristesはplaisantrie「冗談、悪ふざけ」の語尾をisteに変えた造語。「…する人」という意味は加わらない。
3 idéaliste「観念論者、理想主義者」だが、訳語は読みのカナ書きで「イデアリスト」とした。
4 drôleは形容詞の名詞的用法で、drôle de+無冠詞名詞で「変な」という意味。je m'enfoutiste全体がその無冠詞名詞の部分で、se foutre de…「…を馬鹿にする」を元に、isteを付けて作った造語。
5 à tort「間違った」à raison「正しい」à tort ou à raisonで「是非はともかく」
6 persisteはpersisterの活用語尾がそのまま、aquoibonisteと同じ形。
7 j’veux bienは言う内容で、本来なら引用符で囲むべき部分。最後の節でも同様の箇所がある。
8 Qu’a pas=Qui n’a pas



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2014
10.22

コワQuoi

Jane Birkin Lost song


ジェーン・バーキンJane Birkinの代表曲のひとつである「コワQuoi」は、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの作詞で、イタリアのグイド・デ・アンゲリスGuido De Angelisとマウリツィオ・デ・アンゲリスMaurizio De Angelisの兄弟が作曲しました。85年にレコーディングされ、86年にイタリアの「チネチッタCinecitta」というテレビ番組の主題歌に使われ、同年、日本信販(現・三菱UFJニコス、NICOS)のテレビCMにも使われました。87年のアルバム:Lost Songに収録されています。

ゲンズブールの作った歌詞の特徴として、言葉遊びの多用が目立ちます。エロティックな内容以外に、ゲンズブール自身のようなアナーキーな性格の男と付き合っている女性の立場の歌詞も多いです。この曲は、先に取り上げた「ロスト・ソングLost song」以上に二人の関係の難しさを託って「いいかげんにしてよ」と相手に訴えている内容です。



Quoi     コワ
Jane Birkin ジェーン・バーキン


Quoi d'notre amour fou n'resterait que des cendres 注1
Moi j'aimerais qu'la terre s'arrête pour descendre 注2
Toi tu m'dis qu tu n'vaux pas la corde pour te pendre 注3
C't à laisser ou à prendre 注4
Joie et douleur c'est ce que l'amour engendre
Sois au moins conscient que mon cœur peut se fendre 注5
Soit dit en passant j'ai beaucoup à apprendre 注6
Si j'ai bien su te comprendre

  私たちの狂った愛の何かは灰しか残さない
  私は地球が停まってほしいわ降りるから
  あなたは自分のことを人間のクズだと言い
  さぁやめるのか買うのかどっちなんだと
  喜びと苦しみは愛が生み出すもの
  少なくとも私の心が張り裂けそうなのを気づいてほしい
  ついでに言わせてもらえば私はたくさん学んだわ
  あなたを理解することができたというのならね

Gainsbourg birkin8


Amour cruel comme en duel
Dos à dos et sans merci 注7
Tu as le choix des armes ou celui des larmes 注8
Penses-y, penses-y
Et conçois que c'est à la mort à la vie 注9

  激しい愛はまるで死闘
  背中合わせで情け容赦なく
  あなたは武器を選ぶのか涙を選ぶのか
  考えて、考えて
  そしてそれは永遠に続くんだと分かってよ

Quoi d'notre amour fou n'resterait que des cendres
Moi j'aimerais qu'la terre s'arrête pour descendre
Toi tu préfères mourir que de te rendre 注10
Va donc savoir va comprendre 注11

  私たちの狂った愛の何かは灰しか残さない
  私は地球が停まってほしいわ降りるから
  あなた あなたは降伏するより死んだほうがましなのね
  まったくなんだか分からない なんとも理解できないわ

Amour cruel comme en duel
Dos à dos et sans merci
Tu as le choix des armes ou celui des larmes
Penses-y, penses-y
Et conçois que c'est à la mort à la vie

  激しい愛はまるで死闘
  背中合わせで情け容赦なく
  あなたは武器を選ぶのか涙を選ぶのか
  考えて、考えて
  そしてそれは永遠に続くんだと分かってよ

{Instrumental}

Gainsbourg birkin7


Toi tu préfères mourir que de te rendre
Va savoir va comprendre

  あなた あなたは降伏するより死んだほうがましなのね
  なんだか分からない なんとも理解できないわ

Quoi d'notre amour fou n'resterait que des cendres
Moi j'aimerais qu'la terre s'arrête pour descendre
Toi tu m'dis qu tu n'vaux pas la corde pour te pendre
C't à laisser ou à prendre

  私たちの狂った愛の何かは灰しか残さない
  私は地球が停まってほしいわ降りるから
  あなたは自分のことを人間のクズだと言い
  さぁやめるのか買うのかどっちなんだと

Gainsbourg birkin6


[注]
1 quoiは疑問詞ではなく、「何か」という意味で主語となっていて、d'notre amour fouはそれを修飾する。この語が題名になっているが、この読みのカタカナ表記「コワ」が邦題として広く知られている。発音記号は[qwa]なので「クワ」のほうが近いが、moiは「ムワ」でなく「モワ」と表記されてきたし、toiは 「トワ」とするしかないし、これもまぁいいかということで採用した。条件法は仮定的未来を示す。
2 地球を乗り物として、降りたいから停止して欲しい。意味としては、二人の関係をおしまいにして、下りたいということだろう。条件法は婉曲表現。
3 valoir pas la corde pour se pendre「縛り首の縄にも値しない、人間のクズだ」
4 C’est à prendre ou à laisser.「さお買いになるかおやめになるかいずれかです」。C’tと略し、韻のためか語順を変えている。
5 se fendre「裂ける」
6 soit dit en passant「ついでに言えば」
7 dos à dos「背中合わせで」昔の決闘は、まず背中を合わせて立ち、10歩歩いてから撃ち合ったとか。 sans merci「情け容赦のない」
8 le choix「選択の可能性」。武器を持って戦うのか、涙を流して和合するのかといったニュアンス。celui(= le choix)をジェーンが「セルイ」と発音しているのが気になるが…。
9 à la vie à la mort「永遠に、いつまでも」ここも、韻のためか語順を変えている。
10 se rendre「降伏する」
11 va savoir「全然確かなことは分からない、なんとも言えない」va comprendre も同様。doncは強意語で、cは発音しない(文頭および母音の前では発音する)。



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2014
10.21

小さな紙切れLes petits papiers

Régine Les petits papiers


「小さな紙切れLes petits papiers」は、1997年にセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgがローラン・ヴールズィーLaurent Voulzyの協力で女性歌手レジーヌRégineのために作りました。ただの言葉遊びのようなものだったこの曲が、のちに大きな役割を担うようになろうとは、ゲンズブールには想像し得なかったことでしょう。
まず、1999年に小さなNGO団体GISTI(移民支援情報グループ)が開いたコンサートで、支援CD録音のために集ったロックバンドのノワール・デジールNoir Désirらがこの歌を抗議の歌として歌いました。
そして2007年9月4日、ジェーン・バーキンJane Birkin、レジーヌなどが、当時の移民相エリック・ベッソンのいる窓の下で、この歌を歌いました。レジーヌはもともと、ニコラ・サルコジと親しかった人で、大統領選でも積極的に支持していました。しかし、その夏の「ロマ狩り」が始まるや、サルコジの移民政策に賛同できなくなり、バーキン等の反対派と共に歌うことになったのです。滞在許可(紙切れpapier)がない人たち、つまり「サン・パピエsans papier」の人たちのための歌として、この曲「小さな紙切れLes petits papiers」が選ばれたわけです。
この音楽による抗議は、フランスとヨーロッパの130の都市で行われるデモの幕開けとなり、またそれは9月18日にベルシーで行われるコンサート" Rock Sans Papiers"の宣伝でもありました。コンサートには多くのアーティストが参加し、デモでは市民団体などが、フランス政府の「外国人嫌いxénophobie」を告発するように呼びかけました。

こうした情報は、私の大好きなブログ「カストル爺の生活と意見」などに詳しく書かれていて、その2回の抗議の歌の動画も掲載されています。

抗議の歌としてはそちらでご覧いただくこととして、ここでは楽しんで歌える歌としてご紹介しましょう。11月2日のプティ・コンセール《ゲンズブールを歌う》では、この曲の歌い手の高岡さんは会場の皆さんにも声を出してもらおうと考えているようですよ。 

ジェーン・バーキンと旦那のゲンズブール、そしてジェーンの親しい友人フランソワ・アルディFrançoise Hardyの旦那のジャック・デュトロンJacques Dutroncの3人。



御本家のレジーヌの歌はこちら



Les petits papiers      小さな紙切れ
Régine             レジーヌ


Laissez parler
Les p’tits papiers
A l’occasion 注1
Papier chiffon
Puissent-ils un soir 注2
Papier buvard
Vous consoler

  しゃべらせよう
  小さな紙切れに
  時には
  紙くずにも
  彼らがいつかの夜に
  吸い取り紙も
  あんたたちを癒してくれるといいね

petits papiers6


Laisser brûler
Les p’tits papiers
Papier de riz 注3
Ou d’Arménie
Qu’un soir ils puissent 注4
Papier maïs
Vous réchauffer

  燃やそう
  小さな紙切れを
  ライス・ペーパー
  あるいはアルメニア紙
  彼らがいつかの夜に
  トウモロコシ紙も
  あんたたちを暖めてくれるといいね

Un peu d’amour 注5
Papier velours
Et d’esthétique
Papier musique
C’est du chagrin
Papier dessin
Avant longtemps

  少しの愛が
  滑らかな紙に
  そして美が
  楽譜の紙に
  それは哀しみ
  デッサンの紙に
  そのうち表れるのは

petits papiers5


Laissez glisser
Papier glacé
Les sentiments 注6
Papier collant
Ça impressionne
Papier carbone
Mais c’est du vent 注7

  滑らせよう
  光沢紙を
  恋愛感情さ
  糊付きの紙は
  写すものさ
  カーボン紙は
  だが当てにはならない

Machin Machine 注8
Papier machine
Faut pas s’leurrer
Papier doré
Celui qu’y touche
Papier tue-mouches
Est moitié fou

  なにがし君 なにがし嬢
  機械の紙
  騙されちゃいけないよ
  金色の紙には
  ハエ取り紙に
  さわるヤツは
  半ば狂ってる

C’est pas brillant
Papier d’argent
C’est pas donné
Papier-monnaie
Ou l’on en meurt
Papier à fleurs
Ou l’on s’en fout

  ギンギラじゃないよ
  銀紙は
  タダじゃないよ
  お札の紙は
  人はそのせいで死ぬのさ
  花模様の紙は
  人は気にもかけないさ

petits papiers1


Laissez parler
Les p’tits papiers
A l’occasion
Papier chiffon
Puissent-ils un soir
Papier buvard
Vous consoler

  しゃべらせよう
  小さな紙切れに
  時には
  紙くずにも
  彼らがいつかの夜に
  吸い取り紙も
  あんたたちを癒してくれるといいね

Laisser brûler
Les p’tits papiers
Papier de riz
Ou d’Arménie
Qu’un soir ils puissent
Papier maïs
Vous réchauffer

  燃やそう
  小さな紙切れを
  ライス・ペーパー
  あるいはアルメニア紙を
  彼らがいつかの夜に
  トウモロコシ紙も
  あんたたちを暖めてくれるといいね

petits papiers4


[注]
1 à l’occasion「機会があれば」。d’occasionだと「中古の」で、この意味も含ませたい表現のようだ。
2 Puissent-ilsは、接続法であり、Queを先立てない願望文。古い言い回しの名残と説明される。
3 燃やすということに関連させて、いろんな材質の紙を挙げている。papier de riz「ライス・ペーパー」はタバコ、マリファナに、papier d’Arménie「アルメニア紙」は、お香などに用いられる。トウモロコシ紙はスピーカー用ほか多用途に。これらは、心を暖めてくれると言いたいようだ。
4 Que+接続法で願望をあらわしている。
5 この節は、芸術方面で精神面に与える作用をテーマにしている。
6 les sentimentsは複数なので、「思いやり」あるいは「恋愛感情」となる。papier collant「糊付きの紙」というニュアンスから「恋愛感情」を選んだ。
7 c’est du vent「そうなる見込みはない、それはから約束だ」
8 machin「(名前が分からない)なんとかいう物(人)」。人の場合は大文字。女性の場合は Machineで、machine「機械」と同じ綴りになる。タイプライター、ミシン、車も単にmachineと言うので、papier machine「機械の紙」とはタイプライターの用紙と思われる。



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2014
10.21

不可能なまでに愛すAimer jusqu'à l'impossible

TinaArena Aimer


28日の《第4回アミカル・ド・シャンソン コンサート》でエントリーされる曲を一つ訳すことにしましょう。ティナ・アリーナTina Arenaの「不可能なまでに愛すAimer jusqu'à l'impossible」です。

この曲は、2005年にリリースされた5枚目のスタジオ・アルバムUn autre universに収録されています。英語での歌唱がメインの彼女がすべてフランス語で歌ったこのアルバムは、フランスでヒットチャートの上位に昇り、プラチナ・ディスクを獲得。特にヒットしてシングルカットされたこの曲も、プラチナ・ディスクを獲得しました。

ティナ・アリーナは、1967年にオーストラリアのメルボルンでイタリア(シチリア)系の両親の間に生まれた歌手。7歳で、オーストラリアのTV番組Young Talent Timeのレギュラー出演でデビュー。2000年に、シドニー・オリンピックのオープニング・セレモニーに出演してThe Flameを歌い、世界的に注目を受けました。



Aimer jusqu'à l'impossible 不可能なまでに愛す
Tina Arena          ティナ・アリーナ


Je n'ai connu qu'une histoire d'amour
Au fil de ma vie
Cet homme m'a promis le toujours,
Et puis s'est enfui
C'est la couleur de l'enfer
Quand les mensonges salissent tout
J'avais cru sombrer sous la colère
Comme un cheval fou

  私は一つの愛の物語しか知らない
  自分の人生の流れのなかで
  この男はいつも私にそれを約束し
  そして消え去った
  地獄の色になる
  嘘の言葉がすべてを汚すと
  私は怒りですさんだ気持ちになった
  気違い馬のように

Mais ce qui m'a sauvée
C'est de pouvoir aimer

  でも私を救ってくれたもの
  それは愛すことができるということ

Tina Arena6


Aimer jusqu'à l'impossible
Aimer se dire que c'est possible
D'aimer d'un amour invincible
Aimer jusqu'à l'impossible
C'est possible

  不可能なまでに愛すこと
  愛すこと、それは可能だと言われる
  不屈の愛で愛することは
  不可能なまでに愛すこと
  それは可能よ

J'ai vu mes châteaux en Espagne 注
Ce que j'ai bâti
Disparaître sous les flammes de la jalousie
C'est une douleur sans égale
Quand sa vie
Part en étincelles
J'aurais pu vendre mon âme au diable
Comme un criminel

  私は空中楼閣が
  私が建てたその館が
  嫉妬の炎で焼け去るのを見た
  それは比類ない苦しみ
  館のいのちが
  火花となって散り果てるときは
  私は魂を悪魔に売ることだってできたわ
  罪人のように

Tina Arena1


Mais ce qui m'a sauvée
C'est de pouvoir aimer

  でも私を救ってくれたもの
  それは愛すことができるということ

Aimer jusqu'à l'impossible
Aimer se dire que c'est possible
D'aimer d'un amour invincible
Aimer jusqu'à l'impossible
C'est possible

  不可能なまでに愛すこと
  愛すことは可能よ
  不屈の愛で愛することは
  不可能なまでに愛すこと
  それは可能よ

Tina Arena2


Aimer jusqu'à l'impossible
Aimer, jurer sur la Bible,
Aimer, malgré l'inadmissible,
Aimer, jusqu'à l'impossible
C'est possible.

  不可能なまでに愛すこと
  愛すこと、聖書にかけて誓って、
  愛すこと、受け入れられなくても、
  愛すこと、不可能なまでに
  それは可能よ。

Aimer jusqu'à l'imprévisible
Aimer jusqu'à l'impossible
C'est possible

  予測不能なまでに愛すこと
  不可能なまでに愛すこと
  それは可能よ

[注] châteaux en Espagneは直訳すれば「スペインにある城」だが、faire(ou bâtir) des châteaux en Espagneは「空中楼閣を建てる」 という成句。



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2014
10.20

《第4回アミカル・ド・シャンソン コンサート》

中目黒コンサート2


来週28日火曜日に、「中目黒GTホール」にて《第4回アミカル・ド・シャンソン コンサート》をおこないます。17人が34曲をすべてフランス語で歌うコンサートです。
開場:13時、開演:13時30分。ピアノ:アニエス晶子、ヴァイオリン:会田桃子。
入場料:1000円。当日券あります。直接会場にお越しください。

曲目は以下のとおりです。
はこのブログ、 は旧ブログ、 は宇藤カザンのブログに曲の紹介記事(邦訳)が出ています。両方で取り上げている曲は私のほうを出しました。クリックして開いてご覧ください。

Le temps des cathédrales カテドラルの時代
Amsterdam アムステルダム 
Kennedy Rose ケネディー・ローズ  
Sans vous aimer 愛すことなく 
La bohème  ラ・ボエーム 
Tous les visages de l'amour 忘れじの面影 
Hier encore 帰り来ぬ青春 
For me, formidable  フォーミー・フォルミダブル 
Paris パリ
Et maintenant そして今は 
J’oublie(Oblivion) 忘却 
Sous le soleil exactement 太陽の真下 
Une petite cantate 小さなカンタータ 
L’agle noir 黒いワシ 
L’accordéoniste アコーデオン弾き 
Il n’y a plus après あとには何もない 
J’avais rêvé 夢やぶれて  
Vie violence ヴィー・ヴィオランス 
Je voulais te dire que je t’attends 君を待っている 
Je t’oublierai, je t’oublierai あなたを忘れるわ、忘れるわ
Je suis seul ce soir 今宵ただひとり 
Les feuilles mortes 枯葉 
Fatigué d’attendre 待ちくたびれて 
Viens à St. Germain サンジェルマンへおいでよ 
La chanson de Prévert プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて) 
Aimer jusqu’à l’impossible 不可能なまでに愛す
C'est si bon セ・シ・ボン 
Il n'y a pas d'amour heureux 幸せな愛はない 
Je suis malade 私は病んでいる(灰色の途) 
La pluie 雨
Youkali ユーカリ 
Le charleston des déménageurs de piano ピアノ運搬屋のチャールストン 
Il pleut sur la route 小雨降る径 
La fête des fleurs 花祭り



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2014
10.19

しあわせは逃げていく(虹の彼方)Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve

Jane Birkin Baby alone in Babylone


前回、イザベル・アジャーニIsabelle Adjaniの「マリン・ブルーのセーターPull marine」を取り上げましたが、ジェーン・バーキンJane Birkinがセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgに、自分もその曲を歌いたいと言ったところ、その代わりにとゲンズブールが書いたのがこの、Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauveです。アラン・シャンフォールAlain ChamfortとミッシェルMichelも制作に加わり、前々回取り上げた「バビロンの妖精Baby Alone in Babylone」と同じアルバム:Baby Alone in Babylone(1983年)に収録されています。「虹の彼方」という邦題で知られていますので、それをサブタイトルとし、原題の意味に即した「しあわせは逃げていく」をメインタイトルとしました。
たしかに、歌詞のなかにover the rainbowという言葉が英語のままで入っていて、ゲンズブールは、映画「オズの魔法使いThe Wonderful Wizard of Oz」で主役のジュリー・ガーランドJudy Garlandが歌った「虹の彼方にOver the Rainbow」を意識して作ったようです。

ジュリー・ガーランド「虹の彼方にOver the Rainbow」



ジェーン・バーキン「しあわせは逃げていく(虹の彼方)
Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve」



Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve  しあわせは逃げていく(虹の彼方)
Jane Birkin                    ジェーン・バーキン


Fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve 注1
que le ciel azuré ne vire au mauve
penser ou passer à autre chose
vaudrait mieux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと
  青い空が薄紫に変わりやしないかと恐れていると
  ほかのことを考えるかほかのことに移った
  ほうがいいわ

fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow 注2
toujours plus haut le soleil above
radieux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
  虹の彼方には
  常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
  燦々と輝いて

Fuir le bonheur 1


croire aux cieux croire aux dieux
même quand tout nous semble odieux
que notre cœur est mis à sang et à feu

  天を信じ神を信じることよ
  私たちの心が血にそして炎にまみれて
  すべてが私たちには耐え難く思えるときも

fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
comme une petite souris dans un coin d’alcôve 注3
apercevoir le bout de sa queue rose
ses yeux fiévreux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
  寝室の隅にいる小さなネズミみたいに
  そのピンクのしっぽの先や
  不安げな目に気づくことね

fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow
toujours plus haut le soleil above
radieux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
  虹の彼方には
  常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
  燦々と輝いて

Fuir le bonheur 2


croire aux cieux croire aux dieux
même quand tout nous semble odieux
que notre cœur est mis à sang et à feu

  天を信じ神を信じることよ
  私たちの心が血にそして炎にまみれて
  すべてが私たちには耐え難く思えるときも

fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
avoir parfois envie de crier sauve
qui peut savoir jusqu’au fond des choses
est malheureux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
  ときどき叫びたい欲求を持つことは助けてくれる
  事物の内奥まで知ることのできる人は
  不幸だわ

fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow
toujours plus haut le soleil above
radieux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
  虹の彼方には
  常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
  燦々と輝いて

Fuir le bonheur 3


croire aux cieux croire aux dieux 注4
même quand tout nous semble odieux
que notre cœur est mis à sang et à feu

  天を信じ神を信じること
  私たちの心が血にそして炎にまみれて
  すべてが私たちには耐え難く思えるときも

fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
dis-moi que tu m’aimes encore si tu l’oses
j’aimerais que tu te trouves autre chose 注5
de mieux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
  あなたが私をまだ愛していると言ってよ もしあなたがそうして下さるなら
  あなたは今よりもっとましな
  人になってもらいたいわ

fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow
toujours plus haut le soleil above
radieux

  しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
  虹の彼方には
  常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
  燦々と輝いて

Fuir le bonheur 4


[注] イヴ・デュテイユYves Duteilの「子供を抱いてPrendre un enfant」と同様、不定詞を多用した歌詞。
1 de peur que+sub.「…することを恐れて」。neは虚辞。
2 over the rainbowと次行のaboveは英語。ちなみにバーキンはイギリス人。
3 alcôve「アルコーヴ」とは、寝台を納めるための凹処。
4 cieuxはcielの複数形で、「(神のいる)天、天理、天国、神」といった意味。
5 se trouver「(ある状態に)なる」[自分を…と思う、感じる]。autre choseは人の場合にも用いられる。




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2014
10.18

マリンブルーのセーターPull marine

Isabelle Adjani


女優イザベル・アジャーニIsabelle Adjaniは1955年にフランス・パリ17区で生まれました。父親はアルジェリア人で母親はドイツ人。1969年に映画デビューしました。フランス語の他に英語・ドイツ語に堪能。各種の女優賞を何度もとっています。また、演劇女優としても何度かステージに立っています。恋多き人といわれ、共演者などとの関係が常に噂されてきました。一癖も二癖もある性格なようで、ウィキペディアによると、ゴダールの作品を突然降板したり、一度断った役を他の女優から奪い返したなどのスキャンダルも多く、マスコミが嫌いで、特に勝手に写真を撮られることを非常に嫌い、カンヌでパパラッチのカメラを壊したこともあったとか。

主な出演映画は、「アデルの恋の物語L'Histoire d'Adèle H.(1975)」「ブロンテ姉妹Les Soeurs Brontë(1978)」「ザ・ドライバーThe Driver(1978)」「死への逃避行Mortelle randonnée(1983)」「殺意の夏L'Été meurtrier(1985)」「イシュタールIshtar(1987)」「カミーユ・クローデルCamille Claudel(1988)」「王妃マルゴ La Reine Margot(1994)「悪魔のような女Diabolique(1996)」「イザベル・アジャーニの惑いAdolphe(2002)」「ボン・ヴォヤージュBon voyage(2003)」など。
私は、この最後の作品で彼女に興味を持ち、一時は彼女の出演作を続けて見ていました。たしかにすごい女優です。が、最近はずいぶん太っちゃったようですね。

アジャーニは、1974年からセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの協力を受けてシャンソンを歌い始めました。今回取り上げる「マリンブルーのセーターPull marine」は、1983 年にゲンズブールによって書かれた曲の彼女の同名のファースト・アルバムのなかの曲で、一番のヒット曲。1984年にリュック・ベンソンLuc Bessonによりビデオ・クリップが制作されています。一般には「マリン色の瞳」という邦題が付けられています。確かに歌詞にはそうした表現がありますが、原題に即し、「マリンブルーのセーター 」としましょう。

そして彼女はその後、ゲンズブールから離れ、パスカル・オビスポPascal Obispo、エティエンヌ・ダオEtienne Daho、クリストフChristopheなどとのデュオのアルバム等を出しています。



Pull marine   マリンブルーのセーター
Isabelle Adjani イザベル・アジャーニ


J'ai touché le fond d'la piscine
Dans l'petit pull marine,
Tout déchiré aux coudes
Qu'j'ai pas voulu recoudre,
Que tu m'avais donné.
J'me sens tellement abandonnée.

  わたしはプールの底に触れた
  小さなマリンブルーのセーターを着て、
  それは肘のところで完全に破れていたけど
  繕いたくはなかった、
  それはあなたがわたしにくれたセーター。
  わたしはこんなにも見捨てられたように感じる。

Y a pas qu'au fond d'la piscine 注1
Qu'mes yeux sont bleu marine.
Tu les avais r'pérés
Sans qu'il y ait un regard
Et t'avais rappliqué. 注2
Maintenant, je paie l'effet retard.

  わたしの目がマリンブルーなのは
  プールの底にいるときだけじゃないわ。
  あなたは視線もくれずに
  わたしの目を見分け
  そしてやって来たわ。
  今、わたしはその報いを受ける。

Isabelle Adjani1


Avant de toucher le fond,
Je descends à reculons,
Sans trop savoir c'qui se passait dans le fond.

  底に触れるまでのあいだ、
  わたしはうしろ向きに沈んで行く、
  底で起こるはずのことをあまり知らないまま。

C'est plein d'chlore au fond de la piscine.
J'ai bu la tasse, tchin tchin. 注3
Comme c'est pour toi, je m'en fous.
J'suis vraiment prête à tout.
T'avaler, que m'importe, 注4
Si l'on me trouve à moitié morte.

  プールの底は塩素でいっぱい。
  わたしは水を飲んじゃったわ、カンパ~イ。
  あなたのためだから、平気よ。
  わたしは本当になんでもするわ。
  あなたを飲みほすことだって、なんでもないわ、
  もしもわたしが死にかかっているところを発見されたとしてもね。

Noyée au fond d'la piscine, 注5
Personne ne te voyait
Sous mon p'tit pull marine,
M'enlacer, j't'embrassais 注6
Jusqu'au point de non-retour,
Plutôt limite de notre amour.

  プールの底で溺れて、
  誰もあなたを見ていなかったわ
  わたしの小さなマリンブルーのセーターの下で、
  わたしに絡みつくあなたを、わたしはあなたにキスした
  帰還不能のポイントで、
  というよりむしろ わたしたちの愛の限界で。

Isabelle Adjani2


Avant de toucher le fond,
Je descends à reculons,
Sans trop savoir c'qui se passait dans le fond.

  底に触れるまでのあいだ、
  わたしはうしろ向きに沈んで行く、
  底で起こるはずのことをあまり知らないまま。

Viens vite au fond d'la piscine
Repêcher ta p'tite sardine,
L'empêcher de se noyer,
Au fond d'toi, la garder,
Petite sœur traqueuse
De l'air de ton air amoureuse. 注7

  早くプールの底に来て、
  あなたの小さなイワシを引き上げて、
  溺れさせないで、
  あなたの心の底深く、守って、
  臆病な妹を
  あなたの愛情深い様子でひと息つかせてよ。

Si nous deux, c'est au fond dans la piscine,
La deux des magazines 注8
Se chargera d'notre cas
Et je n'aurai plus qu'à
Mettre des verres fumés
Pour montrer tout c'que je veux cacher.

  もしもわたしたち二人、プールの底でのこと、
  雑誌の2ページ目に
  わたしたちのことが載るとしたら
  わたしとしては
  サングラスをつけるしかしょうがない
  隠したいものをすべてを露わにするためには。

Isabelle Adjani4


Retrouve-moi au fond d'la piscine
Avant qu'ça m'assassine
De continuer sans toi.
Tu peux compter sur moi :
J'te r'ferai plus l' plan d'la star 注9
Qui a toujours ses coups de cafard. 注10

  プールの底でわたしを見つけてよ
  あなたがずっといてくれないせいで
  わたしが死んでしまう前に。
  あなたはわたしを信じていいわ:
  いつもふさぎ虫に取りつかれている
  女優のまねなんてもうあなたに対してしないわ。

J'ai touché le fond d'la piscine
Dans ton p'tit pull marine...

  わたしはプールの底に触れた
  あなたの小さなマリンブルーのセーターを着て…

[注] marineは「マリンブルー色」の意味の形容詞。pullは男性名詞なので、「海の」の意味の形容詞marinの女性形ではない。また、名詞のmarinは男性名詞で「船乗り」「セーラー服」「(地中海から南仏に吹く)南風」などの意味。marineは女性名詞としては「海運、船舶」関連の総体的な意味を持ち、「マリンブルー色」の意味のmarineは男性名詞である。
1 Y a pas=Il n’y a pasで、Il n’y a pas que A que B「BなのはAだけではない」
2 se rappliqué俗語で「戻って来る、やって来る」
3 boire la tasse「(溺れて)水を飲む」
4 t'avalerは、文は区切られているが、前行のprête àと(toutとともに)つながる。
que m'importe si…「もし…したって、私にはどうでもいい」
5 noyéeは、節の頭にあるが、前節の最後の行とつながって、「溺れて死にかかっているのを発見される」ということになる。
6 Personne ne te voyait…m'enlacerとつながる。
7 la garder de l'airとつながり、「彼女にde l'airを取っておく」。したがって、garder はgarder au fond d'toiと共有と考えられるが、ひょっとしたらそのau fond d'toiは、その上のse noyerとのつながりも秘めているようだ。すなわち、「あなたの底で溺れる」という…。de l'airは「空気」で、部分冠詞がついている。ton airのairは「様子」。
8 la deux des magazines 「雑誌の2ページ目」すなわち、新聞の場合は三面記事。
9 star(英)「(映画の)人気女優」
10 cafard「ゴキブリ」も意味するが、ここでは「ふさぎ虫、憂鬱」の意。




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2014
10.17

バビロンの妖精Baby alone in Babylone

Jane Birkin Baby alone in Babylone


今回は、ジェーン・バーキンJane Birkinの「バビロンの妖精Baby alone in Babylone」(1983年)。この曲はブラームスJohannes Brahmsの交響曲第3番第3楽章ポコ・アレグレットSymphony No.3 - Poco Allegrettoをアレンジして作られています。前回ご紹介した、イヴ・モンタンYves Montandの「ブラームスはお好きQuand tu dors près de moi」と同様に。

Babylone、Baby aloneと語呂を合わせたタイトルですが、babyは女性を呼ぶ愛称。バビロンBabyloneは、先に取り上げたアンリ・サルヴァドールHenri Salvadorの「シラキューズSyracuse」にも出て来たメソポタミアの古代都市ですが、この曲ではロサンゼルスのハリウッドを指していて、スターを目指す女優の卵がハリウッドの映画社会の荒波に飲み込まれそうになるという歌詞内容。アメリカの映画監督のケネス・アンガーKenneth Angerが書いた、ハリウッドのスキャンダル暴露本「ハリウッド・バビロンHollywood Babylon」が1959年にパリで出版されていますが、この書名がヒントになったのかもしれません。




Baby alone in Babylone バビロンの妖精
Jane Birkin        ジェーン・バーキン


Baby alone in Babylone, noyée sous les flots
De Pontiacs, de Cadillacs, de Bentley à L.A. 注1
De Rolls Royce et de Buicks, dans la nuite métallique

  バビロンにベィビーひとり、波に溺れる
  ポンティアックの、キャデラックの、べントレーの波にロスで
  ロールス・ロイスとビュイックの波に、メタリックな夜に

Sunset boulevard


Baby alone in Babylone, noyée sous les flots
De musiques électriques, de rock 'n 'roll, tu recherches un rôle
Tu recherche les studios et les traces de Monroe
Les strass et le stress, dieu et déesses de Los Angeles

  バビロンにベィビーひとり、波に溺れる
  電子音楽の、ロックンロールの波に、君は役を探し求める
  君は探し求める、スタジオやモンローの足跡
  まがいものの宝石とストレス、ロサンジェルスの神と女神を

Baby alone in Babylone, noyée sous les flots
De lumière, de poussières, d'étoiles éphémères
Tu rêves d'éternité, hélas tu vas la trouver

  バビロンにベィビーひとり、波に溺れる
  光の、塵の、はかない星の波に
  君は永遠を夢見て、ああそれを見つけようとしてる

Hollywood2.jpg


Baby alone in Babylone, noyée sous les flots
De tes larmes et le charme, de l'avenue du crépuscule 注2
C'est le Sunset boulevard qui serpente dans le noir

  バビロンにベィビーひとり、波に溺れる
  自分の涙と魅力の波に、日暮れの大通りの波に
  闇の中を蛇行するのはサンセット大通り

Baby alone in Babylone, noyée sous les flots
De Malibu, petite star inconnue 注3
Tu n'as vu que l'etoile de la police fédérale 注4

  バビロンにベィビーひとり、波に溺れる
  マリブの波に、無名のちっぽけなスター
  君が見たのは連邦警察の星だけだった

Malibu.jpg


[注]
1 L.A.「ロサンジェルスLos Angeles」の略称。英語では「エレイ」、フランス語では「エルアー」と発音する。Losはただの定冠詞であり日本語の「ロス」という略称は他国では通用しないが訳語とした。
Los Angelesはスペイン語で「天使たち」の意味で、それを踏まえ、次節にdieu et déesses de Los Angeles「ロサンジェルスの神と女神」という表現がある。
2 l'avenue du crépusculeは、すなわちSunset boulevard。ハリウッドを東西に伸びる道路
3 Malibu「マリブ」はサーフィンで有名なロス・アンジェルス近郊の海岸。
4 la police fédérale「連邦警察」。アメリカ合衆国は連邦制であり、様々な自治体が個別の警察組織を持つ。etoile「星」というのは署長や保安官が胸に付けるバッジだろう。



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2014
10.16

ブラームスはお好きQuand tu dors près de moi

訳あってゲンズブールを1回、中休みいたします。その訳は、次回お分かりいただけます。

Yves Montand Quand tu dors près de moi


「さよならをもう一度Aimez-vous Brahms ?(英題: Goodbye Again)」は、フランソワーズ・サガンFrançoise Saganの小説「ブラームスはお好きAimez-vous Brahms?」(1959年)を1961年にアナトール・リトヴァクAnatole Litvak監督が映画化した、仏米合作映画。イングリッド・バーグマンIngrid Bergman、アンソニー・パーキンスAnthony Perkinsそしてイヴ・モンタンYves Montandが主演した、男女の三角関係がテーマの映画→あらすじ。この映画でアンソニー・パーキンスは第14回カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞しました。

この映画には、ブラームスJohannes Brahmsの交響曲第3番第3楽章ポコ・アレグレットSymphony No.3 - Poco Allegretto のメロディが様々にアレンジされて使われています。Love is just a word (作曲Georges Auric英詞Dory Langdon Diahann Carroll)もそのひとつで、劇中ではナイトクラブの歌手役でダイアン・キャロルDiahann Carrollが英語で歌っています。
今回ご紹介する曲は、それをフランソワーズ・サガンがフランス語に翻案し、モンタンが歌うQuand tu dors près de moi。サガンの小説のタイトル「ブラームスはお好き」という邦題で呼ばれています。映画の英題と仏題、曲の英題と仏題もまちまちですから、原作を原点とするということで、この邦題を採用いたします。

イヴ・モンタン



主演のアンソニー・パーキンスも歌っています。



ほかにはDalidaも。

Quand tu dors près de moi         ブラームスはお好き
Yves Montand                イヴ・モンタン


Quand tu dors près de moi
Tu murmures parfois
Le nom mal oublié
De cet homme que tu aimais

  君が僕のかたわらで眠るとき
  君はときおりつぶやく
  忘れられない名前を
  君が愛していたあの男の名前を

Et tout seul près de toi
Je me souviens tout bas
Toutes ces choses que je crois
Mais que toi, ma chérie, tu ne crois pas

  そして君のかたわらでただひとり
  僕はひそかに思い出す
  僕に思い当たるこれらことすべてを
  だが君のほうは、愛しい人よ、思ってもいないことだ

Quand tu dors 3


Les gestes étourdissants
Etourdis de la nuit
Les mots émerveillés
Merveilleux de notre amour

  夜に酔いしれた
  陶酔の所作の数々
  二人の恋の素晴らしい
  感嘆の言葉の数々

Si cet air te rejoint
Si tu l´entends soudain
Je t´en prie, comme moi
Ne dis rien, mais rappelle-toi, chérie

  もしもこの歌が君に届いたなら
  もしもそれが突然君の耳に入ったなら
  お願いだ、僕と同じように
  何も言わないで、でも思い出してくれ、愛しい人よ

Quand tu dors 4


映画で用いられた英語の原曲Love is just a wordもご紹介しましょう。



Love is just a word
Diahann Carroll


Love is just a word.
It does not mean a thing.
It´s a fancy way of saying: two people want to swing.
Love is just a word, and when the fun begins,
A word we use to cover mountain-high with sins.
Love is just a word, that´s dropped all over town,
An active little word - and most improper now.
Love is just a word, but let me make it clear...
Though I know, we know, it´s really insincere.,
Love is just a word - a word we love to hear...



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2014
10.15

ロスト・ソングLost song

Jane Birkin Lost song


ジェーン・バーキンJane Birkinの「ロスト・ソングLost song」は、1987年に、セルジュ・ゲンズブールSerge GainsbourgがグリーグEdvard Hagerup Grieg作曲の「ソルヴェイグの歌Solveigs Sang」をアレンジして作った曲。11月2日のプティ・コンセール《ゲンズブールを歌う》で私が歌います。

ペール・ギュントは、世界を放浪したはてに、老いさらばえ、無一文になって帰郷します。盲目になりながらも彼を待っていた妻ソルヴェイグは、彼を迎え入れ、ペール・ギュントは安らかな永遠の眠りにつく、というお話。
ペール・ギュントの帰りを待ち続けるソルヴェイグがうたうこの歌は、「ソルヴェイグの子守唄」とも呼ばれ、もとはノルウェーの古い羊飼いの歌。

Barbara Bonney「ソルヴェーグの歌」



ジェーン・バーキン「ロスト・ソング」



Lost song                ロスト・ソング
Jane Birkin               ジェーン・バーキン


Lost song
Dans la jongle 注1
De nos amours éperdues
Notre émotion s'est perdue
Lost song
A la longue 注2
Les mots semblent superflus
Entre le flux, le reflux

  戯れの密林で
  うしなった唄
  わたしたちの狂おしい恋の唄
  わたしたちの情念は消えてしまった
  うしなった唄
  ついには
  言葉が余計なものに思えるわ
  満ち潮、引き潮のあいだで

Lost song2


Mensonges par omission 注3
On se tait, on s'est tu
On sait ce qu'il s'est su
On s'adore et puis l'on
Se déchire, s'entretue
Dans mon sens, entres-tu ?

  言いそびれたための嘘
  わたしたちは口をつぐみ、黙り込んだ
  わたしたちは明白になったことがらは理解している
  わたしたちは愛し合いそして
  傷つけ合い、話し合った
  わたしの感じたところではね、そうでしょ?

Lost song
Dans la jongle
De nos amours éperdues
Notre émotion s'est perdue
Lost song
Toi tu jongles
Avec des mots inconnus
De moi, je n'ai pas assez lu

  戯れの密林で
  うしなった唄
  わたしたちの狂おしい恋の唄
  わたしたちの情念は消えてしまった
  うしなった唄
  わたしにはチンプンカンプンの言葉を
  あなたったら巧みに操るけど
  わたしはちゃんと読みとれない

Gainsbourg birkin8


Dans tes yeux, tes menson-
Ges, d'autres filles en vue
Je le savais, je me suis tue
Les bagarres, arrêtons
Je suis on ne peut plus
Fragile, le sais-tu ?

  あなたの目のなかに、あなたの嘘
  に、ほかの女が見える
  わたしには分かっていたけど、言わなかった
  喧嘩なんか、やめましょうよ
  わたしは…わたしたちはもう無理
  わたしは弱いのよ、分かってる?

Lost song
Dans la jongle
De nos amours éperdues
Notre émotion s'est perdue
Lost song
Au majong 注4
De l'amour je n'ai pas su
Sur toi avoir le dessus 注5

  戯れの密林で
  うしなった唄
  わたしたちの狂おしい恋の唄
  わたしたちの情念は消えてしまった
  恋の賭け事で
  うしなった唄
  あなたに勝つすべを
  わたしは知らなかった

Lost song1


Des erreurs, mettons
Je reconnais, je me suis vue
A l'avance battue
C'est l'horreur mais ton
Arrogance me tue
Tu me dis "vous" après "tu"

  過ちはさておき
  わたしは認めていたわ、分かっていたわ
  前もって、自分が負けたって
  恐れが、いいえあなたの
  傲慢がわたしを殺すのよ
  あなたはわたしに「あなた」と言う、「きみ」と言ったあとで

[注]
1 jongleはフランス語辞書にはない。題名が英語であり、英語のjangle「ジャングル、密林」をもじった語ととらえられる。また、jongler「曲芸をする」「手玉にとる」、(カナダでは「夢想にふける」)という動詞は、古フランス語のjogler「戯れる」およびjangler「おしゃべりをする」の変形。その名詞は女性名詞のjonglerieで、これと引っ掛けている、というか、「戯れ」を「ジャングル」に引っ掛けているようだ。「戯れの密林」という訳語は苦肉の策。
2 A la longue「いつかは、ついには」。
3 faire un mensonge par omission「(真実を)言わないことによって(結果的に)嘘をつく」
4 majong「マージャン」は次行のde l'amourにつながり、単に「賭け事」という意味。
5 avoir le dessus「勝つ、優位に立つ」



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2014
10.14

ラ・ジャヴァネーズLa Javanaise

Serge Gainsbourg La Javanaise


「ラ・ジャヴァネーズLa Javanaise」は、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgがジュリエット・グレコJuliette Grécoに捧げた「最高のラブソング」だといわれています。1962年のある夏の夕べ、ゲンズブールはグレコを訪ねて広いサロンでシャンパンを飲みながらレコードを聴いて過ごし、その後に、彼女にこの曲を贈ったそうです。2010年の伝記映画「ゲンスブール*と女たち」(原題:Gainsbourg, vie héroïque)にもそのシーンがありましたね
* Gainsbourgのsは原則的には、この題名のとおり「ス」と読みます。続くbの影響で濁りを受けるので、このブログでは、実際に聞こえるとおりに「ズ」と表記しています。


ゲンズブール



グレコ



題名のLa Javanaiseとは、20世紀初頭に流行したダンスであるジャヴァjava(女性名詞)と、語のなかにvaまたはavを入れて隠語化する言葉遊びであるジャヴァネjavanais(男性名詞)とをかけた造語で、わざと語頭を大文字にしてあります。ジャヴァネjavanaisの例を挙げると、chaussure→chavaussavurave, bonjour→bavonjavourといった具合です。
実際、この歌詞のなかには、vaとavの入った語が多いだけではなく、vと同様に唇音である pやmやnのほか粘っこさを持った音を多用し、一種のエロティシズムの表現としているのです。
つまり、「最高のラブソング」というのは、歌詞の意味が、ということだけじゃないんです。したがって、正確な子音の発音をしないと、この曲の味は出せません。

多くのシャンソンの歌詞は押韻のみならず、子音なり母音なりを統制している気もします。例えば、「子供を抱いてPrendre un enfant 」では鼻母音が、「ムーラン・ルージュの歌Moulin Rouge」ではouの音が、「踊りに行くために一番きれいにLa plus belle pour aller danser」では唇音p、b、m(特にp)の音が目立ちます。それらは題名にすでに現れています。
したがって、日本語に翻案して歌ったのでは、まったく別物になってしまうのです。原語で歌うことの重要性をあらためて力説いたします。

La Javanaise     ラ・ジャヴァネーズ
Serge Gainsbourg  セルジュ・ゲンズブール


J'avoue j'en ai bavé pas vous 注1
Mon amour
Avant d'avoir eu vent de vous 注2
Mon amour
Ne vous déplaise 注3
En dansant la Javanaise
Nous nous aimions
Le temps d'une chanson

 実は僕は泡を吹いて苦しんだんだ あなたは違うだろうが
 モナムール
 あなたの噂を聞くまで
 モナムール
 はばかりながら
 ジャヴァネーズを踊りながら
 僕らは愛し合ったよね
 一曲の間

Gainsbourg greco2


À votre avis qu'avons nous vu 注4
De l'amour
De vous à moi vous m'avez eu 注5
Mon amour
Ne vous déplaise
En dansant la Javanaise
Nous nous aimions
Le temps d'une chanson

 あなたとしては僕らは何を得たと思うのか
 愛から
 ここだけの話だが、あなたは僕に一杯食わせたよ
 モナムール
 はばかりながら
 ジャヴァネーズを踊りながら
 僕らは愛し合ったよね
 一曲の間

Hélas avril en vain me voue 注6
À l'amour
J'avais envie de voir en vous
Cet amour
Ne vous déplaise
En dansant la Javanaise
Nous nous aimions
Le temps d'une chanson

 ああ、虚しく終わったことだが、四月は僕を導いた
 愛にね
 僕はあなたのなかに見たかった
 この愛を
 はばかりながら
 ジャヴァネーズを踊りながら
 僕らは愛し合ったよね
 一曲の間

Gainsbourg greco1


La vie ne vaut d'être vécue
Sans amour 注7
Mais c'est vous qui l'avez voulu 注8
Mon amour
Ne vous déplaise
En dansant la Javanaise
Nous nous aimions
Le temps d'une chanson

 人生は生きるに値しない
 愛なしには
 だが、それを望んだのはあなただよ
 モナムール
 はばかりながら
 ジャヴァネーズを踊りながら
 僕らは愛し合ったよね
 一曲の間

[注] 文脈に合わせて各節を4行ずつにして表記していたが、押韻を明確にするため、8行ずつに表記し直した。(2022年1月11日)
1 en baver「苦しむ」。しかし、baverの「よだれを垂らす、(病気などで)泡を吹く」という原義のニュアンスを残したほうが曲想に合う。pas vous対立を示す問いかけ。
2 avoir vent de qc.「…を風の便りで知る」ことがらについての用法がメインで、人について用いられるのは稀。「あなたの噂を聞くまでは、辛かった」と1行目につながる。「グレコがアメリカから帰った時にこの曲を贈った」とゲンズブールが言っているので、彼女の帰国の噂ということか。
3 déplaiseはdéplaire(…の)「気に入らない」の接続法で、 à ne vous (en)déplaise(多くは皮肉で)「失礼ながら、はばかりながら」。
4 à votre(mon) avis「あなたの(私の)意見では」。voirの過去分詞vuは、ここでは「見出す、経験する」くらいの意味。
5 de vous à moi「ここだけの話だが」。vous m'avez euのeuはavoirの過去分詞で、ここでは「だます、一杯食わせる」の意味。
6 en vain「無駄に、むなしく」→「…したが無駄だった」と訳す方が自然。
7 sans amourという条件での一般論を示している。
8 l'avez vouluのleは前出の内容の代用としての中性代名詞。すなわちsans amour「愛のない状態」つまりは「関係を持たない、別れる」ということであろう。



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2014
10.13

ボードレール(踊る蛇)Baudelaire (Le serpent qui danse)

Serge Gainsbourg N° 4


セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの曲、今回は「ボードレール(踊る蛇)Baudelaire (Le serpent qui danse)」。1962年のSerge Gainsbourg N° 4というアルバムに収録されています。

この曲は、詩人シャルル・ボードレールCharles Baudelaireの代表作「悪の花Les Fleurs du mal」の第1部「憂鬱と理想Spleen et idéal」の詩を歌詞としています。ボードレールが長く付き合っていた「黒いヴィーナスVénus noire」と呼ばれる黒人混血の女性、ジャンヌ・デュヴァルJeanne Duvalに捧げられた詩の一つです。



レオ・フェレLéo Ferréも「旅へのいざないL'invitation au voyage」と同様、1957年のアルバム「ボードレールによる12の歌Les Fleurs du mal」のなかで歌っています。



カトリーヌ・ソヴァージュCatherine Sauvageは動画はありませんが、musicMeで聴けます。

このような有名な詩は、多くの文学者や詩人の訳がありますが、あえてそれらを参照せず、シャンソン歌詞の翻訳を趣味としている私個人の訳を出します。

Baudelaire (Le serpent qui danse) ボードレール(踊る蛇)
Serge Gainsbourg           セルジュ・ゲンズブール


Que j'aime voir chère indolente,
De ton corps si beau,
Comme une étoffe vacillante,
Miroiter la peau !


  可愛い怠けもの、
  君の美しい体のその肌が、
  ゆらめく織地のようにきらめくのを
  見るのがとても好きだ!

Sur ta chevelure profonde
Aux âcres parfums,
Mer odorante et vagabonde
Aux flots bleus et bruns,

  強い香りをはなつ
  君の深々とした髪は、
  青と褐色に波立つ
  芳しいさすらいの海、
  その上で

Baudelaire1.jpg


Comme un navire qui s'éveille
Au vent du matin,
Mon âme rêveuse appareille 注1
Pour un ciel lointain

  朝風を受けて
  目覚めた船のように、
  僕の夢みる心は旅支度する
  遠い空へと

Tes yeux où rien ne se révèle
De doux ni d'amer,
Sont deux bijoux froids où se mêlent
L'or avec le fer

  優しさも辛さも
  何もあらわさない君の目は、
  金に鉄を混ぜ込んだ
  二つの冷たい珠だ

Baudelaire2.jpg


À te voir marcher en cadence
Belle d'abandon
On dirait un serpent qui danse
Au bout d'un bâton

  気どらない美しい歩調で
  君が歩く姿を見ると
  まるで杖の先で
  踊る蛇みたいだ

Sous le fardeau de ta paresse
Ta tête d'enfant
Se balance avec la mollesse
D'un jeune éléphant

  無気力の重みをいただいた
  子どものような君の頭は
  おさない象のような軟弱さで
  揺らぐ

Baudelaire7.jpg


Et ton corps se penche et s'allonge
Comme un fin vaisseau
Qui roule bord sur bord et plonge 注2
Ces vergues dans l'eau

  そうして君の体は傾いで横たわる
  横揺れして
  帆桁が水に漬かった
  華奢な船のように

Comme un flot grossi par la fonte
Des glaciers grondants
Quand l'eau de ta bouche remonte
Au bord de tes dents

  うなりをあげる氷河が溶け出して
  増水した流れのようだ
  君の口から唾液が
  歯のきわまで湧き上がるときは

Je crois boire un vin de Bohème,
Amer et vainqueur
Un ciel liquide qui parsème
D'étoiles mon cœur !

  ボヘミアのワインを飲む心地だ、
  苦くそして勝ち誇るその味
  僕の心に星を散りばめる
  液状の空!

[注]
1 appareiller「艤装する」。すなわち、船体が完成した後、就航に必要な装備を船に施すこと。
2 rouler bord sur bord「激しく横揺れ(ローリング)する」




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2014
10.12

溺れる人La noyée

明日13日に予定していた《ゲンズブールを歌う》が11月2日に延期となり、20日ほど時間ができてしまいました。出演者の一人としてはじっくり仕切り直ししなきゃというところですが、ブログでもその日数を活用したいと思います。エントリーされている20曲のうち3曲は、こちらのブログで取り上げていますが、残りの15曲を旧ブログから1日1曲運び、2曲を新たに取り上げることにします。そうすれば、コンサート当日までに全曲、こちらに掲載できるでしょう。…というわけで、しばらくゲンズブールにお付き合いください。

La noyée


まず、「溺れる人La noyée」を掬い上げて運びます。
この曲は、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgがイヴ・モンタンYves Montandのために書き下ろし、モンタンに拒まれた曲だといわれています。1970年のエイブラハム・ポロンスキーの英・仏・伊・ユーゴ合作映画「馬泥棒Le voleur de chevaux」の主題歌に用いられました。1974年にはアンナ・カリーナAnna Karinaが歌っています。 1994年に、ゲンスブール自身の72年の録音のインタヴュー入りのシングル盤が出ています。その後2002 年にカーラ・ブルーニCarla Bruni が歌って、前回取り上げた「部屋のなかの空Le ciel dans une chambre」と同様、アルバム「風のうわさQuelq'un m'a dit」に収録されています。



ゲンズブールは(インタヴューに答えてタバコを吸いながら)しゃべったあと歌います。



La noyée      溺れる人(ラ・ノワイエ)
Serge Gainsbourg  セルジュ・ゲンズブール


Tu t'en vas à la dérive
Sur la rivière du souvenir
Et moi, courant sur la rive,
Je te crie de revenir
Mais, lentement, tu t'éloignes
Et dans ma course éperdue, 注1
Peu à peu, je te regagne 注2
Un peu de terrain perdu.

  君は漂って行く
  記憶の川の水面を
  そして僕は、土手を走りながら、
  帰ってくるようにと君に叫ぶ、
  でも、ゆっくりと、君は遠ざかり
  無我夢中で僕は走り、
  すこしずつ、君からの
  遅れを取り戻す

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De temps en temps, tu t'enfonces
Dans le liquide mouvant
Ou bien, frôlant quelques ronces,
Tu hésites et tu m'attends
En te cachant la figure
Dans ta robe retroussée,
De peur que ne te défigurent 注3
Et la honte et les regrets.

  ときどき、君は沈む
  流動する液体のなかに
  あるいは、いばらを危うく免れつつ、
  君はためらい僕を待つ
  まくれ上がったドレスで
  顔を隠しながら、
  恥じらいと後悔が
  自分を醜くしやしないかと恐れて。

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Tu n'es plus qu'une pauvre épave,
Chienne crevée au fil de l'eau
Mais je reste ton esclave
Et plonge dans le ruisseau
Quand le souvenir s'arrête
Et l'océan de l'oubli,
Brisant nos coeurs et nos têtes,
A jamais, nous réunit. 注4

  君はもう哀れな漂流物に、
  水に流されるくたばった犬にすぎない
  だけど僕は君の奴隷のままだから
  流れのなかに飛び込む
  記憶が停止したとき
  忘却の海が、
  僕たちの心や頭脳を壊しながら、
  永遠に、僕たちを一つにする。

[注]題名のLa noyéeは女性形であり、溺れているのは女性。追いかけているのは男性。
1 カーラ・ブルーニもゲンズブールの男性の立場の歌詞のままで歌っているが、ここだけはta courseと変えて歌っている。だが、もとのma courseのほうが意味が通じやすい。
2 regagner le terrain perdu「失地を回復する」「勢力を挽回する」
3 de peur que (ne)+sub.「…しはせぬかと恐れて」défigurentは3人称複数で、次行のla honte et les regretsが主語。etは説明的に追加・強調する働き。
4 à jamais「永遠に」



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2014
10.11

部屋のなかの空Le ciel dans une chambre

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元フランス大統領ニコラ・サルコジNicolas Paul Stéphane Sarközy de Nagy-Bocsaの夫人カルラ・ブルーニCarla Bruniはイタリア・トリノの名門貴族の一家に育ち、父親はオペラの作曲家。5歳のころにフランスに移住し、19歳になってから90年代のスーパー・モデルとして有名になりましたが、97 年にモデルを引退し、音楽の道に進みました。デビュー・アルバム「Quelqu'un m'a dit~風のうわさ」は驚異的なヒットを記録しました。独特のハスキー・ボイスが魅力的で、自分でギターを弾き、作詞・作曲もして多くの歌手に曲を提供しています。

今回取り上げるのは、そのデビュー・アルバムのなかの曲「部屋のなかの空Le ciel dans une chambre」。ミーナMinaの歌唱で知られるIl Cielo in una stanza(仏題と同義)を彼女が翻案したもので、前半はフランス語で、後半はイタリア語で歌っています。CDでは、ザ・ピーナッツの歌う日本語版同様、「しあわせがいっぱい」という邦題がついていますが、私としてはまったく気に食わないので副題にもせず、原題を直訳し単純に「部屋のなかの空」といたします。



ミーナの歌うイタリア語の原曲



Le ciel dans une chambre 部屋のなかの空
Carla Bruni          カルラ・ブルーニ


Quand tu es près de moi,
Cette chambre n' a plus de parois,
Mais des arbres oui, des arbres infinis,
Et quand tu es tellement près de moi,
C' est comme si ce plafond-là,
Il n' existait plus, je vois le ciel penché sur nous... qui restons ainsi,
Abandonnés tout comme si,
Il n' y avait plus rien, non plus rien d' autre au monde, 注1
J' entends l' harmonica... mais on dirait un orgue, 注2
Qui chante pour toi et pour moi,
Là-haut dans le ciel infini,
Et pour toi, et pour moi
hmhmhmhmhmh
Et pour toi, et pour moi
hmhmhmhmhmh

  あなたが私のそばにいると、
  この部屋にはもう壁がなくなって、
  木立が、そう限りない木立があらわれた、
  あなたがこんなに私の近くにいると、
  まるでこの天井は、
  もうなくなっていて、私たちの上に傾いでいる空が見える、こうして、
  こんな風にすっかり委ねきっている私たちの上に
  もう何もかもなくなっていた、そう世界には他のものはもう何も、
  聞こえるわ、ハーモニカが…いえオルガンみたい、
  果てしない空の高みで、
  あなたのためにそして私のために歌っているのが
  フムムムム
  あなたのためにそして私のために
  フムムムム

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(イタリア語:) 注3
Quando sei qui con me
Questa stanza non ha piu pareti
Ma alberi, alberi infiniti
E quando tu sei vicino a me
Questo soffitto, viola, no
Non esiste più, e vedo il cielo sopra a noi
Che restiamo quì, abbandonati come se
Non ci fosse più niente più niente al mondo,
Suona l'armonica, mi sembra un organo
Che canta per te e per me
Su nell'immensità del cielo
E per te e per me.
hmhmhmhmhmh
Mais pour toi, et pour moi.
hmhmhmhmhmh

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[注]
1 mondeのdeを、彼女はイタリア人の癖で「デ」と発音しているのが気になる。
2 on dirait~は、「~のように見える」「~みたいだ」という慣用表現。
3 イタリア語の歌詞は、彼女の歌っているのが、歌詞サイトで調べたものと違って聴こえる。


Le ciel dans une chambre


創作日本語歌詞:日本語の歌詞を作ってみました。前半をフランス語で、後半のイタリア語の部分を日本語で歌うのもいいでしょう。あくまでも、シロウトが趣味で作ったものなので、利用されるのは個人的な用途のみにお願いいたします。

あなたといると、
部屋の壁が消えて、
木立ちに変わる、あなたがこんなに、
近くにいると、
天井も消えて、
空が見えるの 私たちの上に…じっとこうして、
愛し合う私たち、
何もないの、ほかのものは何も
ハーモニカかしら…いえオルガンのようね、
歌ってくれるの、
空の彼方で、
あなたと、私に
フムムムム
あなたと、私に
フムムムム




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2014
10.10

夜明けのタバコTa cigarette après l'amour

Charles Dumont Ta cigarette après lamour


シャルル・デュモンCharles Dumontは1929年にフランス南西部カオールで生まれた俳優・作曲家・歌手。作曲家としての活動の最初のころは、偽名で、ダリダDalida、グロリア・ラッソGloria Lasso、ティノ・ロッシTino Rossiなどのために曲を書いていて、1956 年に、エディット・ピアフÉdith Piafの「水に流してNon, je ne regrette rien」(1960年録音)をコラ・ヴォケールCora Vaucaireの夫である作詞家ミッシェル・ヴォケールMichel Vaocaireとともに作ってからは、本名で、ピアフのための曲作りにとりかかり、「私の神様Mon Dieu」ほか彼女のために書いた作品は40曲ほどにもなります。ピアフに認められ、彼女とデュエットするまでになりましたが、ピアフは63年に亡くなってしまいます。
その後もミッシェル・ヴォケールとの共作を続けていたところ、あまりにピアフ的なスタイルを修正するよう、ソフィー・マックノーSophie Makhno(元バルバラの秘書だったディレクター)にアドヴァイスされます。その結果、67年に生まれたのがこの「夜明けのタバコTa cigarette après l'amour」。この大ヒットで、歌手としての活動が本格化します。以後マックノーとの共作が続き、1972年にファーストアルバムを出します。その翌年73年にシャルル・グランプリを受賞した後、74年、75年も他の賞を続けて受け、リサイタルも開き、77年に出したアルバムからシングルカットされた「Une chanson」が10万枚売れて、SACEM特別賞を受賞。その翌年にはオランピアに立ち、80年代には海外公演も始め、その後も毎年のようにアルバムを出し続けています。2008年7月には、日仏交流150周年を記念した巴里祭ジャパンツアーを行ないました。もちろん現在も活動中で、2010年よりÂge tendre et Têtes de bois(60年代の古い歌を昔のまま歌う歌手たちの集まり)のメンバーとなっています。

シャンソン・レアリストであったピアフの歌とは異なり、彼自身の持ち味として定着したものは、心の深いところにそっと響いてくる歌。皆が、あの曲はいいわねと言い合って聴くものとは違って、歳を重ねた人がひとりで密かに愛するような曲です。



作詞したソフィー・マックノーも歌っています。



Ta cigarette après l'amour           夜明けのタバコ
Charles Dumont                  シャルル・デュモン


Ta cigarette après l'amour
Je la regarde à contre-jour
Mon amour.
C'est chaque fois la même chose
Déjà tu penses à autre chose
Autre chose.
Ta cigarette après l'amour
Je la regarde à contre-jour
Mon amour.

  情事のあとのきみのタバコ
  僕はそれを逆光で見ている
  モナムール。
  毎回いつも同じだ
  もう君はほかのことを考えている
  ほかのことを。
  僕はそれを逆光で見ている
  モナムール。

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Il va mourir avec l'aurore
Cet amour-là qui s'évapore
En fumée bleue qui s'insinue. 注1
La nuit retire ses marées
Je n'ai plus rien à déclarer
Dans le jour j'entre les mains nues.

  しのび込んだ青い煙となって
  この愛は消えていき
  夜明けとともに息絶えてしまう。
  夜は潮が引くように姿を消す
  僕にはもう何も言うことがなく
  僕はむき出しの手を朝陽にさらす。

Ta cigarette après l'amour
Je la regarde à contre-jour
Mon amour.
Déjà tu reprends ton visage
Tes habitudes et ton âge
Et ton âge.
Ta cigarette après l'amour
Je la regarde à contre-jour
Mon amour.

  情事のあとのきみのタバコ
  僕はそれを逆光で見る
  モナムール。
  もう君は本来の顔立ちや
  習慣、そして年齢も取り戻している
  年齢も。
  情事のあとのきみのタバコ
  僕はそれを逆光で見る
  モナムール。

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Je ne pourrai jamais me faire 注2
A ce mouvement de la terre
Qui nous ramène toujours au port.
Aussi loin que l'on s'abandonne 注3
Ni l'un ni l'autre ne se donne
On se reprend avec l'aurore.

  僕たちをいつも港に連れ戻す
  世界の動きに
  僕は順応できない。
  いかに身を委ねようとも
  どちらも自身を与えることなく
  夜明けとともに自分に立ち帰る。

Ta cigarette après l'amour
S'est consumée à contre-amour 注4
Mon amour.

  情事のあとのきみのタバコは
  愛に背を向けて燃え尽きる
  モナムール。

[注]タイトルを直訳すると、1行目のとおりになるが、フランス語ではamourという多義な言葉が、日本語では狭義になって少し露骨なため、一般的な邦題を用いた。
1 enは、変化の結果をあらわし、en fumée「煙となって」。
2 se faire à qc「…に慣れる」
3 aussi loin que「いかに…しようと」
4 contre-は「反対・対立・防御・接近・補充」の意の語形成要素で、à contre-amourは、第1節・第3節のà contre-jour「逆光で」に合わせた造語的表現。訳語は悩んだがとりあえずこの形にした。


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2014
10.09

あなたがそのつもりでもSi tu t'imagines

Si tu timagines


ジュリエット・グレコJuliette Grécoが歌う「あなたがそのつもりでもSi tu t'imagines」というユニークな曲は、「地下鉄のザジZazie dans le métro」の著者として知られるフランスの詩人・小説家レイモン・クノーRaymond Queneauの詩(元のタイトルはC'est bien connu)を歌詞として、ジョゼフ・コズマJoseph Kosmaが作曲したものです。「その日を摘めCarpe diem」という、紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場するラテン語の語句。それを借用してピエール・ド・ロンサールPierre de Ronsard(1524-1585)が1545年に書いた「カッサンドルへのオードOde à Cassandre」は、若さや美の儚さを、朝に咲いたと思ったら夕べには朽ち果ててしまう薔薇になぞらえた詩。これに着想を得てレイモン・クノーがこの嗜虐的な歌詞を書いたそうです。この曲が作られた1947年は、実は私の生まれた年。それから??年も経ち、なんともこの歌詞は身につまされる内容です。



Si tu t'imagines あなたがそのつもりでも
Juliette Gréco   ジュリエット・グレコ


Si tu t'imagines, si tu t'imagines
Fillette, fillette, si tu t'imagines
Xa va xa va xa va durer toujours 注1
La saison des za, la saison des za 注2
Saison des amours, ce que tu te goures 注3
Fillette, fillette, ce que tu te goures

  もしあなたが思っていても、思っていても
  お嬢さん お嬢さん、もしあなたが思っていても
  ずっとずっとずっとずっと いつまでも続くなどと
  季節が、季節が
  恋の季節がね、なんともそれはあなたの間違いよ
  お嬢さん お嬢さん、なんともそれはあなたの間違いよ

Si tu timagines1

ピエール・ド・ロンサールの名を冠した薔薇。日本でも人気です。


Si tu crois, petite, si tu crois, hum hum!
Que ton teint de rose, ta taille de guêpe 注4
Tes mignons biceps, tes ongles d'émail 注5
Ta cuisse de nymphe et ton pied léger
Si tu crois xa va xa va xa
Ⅴa durer toujours, ce que tu te goures
Fillette, fillette, ce que tu te goures

  もしあなたが信じていても、可愛いひと、信じていても、ふうむ!
  バラ色の頬、細い腰
  愛らしい二の腕、艶やかな爪
  妖精のような腿と軽やかな足どりが
  もしあなたが信じていても
  ずっとずっとずっとずっと
  いつまでも続くなどと、なんともそれはあなたの間違いよ
  お嬢さん お嬢さん、なんともそれはあなたの間違いよ

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Les beaux jours s'en vont
Les beaux jours de fête 注6
Soleils et planètes
Tournent tous en rond 注7
Mais toi, ma petite, tu marches tout droit
Ⅴers ce que tu vois pas

  美しい日々は行ってしまう
  楽しく美しい日々は
  太陽と惑星たちは
  みんな回りっぱなし
  でもあなたは、可愛いひと、あなたはまっすぐに進んで行く
  あなたが思い描いていなかった方向へ

Si tu timagines2


Très sournois s'approchent
La ride véloce, la pesante graisse
Le menton triplé, le muscle avachi
Allons, cueille, cueille, les roses, les roses
Roses de la vie, roses de la vie
Et que leurs pétales soient la mer étale 注8
De tous les bonheurs, de tous les bonheurs
Allons, cueille, cueille, si tu le fais pas
Ce que tu te goures, fillette, fillette, ce que tu te goures

  陰険なものが近づいてくる
  瞬時にできる皺、重たい脂肪
  三重の顎、たるんだ筋肉
  さあ、摘みましょう、摘みましょう、バラを、バラを
  人生のバラを、人生のバラを
  そしてその花びらたちが
  限りないしあわせの、限りないしあわせの
  凪いだ海となって広大に広がるように  
  さあ、摘みましょう、摘みましょう、もしそうしなかったら
  なんともそれはあなたの間違いよ、お嬢さん、お嬢さん、なんともそれはあなたの間違いよ

[注]
1 Xa va xa va xa =Qu'ça va qu'ça va qu'ça レイモン・クノーの創作のanaphores「頭語反復」。
2 des zaデザはdes amoursデザムールにつなげるための準備的な表現。
3 ce que…!「なんと」話し言葉で感嘆文。ここでは皮肉を込めた表現。
4 croire que+ind.のqueの節は主語(複数)だけでとどめており、それらをxa(qu'ça)のçaで受けてva durer toujoursにつながる。
5 émailは「ほうろう、エナメル」で、マニキュアを塗った爪という解釈も可能だが、爪自体の質を表していると考えた。
6 de fête「(祭りのように)楽しい」
7 tourner en rond「ぐるぐる回る、堂々巡りで進歩がない」
8 la mer「海のように広大なもの」。la mer de bonheur「限りないしあわせ」。この前後3行は少々意訳した。


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Ode à Cassandre            カッサンドルへのオード
Pierre de Ronsard            ピエール・ド・ロンサール


Mignonne, allons voir si la rose
Qui ce matin avait déclose
Sa robe de pourpre au soleil,
A point perdu cette vesprée
Les plis de sa robe pourprée,
Et son teint au vôtre pareil.

  可愛い人、見てみようよ
  けさ、陽の光をうけて
  赤紫の衣を解いた薔薇の花が、
  今宵、赤紫の衣の襞と
  あなたのような色つやを
  いまちょうど失ったんじゃないか。

Las ! voyez comme en peu d'espace,
Mignonne, elle a dessus la place,
Las, las ses beautés laissé choir !
Ô vraiment marâtre Nature,
Puisqu'une telle fleur ne dure
Que du matin jusques au soir !

  ああ、ごらんよ、わずかのあいだに
  可愛い人よ、花は萎れてしまった
  ああ、ああその美しさは潰えた!
  おおなんと無慈悲な自然か、
  なぜならこの花のいのちさえ、
  朝から夕べまでとは!

Donc, si vous me croyez, mignonne,
Tandis que votre âge fleuronne
En sa plus verte nouveauté,
Cueillez, cueillez votre jeunesse :
Comme à cette fleur, la vieillesse
Fera ternir votre beauté.

  だから、ぼくを信じるのならば、可愛い人よ、
  花のさかりのその齢に
  みずみずしい若さのうちに
  摘め、摘め、あなたの青春を、
  この花のように、老いが
  あなたの美しさを損なわせるだろうから。



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2014
10.08

脱走兵Le déserteur

Boris Vian Jsuis snob


今回は「脱走兵Le déserteur」(作曲:ボリス・ヴィアンBoris Vian / アロルド・ベルナール・ベルグHarold Bernard Berg)です。作詞し歌っているボリス・ヴィアンBoris Vianは、作家、詩人、翻訳家、ジャズ評論家、トランペッターそして歌手という多くの顔を持つ人物で、熱狂的なジャズ・ファンとして、デューク・エリントンEdward Kennedy "Duke" Ellingtonやマイルス・デービスMiles Dewey Davis IIIなど、パリを訪れたジャズ・アーティストたちとフランスとの橋渡しをしました。前回のミッシェル・ポルナレフMichel Polnareffに勝るとも劣らずスキャンダラスな側面があり、「墓に唾をかけろJ'irai cracher sur vos tombes」などの過激な小説が一大センセーションを巻き起こしたこともよく知られています。心臓発作のため、39歳で急死しました。彼の各側面に関して多くの文献が出版されています。この歌に関しては、「ボリス・ヴィアンと脱走兵の歌」(マルク・デュフォー 国書刊行会)をお勧めします。

この有名な反戦歌は、第1次インドシナ戦争(1946~1954)の終盤の時期に、第2次インドシナ戦争すなわちベトナム戦争を意識して書かれました。レコードの出荷の遅れの上に、アルジェリア戦争 (1954~1962)開始という状況での軍関係者や退役軍人の組織による興業の妨害やラジオでの放送禁止、レコードの発売制限とが重なり、フランスでは幻の歌となりましたが、そののち、ベトナム戦争反対運動などと結びつき、プロテスト・ソングとして多くの国で翻案されて広まりました。日本でも、「拝啓大統領殿」のタイトルで何人かの歌手のカバーが見られます。

最初に歌手として想定されていたムルージMouloudjiほか多くの歌手が歌っていますが、やはり、ボリス・ヴィアン本人の歌を聴きましょう。1956年のアルバムChansons "possibles" et " impossibles"に収録されています。



次の動画では、ボリス・ヴィアンにまつわるもろもろの周辺事情が解説され、彼の住んでいた部屋や愛用のイタリア風ギターなどの映像が紹介されています。



Le déserteur          脱走兵
Boris Vian           ボリス・ヴィアン


Monsieur le Président 注1
Je vous fais une lettre
Que vous lirez peut-être
Si vous avez le temps

  大統領閣下
  お手紙を差し上げます
  お時間があれば
  たぶん読んでいただけるでしょう

Je viens de recevoir
Mes papiers militaires
Pour partir à la guerre
Avant mercredi soir

  水曜日の夜までに
  出征しろという
  私宛ての招集令状を
  受け取ったばかりです

Monsieur le Président
Je ne veux pas la faire 注2
Je ne suis pas sur terre
Pour tuer des pauvres gens
C'est pas pour vous fâcher
Il faut que je vous dise
Ma décision est prise
Je m'en vais déserter

  大統領閣下
  私はやりたくありません
  哀れな人々を殺すために
  私は生まれて来たのではありません
  あなたを怒らせるつもりはありませんが
  あなたに申し上げねばなりません
  私は覚悟を決めました
  私は脱走します

Le déserteur1


Depuis que je suis né
J'ai vu mourir mon père
J'ai vu partir mes frères
Et pleurer mes enfants
Ma mère a tant souffert
Elle est dedans sa tombe
Et se moque des bombes
Et se moque des vers

  この世に生を享けてこの方
  私は父が死ぬのを見ました
  私の兄弟たちが出征するのを
  そして私の子供たちが泣くのを見ました
  私の母はあまりに苦しんだので
  今は墓の中にいますから
  爆弾だって平気だし
  ウジ虫だって平気です

Quand j'étais prisonnier
On m'a volé ma femme
On m'a volé mon âme
Et tout mon cher passé
Demain de bon matin 注3
Je fermerai ma porte
Au nez des années mortes 注4
J'irai sur les chemins

  私が捕虜だった時に
  私は妻を盗られ
  魂を
  そして私の大切な過去のすべてを奪われました
  明日の朝早く
  私は失われてしまった年月に
  きっぱりと別れを告げ
  旅に出ます

Je mendierai ma vie
Sur les routes de France
De Bretagne en Provence
Et je dirai aux gens:
Refusez d'obéir
Refusez de la faire
N'allez pas à la guerre
Refusez de partir

  ブルターニュからプロヴァンスまでの
  フランスの街道筋で
  私は物乞いをして暮らすでしょう
  そして人々に言うつもりです
  従うことを拒否するんだ
  拒否するんだ
  戦争に行ってはいけない
  出征を拒否しなきゃと

Le déserteur2


S'il faut donner son sang
Allez donner le vôtre
Vous êtes bon apôtre
Monsieur le Président
Si vous me poursuivez
Prévenez vos gendarmes
Que je n'aurai pas d'armes
Et qu'ils pourront tirer 注5

  血を捧げなければならないのなら
  あなたの血を捧げなさい
  あなたはよき使徒です
  大統領閣下
  もしもあなたが私に追っ手をかけるなら
  憲兵たちに伝えてください
  私は武器を持っていない
  発砲してもかまわないと

[注]
1 この書き出しにより、日本語翻案歌詞の題名が「拝啓大統領殿」とされている。また、原題のLe déserteurは「脱走兵」と訳すしかないが、兵営から逃げ出すわけではないので、正確には「兵役拒否者」といった意味である。
2 Je ne veux pas la faire「私はそれをやりたくない」のla「それ」は、その前にある、la guerre「戦争」を指す。後半にも同じ表現が出てくるが、この場合も、N'allez pas à la guerreが続くので、同じ内容である。
3 de bon matinは「良い朝に」ではなく「朝早く」の意味。
4 fermer la porte au nez de ~ の原義は、「~の鼻先でドアを閉める」すなわちシャット・アウトする意味。ここでは、des années mortes「過去」との決別を、(内側からでなく外側から)ドアを閉めて出ていくということにつなげる表現になっている。
5 最後の2行。ボリス・ヴィアンは最初、"Que je tiendrai une arme / Et que je sais tirer"「私は武器をとって、引き金を引くこともできる(と伝えるがいい)」としていたが、ムルージの意見を入れて、平和主義者的な表現に変えたという。




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2014
10.07

彼女はとても美しかった(風が連れ去った恋)Elle etait si jolie

Alain Barrière


アラン・バリエールAlain Barrièreは、1935年にブルターニュで生まれたシンガー・ソングライター。パリ郊外のタイヤ会社にエンジニアとして勤めるかたわら、自作の詩をパリのキャバレーで歌っていましたが、1961年のシャンソン・コンクールでCathyを歌って決勝に残り、注目されるようになりました。
1963年に、今回取り上げる「彼女はとても美しかった(風が連れ去った恋)Elle etait si jolie」でフランス代表としてユーロヴィジョンに出場。5位にとどまりましたが、人々に受けて大ヒットしました。その翌年には最大のヒット曲「私の人生Ma vie」を出し、オランピアに出場。71年に自分のレコード会社を作り、73年に「君は行ってしまうTu t’en va」をノエル・コルディエNoëlle Cordierとのデュエットで出し、ドイツでも大ヒットしました。
ミッシェル・ポルナレフMichel Polnareffと似た話ながら、77年に、税金問題などからアメリカに逃げ、その後カナダに移住しますが、90年代初めにはフランスに戻り、母国での活動を再開しました。
2010年11月には53曲収録した3枚組ベスト・アルバムを出しました。翌11年1月に3度目の脳血管障害に襲われて入院し、その後ブルターニュの自宅で静養を続けていました。そして9月16日(金)のパレ・デ・コングレPalais des Congrès公演を最後に50年に及んだキャリアの幕を閉じる重大な決心をしたそうです。

彼は、ロックやyéyéに対抗した曲作りをモットーとし、シャンソンのいわゆるスタンダード・ナンバーの歌唱も定評がありますし、クラシック音楽をアレンジして作った曲も得意です。



ジャン=ジャック・ゴールドマンJean Jacques Goldman、セルジュ・ラマSerge Lama and 、マルク・ラヴォワーヌMarc Lavoineの3人で歌っています。



Elle etait si jolie 彼女はとても美しかった(風が連れ去った恋)
Alain Barrière  アラン・バリエール


Elle était si jolie
Que je n'osais l'aimer 注1
Elle était si jolie
Je ne peux l'oublier
Elle était trop jolie
Quand le vent l'emmenait
Elle fuyait ravie 注2
Et le vent me disait...

  彼女はとても美しかった
  僕が愛するのを臆するほどに  
  僕は彼女を忘れることができない
  彼女はとても美しかった
  風が彼女を連れ去ったとき
  彼女は陶然として消えた
  そして風は私に言った…

Elle est bien trop jolie 3


Elle est bien trop jolie
Et toi je te connais
L'aimer toute une vie
Tu ne pourras jamais 注3
Oui mais elle est partie
C'est bête mais c'est vrai
Elle était si jolie
Je ne l'oublierai jamais

  「彼女はほんとうに美しすぎる
  そしておまえ、わたしはおまえのことを分かっている
  彼女を一生愛することは
  おまえには決してできないだろう」
  そのとおりだ だが彼女は去ってしまった
  残念だが本当だ
  彼女はとても美しかった
  僕は彼女をけっして忘れないだろう

Aujourd'hui c'est l'automne
Et je pleure souvent
Aujourd'hui c'est l'automne
Qu'il est loin le printemps
Dans le parc où frissonnent
Les feuilles au vent mauvais 注4
Sa robe tourbillonne
Puis elle disparaît...

  今は秋だ
  僕は時おり涙を流す
  今は秋だ
  春はなんと遠くなったことか  
  公園では木の葉が
  いやな風に震えている
  彼女のドレスがひるがえり
  そして彼女は姿を消す…
Elle est bien trop jolie 2


Elle était si jolie
Que je n'osais l'aimer
Elle était si jolie
Je ne peux l'oublier
Elle était trop jolie
Quand le vent l'emmenait
Elle était si jolie
Je n'oublierai jamais

  彼女はとても美しかった
  僕が愛するのを臆するほどに  
  彼女はとても美しかった
  彼女を忘れることができない
  彼女はあまりにも美しかった
  風が彼女を連れ去ったとき
  彼女はとても美しかった
  僕は彼女をけっして忘れないだろう

[注]
1 si…que「非常に…なので…である、…なほど…である」。 oser「思い切って…する、…する勇気がある、厚かましくも…する」の意味で、否定文ではpasがしばしば省略され、その場合、すこし意味が弱くなる。
2 ravi(e)は動詞のravir「心を奪う」の過去分詞が形容詞となったもので、ravi(e)「心を奪われた」すなわち「大喜びの」が本義だが、ravirには「奪う、さらう」の意味もあり、ここでは「さらわれて」の意味も含まれているようだ。
3 この行まで、風が言った内容なので、訳文では括弧で囲んだ。この行と前の行の語順が逆転されている。
4 au vent mauvaisは、ヴェルレーヌPaul Verlaineの「秋の歌Chanson d'automne」の1節 Et je m'en vais / Au vent mauvais…。セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの「君に別れを告げに来た(手ぎれ)Je suis venu te dire que je m'en vais」にも用いられている。



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2014
10.06

ルフランRefrain

Cora Vaucaire Refrain


コラ・ヴォケールCora Vaucaire が「ルフランRefrain」(作詞Émile Gardaz、作曲Géo Voumard)というとても美しい歌を歌っています。…幼なじみの男の子との間に芽生えた恋。でも彼は去って行ってしまいました…

1956年のユーロヴィジョン・コンテストで、スイス代表のグループLys Assiaはこれを歌って優勝しました。コラ・ヴォケールも56年頃に歌ったようですが、正確には分かりません。

コラ・ヴォケールの歌の動画がなかったので、今回、自分で作りYouTubeにアップしました。



Refrain                 ルフラン
Cora Vaucaire             コラ・ヴォケール


{Refrain} 注1
Un refrain couleur du ciel
Parfum de mes vingt ans
Jardins pleins de soleil
Où je courrais enfant
Partout j’ai cherché
Mon amoureux lointain
Guettant par les sentiers
Où tu prenais ma main
Les jours s’en sont allés
Et nous avons grandi
L’amour nous a blessés
Le temps nous a guéris
Mais seule et sans printemps
Je cours en vain les bois
Les champ…
Dis, souviens-toi
Nos amour d’autrefois

  空色のルフラン
  わたしの二十歳の香り
  わたしが子どもっぽく駆け回った
  陽の光に満ちた花園
  そこら中、わたしは探したわ
  遠くに行ってしまったわたしの恋人を
  あなたがわたしの手をとった
  いくつもの小径を覗いて
  日々が過ぎ去り
  わたしたちは大人になった
  恋はわたしたちを傷つけ
  時がわたしたちを癒した
  でも 春を失ってひとり
  わたしは空しく森や
  野原を駆け回る…
  ねえ、思い出してあなた
  わたしたちの昔の恋を

refrain18.jpg


{Couplet} 注2
Les années pass’nt à tire d’ailes 注3
Et sur les toits de mon ennui
Coule la pluie
Où sont parties caravell’s
Volant mon cœur
Portant ton rêve
Ver ton oubli?
J’aurais voulu que tu revienne
Comme jadis 注4
Porter des fleurs à ma persienne
Et ton amour
En mon logis

  何年も矢のように過ぎて行き
  わたしの憂鬱な心の屋根に
  雨が流れ
  そこから帆かけ舟が出て行った
  わたしの心を盗んで
  あなたの夢を運んで
  あなたの忘却の彼方へと?
  あなたに戻ってきてもらいたかった
  昔のように
  花をわたしの窓辺に届けて
  そして あなたの愛を
  わたしの部屋に

bouquet3.jpg


{Refrain}
Refrain couleur de pluie
Regrets de mes vingt ans
Chagrin, mélancolie
De n’être plus enfant
Je sais que mon chemin
Mon amoureux perdu,
Ne peut croiser le tien
Toi tu n’y penses plus
Les jours s’en sont allés
Et nous avons vieilli
L’amour nous a blessés
Le temps nous a guéris
Mais seule et loin de toi
Par les chemins où tu n’es pas
Je vais pleurant
Mes amours de vingt ans

  雨色のルフラン
  わたしの二十歳の後悔
  もう子どもじゃないがゆえの
  悲しみ、憂鬱
  わたしは知っているわ
  去ってしまった恋人よ
  わたしの道があなたの道と交わらないことを
  あなたはそんなこともう思いもしないわね
  日々が過ぎ去り
  わたしたちは歳を重ねた
  恋はわたしたちを傷つけ
  時がわたしたちを癒した
  けれど あなたから遠く離れてひとり
  あなたがいない道を
  わたしは泣きながら辿るのよ
  わたしの二十歳の恋

[注] 
1 曲名でもあるrefrain「リフレイン」(フランス語読みでは「ルフラン」)は、音楽用語で、定型詩・歌謡のなかで繰り返される部分のこと。また、それを含む歌謡。ほかの曲では、refrainとなっている部分は同じ歌詞を繰り返すことになる。この曲では、refrainと書かれている部分は、同じメロディで異なる歌詞になっている。この曲名の意味としては、歌詞の最後にあるように、かつての道を再び辿るという意味合いが含まれる。
2 couplet「(歌の)節」。refrainとrefrainのあいだの挿入節をいう。
3 à tire(-)d’ailes「迅速に、すばやく」
4 jadis「昔」は最後のsを発音するもので、コラもsを発音している。だが、節の最後のlogisは韻を踏む形のようだが、sを発音しない。



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2014
10.05

サンフランシスコの6枚の枯葉Six feuilles mortes de San Francisco

Mouloudji Six feuilles mortes de San Francisco


「サンフランシスコの6枚の枯葉Six feuilles mortes de San Francisco」は、ぜひご紹介したい、とても素敵な歌詞の曲です。ムルージMouloudjiが1969年に作詞・作曲し、歌いました。
ムルージは1922年にパリで、アルジェリアの先住民の父親とフランス人の母親との間に生まれました。詩人ジャック・プレヴェールJacques Prévertに見出されて役者として舞台に上がり、そののちステージで歌うようになり、52年に「小さなひなげしのようにComme un p'tit coquelicot」がヒットしてディスク大賞を受賞し、一躍有名になりました。映画「寝台の秘密Secrets d’alcôve」に出演し、そのなかで歌った「いつの日にかUn jour tu verras」もいい歌です。
彼は、歌手、俳優であっただけでなく、小説家、画家としても活躍した多才な人で、小説「エンリコEnrico」は本名マルセル・ムルージMarcel Mouloudjiの名で出されてプレイヤード賞を受賞し、日本語にも翻訳されています。1994年に亡くなり、ペール・ラシェーズ墓地に眠っています。

ムルージの動画は私が作成しました。



イザベル・オーブレIsabelle Aubretも歌っています。




Six feuilles mortes de San Francisco     サンフランシスコの6枚の枯葉
Mouloudji                    ムルージ


Je t'envoie six feuilles mortes de San Francisco,
Des poissons volants volés à Valparaiso
Une vague de ciel, un joli clair de Terre 注1
Un morceau d'océan, une cuillère de désert.

  サンフランシスコの6枚の枯葉を君に送ろう、
  ヴァルパライゾで盗んだ飛び魚たち
  空の波、美しい大地の光
  大洋のかけら、ひと匙分の砂漠を。

flying fish2


Je t'envoie six feuilles mortes de San Francisco,
Des daufins, une baleine, des haleurs, des bateaux,
Une aurore boréale, un typhon, une poupée,
Et des étoiles tombées sur le pont du bateau

  サンフランシスコの6枚の枯葉を君に送ろう、
  イルカたち、クジラ、タグボート、船、
  北極のオーロラ、台風、人形、
  そして船のデッキに落ちてきた星たちを

six6.jpg


Au long de la croisière, je ne pense qu'à toi
Pas mis le nez à Terre, tant j'ai le mal de toi. 注2

  航海のあいだ、僕は君のことしか考えない
  地上に戻れず、君がとても恋しい。

six9.jpg


Je t'envoie six feuilles mortes de San Francisco
Trois soleils et trois lunes volés à Mexico
Un récif de corail, une petite sirène
Comme on en voit danser à minuit sur la Seine,

  サンフランシスコの6枚の枯葉を君に送ろう
  メキシコで盗んだ3つの太陽と3つの月
  サンゴ礁、小さな人魚
  真夜中にセーヌ川で踊るのが見られるような、

Je t'envoie six feuilles mortes de San Francisco
Une poignée de neige du Kilimandjaro,
Une rose de Rio, une araignée du soir,
Et dix mille kilomètres de "je t'aime" en sautoir.

  サンフランシスコの6枚の枯葉を君に送ろう
  キリマンジャロの一握りの雪、
  リオのバラ、夕べのクモ、
  そして「愛している」の言葉を1万キロの長さのネックレスにして。

six3.jpg


J'en ai le mal ma chère, de ta chère chair en soie
J'en ai le mal de Terre, j'en ai le mal de toi.

  僕は君が恋しい、君のいとしい絹の肌が
  大地が恋しい、君が恋しい。

Je t'envoie six feuilles mortes de San Francisco
Je t'envoie ces diamants qui rigolent sur l'eau
Je t'envoie mon amour et caresse la chaîne
Qui relie nos deux cœurs, du navire à la Seine.(×2)

  サンフランシスコの6枚の枯葉を君に送ろう
  水面で笑っているこれらのダイヤモンドを君に送ろう
  君に僕の愛を送り、船からセーヌ川へと
  僕たちの二つの心をつなぐ絆を愛しもう。

six4.jpg


[注]
1 un joli clairは、joliが名詞の前につく「美しい」の意味の形容詞でclairが「(特に月の)光」の意味の名詞だとすると「美しい光」となり、joliが「きれいなもの」の意味の名詞でclairが「美しい」の意味の形容詞だとすると、重なる意味は省いて「美しいもの」という訳になる。どちらともとれる形にしているのかもしれないが、「空の波」など、変わった表現のなかに含まれるし、前者の語用のほうが一般的である。
2 mettre le nez à…は、多く否定的表現で「…に行く、に顔を出す」。avoir le mal de…=être en mal de…「…の欠乏で苦しむ、…がいなくて淋しい、…が恋しい」




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