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2015
10.12

エルザの瞳Les yeux d'Elsa

Les yeux dElsa


甘い声と口ひげがトレードマークのジャン・フェラJean Ferratは、1930年パリ近郊でユダヤ系ロシア人として生まれました。1964年、「ふるさとの山La montagne 」がヒットしスターに。「いつの日かUn jour un jour 」あたりから反政府的な歌を歌い始め、「自由の空気Un air de liberté」はベトナム戦争の矛盾を告発し、「ちびっ子のための子守唄Berceuse pour un petit loupiot」では消費社会を揶揄し、ルイ・アラゴンLouis Aragonの詩も好んで歌いました。代表曲「夜と霧Nuit et brouillard」は、父親をナチスの強制収容所で失った経験から生み出されたユダヤ人犠牲者の追悼曲ですが、当初は放送禁止になっていました。2010年に死去、79歳でした。

今回取り上げるのは、ルイ・アラゴンの詩を歌詞にした「エルザの瞳Les yeux d'Elsa」。
詩人ルイ・アラゴンはシュールレアリスム運動の中心人物で、のちに共産党員となり、対独レジスタンスに参加し、抵抗詩を書き続け、戦後はコミュニスト知識人の代表格とされました。
膨大な量の詩、小説、評論を執筆し、恋人エルザに多くの詩集を捧げています。この詩はそのうちの一つ「エルザの瞳Les yeux d'Elsa」(1942)に含まれた同名の詩で、1956年にフェラによって作曲され、アンドレ・クラヴォーAndré Claveauの持ち歌ともなりました。レオ・フェレLéo Férréも、アラゴンの詩を好んで歌っています。
歌詞はちょっと難しい(私にはすごく難しかった)ですが、歌っている彼の目元・口元からいろんなものが伝わってくる気がしてうれしいです。



アンドレ・クラヴォー



Les yeux d'Elsa      エルザの瞳
Jean Ferrat        ジャン・フェラ


Tes yeux sont si profonds qu'en me penchant pour boire
J'ai vu tous les soleils y venir se mirer
S'y jeter à mourir tous les désespérés
Tes yeux sont si profonds que j'y perds la mémoire

  きみの瞳はあまりに奥深くて 飲もうとして身を屈めつつ
  ぼくには見えた すべての太陽が姿を映しに
  絶望したすべての者が身を投げに訪れるのが
  きみの瞳はあまりに奥深くて ぼくはそこで記憶を失う

À l'ombre des oiseaux c'est l'océan troublé
Puis le beau temps soudain se lève et tes yeux changent
L'été taille la nue au tablier des anges
Le ciel n'est jamais bleu comme il l'est sur les blés
 注1

  鳥たちの陰にあっては それは荒れ狂う海だ
  また 突如晴れわたり きみの瞳はさま変わりする
  夏は雲を 天使の白衣に裁断する
  空は小麦の上にあるとき この上なく青い


Les yeux dElsa2


Les vents chassent en vain les chagrins de l'azur
Tes yeux plus clairs que lui lorsqu'une larme y luit
Tes yeux rendent jaloux le ciel d'après la pluie
Le verre n'est jamais si bleu qu'à sa brisure

   風は碧空の悲しみを 吹き払い得ない
   きみの瞳は 涙が一粒輝くとき 碧空よりもっと澄み渡る
   きみの瞳は 雨上がりの空に 妬み心を抱かせる
   ガラスの器も その割れ口ほどに青くはない

Mère des Sept douleurs ô lumière mouillée 注2
Sept glaives ont percé le prisme des couleurs
Le jour est plus poignant qui point entre les pleurs
L'iris troué de noir plus bleu d'être endeuillé

  7つの苦しみの聖母 おお 濡れた光よ
  7つの剣が七色のプリズムを貫いた
  涙を刺し通すとき 太陽は辛辣さを増し
  深い悲しみにあって 黒くえぐられた虹彩は青みを増す

Les yeux dElsa1


Tes yeux dans le malheur ouvrent la double brèche
Par où se reproduit le miracle des Rois
Lorsque le cœur battant ils virent tous les trois
Le manteau de Marie accroché dans la crèche

  きみの瞳は 不幸のさなか ふたえの裂け目を開き
  そこに 東方の三博士の奇蹟がよみがえる
  イエスのまぐさに掛けられたマリアのマントを
  胸ときめかせ 3人そろって見まもったときの(奇蹟が)

Une bouche suffit au mois de Mai des mots
Pour toutes les chansons et pour tous les hélas
Trop peu d'un firmament pour des millions d'astres
Il leur fallait tes yeux et leurs secrets gémeaux

  言葉あふれる5月 あらゆる唄 あらゆる嘆息には
  ひとつの口でこと足りるが
  数百万の星々には ひとつの空は あまりにもちっぽけで
  きみの瞳とその双子の秘密とが必要なのだ

L'enfant accaparé par les belles images
Écarquille les siens moins démesurément
Quand tu fais les grands yeux je ne sais si tu mens
On dirait que l'averse ouvre des fleurs sauvages 注3

  美しい絵に夢中になった子供が
  瞳をめいっぱい開いても とてもおよばない
  きみが瞳を見ひらくとき きみは欺いているにせよ
  にわか雨が野の花々を開かせるようだ

Cachent-ils des éclairs dans cette lavande où
Des insectes défont leurs amours violentes
Je suis pris au filet des étoiles filantes
Comme un marin qui meurt en mer en plein mois d'août

  きみの瞳はいなずまを秘めているのか
  昆虫たちが荒々しい愛の営みを解く このラヴェンダーの花の中に
  ぼくは 流星たちの網に囚われた
  8月のさなかに海で死ぬ水夫のように

Les yeux dElsa3


J'ai retiré ce radium de la pechblende
Et j'ai brûlé mes doigts à ce feu défendu
Ô paradis cent fois retrouvé reperdu
Tes yeux sont mon Pérou ma Golconde mes Indes
注4

  ぼくはウラン鉱からラディウムを取りだし
  この禁断の炎で指を焼いた
  おお 幾度となく見出され 見失われた楽園よ
  きみの瞳は ぼくのペルー ぼくのゴルコンド ぼくのインド諸島

Il advint qu'un beau soir l'univers se brisa 注5
Sur des récifs que les naufrageurs enflammèrent
Moi je voyais briller au-dessus de la mer
Les yeux d'Elsa les yeux d'Elsa les yeux d'Elsa

  ある夕べ 世界は砕け散った
  略奪者たちが火を放った暗礁に乗り上げて
  ぼく自身は 海の上(の空)に輝くのを見ていた
  エルザの瞳 エルザの瞳 エルザの瞳が

Les yeux dElsa4


[注]ジャン・フェラ、アンドレ・クラヴォーともに、この詩を全節は歌っていない。ジャン・フェラの歌っていない節はグレーの字で表記した。
この詩集は、ドイツ軍の検閲を免れるべく、隠喩という手段を用いて、エルザへの愛を語りつつ、その裏に占領下の状況と祖国への愛を織り込んでいる。この詩では、空飛ぶ鳥たちは、爆撃機。les naufrageursは船を難破させて略奪する者、すなわちナチス軍だろうということはわかるが、全体的に、多くの比喩で構成されているため、厳密な解釈は不能である。
1 n'être jamais…comme~「~ほど…ではない」すなわち、「~がもっとも…である」
2 ここからの2節はキリスト誕生に関わる話。
Mère des Sept douleursは聖母マリア。七つの苦しみとは、シメオンの予言の時、エジプトヘの脱出の時、イエスの死の時、カルヴォリオの丘への途上イエスと会った時、十字架の下に立った時、十字架からイエスのおろされた時、イエス埋葬の時にマリアの威じた苦しみをいう。
sept glaives七つの剣は、七つの苦しみに同じで、苦しみを剣にたとえた。
le prismeはエルザの瞳。
le prisme des couleursは、プリズムの光の七色を、七つの剣・七つの苦しみと重ねている。
le jourは太陽。l'irisは虹彩で、プリズムの七色、虹をもあらわす。
3 On dirait que…「…のようだ」
4 Golcondeは古代ヒンドゥスタンの首都で、財宝の都とされている。Indesは複数であり、インド諸島。ペルーも含め、財宝の眠る場所である。
5 Il advenir que+直説法/接続法 「…になる」 実際に起こったことは直説法、起こり得ることは接続法で示す。



コメント
エルザの瞳  もしかしたら一番好きなシャンソンかも知れない、そう思うほど好きな曲です。
ノニーさんのシャンソンへの愛が伝わります。ありがとう^^
mimihadot 2016.01.29 21:15 | 編集
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